兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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その4

 

『ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ!』

 

 ……久々に、悪い夢見じゃなかったな。なんというか、久々に安心して寝れたというか、目覚めも悪くないっていうか。そう思って、モゾモゾしながら布団から這い出ようとすると、ふにょんと柔らかい何かが僕の手に当たった。

 慌てて転がるようにベッドから転がり落ちた。脳味噌が久しぶりに朝から機能しているからか、今どんな状況なのか一気に把握した。

 直ぐにアラームを止め、何故か素っ裸だった自分に服を着せ、飛び出るように部屋から出た。

 

『イッセー、大丈夫ー? なんだか凄い音したけどー』

「だ、大丈夫ー! 久しぶりに目覚めが良かったからはしゃいだだけー!」

 

 階段下の母さんにそう言って、もう一度部屋に戻る。……待て、色々と落ち着こう。

 

 天野夕麻の件は幻覚じゃなかった、昨日の謎生物襲撃も同様。そして僕は多分一度死んでいて、そのことについて、この人は何かを知っている……。

 痛む頭を抑えながら、未だ僕のベッドで寝息をたてる眠り姫に視線をやる。

 

「すー……すー……」

 

 紅い髪の、目の覚める様な美女。恐らく、昨日僕を助けてくれた人。リアス・グレモリー先輩が、一糸まとわぬ姿で布団にくるまっている。

 

「………………いや、なんで???」

 

 衝撃的なことに直面すると、興奮より先に疑問で頭を埋めつくしてそれどころではなくなる。一般的にはどうか知らないけど、少なくとも僕はそうだ……。

 

 ……このままではいけない、冷静になれ兵藤一誠! この時間だから、父さんと母さんが上に上がってくることはまあないだろうが、変に声がしたら心配に思って部屋に来ることは普通にありえる! 僕も現状をちゃんと把握したいところだし、この先輩には早速起きてもらいたい!

 

「……うぅん、すー……すー……」

 

 ……起こすのが偲びなくなるな、美形は得だよな、けっ。

 まあ急に身体起こされて見えちゃいけないものがご開帳するよりはマシだろ、うん。そう思って書き置きを残し、部屋を出ることにした。

 

 ……変に湿ってたりはしてなかったので、多分僕はまだチェリーのはず……だよな? 絶対そうだ。

 

「……はぁ。これもひっくるめて全部夢だったらなぁ」

 

 それこそが、案外僕にとっての幻想(ファンタジー)なのかもしれないけどね。人の夢と書いて儚いとはよく言ったものだ。……ぶっちゃけ、僕自身に人外疑惑ありますけどね。

 

 

◆◆◆

 

 

「……『昨日はありがとうございます。お礼をしたいので、放課後旧校舎に向かいます』、ね」

「気を遣わせてしまったかしら……?」

 

 

◆◆◆

 

 

 いろんなことに頭を悩ませながら、それでも乗り切った授業。余程変な顔をしてたのか、友達が大丈夫かとか心配してくれたのが心にきた。猥談コンビの2人も、食堂の惣菜パン奢ってくれる程度には心配かけたみたいだ。……おい、これ月一10食限定のイベリコ豚サンドじゃないか?

 

「いつまでもそんなだと張合いないからな」

「そういうディスク借りるよりは安上がりだから気にするな」

 

 正直、エロコンビがエロよりも僕との友情を優先してくれたことが嬉しくてたまらなかった。何があろうとも見捨てないと心に誓った。

 

 ともかく、放課後ですよ。今日はシフト入ってないので、普段なら帰るだけ。だが今日は旧校舎の方にお邪魔しないと。お礼の品は用意できなかったけど、それはまあ仕方ないと大目に見て欲しいところ。

 

 そんな風に思いながら荷物を纏めてると、教室の入口から声をかけられた。僕の名前だった。

 

「はいはい、兵藤一誠は僕だけど」

「ああ、君が。どうも」

 

 僕を呼んだのは、この学校で1番のイケメン……隣のクラスの木場祐斗クンだ。金髪で、日本人とは思えない爽やかなマスクから放たれるスマイルは、この学園の女子達のハートを撃ち抜いているのだ。……ああ、通りで女子が騒がしいわけだ。

 

「んで、君も『異常な普通』の顔を見ようときたクチかい?」

「ううん、伝言と案内かな」

「伝言と案内ィ?」

 

 心当たりはない……と思ってすぐに気がついた。

 この学校には、オカルト研究部という部活がある。部室を旧校舎に構えていて、その部活の部長がリアス・グレモリー先輩なのだ。放課後旧校舎に向かうと書き置きしたのは、それもあっての事である。

 そして確か、木場祐斗クンもオカルト研究部所属だったか。……あの部活、何やってるかは謎だけど、顔面偏差値高いことは有名なんだよなぁ。僕の中では絶賛観賞用対象である。

 

「なるほど、先輩が。……ということは、もしかしてキミも?」

「それも含めて、部長から説明があると思うよ。というわけで、着いてきてもらえるかな?」

「むしろこちらからよろしくお願いするよ」

 

 そう言って纏めたカバンを背負って、木場クンについて行く。……その時聞こえた『木場くん×兵藤くん』とか、そんなおぞましい掛け算は聞かなかったことにしたい。腐女子率高くねぇ……?

