兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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あけましておめでとうございます。今年は1月中に新年一発目を投稿できて感無量です。

先月はまともな休みが2日だけというクソみたいな勤務をこなして復活です、よろしくお願いします。


その6

【水曜日(ループ2)】

 

「……できた」

 

 と独り呟く深夜。バイト達と立山サンを帰し、自主的にお店に籠って何とかできたビラの出来栄えに、静かに悦に入る。ついでに作られた新メニューの『汁無しラーメン』のポップ広告も中々の出来だろう。カモフラージュは大事よね。

 

「…くぁぁー」

 

 事務スペースで椅子の背もたれに思いっ切り体重を預け、腕を上げ背をのばす。ボキボキと小気味のいい音が背の芯から弾ける。ふと時計を見ると、既に夜の2時を回ったところ。僕以外の皆も契約業務を終えて家に帰っている時間帯だ。

 

 スマホを覗くと、『例の幽霊にお供えしたら、あいつ普通にハンバーガー食べたぞ』というメッセージと宙に浮いた食べかけハンバーガーの写真が送られていた。マジかよ、謎な生態してやがるな。死んでそうなので生態と言っていいかは微妙だが。……死態?

 まあしかしなんだ、この時間に食べ物を見てるとなんだか……

 

「お腹すいた……」

 

 となる。ということでなんか食えるものはねーかな? と事務所の冷蔵庫を開く。前はあの思い出したくもない悪徳店長だけが使える専用の冷蔵庫(しかも冷凍庫もチルド室も野菜室も付いた中々いいやつ)だったが、今では誰でも使えるようにルールを決めて解放している。まあ、中に入れるものは誰のものか分かるようにしておけってだけなんだけど。物に罪はねぇのでな。社会的に死んだ前店長も浮かばれるだろう、浮かばれろ(圧)。

 

 で、淡い期待を胸に開いてみたが、何もなし。試作品を作るための調味料の類以外は従業員とバイト達のものだけ。提供用のラーメンの材料を使うのは論外だ。賄いの範疇ならいざ知らず、それを越えて勝手に食べるのはルール違反だ。僕も雇われ店長の身なのでそこは絶対に守る。ここを捻じ曲げていいのは試作品を食べてもらう時だけだな。その分は別途予算が組まれてるし。

 道義的な観点を抜きにしても、もうゆで麺機は止めて掃除してるから使えないし、今日はスープのあまりも無し。汁なし麺のかえしは余ってるけど、それだけで食べるのはなんかこう……終わってる気がする。最早絶望メシの類だ。トッピングは原価も高ぇし懐からお金出すならもうちょいなんかあると思う。それにそうでなくとも味の確認の為に出勤したら絶対食べてるし、こういう時まで食べなくてもいいと思う、切に。まあだから2つの理由で店の在庫からなんか作るのは論外だな。

 

 帰って冷蔵庫を漁…………ダメだ、ガサガサしてたら親起こしそうだ。そもそも多分すぐに食べれるものはない。備蓄してるカップ麺やお菓子も今は切らしている。そもそもあったとしてもソレを自室で食べれる図が思い浮かばない。具体的には僕の帰りを待っているであろう部長のせいで。巡り巡って自業自得とも言う。なんで僕ちゃんあんな公開告白かましちゃったかなァ!!! あれさえ無ければ弱味を見せなくて済んだと思うの。

 

「…………」

 

 財布を見る。ユで始まる偉人が2人もいるので余裕はある。次の給料日までちょうど折り返しだし、たまには贅沢をしてもいいかもしれない。

 というわけで、行くかコンビニ。シャワーを浴びて軽く身支度を済ませ、火元等の最終確認の後に施錠して退店。店の駐輪場から自転車を回収して押して歩き、徒歩1分もしないところにあるコンビニを目指す。

 

「いらっしゃいませー」

 

 少し気だるげな声をした店員の声と共に自動ドアをくぐる。気持ちは分かるよ、この時間帯死ぬほど眠いもんね。なお悪魔なので今の僕は目が冴えてる模様。

 おにぎりコーナー目指して歩くついでにレジ横ホットスナックケースをチラリ。むぅ、流石にこの時間帯だとなんにも残っちゃいねぇわな。フライドチキンとかめちゃくちゃ食べたいんだが。

 

「…………」

 

 おにぎりコーナーのラインナップもしょっぱい。売れ残りのデカくて高いおにぎりと昆布しかない。……ふむ、たまにはお高いおにぎり買ってみるか。鮭といくらのおにぎりに……これはなんだ、豚のしょうが焼き? 美味そうだな、両方ともカゴにぶち込め。

 

 すぐ隣の弁当エリアを見ると、悲しく1つ残っていた焼肉弁当がポツリ。普段なら上げ底だの肉がちゃちいだの450円は高過ぎるだの言って買わないけど、今無性に腹が空いている。遠慮なくカゴにイン。

 

 お次にパンコーナー。甘いものが欲しい。お、このホイップクリームが挟まったパンはいいな。溢れるほど、とはいかないのが残念だがそういうものだろう。お、チョココロネもある。チョコは好きだ、最高だ。入れとけ入れとけ。

