これが書きたくて2年くらい前から温めてたって話。
そして僕は辿り着いた。もう全身ボロッボロで、今にも死にそうで、血も涙も出しちゃいけない液体も垂れ流しっ放しの、本当に無様な姿だけど。僕はようやっと辿り着いた。
「……リタイアアナウンスが誤報ではなかったか。まさか本当に倒したとは。油断していたつもりは無かったし、アイツこそがキミは危険だと提言してくれた以上、隙も無かっただろう?」
「勿論不意打ち気味に決めたからこうなったンですよ。やっぱ無傷とはいきませんでしたが」
罠だらけの森の中にあって、なおライザー氏は無傷でそこに立っていた。残り1人の戦車もリタイアしちゃって、本当のチェスならもうほぼ詰みの状況だけど、しかし余裕そうに立っている。油断というよりは、これはもう自負ってヤツだろう。経験と実績に裏打ちされた、絶対に負けないという自信。
対する我々グレモリー眷属チームも、半分が退去している。今残っているのは王の部長と僧侶のアーシアだけ。恐らく継戦の要になるアーシアを守るために2人が立ち回ったんだろう。それでも2人ともボロッボロ。髪も乱れ制服も破れでちょっと目の毒だ。
「遅くなりました、部長。兵藤一誠、約束通り不死鳥を殺しに参上しました」
「待ってないわよ、馬鹿。見るからにまた無茶をして……」
「死んでないから大丈夫ってヤツです。死なやす死なやす」
「イッセーさん、今治療を…!」
見るからにボロボロの僕を見かねてか、アーシアが『聖母の微笑』で治そうとしてくるが、それを手で制する。
「ごめんアーシア、今治されるとイッセーくんちょっと困っちゃうの」
「それは、その傷の痛みを俺に押し付ける為か?」
「まあ、バレてるわな」
鼻で笑われるようにその理由を看破される。同じことをあの女不死鳥にやったが、ライザー氏にもそのまま効くということは無さそうだ。単純に彼は痛みに慣れる訓練をしてるんじゃないかな?
「というかそっちも余裕綽々ですね、攻撃もせず眺めてるだけで。いつでも此方を始末できるって態度、癪に障ります」
「事実余裕だ。それにただ見てただけじゃない。観察は必要だろう、このゲームにおいての1番の不確定要素の動きを」
「…………」
「リアスの能力は割れている、眷属達の力も。分からなかったのは君とそこの僧侶。彼女に俺をどうこうできる力は無い以上意識を割くのは無駄。……問題は君だ、少年」
どう出るか分からない以上、迂闊に手を出せなかった。そういう事か。特に僕は相手に痛みを押し付ける技を抱えている。他にも似たような物がないかを警戒するのも自然、と。実際レイヴェル嬢をリタイアさせてるから必要以上に警戒もするわな。
「じゃあさっさとリアス部長をやりゃあ良かったじゃあないですか。何故それをしない。いたぶるためか?」
「適度に希望を見せるためだ。今ここで撤退戦、防衛戦に徹されれば時間切れで俺は負ける。誰の入れ知恵か、リアスの中で意識改革があったのかは知らないが、この山に張り巡らされた罠、結界は侵入者の足を奪い、迷わせ、その間に逃げるように設置されている。オマケに俺の炎でも燃やせないように対策してるんだからどうしようもない。倒せなくともタイムアップでの判定勝ちに持ち込む。……プロリーグでも中々お目にかかれない、素晴らしい戦略だ」
「なぁるほど。僕も含めてマトを1つに固める為の戦略、演技と。レイヴェル嬢や僕に差し向けたのも、始末と当て馬と思考誘導を兼ねた、まさに一石三鳥の一手だったわけだ」
「ああ。やられる、とは欠片も思っていなかったが……逃げる、ぐらいはすると思っていた。レイヴェルがちゃんと仕事を果たしてくれたかは分からないが、少しでも不安を煽るようなことを言えば、王を守るために合流を考えるはずだろう?」
