その1
最近ラーメンばっかり作ってるせいで忘れがちになるが、基本的に悪魔は人間の願いを対価を支払ってもらうことで叶える生き物だ。いや本当はそうなんだよ、うん。
本当ならば僕もそういう普通の契約業務をもっとこなす予定だったのだが……その、思いの外九頭龍亭が繁盛しちまったものだから、結局店長業務に齧り付くことになっちゃったのよね。
前よりはとても楽! とはいえ、慣れない仕事も増えたので思った以上に大変だ。1番大変だったマニュアル作りが終わったので、後は次のステップ……オーナー業務を少しづつ部長から引き継ぐことだ。あのヒト僕を社長にでもするつもりなのかな……?
……とまあ話は逸れたが。そう、悪魔は契約する生き物なのだ。そしてやはり悪魔は悪魔というべきか、中には不幸な事件もあると言うもので。
今から語るのは、僕が巻き込まれたとある悪魔の契約……不幸な不幸な悪夢についてのお話。
◆◆◆
「というわけで、そろそろ悪魔っぽいことをしたいと思うのですよ」
『…………お前は何を言ってるんだ? もう十分悪魔じゃないか』
「あのねぇクソトカゲ、僕にも傷つく心はあるんだよ?」
『クソトカゲ言うな殺すぞ』
そんな、割といつものやり取りから始まる河川敷での特訓開始。お店は閉めたが素直に帰ると部長が攻勢を掛けてくるので少しでも時間を潰すように、閉店後の訓練が習慣になりつつある。強くなるのは必要だから部長も渋々ゴーサイン出してくれたしね、やったぜ。
「なんかこう……アレだよ! 悪魔っぽい技とか身につけたいお年頃なんだよ!」
『洗脳、脅迫、撹乱辺りは自前の口先だけでもできてると思うが』
「洗脳は流石にできねぇよ馬鹿野郎。そうじゃなくて、こう『七つの大罪』みたいなカッチョいいモチーフ使ってなんかしたいんだよ!」
『……これは驚いた。意外に悪くない案だ。もっとこう、人の心を無くしたようなことをするのかと思っていたのだが』
「一応これでもお人好しで通ってるんだけどなァ!?」
まあそんなことは置いといて、確か七つの大罪は『傲慢』、『強欲』、『嫉妬』、『憤怒』、『色欲』、『暴食』、『怠惰』で構成される、『
『しかしだな相棒、貴様に才能は毛程も無いぞ。この間の訓練で身に付けた正気を疑う嫌がらせに僅かにあった才覚を全て注ぎ込んだだろう? これ以上お前に魔力を使った技の習得は不可能と言っていい』
「そこはもちろん理解してますとも。だけどほら、僕にはこの『
『全く使ってない故に忘れてるのかもしれんが、『
…………んぇ? あ、あぁそうだった。偽装してたんだっけか。すっかり忘れてたよ。
『それで、どう解決するんだ?』
「ええと、まあ神器を魔法の杖兼呪文代わりにするんだよ。神器の機能として追加できるならそれに越したことは無いんだけど」
『……あのなぁ相棒。そう簡単に言ってくれるが、神のシステムをそう易々と弄れる訳がないだろう。『譲渡』の件で勘違いしているのかもしれんが、アレはそもそも俺の力、もとい『赤龍帝の籠手』に備わった機能だ。同列に考えるものではない』
「うん、それも把握済み。でもほら、そういうのをブッチする機能だって神器には備わってるじゃん」
ええと確か……『
『相棒が真の意味で禁手に目覚めていればそれも可能かもしれん。が、今のお前には足りないものが多過ぎる。……あの壮絶な自殺ですら劇的な経験足り得ないとは、お前の精神はどうなっているんだ』
「僕に言われても知らねぇよ。まあそれはそう、何より才能が無いよね。……でもさ、スケールダウン版とも言える『決殺の手』でやるならどう?」
『続けろ』
何となく言わんとしてることが伝わったらしい。どこか愉しむ様な気配出しながら続きを促してきた。
「『決殺の手』の禁手なら、今の僕でもできるんじゃないかってこと。まあ厳密に禁手じゃないような気もするけど。改造に使うリソースは……ちょうどほら、本来の禁手用でストックしてる分を使えばいいじゃないか」
『…………稼働データ、リソース共に十二分。設計さえあれば、やってやれないことは無いな。しばらくの間、俺が神器の奥深くに潜る必要があるが』
「お、マジ? じゃあやってみようよ! 僕ちょっと七つの大罪龍・セブンスドラゴン! みたいなのに憧れてるんだけど!」
『…………ハッ』
「テメェ鼻で笑いやがったなクソトカゲ」
『おう、趣味が幼稚だと笑ってやったのさノータリン』
「………………」
幼稚なのは自覚あるけどそんな言い方ないじゃん……っていうのは置いといて。じゃあどんな名前にすりゃええのん? という話である。名前は大事だぜ、方向性が決まるし言葉には力が宿るからね!
