兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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あけましておめでとうございます(前回の投稿前年の11月)
非常にお待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
ちびちびと書いていくので許してくださいなんでもしますから!(なんでもはしない)


その16

 結局のところ、私達には何もかもが足りていなかった。敵を打ち倒す力も、出し抜く知恵も、何もかも。

 唯一そこにあったのは『なんとしてでも勝ってやる』という意思だけだ。ほんの微かな一筋の光明に、今出せる全てをベットした。それだけだったのだ。

 

 ……今、眼前のライザー・フェニックスが私に王手を掛けている。何時でもトドメは刺せると言わんばかりに余裕綽々な態度で以て私達を見下ろしている。

 ほんの少し心の中で諦めが顔を出して……しかし引っ込んだ。眷属達ならともかく、私にその選択肢を選ぶ権利がない。

 

 心の中で気合いを入れて立ち上がる。ゲームが終わるその時まで、私は倒れることはできない。そうよ、せめて『笑顔』で終われなければ……着いてきた皆に報いることができないのだから。

 

「さあ、行くわよ」

 

 このレーティングゲームは、最終局面に突入した。

 

 

◆◆◆

 

 

 頭が痛い。

 ずっと頭が痛い。

 慣れない処理をし続けた弊害なのか、フェニックスの涙で癒えた筈の痛みや疲労がドッと押し寄せてくる。……ただの幻覚なんだろうけど。

 

『単純に精神がやられているだけだ、気を強く持て相棒』

『阿呆、コレでも僕のメンタルは強い方だぞ人並みに』

 

 必死に走る僕に口を動かす余裕は無い。脚も痛てぇわ肺も痛てぇわ喉も痛てぇわ。長く倍加を維持するために『脚力』だけに絞っているが、それの弊害だ。全く、才能の無さを嘆いたのは初めてだぜ!

 頭の中で軽口を叩き合いながらも、その裏で現在の状況を整理し直す。

 

 まず、こっち側は朱乃サンしかまだリタイアしていない。王を除いた残存兵力は祐人クン(騎士:3点)、アーシア(僧侶:3点)、小猫チャン(戦車:5点)、僕(兵士×8:8点)、合計19点。

 対してライザー・フェニックス氏側は、大半の兵力がリタイアしている。フルメンバーということで、リタイアした人員から計算すると、王を除き残っているのは僧侶1人3点、戦車1人5点の8点だ。

 つまりこのままタイムリミットまで部長がやられず、皆が生き残れば一応判定勝ちということにはなるが……。

 

『楽観視し過ぎるのは良くないぞ相棒』

『だよねぇ……』

 

 願望とは裏腹の、冷静な部分で出た判断と同じ返答が相棒から帰ってくる。そうじゃなきゃ部長があんなに悩んでたワケがねぇんだわ。

 

 間に合いさえすれば、なんとかする方法が無くはない。無くはない……が、成功するかは別だし、本当にどうしたもんか。

 ついでに言うなら朱乃サンと組んで敵の大半をぶっ潰した僕が放置されるとか有り得んし、そうなるとそろそろ第三の刺客が飛んでくるんじゃないかってヒヤヒヤモノだ。アナウンスで連中がリタイアしたのはバレてるだろうし。

 あー、ライザー氏が部長を舐め腐ってると助かるなぁ、もうホント、心の底からそう思う!

 

「そこまでよ」

 

 崩壊した旧校舎の側まで来た辺りで声がした。いやまあ素直に聞いてやる義理なんてないし無視して走り続ける……が、

 

「ちっ……私を無視するんじゃありませんわよ!」

「……ッ!!」

 

 邪魔するように炎が僕の行く手を阻むように爆ぜた。そして目の前に降り立った、金髪縦ロールの如何にも気の強そうな少女だった。

 

「全く、私は観戦するだけだって言ったのに、お兄様ったらすっかり怯えちゃって……」

「ハァ……ハァ……お兄様ァ……?」

 

 息が上がってるから何も言いたくなかったけれど、思わず聞き返しちまった。お兄様???

