兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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本日二話目の更新です


その2

【月曜日】

 

「来たな裏切り者」

「なぁにが観賞用だ裏切り者」

「いや本当に待って欲しい。僕は了承してないぞ、マジで」

「「それはそれで女の敵じゃねぇかこの野郎!!」」

 

 何の変哲もない月曜日、特に問題も無く登校……とはいかなかった。半ば強引に部長と一緒の登校……刺さる視線、美女と野獣。恨まれる要素しか無く、もちろんエロコンビからそんな風に絡まれるわけで……。

 しかも悲しいかな、普段はエロコンビの敵であるところの一般生徒達がこの場に限っては奴らの味方だ。同意するようにウンウンと頷かれると僕だって凹む。まあ奴らの言ってることは一々正しいのだが!

 

「いやお前ら部長のご実家を知らないからそんなことが言えるんだよ……今のままだと家が消されかねん」

「じゃあなんでお前はわざわざリアス先輩のお見合いをぶち壊しにしたと言うんだ!」

「ケッ、メンタルイケメンめ! どこのエロゲ主人公だってんだ」

 

 ……そう、望まない相手とのお見合いを口八丁手八丁、さらには身体を張って無しにした。何故かそういうことになっている。だいたいあってるので否定も出来ないし、あの憎きやり手女悪魔ははそれを見越してそういう風に吹聴してるに違いない! 部長をどうやったら出し抜けるか、それができそうなハーレム焼き鳥に相談しても『ざまぁwwww』と笑われて終いだし、もう本当に打つ手が無い!

 

「仮に! 仮にだ! 万が一そういうことになろうとも僕一般庶民! 甲斐性のかの字もねぇ! 既に無責任男なのにこれ以上どの面下げて案件増やすつもりは無いんだよ!」

「でもでも、アンタ将来的に九頭龍亭のオーナー店長になるんでしょ? 立派な一経営者じゃん」

 

 ちょっと規模は小さいけど、チェーン展開する予定らしいし、案外もしかしたりして〜、なんて爆弾発言噛ましてくれやがったのは桐生。とある理由で『匠』と呼ばれ、恐れられているクラスメイトの女子だ。多分友人枠。

 

「ていうかオイ、どこから聞いたんだよソレぇ!?」

「ふふん、私の情報網を嘗めてもらっちゃ困るよ」

「少なくとも僕は漏らした覚えねぇし、僕以外の出処無いと思うんだが!」

「まあうん、私も人伝に聞いただけではある。出処はグレモリー先輩らしいんだけど」

「あのヒト本当に手段を選ばねぇな!?」

 

 ウソダドンドコドーン!! と教室の床に盛大な台パンをかます。いや床パンか。表向き平野サンがオーナーやってることになってるのでアレだけど、本当のオーナー部長だからどう考えても盛大なマッチポンプなんだよなぁちくしょう!

 

「でも実際、見た目からは想像できない優良物件なのよね……。普段はアレだけど人助けもするし、なんだかんだ優しいし…………何も無かったらその辺のいい感じの子とフラグ建ててそうな感じよね。よっ、エロゲ主人公! アソコの大きさは普通だけど」

「その呼び名流行らせたら、僕の全力でこの街にいられなくするからな」

 

 なんか否定出来そうも無いけどな! だって毎朝起きたら一糸まとわぬ部長が僕のベッドん中潜り込んでんだもん! 全力で僕の理性を削りに来てるのあのヒト! なーにが寝る時はいつも裸なの、だ! いつ童貞散らすことになるか不安で仕方がねぇ!

 

「ところで兵藤、アーシアは? 普段なら一緒に登校してるでしょ」

「あぁ、アーシアはなんかやることあるから先に行ってください、ってことらしい。何故かは僕にゃ分からん」

「ちっ、役立たずめ」

「今のお前の価値はアーシアちゃんの兄ポジってところしかないのに」

「本気でお前らとの友情見直してやろうか、あァ???」

 

 仮に僕を介してアーシアと付き合おうってんなら、まず趣味をある程度矯正してからにするぞテメェらマジでよォ!

 

 そんなこんなでプンスカしながら席につこうとすると肩を掴まれる。掴んだのは松田と元浜だった。

 

「なんでぇ、まだ恨み言言い足りねぇのか?」

「言い足りないな。だがその件じゃねぇ」

「少し頼みたいことがあってな。HRまで時間あるし、ちょっと面かしてくれ」

「……あーもう、しゃーねーなー」

 

 雰囲気が割とマジだし、無視するのが気が引ける。そう思ってしまうのは単に僕が断れない性格だからなのか。仕方が無いので3人連れ立って屋上に行くことにした。

 

 

◆◆◆

 

 

「社交場に幽霊が出るゥ?」

 

 説明しよう! 社交場……正式名称『健全少年達の社交場』とは、エロ本の廃棄場になってる橋の下のスペースのことだ! 読み終わったエロ本をそこに捨てて置くことで、健全少年の誰かがそこから拾い、読み漁るという…………まぁなんだ、未成年のエロガキ共の救済のためのってヤツだ。あまり褒められたことではないんだが、僕もお世話になってたしで強くは言えない。多分駒王町でお世話になってない男子は、そういうのに免疫のないマジメくんだけなのではなかろうか?