 

 お菓子コーナーではポテチの青のりをチョイス。青のりは食べると歯についてしまうのがアレだが、普通にうすしおで食べるより風味がいい。2袋入れる。ポテチを食べるとなれば飲み物はコーラだ。それもカロリーゼロじゃない方がいい。好き嫌いの前に外せない組み合わせだ、500mlボトルを2本カゴに入れる。

 

 コンビニで買い物するにしては重いカゴをレジに持っていき、お会計なんと1635円。大豪遊である。

 

「ありがとうございましたー」

 

 店員の気の抜けた声を背中にコンビニを出て、停めてある自転車のカゴにレジ袋に詰め込まれたカロリーモンスター共を入れる。

 これで素直に家に帰る…………わけが無い。わしゃわしゃとしたレジ袋の音で絶対にバレる。なのでどこかでこの中身を胃に詰め込みたいところだ。

 まあ行く宛ては適当に考えようかと、自転車に跨ってチリンチリリンと夜の町を行く。いつも以上に町は静かで、殆ど街灯だけが夜道を照らす。

 

 …………何も考えずに自転車を漕ぐのは好きだ。特別自転車が好きなわけじゃないけれど、歩くよりも速く、しかし速すぎる程では無い速度で流れる景色を眺めながら、ただ目指すアテもなく走るのは僕の密かな気分転換の方法だ。悪魔になってからはそういう風に自転車を漕ぐことはなくなったけれど。

 

 顔に受ける風が気持ちいい。夏に変わりつつあるこの季節、それでも陽の光が無いため涼しい風が通り抜ける。なんかもう心が穏やかになってきたし、このまま全部ブッチしてどこか遠いところへ逝っちまうのも……

 

『ぐぅ〜』

「……………………」

 

 そんな破滅願望を遮るかのように腹が鳴った。若干警鐘も鳴りかけてたので生存本能が僕を救ってくれたのかもしれない。おかしいね? 死ににいく流れで何故助かったと感じるんだろうね? まあ原因は僕の思考の大半を埋める紅いヒトなのだろうが。

 

「はぁ……生きてるのがツラい……」

『お前それよく俺の前で言えたな』

「死にたいと思えるのも、生きてる人間だけができる贅沢だからね。いいじゃあないか」

 

 …………んん? ここでするはずのない声がしたと思って視線だけ横にやると、能天気そうな顔した幽霊が並走……走ってはないな、僕の自転車に並びながら飛んでいた。

 

『よっすー』

「お前、地縛霊の類じゃなかったんか」

『なんなら多分隣町から流れてきてるぞ』

 

 急に沸いた重要な情報である。それもうちょい早めに聞きたかったんだが……。

 

「まあいいや。ちょうどお前に用があったんだよ」

『ん、そうなん?』

「イエスイエス」

 

 とりあえず、そこの公園に行こうぜ。

 

 

◆◆◆

 

 

「というわけで、ほれ。お供え物だ」

『何がというわけなんだよ。つーか買いすぎじゃね?』

 

 僕が一乙した例の公園のベンチに腰掛け、買ってきたブツをご開帳。あまりの多さに幽霊くんが怪訝な顔をするが、しかし目の奥の物欲しそうな目は誤魔化せてはいないようだな? ウケケケケ!

 

『そ、そりゃそうだろうがよ。試そうとも思わなかったせいもあるが、モノ食えるなんざ知らなかったんだ』

「自分1人だけだと中々発想に限界があるものねぇ……。ま、差し入れみたいなものだから遠慮なく食えよ。僕一人じゃ食いきれそうに無いし、証拠は隠滅しておきたいし」

『……じゃあ、ありがたく。いただきます』

 

 そう言っておずおずと幽霊はおにぎりに手を伸ばす。……あ、それ僕が狙ってたやつ。というセリフを飲み込みながら食事姿を眺める。特に変な感じは無い。普通に咀嚼して消えてるな。変じゃねぇことが変だな、コイツ幽霊なのにヒトみたいに食べてるぞ。身体は透けてるのに実体のある米粒が口や食道を通る様子が見えるなんてこともねぇ。

 

「………………むぅ」

『な、なんだよ。食えって言ったんだからいいだろうが』

「いや、そこじゃない。キミの何気無い挙動に何か、キミの記憶に繋がる要素が無いか探ってるだけだよ。意外と真面目なんだぜ、僕ァよ」

『真面目なのは最初から重々承知してる。……会って数日程度なのに、本当ありがとうな』

「本当だよ、感謝し倒してくれ」

 

 照れ隠しのセリフを吐きながらチョココロネの袋に手を伸ばす。袋を開け、チョコクリームの見える方から大きく口を開けてガブリ。ん〜! チョコクリームが口の中いっぱいに広がってくのがたまらんねぇ……。

 

『で、生きてるのがツラいってなんだよ』

「あ、それ蒸し返す感じ?」

『当たり前だろ。絶賛俺が悩みの種だろうが、それ以外のところでグチ聞くぐらいはできるかもと思ってよ』

「んー…………」

 

 深い意味は無いんだけどね。いや無いのが問題か。

 

