体調不良等で仕事するぐらいで精一杯でした。
前みたいに1年も放置とかはしないので許してください……。
【火曜日(ループ2)】
「……このヒトも懲りないなぁ」
「すー……」
もはや僕も慣れたもんで、抱き枕状態の僕はするりと抱擁から抜け出す。なんか色々当たるが鋼の意思で気にしないことにする。
初めて迎えた今日の朝、やることはいっぱいだがそれはそれとして朝の訓練は欠かさない。時刻は午前5時である。
「んんっ……もう起きたのイッセー……?」
「あ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか」
起こさない抜け出し方を考えにゃならんな……と思ってると、部長が身体を起こそうとするので急いで背を向ける。見えちゃいけないものがボロンするのでね!
「ふふっ、別に見てもいいのに…。責任は取ってもらうだけよ」
「覚悟も何も無いので遠慮しますぅ〜。いやほんと勘弁してくださいよ……何度も言ってますが、理性がちぎれ飛ばないか不安で仕方ないんですって」
「私の知ったことではないわ」
いたずらっぽく笑う部長の声を背に受けて、ガックリ来ながらも部屋の中を確認する。とりあえずチェス盤とか出てないから、おそらくループはしていない。スマホの日付からも確認できた。
……写真を印刷してもらって方々に確認をする以上、ループを一日二日で起こすのはまずいはず。となると成仏ないし昇天させるようなことは暫くは控えていた方がいいだろう。何するにしても準備は必要だろうし、それも踏まえて三日四日は期間を開けようかって感じだな。……ドライグが戻るまで待つって手もあるか。ヤツならなんか知ってることがあるかもだし。
「何を考え込んでるのかしら?」
「ひぁっ!?」
背後から抱き着かれて思わず変な声が出た。この先の件について思考が没頭していたのでかなり油断していた。
まあありがてぇことに部長はちゃんと部屋着を着てくれているので、イッセー君のイッセーがイッセーすることは無かったが。なんだよイッセー君のイッセーって。
「べ、別に変なことは考えてねーですよ……。新しい悩みの種が増えましたからね、強くなってもっと自信持てるようになりたいんです。これでもね」
「あら意外。そこまで強さに執着しない質だと思ってたのだけど」
「あのハーレム焼き鳥がまさか冥界だとぼちぼちレベルって聞いて背筋凍ったんですよ……ちょっとこの界隈、魔境が過ぎません?」
ちなみにぼちぼちと表現したのは本人である。つってもフェニックスの特性、不死の魔力を抜きにしての話だから総合力は上の方らしいけどね。
「………。随分と仲がいいのね、ライザーと」
「うん? ライザー氏、中々器大きくていい男ですから。僕下級悪魔ですけどフランクに接してくれて話しやすいんですよね。九頭龍亭にも結構来てますし、いい感じのお客さんですよ」
なんならメッセージも投げ合う仲ですよ、とスマホの無料通話アプリを立ち上げてその画面を部長に見せる。……なんか徐々に機嫌悪くなってんな。また僕なんかスイッチ押したか?
「…もしや、こういう他所のところと繋がり持つのご法度とかそういうヤツです?」
「いいえ、特にこれといった決まりはないわ。……本当、ライザー『とは』随分仲がいいのね?」
「んん? 特別仲良くしてる感じはないですよ。普通のやり取りですって。つか部長、それ部長とこういったコトしてないって理由でスネてるんならちょっち的外れではありませんかね?」
これでもかなりマシにはなったが、僕は陰キャなので異性と話すとキョドるのである。仮に悪魔になる前部長と関わりが出来てメッセージ投げ合うことになったら一個送るのに5分は悩む位にビビるぜ。そんな僕なのだ、男との仲の詰め方が早いことを拗ねられても、ねぇ?