『そもそも、ある意味もう一つの名前の方を使わんのか?』
「もう一つって……『異常な普通』?」
『九頭龍亭だ。店長だろう貴様』
ああ、そっち。オーナーこそ部長だけど、今店長僕だもんね……。
『七つの大罪に『虚飾』を加え、更にお前自身を含めれば丁度九つだ。名を借りるのにちょうど良かろう?』
「いや、悪くないと思うんだけど、その並びに僕加えられるとなんか負けてない?」
『安心しろ、お前の非道さは中々のものだ。実際死に至ってるわけだからな』
「否定しづらい暴論を振りかざすな」
あの時のは色んな意味でトラウマである。次やったら多分僕は陽の光とおさらば的な意味で。
「とりあえず名前は『九頭龍の積層装甲《ナインヘッズ・パラレル・プレート》』にしよう! これでいいよね、答えは聞いてない!」
『……まあ、別にいいが。どういうモノを想像してるんだこれは』
んーと、どう説明したもんか。
「装甲の重ねがけ。一つ一つが倍加と大罪に準えた効果のあるうっすい板を、身体のどっかに貼っつけて防具にする、みたいな」
『随分ふんわりとした説明だな……イメージはだいたい分かるが。……9回だけ倍加の重ねがけができるのか』
「9回も、だ。お前忘れてるかもしれんけど、僕ちゃん2倍だけでフェニックスに勝った男だぞ」
『自殺行為だったがな。だが2倍だけで相手を翻弄したというのは確かだ。お前に才能は無いが、戦争の適性はあるのやもしれんな』
「ヤダよそんな適性。物騒じゃん」
とりあえずそれぞれの能力は……まあおいおい考えるとして。素で使っても最大512倍パワーですからね! それだけの効果を譲渡したり嫌がらせに使ったりで夢が広がるなぁ!
「だけど今の僕じゃ4回の倍加……16倍が戦闘に耐えうる限界だから、この案ですらフルに活かせるのは随分先の話になりそうだ…」
『努力が足らん。本来ならこんな与太話をしてる間があれば重りのひとつでも抱えて走り込みをしろというものだ。……しかし手札を増やすのは賛成だ。できることがあればある程、お前はその容赦の無さを以て状況を打破するのだから』
そう言ってドライグは少し黙り込んだあと、こう言った。
『一週間だ。捧げた骨を対価にその積層装甲とやらを完成させてやる。幸い、この神器の中は禁手の情報には事欠かんからな。その間、お前が使えるのは『決殺の手』だけだ。偽装を剥いでも『赤龍帝の籠手』は使えん。有事の際は死なぬ様、死力を尽くすことだな』
「へいへい、まあ大丈夫だって! じゃ、よろしく頼むぜ相棒!」
『もう一度言うぞ、死なぬ様死力を尽くすんだぞ。貴様に次は無いのだからな』
まるで物わかりの悪い子供に言い聞かせるように繰り返したドライグは、そうして神器の深層の中に潜っていったのだった。
◆◆◆
「てなわけで1週間ほどクソトカゲがいません」
「あの赤龍帝をトカゲ呼ばわりできるのは多分あなたぐらいのものね……チェック・メイトよ」
「うげぇ、マジで逃げ場がねぇ。部長お強いですねぇ……。あー負けた負けた! アーシア交代〜」
「は、はい! こ、今度こそ……!」
流石にドライグが遠くに行ってることは伝えとかないといけないよね、ってことで素直に帰宅。まだアーシアも起きてたのでパジャマパーティーが開催されることとなった、僕の部屋で。アーシア起きててくれてありがとう、これで時間潰せるよ……! なんて考えてたら部長が睨んできた。あ、顔に出てましたのねすみません。
3人それぞれが遊んだことあるゲームがチェスしかなかったもんだから、雑談を挟みながらこうやって負け抜けで対戦を繰り返していくことに。……僕思うんだけど、これは高校生のパジャマパーティーとして正しい絵面か?
「それにしても、僕もそこそこやれると思っていたのですが、まさかの全敗とは……」
「悪魔の嗜みの一つね。上級悪魔の家なら教育の一環でするのではないかしら?」
確かにそもそも『
「……ふふっ」
さて次はアーシアの番……てところで、思い出し笑いのようにアーシアが微笑む。急にどったの? 負けが混み過ぎて心が砕けたん?
「いえ。なんだか……お兄ちゃんとお姉ちゃんがいたら、こんな感じだったのかなって。なんだか嬉しくなっちゃって」
「「うっ……!」」
部長と僕、2人揃って胸を抑える。アーシアの純真な笑みにハートブレイク。砕けたのこっちだったね。
「ま、まぁでも部長がお姉さんなのは分かるようん。頼りになるもんねぇ」
「イッセーさんだって頼りになりますよ! ……とても無茶をしますけど」
ジトーっと、それこそまさにダメな兄を見るような感じでアーシアが視線を寄越すので思わず目をそらす。いやぁ本当にごめんよ。部長だけじゃなくてアーシアも泣かせたと後で聞いちゃって暫く頭が上がらなかったよ。1日口を利いてくれないだけで済んだのは奇跡だと思ってる。
『命を粗末にするイッセーさんなんて知りません! フンだ!』
とは先日のアーシアの弁である。いや全くもってその通りである。
「…お姉ちゃん、と呼ばれるのは新鮮ね。お姉様と呼ばれることはあるけれど」
「部長、弟さんか妹さんがいらっしゃるんですか?」
「ううん、甥っ子が1人いるの。ミリキャスって言うんだけれどね。……近いうちに、絶っ対実家に連れていくから、その時に紹介してあげるわね」
しまった薮蛇だ。つつかないようにしておこう。
「まあでも、うん。そんなふうに思ってもらえるのは悪くないもんだ。ウチにいる間は実の兄の如くじゃんじゃん頼っていいぞ!」
「そうね。アーシアはいい子だし、うんと甘やかしてあげる」
「えへへ……」
気分はなんだか兄を名乗る不審者である。どけ!!! 僕がお兄ちゃんだぞ!!!(やりたかっただけ) 実際兄弟姉妹いないので、憧れがないと言えば嘘になる。
「でもチェスでは負けてあげられないわ。全力で来なさい、アーシア」
「次こそは負けません! イッセーさんの仇討ちです!」
「仇討ちて……僕は死んでませんわよーっと」
そんなこんなで、寝落ちるまでパジャマパーティー……というよりはチェスパーティーが続く。アーシアが僕の部屋で寝ちゃうこと以外は、割といつものパターンだったとさ。