……言ってたっけ? どうかな? 分からないけど、まあ元々大量に兵力差し向けられたから既に部長が危ない! って思っちゃってたし。いやこりゃ参った、なんだかんだライザーさんの手のひらの上だね僕の動き。
「でもそれをここでバラしちゃうのはどうなんです? ほら、ここで僕が盾になって2人を逃がすとかは」
「考えないわけないだろ。逃げれない程度に消耗はしてもらったさ。君が来るのがあと少しでも遅ければ、方針転換で俺は彼女にトドメを指していた。そこは俺の読み違えだ」
「お互い儘なりませんねェ」
「全くだ、素直に負けてくれたら良いものを」
なんだか愉快になって、ライザー氏と一緒になって笑ってしまう。良くは分からないけど、今確かに奇妙な友情を感じたような、感じてないような、そんな不思議な感覚だ。
「…………何故、お前はそこまでするんだ」
「おっと、時間稼ぎですか? 乗ってやる理由はありませんし今からもう動き始めますけど」
「それができるならとっくにやっているだろう? お前は相当に頭が回るようだ。俺の思惑も、だいたいはここに着いた時に思い至っているだろう? 一刻も早く動くべきということにも。時間稼ぎをしているのはお前の方だ、兵藤一誠。今までに出会ったことのない、お前という敵に敬意を評して、俺はソレに乗っかろうとしているだけだ」
「……………」
「だからこそ気になる。そこまで馬鹿じゃないはずだ。話の断片からでも、俺とリアスの婚姻が悪魔社会においてどれだけの意味を持つか理解してるんだろう?」
「まあ、分かりますよ。貴族の結婚なんてそんなものだし、特に悪魔陣営はそもそもの頭数大分減らしたって聞きますし。純血悪魔の旗頭、欲しいですよね。次期魔王だったりして?」
「そこまで思い至るのに、何故?」
「…………全く、本当。やになるね、どいつもこいつも」
本当、どいつもこいつも僕を買い被りすぎだ。お陰で平凡とは真逆の生活だっつーの。
部長は口八丁で僕を店長に抜擢するし、朱乃サンはまるで僕をドS仲間みたいに扱うし。祐人クンと小猫チャンはなーんか僕に一目置いてる風だし、アーシアに至ってはヒーローかなんかを見る目だ。オマケに腕の中のクソトカゲは僕の何を勘違いしたのか死なせようとしないし、今日会った敵の皆々様方はまるで僕が危険人物かのように警戒してくる。
まるで……そう、僕が凄いやつみたいに思えてくる。気持ち悪くて吐き気がする。僕は『異常な普通』なんだ。凄いわけがあるわけない。
でも、何が1番気持ちが悪いって……それが嬉しいと思っちゃってる自分自身なんだよね。
本当もう、嬉しいことばかりだ。自分に胸を張れるどころか、なんかこう…………言葉にできないけど、胸の辺りがイイ感じなんだ。思わず頬も緩んじまう。
これなら、うん。もう思い残すことはないネ。
「たったひとつ」
「……?」
「たったひとつ、胸に点った小さな熱が全てを救うことだってある。僕はその暖かさを、死んでも忘れない」
そう、死んでも忘れない。ガワだけマトモな屑鉄みたいな僕が、自分に胸を張れる凄いヤツになれてるんだから。これはもう救い以外の何物でもないのさ。
「命の恩に報いることは、そんなに不思議なことかな。ライザー氏」
「ああおかしいね、余計におかしい。1度死にかけたのなら、もう二度と失わないように怯えるものだろう? 今のお前のその目は……殉教者の目だ。いつか戦ったことのある、教会の戦士の目そっくりだ。手前の命を投げ出すことを恐れていない、何かに命を捧げる生贄の目だ」
「ひっでぇ言われよう、僕ちゃん泣いちゃう。……だが、大正解だ」
でもそうだな……僕がそんな狂人に間違えられるのは勘弁ならないな。そんなだいそれたモノになった覚えはない。結局、僕は普通の男の子なんだ。
そう、普通の男の子なんだ。だからさ、仕方がないだろう?