「……私だって頭では理解してるわ。でもその……こうやって気安く話せるようになるまでそこそこ時間が掛かったのに、ライザー相手にはこうも早いと率直にムカつくのよね」
「…………はぁ。僕は貴女に特別嫌われたく無かっただけですよ。惚れた女性相手なんですよ? 慎重にもなりますって」
「ちゃんと聞こえなかったわ。もう一度お願いできるかしら?」
「ICレコーダー突きつけて言うセリフではありませんね、やりませんよ」
弱みを見せるとすぐこれである。やはり悪魔、抜け目ない。まあでも目に見えて機嫌が良くなったので安心である。眼福眼福、観賞用が笑顔だと本当にサマになるね。
「まあ私の心情を抜きにすればコネクションを作っておくのはいいことよ。特にフェニックス家は。婚約破棄の件も有耶無耶になってくれれば最高ね」
「あー……」
ライザー氏が器デカいだけで、その他のフェニックス家の方々が僕や部長をどう思ってるかは別ってのはその通りだろうなぁ。約束は遵守する悪魔じゃなかったら殺されてるだろ僕。
「でもそれは私の責任よ。イッセーがそれを意識してライザーと仲良くなる必要はないわ」
「うっす」
流石に部長の責任まで掠めとる程傲慢じゃあありませぬ。僕は僕の責任の範疇で頑張りますよっと。
「じゃあ、せっかく目も覚めたことだし、久しぶりに一緒に訓練しましょうか?」
「マジすか? では、お言葉に甘えて」
◆◆◆
(意外と見つかんねぇな…)
そらそうだ、と肩を落とす放課後。昨日も思ったけど、死とあからさまに関係しそうな本は意外と無いみたい。まあ自殺幇助になっても困るし妥当っちゃ妥当か。
現状分かったことと言えば幽霊は現世に未練や遺恨があって昇天、ないし成仏できてないってのが和洋共通の解釈、らしい。実際はどうか分からんのだけどね。
(あの幽霊、未練や遺恨の類はなさそうだったけどな……)
なんというか『快活』という単語がしっくりと来る、明るい野郎だった。記憶が無いからそうかもと思わないでもないが、少なくとも怨みの線で幽霊やってそうには思えねぇ。
となると、未練の方向で見当つけた方が良さげだな。その旨を元浜に連絡する。
「さて、どうスっかな……」
「何をだい?」
「わっ!?」
本棚を前に漏れた独り言に問いが投げ掛けられて、イッセー君小便がチビりそうな程ビックリした件。下手人は我らオカルト研究部が誇るイケメン騎士、木場祐斗クンである。
「ゆ、祐斗クンかよ……脅かすなよな。僕のミジンコハートが破裂したらどうしてくれるんだ」
「いやぁ、イッセー君そんな小心者ではないと思うよ。思い切りが良過ぎるし」
相変わらずの優男スマイル。脅かされたことを許しそうになっちゃうぜ。面のいいヤツはお得だよな、けっ!
「で、何の用だい優男。これでもかなり忙しくてね」
「僕は借りてた本を返しに。そしたら珍しくイッセー君がいたから気になってね」
「なーるほど」
いや成程ではないが。どーせ朱乃サン辺りの差し金だろうぜ。ちったぁ信じて貰いたいものだよ、無理もないけどな!
腹を探り合うような沈黙が数瞬、でもそういうの趣味じゃねぇので諦めて口を開く。
「……幽霊について調べてんだよ」
「幽霊?」
「そ。友達からの噂で幽霊が出たって言うもんだから、ちょっと調べてやろうかなって。そこまで大したことじゃないよ、見栄張ったせいで困ってるだけサ」
「そうだったんだね」
話してないことがあるだけで、本当のことしか話していない。これで信じて貰えないならそれまでだが……果たして。
「……本当に杞憂だったみたいだ。部長がかなり怪しんでいたみたいだから気になったんだけど」
「あり? 朱乃サンじゃなくて部長?」
朱乃サンがチクったか……いやそれは無い。あのヒトはドSだけど性根は良い方だから余程のことがないと約束破りはしない。となると、今朝から態度に出てたンか? 意外とバレやすいのね僕。
「なんでも『いつもより素直だったから多分後ろめたいことがあるに違いないわ』とのことだったけど」
「あのヒトも大概失礼だな……たまには素直になることだってあるわい」
いやぁあのヒトもよう見とるなあはは…………実はホラー的な? ヤダよ僕なんかに病まれるの。
「まあ大正解ではあるかな。大した感じじゃないけど警鐘が控えめに鳴ってるから、なんかあるとは思ってんだよ……相談すると部長は無駄に大事にしそうだし、あとあの二人を部長に会わせたくない(真顔)」
「あはは……成程そういうことなら納得かな」
あながち嘘では無い。いやまぁ若干独占欲が混じってなくもないが! それを見透かされたのか可愛いものを見る目で笑われている、畜生!
「じゃあ僕の方からそれとなく誤魔化しておくよ。ただあまり危ないことに首を突っ込むのは良くないと思う」
「助かるよ、いやマジで」
と、ホッとしてると祐斗氏がチョイチョイと図書室の机の方を指さす。いや、どういうこっちゃねん?
