ほぼ2週間もお待たせして申し訳ありません。
コロナワクチン2回目摂取の副反応で体力をごっそり削られ、あと純粋に次の展開を悩んでしまい筆がかなり遅くなっていました。
特に関係の無い話ですが、私はフジリュー版封神演義に出てくる空間系宝貝がとても好きです。山河社稷図とかいいですよね。特に関係の無い話ですが。
僕と朱乃サンとの共通見解、『心を折るには変化を認識させないことが基本』。簡単に言い換えると『終わりが見えないようにする』に尽きる。精神を攻めるときだけでの話では無い。責め苦を負わせる拷問も、痛み、苦しみが抜けない状況に置かれることで心が折れるのだから。
「しかし基本は基本。状況が刻一刻と変わっていく戦場に於いて、時間を掛けて準備をし、罠にはめるのは良い戦術とは思いません」
「まあ、それはそうですよね」
特に今回は長期戦になればなるほど基本的にフェニックス側が有利だ。不死……というよりは、歴戦のチームだって理由で。悠長に準備してる間にやられてしまう、今回に限り必要なのは奇襲性だ。
とはいえ、スナック感覚でお手軽に心を折る手段なんて……。
「無いわけではありませんわよ?」
「あるんです!?」
「ええ、もちろん。人間、ないし悪魔の心を折るなんて難しいことではありませんもの」
なんなら欲深く、我慢するという感覚が薄い分、悪魔の方が折れるのは早いですわ…なーんて軽い調子で言う朱乃サンにドン引きしたけど許して欲しい。いや普通に怖ぇんだってアンタ。
「……イッセーくんは何か勘違いをしてないかしら? 実は私、誰かを虐めることは好きでも、心を折るのは得意ではないわ」
心外そうに、わざとらしく頬を膨らませて抗議する朱乃サンだが、それを誰が信じるのだと言うのだろう。少なくとも僕は信じない。
「心が軋み始める瞬間が表情としてとても唆るんですもの。簡単に折ってしまっては楽しめなくなるじゃないですか」
「えぇ……」
だが納得はした。モノを壊すことに興奮する破滅タイプのSなら話は変わってくるとは思うが、簡単に苦しみを終わらせるのは状況によっては勿体ないだろう。再利用できないし。
「ちなみにそんな簡単にできるんですか?」
「視覚、聴覚、嗅覚を止めてしまえば割と早く心が軋み始めますわ。ひとりでに話し出した辺りが表情としては唆るから私はそこで止めるのですが、心を折るのなら話は別です」
「まぁ、ですねぇ。せめて錯乱して自害しようとするレベルまでは心が折れてもらわないと……」
「ですが、これでも時間がある程度かかってしまいます。そのため、他の方法を考えなければならないのですが……」
そこで朱乃サン、肉食獣のような目で僕に視線を投げる。な、なんだよぅ……そんな目で見られても逃げる以外の選択肢は取れないゾ。
「怯えなくても大丈夫です、イッセーくんにアイデアを出すのを手伝って欲しいだけですわ。相手の心を折るための新技を。あの痛みを押し付け、
「アレ、これもしかしてすっげぇ貶されてませんか僕???」
「うふふ、褒めていますわよ」
それで僕が苦虫を噛み潰したような顔をすると悪い意味でニッコリしだすからたまったもんじゃない。無敵かよこのヒト。
仕方ない、じゃあ考えるか……となるが、実は僕では実行できなかっただけで、案自体は作っていたモノが何個かあった。その一つ、朱乃サンなら確実にできるであろう、トンデモない案を。
しかし、まず聞いておかねばなるまい。それによってちょっとやり方が変わる。
「朱乃サン、悪魔も人間と同じように、神経を通るのは電気信号ですか?」
ニンマリと、口の端が吊り上がったのが答えだった。
◆◆◆
電気信号を操り、恐怖体験を押し付ける、という案があった。それ自体は倫理的に問題があるのと、現実的ではないのでボツになった。魔力を操れるようになって分かったけど、電気操作するのってマジ難しい。魔力で属性変換して使うなんて以ての外。もしかしたら属性変換の得手不得手も関係しているかもしれないが、朱乃サンとんでもない才能の持ち主なのだろうと思った。
しかし、そんな朱乃サンでも電気信号を操って思考を弄る、なんてことは出来なかった。被験者である僕が言うのだから間違いない。それなら普通に幻術使う方が早いじゃん、ということになる。幻術は幻術で神経系含めて感覚を誤認させる効果も内包してるし。
次に、感覚器官からの電気信号を遮断して五感を奪ってみる、という案があった。こっちも倫理的に問題はありそうだけど、洗脳には使えなさそうだしいけるのでは? となった。なった……のだが、これまた問題に直面しボツとなった。