「惚れちゃったんだよ」
「……なに?」
「惚れちゃったんだよ、リアス・グレモリーさんに。手を握られて、安心させられて、そこから伝わる熱にやられちゃったンだよ。全く、『異常な普通』が聞いて呆れる! こんな対象外の、ド級の美人に惚れるとか! 情けなくて涙が出るよ!」
「は、え、んん???」
本当、恥ずかしいったらありゃしない。僕の夢はふっつーの会社に就職して、社畜になって、なんかそれっぽい人とイイ感じになって、ふっつーな一生を終えることだったんだ。全く人生設計どうなってやがる、マジであの元カノ許さねぇ、地獄に堕ちろ! いや堕ちてたわ。
「でも、惚れちまったんだから仕方がない。困ってるんなら、助けたくなっちゃうモンだろなりふり構わず。例えそれが、僕の命を食い潰すことになったとしても、だ」
「そんな、理由で……?」
「うん、そんなどこにでもありふれた、ちっぽけだけど、死んでも譲れない理由だ。テメェらみんな買い被りすぎなんだよ本当。僕は感情で動くノータリンなんだ」
心臓が早鐘を打つ。エンジンのような音と共に熱と血が全身から噴き出す。
「だから僕は命を、魂を燃やす。一切の後悔なく、一切の欠片も遺さずにここで燃やし尽くす。適当なところで死んどかないと後が怖いんだ。てことで、ここで余すことなく有効利用して死んでやる」
『Boost!!』
ボロッボロの身体に鞭打つように、神器が倍加の音を告げる。後先考えない全体倍加だ。2倍だけ……それでも、その2倍は僕にこれ以上ない最期の勇気を与えてくれた。
「やろうぜ、ライザー・フェニックス。僕と一緒に、死んでくれよ」
開幕の狼煙代わりに、僕は自分の血を前に飛ばし、爆発させた。
◆◆◆
警戒して距離を取られると思っていたのだが、意外なことに僕らの戦いはシンプルな殴り合いに行き着いた。まあ空を飛ぶには森が邪魔だし、しかも燃えない。それなら直接死にかけの僕に一撃をぶち込む方が良いと思ったんだろう。こっちとしても願ったり叶ったりだ。
でも戦況はあまりよろしくない。僕が一方的にボロボロになってくのに対して、向こうは無傷だ。殴っても殴ってもすぐに燃えて回復される。パッと見どころか、どう見ても僕の方がジリ貧だ。
「どうした兵藤一誠!? 俺を殺すんじゃなかったのか!?」
「ガフッ……! ってぇな、そう簡単に出来たらアンタの妹ももうちょい楽に落とせたわクソが!」
『Burst』
苛立ち混じりに顔面ストレートを叩き込むが、手応えが無いままその整ったツラを貫く。よろけて前のめりに倒れ込みそうなるのを、手伝ってやると言わんばかりに背中を蹴り飛ばされる。
地面で顔が削れ、右頬が完全に剥がれる。痛いし、上手く喋ることができない。
「
「……ッ!? 貴様、なんだそれは!?」
ゆらりと立ち上がった僕の顔を見て、表情が青ざめるライザー。心当たりが……いかん、思いつかない。
「悪魔の……いや人間の骨ではない! 血よりも赤い、その骨はなんだ!?」
「ああ、
『Boost!!』
一度切れた倍加を、回復力に絞ってもう一度使う。シュルルル…という音を立てて、なんとか筋肉と血管は復元できた。空気が染みて死ぬ程痛い。
「いいだろこれ、特別性だぜ。ちょっとばかし怪しいナニカと取引しただけさ。僕の【骨】をあげるので、力をくださいってね?」
いやもうホント、ろくでもない取引だったよな。
「これ、取引するまで僕は知らなかったんだけどさ。血って【骨】から造られるらしいね。そして血は全身を駆け巡り身体に馴染んでいく」
「な、何が言いたい?」
「まあお察しの通り、僕の【骨】はもう悪魔の骨じゃない。そこで造られる血もそうさ。だからね、これは嬉しい誤算だったんだけど、僕ってば聖なるモノに対して耐性が付いちゃったのさ。身体の半分以上が悪魔じゃなくなっちまったんでね」
そしてポーチから取り出すのは、聖水の入った瓶。それを握り潰して、割る。瓶の破片が手の皮膚を割き、そこから聖水が入って皮膚と肉を焼く。皮膚はまだ全然血の影響が及んでないから簡単に溶けたが、肉は煙が出る程度で収まった。でもすげぇ痛い、光の槍レベル。でも
「馬鹿な! その程度の聖水、蒸発させて消し飛ばしてくれる!」
「おっと、これで殴って聖水パンチだって? 冗談キツイぜ」
「ならば痛みを押し付ける為か? だからそれならば何故最初からそれをしない!? それはできなかったからだろう!!」
まあ、その通りだ。ライザーは攻撃を食らう瞬間に身体を炎に変換するという荒業で以て、僕からの直接攻撃を交わしている。『
「うん、ホントもうそれ。お手上げ状態。……なのにライザー、何をそんなに怯えてるんだい?」
「お、怯えてなど!」
「分かるよーうん、すっごい分かる。分からないものが動いて喋ってると、気持ち悪くて怖いよねぇ。……………フヒヒ、ねぇそれ普段のアンタの情動かい?」