 また社交場というだけあって、困った時にあそこに行くと、年上の誰かに相談出来るかも? っていう一種の駆け込み寺的側面もある。なんなら僕はそういう風に使ってる方が多い。頼まれる側だが。

 

 しっかしココ最近色んなことがあったせいで顔出してなかったが、そんなことになってたのか。

 

「しかもただの幽霊じゃねぇ。エロ本を読み込んでる幽霊なんだ」

「近付くと震えが止まらなくなるし、なんなら気絶するヤツもいるって噂で、最近あそこにエロ本が貯まりづらくなったんだよ」

「なんかのギャグかよ。いや当事者からしたら笑えねぇけどさ」

 

 昨今ではネットでオカズをってのが主流になってきてはいるが、それでも紙をめくるあのドキドキが堪らない、というストロングスタイルの猛者もいる。だからやはり、社交場に本が貯まらないというのは……あまり良くないことだと思う。

 

「でも、だからって僕に何かできると思うなよ。そういうのとは縁遠いぜ僕ァよ」

 

 これは大嘘だが、でも自分が悪魔だってバラすのはちょっと勇気が足りないのでそう言うしかない。まあ幽霊が見えるかどうかは分からないし、そもそも件の幽霊が本物かも分からないけれど。

 

「でもお前だったら、なんか不思議なツテでどうにかできるんじゃないか?」

「頼むぜイッセー、お前だけが頼りなんだ!」

 

 手を合わせ、僕を拝み倒す二人を見てため息が出た。本当に僕なら何とかできると思ってるんだろうか、全く。(人間の時は)松田に身体能力で全く歯が立たなかったし、僕は元浜より頭が良くない。それを知ってて僕に頼むんだから…………ああもう、ここ最近こんなのばっかだ。吐き気がするのに悪くない気分で嫌になるぜ!

 

「……はァ。噂の幽霊は何時ぐらいに出るんだ?」

「おぉ、引き受けてくれるのかイッセー!」

「神様仏様イッセー様!」

「調子良過ぎだ馬鹿共! それにお前らにも付き合って貰うからな! 実際現場見てみねぇと何も出来ないし」

「ああ別に構わねぇぜ、イッセーがいたら百人力ってもんよ」

「深夜徘徊は、それはそれでちょっと面白そうだしな」

 

 エロに偏ってるとはいえ、僕もコイツらもアホな男子高校生だ。悪いことをするとなるとちょっぴりテンションも上がっちまう様な馬鹿共なわけで。

 

「それで、結局いつなんだよ。それとも決まった時間には出てこないんか?」

「聞いた話だと、12時から1時ぐらいに出るらしいな。目撃情報もその辺りが多いってよ」

「他の時間の目撃情報も無いではないが、狙うならその時間だろうな」

「あいあい把握。うーん、バイトのこともあるからどうスっかねぇ」

 

 何も問題なけりゃ、店を12時には出られるし……そうなると…………

 

「12時半、社交場の上の橋で集合でどうよ?」

「分かった、何とか抜け出して来るわ」

「家の勝手口を開ける時がついに…!」

「誘っといてなんだが無理はすんなよ、一報入れてくれりゃそれでいいか」

「「おう!」」

 

 てなわけで、そういうことになった。中身が中身なので……うーん、部長には言えねぇな! 訓練するってことで誤魔化そうと決めた。

 

 

◆◆◆

 

 

【火曜日】

 

「あー終わった終わった! ではバイトの皆さん、お疲れ様でした! 明日は僕いないので、立山サンと中村サンの言うことをしっかり聞いてくださいね!」

「「「お疲れ様でした、店長!」」」

 

 時間通りに締め作業も終了。ちょうど日付が変わる頃に店を出れた。うーん、バイトくん達のやる気があって助かるなぁ。時給1400円は美味しいもんねぇ、分かるよ!