 

 

◆◆◆

 

 

 案内された先は、校舎の裏手。木々の中に囲まれた中にある、昔使われていた木造の校舎。実はここに来るのは初めてでワックワクだったりする。

 まあだからといって、特に目新しい何かがある訳ではなく、木造だけど手入れが行き届いた二階建て校舎の中を、案内の下進んでいく。

 

 階段を登り、廊下を進んで目的の教室に辿り着いたのか、木場クンの足が止まった。

 

 ……確かに、『オカルト研究部』って看板が戸にかけられてますけど。ううん、入りたくないって気持ちでいっぱい。おい僕、お礼を言うってのはどうなったし。

 

「部長、兵藤くんを連れてきました」

 

 と、そんな葛藤も知ったことかと木場クンが引き戸を開いて中の先輩に確認を取っていた。くぅ、覚悟キメろってか?

 

『ええ、入ってちょうだい』

 

 先輩の声が返ってきた。若干くぐもってるのは気のせいか? まあいいけど……。

 

 促されてその中に足を踏み入れると……その内装に驚いた。

 

 どこに目線をやっても目に入る、オカルティックな文字、模様、エトセトラ。少しSANチェック入りそうになる。

 中でも目を引くのは、教室の中央に描かれた、魔方陣っぽいなにか。……なるほど、確かにここはオカルト研究部だわ。

 

 とはいえ置いてある机とかソファは普通の物に見えるな、安心安心(明らかに高級品っぽいことはスルー)。

 

「……ん? あ、ソフトクリームの後輩ちゃん?」

 

 とここで、ソファに座っていた見覚えのある女子の姿に思わずセリフが零れた。えっと確か名前は……

 

「……塔城小猫、です。昨日はありがとうございます、先輩」

「いえいえ、こちらこそ。兵藤一誠です、よろしく」

 

 そう言って頭を下げると、塔城サンも軽く頭を下げて、机の上の羊羹を食べ始めた。なるほど、甘い物好きなのね。あと言葉数少ない感じ。

 ……しっかし、塔城サンもオカルト研究部だったのか。もしやここ、謎生物の集いだったりするのかな、まさか……いや、その可能性普通に高いよね。

 

 そうやって、思考を現状分析に没頭させる。断じて、部屋の隅にあるカーテンの向こうから聞こえる水の音と、カーテンに浮かぶシルエットに意識を向けないためではない。これは必要なことなのです。というか部室にシャワーって……運動部が泣いて不公平を訴えてくるぞソレ。

 

 しばらくすると蛇口のしまる音が聞こえ、シルエットにもう1つの影が追加された。思うにもう1人の方はオカルト研究部の副部長で、二大お姉さまのもう1人の方の姫島朱乃先輩じゃなかろうか? 声の感じもそれっぽいし。

 一周まわって冷静になった思考であれこれ考えてると、制服に着替えたグレモリー先輩がカーテンを開けて現れた。

 

「ごめんなさい。昨夜兵藤くんのお家にお泊まりして、シャワーを浴びてなかったから」

 

 ……なるほど、部室にシャワーがある理由はともかく、女子にとってそれは死活問題ですよね。

 

「いえ、大丈夫です。というか気が利かなくて申し訳ないです」

 

 頭を下げると若干先輩が困った顔をした。どうしてだろう、なにか粗相でもしたかな僕は。

 まあそれは一旦置いておいて、先輩の後方に控えていたもう1人の方先輩の方に視線をやる。

 

「初めまして、2年の兵藤一誠です。よろしくお願いします」

「あらあらご丁寧に。私は、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後お見知りおきを」

 

 かーっ! 柔らかな印象を与える和風美人の顔と揺れるポニーテールが堪らないね。観賞用観賞用。

 

「さて、これで全員揃ったわね。兵藤一誠くん。いえ、イッセーと呼びましょうか」

「構いません。親しい連中は、皆イッセーと呼ぶので」

 

 そう返すと、ありがとう。と微笑んでグレモリー先輩は言った。

 

「私達、オカルト研究部はあなたを歓迎するわ」

 

 ─────悪魔として、ね。

 

 そうして告げられた言葉に、いろんなことの辻褄が合っていくのを感じた。

 ……そうか、僕は悪魔になっちまったのか。

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