「……!?」
「苦痛ってのは何も………
「な、あ……!!」
お手上げ状態なんて真っ赤なウソ。実は初手でマーキングを済ませてる。血を噴き出して飽和水蒸気爆発させたのは、散布させた血でマーキングするためだったというわけ。
ただ最初から痛みを回せば警戒されて狙った行動をされなくなる。ライザーが部長達に対してやったことのお返しってやつさ。
「だからまずは精神的苦痛を押し付けた。元々これでも普通の高校生なもんでね、死ぬとか色々言ってても本当は心の底から怖いし、あなたに立ち向かうのも怖い。その恐怖、ちゃんと回ってきてるだろう?」
「だが、所詮お前でも飲み込める程度の恐怖だ! 何故、こんなにも足が竦むようなモノになっているんだ!」
事実、ライザーは腰が抜けたかのようにへたりこみ、震え、戦意の色を無くして僕を見上げている。
「勘違いしてらっしゃいますけど、『循環する苦痛』って名前から想像つきません? 循環させてるんですよ、僕とアンタの間で」
それこそが真骨頂。僕の痛みを相手に押し付け、その押し付けられた痛みを上乗せした相手の痛みを僕に押し付け返し、それを無限に繰り返す。それこそが『循環する苦痛』。
増える恐怖を勇気で飲み込み続け、際限なく増していく痛みに根性で耐えなければならない。逆に言えば、それさえできれば相手は勝手に自滅してくれる。飲み込んだところで総量は変わらないのだから。
「狂ってる……貴様は、狂っている……!! やろうと思ったことも、それを飲み込む精神性も!!」
「そりゃどうも。……さてと、気を強く持てよ。今から根比べが始まるからさ」
「何だ……ガッ!?」
突如全身から炎を噴き出し、のたうち回るライザー。そりゃそうだ、たった今痛みの押し付け合いを始めたんだから。
全身から炎が噴き出してるのは、不死鳥の身体が損傷を受けたと誤認して、痛みの箇所を燃やして再生しようとしているからだろう。ちょうどさっきのレイヴェル嬢の反応がそうだったから間違いない、はず。全身燃えてるってことは全身痛いんだな僕。実際痛いし今も雪だるま式に痛みが加速していってる。
「残念なことに、『循環する苦痛』は僕の意識がある間じゃないと機能しないんだ。痛みに気をやって失えば、アンタはこの苦痛の無限牢獄から脱出できるってワケ。先に心を折っとかないと苦痛を飲み込んで僕をリタイアさせようとしてくるだろうから、最初からしなかったって話。……聡明なあなたなら気がついてるはずだ。攻撃をすればその痛みが自分に帰ってくることも。それを理解した上で、僕に攻撃する勇気はあるかな?」
何を言っているのか分からない叫びの羅列。痛みに耐える訓練はしてたみたいだけど、文字通り
「どうだい、死に嫌われた鳥よ。死の味は、中々クルだろう?」
…………さて、僕も長々と敵をいたぶる趣味はないし、僕の方もいつまで持つかは分からない。少なくともタイムリミットまでは持たないし、復活したライザーに部長とアーシアがやられる展開は避けたい。
だから、そう。やっぱりこうなるのだ。さっきは
「アーシア短い間だったけど本当にありがとう。部長をよろしくね。付き合い短いけどさ、それでもこのヒトが結構溜め込むのは傍から見てても分かるし。アーシアも支えてくれると嬉しいかな」
「い、イッセー、さん……?」
少しでも憂いを断つために、そう言い残す。ああ畜生、怖いな。震えてくるよ。
「それでは部長、おさらばです。本当に、ありがとうございました」
「待ちなさい、イッセー!!」
後ろ髪を引かれる気分で、でもどこか悪くない気分で。僕はホルスターに納めてあったウチの騎士から貰った魔剣を抜いて、それを【心臓】に、祈るように突き立て、引き抜いた。
無理に加圧したせいで、どう見ても助からない量の血が、胸から噴き出す。
遠くで聴こえるアナウンス、ライザー・フェニックス脱落、リアス・グレモリーの勝利。そこまで聞き届けて、僕は意識を放り投げた。
へへへ…………イッセーくん、だい、しょう、りぃ………………───────────
◆◆◆
『本当に、度し難い』
『だがしかしまあ…………悪くない男だった』
◆◆◆
【心臓】を使い潰すというアイデアがあって、そこを補強するように【骨】とか色んなアイデアが出てきて、そこをその場のノリと雰囲気で付け足していった結果がコレでした。
そもそもこの主人公、『気持ち悪い』がコンセプトの1つにあったので、素直に『魂燃やすぜ!』みたいなかっこいいことさせたくなくてこんな感じに。頭の中で『ガチ勢』とか『善属性リゼヴィム』とか罵倒しながら書いてました。主人公にしていい属性じゃないなコレ。
感想ありがとうございました。近いうちに続きをあげるので、お待ちいただけると幸いです。