 

「フン、仕方がないから答えてあげますわ。お兄様曰く『妹をハーレムに加えるのは世間的にも意義がある』ですって。まあ流石に兄も本気で妹に欲情するワケじゃありませんから、眷属として席を置いてるだけですわ」

「あのヒトも大概変なヤツだな……というかハーレムだったのかよ眷属。甲斐性があるのかバカなのかどっちか分からんな……」

「両方ですわね。贔屓目かもしれませんが、アレで中々器が大きいんですのよ?」

 

 円満なようで何よりっと。他人事だけど。

 

「でェ? こーんな人畜無害の転生悪魔捕まえて、何の用だい妹フェニックスさん?」

「レイヴェル・フェニックスと申します。以後お見知り置きを。リアス様の眷属ですもの、今後もお付き合いがありそうですし」

「ライザー氏が勝つからって? そいつは少しばかりウチのボスと仲間を舐め過ぎじゃないか?」

 

 勝つのは無理だろうけど、というか本人がそう思ってそうだけど、様子を見る限り反骨心の方は強そうだもの。そんでもって祐人クンも小猫チャンは僕より強い精鋭だし、回復役のアーシアもいる。耐久戦なら意外と勝ち目があるんじゃないかって僕の見解だ。

 

「兄1人なら、あるいはってところですわね。それでもいいところ1割ってところかしら? ……あなたがいなければ」

 

 気迫と共に射貫かれる。だよなぁ、やらかしたことバレてるよなぁ。クソ、死ぬ程舐め腐って欲しかったのに。

 

「人畜無害だなんて良く言えますわ、グレモリーの兵士(ポーン)さん。こちらの精鋭の半分も削っておいて。ええ成程、1人だけならば大した驚異ではないのかもしれません。ですがあなたの本領はそこじゃないでしょう?」

「あはー……まぁ分かっちゃうよネー……」

「その特殊な『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』、いわゆる亜種というヤツなのでしょう? 自分の力だけじゃなく、周りのものにも倍加ができる特別性。それを効率的に扱うあなた。素直に合流を許せば……そうですわね、3割といったところでしょうか? 決して無視できる数字ではありませんわ」

「そりゃどーも。ここまで過大評価されたのは初めてだ」

 

 『脚力』に回していた倍加を、『思考』へと移していく。不死鳥ってことはまともにやり合って勝てる相手じゃあない。身体能力に回す前に打開策を思いつかなければ。ノータリンでも無いよりはマシだ、少なくともおツムの出来も『平凡並み(異常な普通)』なのだから。

 

「それで、一つ提案なのですけれど」

「あん?」

 

 しかし、問答無用で叩きのめされるつもりでいた僕に、全くの想定外な言葉が投げ掛けられた。

 

「ここで諦めて、私のおしゃべりに付き合う気はありませんか?」

「……は?」

「元々は観戦だけのつもりでしたのよ、私は。兄はレーティングゲームのプロですし、リアス様は将来有望とはいえまだ若く経験が浅い。何の問題もなく勝てる……と油断していました。そのせいで私、なんの準備もしていませんの」

「…それで?」

「戦わずに済むならそれに越したことはない、ということですわ。もっとも、1人だけのあなたに倒されることはありえませんけど。面倒くさいだけです」

 

 これは渡りに船……か? とりあえず頷くだけ頷いておいて、観戦するとか言ってグレモリー眷属の仮設本陣まで行ってもらって裏切る、的な。

 

「ああ、先に言っておきますが、騙そうだなんて考えないことですわね。悪魔の契約(やくそく)、破ると痛い目を見ますわよ?」

「…………ッ」

 

 あーもうどうスっかなァ! こんなに警戒心バリバリで来られるの初めてだからどうすればいいのか分かんないよ! 基本舐められる側だし!