「アリバイ工作は必要じゃないかな? 一緒に勉強でもしておけば何か聞かれても困らなくて済むと思うよ」
「……キミ、天才って言われない?」
「買い被りすぎだよイッセーくん」
いやいや本当にいいアイデアだぜ。なんせこの男は本当に目立つので、わざわざ部長に言わなくても誰かが適当に『木場くんが〜』って話をしてくれるに違いない。積極的に嘘をつかなくて済むのだからありがたい誘いだ。
「じゃあついでだから対数について簡単に教えておくれよ、授業聞いただけだとチンプンカンプンなんだ」
「分かった、じゃあまずは指数の基本的な計算からおさらいしようか」
教科書を傍らに今日の授業の復習。意外とこういうのも、ありきたりな日常の一コマって感じで悪い気はしないのだった。数学はそんな好きじゃないケド!
◆◆◆
「結局のところ、大した成果はなかったよ……」
「「ダメじゃねーか」」
適当に勉強した後、部長が外出中だったのでこれ幸いとオカルト研究部の方の蔵書も漁ってはみた。みたが……眉唾物のオカルト雑誌しかない。ゲロっちゃってるので祐斗クンに聞いてみると、そういうのは部長の実家にあるんだってさ。ガッデム。
とは言え火のないところに煙は立たぬと読み漁ってはみたものの、やっぱり結論は大差ないって話。この分だとアーシアに聞いた方がボロボロ新情報拾えそうである。ほら、エクソシストは何も悪魔だけを祓うものじゃないし。
つーわけで早々に部室を撤退して学校に程よく近いバーガーショップで2人と落ち合い、今に至る。正直なんも言い返せねぇ。
「怪しげなブツが沢山あるからいけると思ったんだよ……そういう蔵書が無いと思わなかったんだよ……」
「何でもかんでも上手くいくわけじゃないってこったな。まあ元気出せよ」
「なんだかんだ言って現状進展があるの松田だけだしな」
元浜に視線で促されて松田が出した写真は、バッチリくっきり半透明のあの男が写った心霊写真だった。
「イッセーの左腕が効いたのか効いてないのか分からんが、この通り。これなら上手いこと使えるんじゃないか?」
「「さっすがー」」
これを掲示板に上げたり聞き込みに使ったり…………
「いや待て、これを掲示板に上げるのはまあいいとして、聞き込みに心霊写真使うのダメでは?」
「でもどうしようもなくね? 俺も出来ねぇし…」
「右に同じく」
「仕方ないか……」
揃って肩を落とすが、まあ細かく顔の造形確認できるぐらいハッキリ取れてるからまあいいかと一旦流す。問題があったらその都度対応、つまり行き当たりばったり。
「とりあえず1人5枚ずつありゃどうとでもなるだろ、ほらよ」
「どうも。じゃあ僕は配ったり貼ったりする用のビラ作るわ」
軽く言うと信じられないものを見る目で2人がこっちに視線を寄越してくる。なんだよう、僕にだってちゃちい技能の1つや2つぐらいあるわ。
「つーか九頭龍亭の店内ポップ広告は全部僕が作ったやつだが???」
期間限定のメニューが出る度に写真を撮って券売機に付ける広告を作り、前店長がモヤシを誤発注して何とかしろと無茶振りされた際に野菜増しや単品の肉野菜炒めを推す広告を作り……蛍光ペンと画用紙、あとラミネーターは僕のお友達だ。くたばれ前店長。いやまぁ社会的にくたばったか、僕の上司最高だな!!
「あの可愛らしいポップお前だったん? 意外な特技来たなコレ」
「専用のホームページも作るつもりなんだが、そのレイアウトも相談していいか?」
「いいよジャンジャン任せな! 汚名返上、名誉挽回ってな」
気分も乗ってガハハとハンバーガーをバクンと頬張る。どうも僕、語れる中身増やすこと以上に頼られることが嫌いじゃないのかも!
「となると、今日顔出すつもり無かったけど店に行かなきゃな。パソコンとスキャナー店に持ち込んじゃってさ」
「お、じゃあ今日はお開きだな。俺はお供え物持って社交場行くわ」
「俺は掲示板に情報を上げよう。何かしら有用な反応があったらグループトークで共有する」
「オケオケ。じゃあまた明日とか!」
やることは山積みだァね、さー頑張るか!