「実は最近、命を投げ捨ててでもやりたい何かがあって。実際投げ捨てたんだよね、命。死ぬつもりで進めてたらなんか生きてたんだよ。笑えるよね」

『いや笑えねぇが』

「死ぬ前提で色々組み立ててたのにソイツが全部おじゃんになって、割と今どう生きていこうかって感じでマジで悩んでるんだよ。人生の目標も既に達成率1000%みたいなとこあるし」

 

 そう、1000%である。まず自分に対して胸を張れるようになったし、いい感じの職に着けそう……と言うか現在進行形だ。残念なことにいい感じのヒトといい雰囲気になることは無かったけど、べらぼうな別嬪さんといい雰囲気通り越してちょっとアレな関係になっちまってるので自分の設定してた目標を大幅に超えたという意味で達成率1000%。胸焼けし過ぎてなんかもう気分はボーナスステージだ。

 

「だからなんて言うの? もうやり切った感がすげぇのなんの。どんなウルトラCカマしても『こうはならんやろ!』ってことの連続で、もう目標がほぼ無いんだよ。やりたいこと、やらなきゃいけないことは山程あるけど、ソレとコレとは別なんだよね」

『………………』

 

 言葉を失った様子の幽霊くんを尻目にペットボトルのコーラに口をつける。思った以上に自分にとって深刻な悩みだったのか、炭酸の刺激はあるはずなのに爽快感がまるで感じられなかった。

 

「一過性のものだと思いたいけどね。ここ数ヶ月で一生分の波乱万丈イベントをこなしたから気疲れしてるだけなんだってさ。…………本当、なんなんだろうね今の僕」

 

 そう考えるとさ、やっぱり身の丈に合った何かであるべきなんだよどんなことでも。なんか今、幸せの海にぶち込まれて溺れそうだもの。いくら頑張ったからって、その頑張りに釣り合ってるわけもなし。よくもまあこんな愉快な悪夢があったモンだ。

 

「だからまぁ、死にたいとかじゃないから安心してね。若いヤツ特有の若気の至り的サムシンの筈だから。どうせすぐに次の目標が、次の次の目標ができるよ」

『…………すまん、なんかなんも言えねぇ』

「いいんだよ、聞いてくれることに意味がある。ありがとうね」

 

 そう、こんな弱音を家や学校でなんか言えやしないので、本当にありがてぇのだ。特にあの紅いヒトには聴かせられねぇし。

 

『まあでもお前はアレだな。放っておくと勝手に自分で自分を追い詰めて自殺するタイプってのは分かった。胸の内をさらけ出せる相手を見つけた方がいいんじゃないか?』

「いるにはいるんだけど、今ソイツ昏睡中でさ」

 

 いるといないでは大違いである、あの偉大な赤トカゲ。早く1週間経たないものか……アレと軽口叩き合うの好きなんだよね。籠手要らねぇからアイツの背後霊だけ付いてこないかな、いやマジで。

 

「そうでなくとも何かとストレスに晒される現代社会だぜ。僕の事情抜きにしても、生きるのってツラいと思わないかね幽霊クン?」

『でもお前所詮学生じゃねぇか。人生語るにはまだ早ぇだろ』

「かはーっ! ご最も過ぎて反論もできないねえ!」

 

 笑ってると気分も上向き、買ってきたご馳走の山にも手が伸びるってもんだ。ポテチうまうま!

 

『………ん?』

「おいおい余所見すんなよ。ほらこれ食えよ焼肉弁当! チャちい肉が乗っかってるだけの上げ底弁当だけど、たまに食べるとなんか美味いんだよコレ!」

『いやいや、おいちょっとなんかこっちに』

「それともあれか、喉潤したいってか? しゃーねーな、そこの自販機で追加コーラ買ってくんべ」

『いやだからなんかやべえって! ()()()()()()()()()()!!』

「そんな奴あの馬鹿共以外いるわきゃねぇだろ、僕みたいな悪魔でもあるまい……し」

 

 指さされた方向に視線をやり……固まる。そこに居たのは悪魔だ。多分僕が知る限りで1番厄介な。

 

「……ぶ、部長?」

「こんばんは、イッセー。随分と愉快なことをしているみたいね?」

 

 その悪魔はニッコリと、これ以上ない程ニッコリと笑って近付いてきていた。しかも右手に滅びの魔力を迸らせながら。……僕には怒っているけど、いつもの折檻用の見せ魔力じゃねぇな。意識は幽霊くんに向いている? いやまあ怪しげな存在だよねぇ彼。

 

 ………………いや待てこの状況は色んな意味でまずい!!

 

「部長待ってこの幽霊悪いヤツじゃ────」

 

 止めようと身を投げ出したその瞬間に、意識が薄く伸びていく感覚に襲われる。ヤバい、これタイムリープだ! しかも驚いた表情見るに今度は部長も巻き込まれてそう!

 

 クソ、こうなるなら迂闊なことしなきゃ良かったなと思いながら、部長になんて説明しようかと薄れゆく意識の中で悩んだ。こんなワケの分からない状況になってるんだもの、やっぱり生きてるのってツラいよなぁ!?

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