朱乃サンレベルならもちろん、これなら僕でも使える、簡単で現実的な案だったのだが、視覚が上手く消せなかったのだ。悪魔の目は特殊で電気信号を遮断しても何らかの方法で視覚を確保してしまっていた。僕が実験台になったのでよく覚えてる。
朱乃サンの考察だと、夜目がきいてしまう種族特性が関係しているのだろうということだ。詳しく調べていけば判明するのかもしれないが、時間は無いということで断念。とはいえ後に続く結界術への応用に使えたので完全無意味ではなかったのだが。
最終的に幻術で感覚器官を誤認させるのが現実的だな、という風に落ち着いた。成り立てかつ才能のない僕には無理だけど、朱乃サンならその程度ちょちょいのちょいだったようで、すぐに五覚剥奪の雛形にあたる、真っ黒な結界が誕生した。
詳しい仕組みは企業秘密ですわ♡ と簡単な仕組み以外は教えてくれなかったが体験はした。何も見えないし平衡感覚も無くなるしそもそも感覚奪われるせいで何も無い所に浮いてる感じがしてかなり気持ち悪かった。そのくせ心臓の鼓動だけは感じられるので耐性がないとこれはキツいだろうな、というのは感じた。
だが、ここでも問題にぶち当たる。準備に時間が掛かる欠点は取払ったが、そもそもこれでもかなり時間が掛かるだろう、ということだ。単純に僕に耐性があっただけかもしれないけど、1時間やそこらでは発狂しなかったからね。これはまずいのでは……と頭を悩ませようとしたところで、僕に天啓が降りてきた。いや天啓っていうのを悪魔が使うのは違うか。じゃあ地啓で。
『電気信号を加速させて思考も加速させちゃいましょう!』
『……それは、盲点でしたわ!』
ということで、最終的に完成した結界型幻術『五感剥奪』は、1000倍以上に加速した時間の中で、何も無い空間を彷徨わせる幻覚を叩き付けるという、喰らう側に対して多少の申し訳なさを覚える技となった。その効果は絶大的で、実験台の僕も瞬殺されそうになるとんでもないハメ技だ。
そりゃ、こんな物を不意打ちで決められたら……
「コレは……その……」
「見てはいけませんよイッセーくん。彼女達の尊厳の為にも」
色んな液体でグシャグシャに、表情も不思議なことになった。しかも無惨なことになってるのに、肉体的には傷付いても死んでもおらず、逆にそのせいでリタイアしていないという酷いことになっていた。申し訳なさから、朱乃サンの言うように視界に彼女達を入れないようにする。
……僕達ごと黒い結界に敵を包んで数十秒後、結界の効果に倍加の付与。それが1000倍に加速して……少なくとも体感5時間は何も無い空間に放り出されたワケで。そりゃこうもなるわ…。
「まさにスナック感覚でお手軽心折設計……僕はとんでもない怪物を生み出したのかも……」
「あなたが言いますか、あなたが」
軽口を叩かないとやってられない、そんな心持ち。やっぱ倫理に逆らうとろくなことにならないよね! ……とはいえしかし想像より遥かに早くケリが着いたので、僕らにとっては追い風だ。これはいいことである。
じゃあ早速森の方に向かいましょうか、と声を掛けようとして、先に朱乃サンに声を掛けられた。
「……さて、イッセーくん。少し無理をしてしまったので、先に仮設の本陣に向かってください。私は少し休憩してからでないと動けなさそうです。あまり時間は無いでしょうし、急いでください」
「え、いやでも朱乃サ……」
息を飲む。その様子に息を飲む。
左目から、赤い液体が。
「ッ!? まさか…っ」
「うふふ、思った以上に負荷が掛かってしまったようです。イッセーくんで試し打ちしたときは1人だけでしたので、こうはならなかったのですが……」
そう言って、彼女は力が抜けたようにへたり込んだ。
……遅延された上で、疲弊した状態で仮設本陣に2人で向かうよりも、ほぼほぼ無傷の僕を向かわせる方がいい、と思ったのだろう。だから僕に先に行け。そういうことなのだろう。
「幸い、フェニックスの涙はもう一本確保しています。だから、安心して早く行きなさい。早く」
悩むのは、一瞬だった。脚部に倍加を施す。
「……分かりました、ありがとうございます」
見ないように、後ろを振り向かずに僕は森の方へと駆け出した。僕の感情だけであのヒトの覚悟を無駄にしてはいけない。決して、決して。
……それでも。分かっていて、それでも見捨てる判断をした自分に吐き気がした。
◆◆◆
「……まったく、敏いのも考えものですわね」
「約束、ちゃんと守ってくれるかしら……?」
『リアス様の女王、戦闘不能』
◆◆◆
短めですね……