 だからといって部長達を裏切る? 論外だ! 敵に加担するぐらいならいっその事ここでこの不死鳥相手に切り札使って死ぬ方がマシだ! よし決めた、ここでおさらばです、部長!

 

 手元に魔力を広げる準備、バレると速攻で処理されるだろうか準備だけ。握手をするフリをして『循環する苦痛(ペイン・サーキュレーター)』を仕掛ける態勢を……!

 

『待て相棒、早まるな』

『邪魔すんじゃねぇよクソトカゲ、まずはテメェから沈めてやろうか』

『……俺としては正直気が進まんが、打開策を提示してやる。準備をするぞ相棒』

『準備ィ?』

『【心臓】の準備をだ』

 

 その言葉で動きが止まる。遠くの方で聴こえる戦闘音……炎の爆ぜる音と自分の上がった息だけがその場に響く。

 【心臓】、僕がドライグに明け渡したパーツ。心臓と、それにくっ着く血管は、もう悪魔のものではなくドラゴンのものに成り果てている。死ぬかと思ったが、なんだかんだでいい買い物だった。オマケで切り札も付いてきたしな。

 

『この状況でなんか使い道があんのかよ、オイ』

『確かに未だ制限している部分が多いがそうでは無い、本来の【心の臓】の役割を果たさせるだけだ。そのまま向かっても身体の方がお前の精神に追い付かずに自滅するのが目に見えている。同じ自滅するにしてもやりようがあるものだ』

 

 ドライグがそう言うと心臓が徐々に、不自然に速く打ち始める。全身が燃えるように熱くなり、鼓動が『ドッドッドッドッ』と最早エンジンだ。……あ、コレ知ってる、漫画で見たやつだ。赤熱する程じゃあないが肌から吹きでる熱で周囲が歪んで見える。

 

『実際理には適っているからな。強靱な龍の心臓と血管、悪魔の肉体でこの程度の高圧、高温には耐えられる。全身に掛かる負荷と引き換えに意識の加速、身体能力の向上が見込める。何よりだ、イッセー。この状態なら()()も加速する』

『…………ケヒヒ、なんでぇ相棒。テメェもよっぽど悪魔じゃねぇかよ』

 

 強く持ってないと遠くに逝きそうな意識を必死に繋ぎ止めて、ゆらりと眼前の敵を見据える。なんだかより死にそうになってるけれど、身体が熱くて、軽くて、それなのに力が湧いてくる。

 

『完全にかかり切ればより効果は顕著に表れるだろう。今はまだ車で言うところの暖機に過ぎん。急げ相棒、勝つのだろう?』

「もっちろん!!!」

 

 タイムロスしたが、打ち消して余りある銀の弾丸だ! どっちかってーと銀の弾丸に殺られる側だけどね僕!

 

「何が何だか分かりませんが……交渉は決裂、ということでよろしいのでしょうか?」

「ああその通り。僕があのヒトを裏切るとかありえんよ。だって僕は……ってそれはどうでもいいや」

 

 最高にハイな気分のまま、僕は彼女に笑いかけて、言った。明日の晩御飯を聞くような態度で。

 

「ということで、ここで死んでくれよ不死鳥」

 

 

◆◆◆

 

 

 そして宣言通りに、僕は彼女を死の淵に叩き込んだ。

 

「ありえません……ありえませんわ……っ! この結果も……これをやろうと思ったあなた自身も……っ!」

 

 訂正、息はあったか。まあでも、もう終わりだ。必死に再生をしようと燃える彼女だが、最早コレは障害ではない。いわゆるお試し版だが、それでも不死鳥に対して一定の効果があることが分かって良かった良かった。

 

「キヒヒ……正気で戦争ができるかよ。とは言ってもうるせぇな、きっちりリタイアさせとかないとか。後顧の憂いなく仮設本陣向かいたいしねぇ」

 

 そうして僕は、一息入れるように水を飲んだ。

 




感想、ありがとうございました。
じゃなければ続き書けなかったです。
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