 

「では店長、私もこれで」

「はい、立山サンもありがとうございました。汁無しまぜそばの試食の方、よろしくお願いしますね」

 

 さぁてお仕事も終わったことだし、社交場に向かいますかねぇっと。途中コンビニに立ち寄って翼の生える例のヤツを買ってカシュっと一気飲み! かぁーっ、カフェインが効くなぁ!(プラシーボ効果)

 

 そんなこんなでチリリンチリンと20分、待ち合わせ場所に到着だ。10分も前だというのに既に現地には2人とも揃ってたんだから驚いた。

 

「おっすー、なんだ僕が最後かよ。気合い入ってんなお前ら」

「おー、おせーぞイッセー」

「まぁ時間前だし許してやろうじゃないか」

 

 ……で、だ。あんまり騒ぐと近所迷惑だし、二人を寄せて頭を突きあわせ、小声で会話を始めた。

 

「どうせ二人で先に見たんだろ? どうだったよ」

「少なくとも俺達には見えなかったな」

「背筋が震える感じもない。単に見たやつの勘違いかもしれない」

「何も無いに越したことはないけどな」

「そんなことよりも、今日は久々に新しい恵みが落ちてたぞ」

「絶版になってた『巨乳学園2』だ……まさか生きてアレを拝めるとは……」

「ロリ系はなかった……くっ」

「もしかしてエロ本読みたかっただけか? なぁ?」

 

 ブレないところはコイツらのいいところでもあるが……

 

「じゃあ、お待たせしちゃったけど本題に向かおうか(『巨乳学園2』はどこに置いてある???)

「「お前も読みたいんじゃねぇか」」

「だって巨乳お姉さん大好物なんだもん」

 

 本音を言うなら持って帰って読み耽りたいところだが……その、部屋にあの二人が結構な頻度で来るから置いとけないんだよね。3冊だけ残してあった秘蔵コレクションもコイツらに放流したし……。

 

「お前も苦労してるんだな、同情はしないが」

「ケッ、リア充め」

「充実しなくていいから心の平穏が欲しいぜ……」

 

 毎日が楽しい悪夢みたいなもんだ……。心底残念なのが、これが現実だということだ。都合が良すぎるんで、覚めるなら早いところ覚めてもらいたいもんだ。

 

 それはともかく、いつまでもダラダラしてるわけにもいかないので、階段で堤防に降りて社交場に向おうとする。

 

「…………ッ」

「ん? どうかしたかイッセー?」

 

 警鐘が鳴った。生き死にに関わることでは無いが、頗る厄介事だと頭の奥で控えめにカンカン音が鳴る。僕の変化に気が付いたのか、松田が顔を伺ってくる。

 

「い、いや。なんでも。僕、実は幽霊とか怖くてさ!」

「へぇ? 鬼のイッセー様にも怖いものがあったのか」

「お前なら『生きてる人間の方が怖いだろ?』って笑いながら言いそうなのに」

 

 それなりに付き合いがあるせいか、コイツら僕のことよく理解してやがる……。そうだよ、死んだ人間なんかより今生きてる人間の方が怖いに決まってる。悪辣さって意味でな!

 いやしかし困った、警鐘にハズレはないし十中八九厄介事だ。ここはひとつ、二人が何も見えないことに賭けて『やっぱ噂は噂だったんじゃね?』って風に誘導して返すしかねぇ。万が一の時は、正体バレること込みで聖水噴霧しよう。そうしよう。

 

 …………肝心の社交場、なんかいるぅ。なんか白いモヤモヤがいるぅ。

 

「……うーん、やっぱ何もいないな」

「たまたま今日いないだけってこともあるかもだが……ま、噂は噂ってことだな」

「あ、あははー、何もいなくて本当に良かった……」

 

 よォしセーッフ! コイツらちゃんと見えてねェ!!!

 

「バイト終わりってこともあってなんか疲れたよ……とりあえず念の為明日も確認に来るけど、多分何も無さそうだ。今日のところは引き上げようぜ」

「だな。あー……どうやって家に忍び込もうか」

「出るは容易いが入るは難しい……」

 

 さて、どうやって残る口実を……あっ、そうだ。

 

「……『巨乳学園2』だけ、回収してくる」

「おっ、イッセー氏なかなか勇気あるなぁ」

「そのままエロ本がバレて不潔って嫌われろ」

「アホウ、きっちり完全犯罪達成してやるわ。じゃあ馬鹿共、また明日学校でな」

「おう、寝坊すんなよ」

「じゃあなー」

 

 …………よし、行ったな?

 

 懐にある小さな小瓶を掴む。護身用の聖水だ。効くかどうかは分からないけど、コイツを試してみないことには始まらない。

 気付かれる前に、一瞬でカタをつけてやる!

 

「喰らえ聖水蒸気爆は─────」

 

 

◆◆◆

 

 

 ………………はっ!?

 

「いかん……変な夢を見てたような……」

「すー……すー……」

 

 もうなんだか慣れたように、裸で抱きついてきてる部長からするりと抜け出してスマホの画面を見る。時刻は4:30、昨日二人と別れてからの記憶があやふやだが、多分なんやかんやして帰ってきて……アレ?

 

「チェス盤……? 昨日の朝片付けたはずじゃ」

 

 震えながら、もう一度スマホの画面を見る。日付が、昨日の月曜日に…………嘘でしょ?

 

「………………なんで?」

 

 どうやら僕は、心底大変な厄介事に巻き込まれたらしい。

 

【月曜日(ループ2)】

 

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