兵藤一誠は『異常な普通』です   作:FGMe/あかいひと

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3月中に更新できたので許してください(1ヶ月1回更新)


その8

「と、言うわけで今日の店長業務は小猫に頼むわね」

「……頑張ります」

「いやいやいやいやいや、話が数段飛んでますよオーナー」

 

 月曜日(3回目)にあたる今日の放課後。僕が独自に動くってことを共有するために急遽オカ研緊急集会。僕と部長が野暮用で出掛けないといけなくなつた旨を周知する。その関係で契約業務の仕事の引き継ぎなどを指示していた最中に、急に爆弾が投げ込まれた。マジで何言ってんのさこの上司。というか小猫チャンもむん! って気合い入れてる場合じゃないと思うの。

 

「というか僕がいなくても店は普通に回りますよ。というか2号店3号店の準備に向けて立山サンと中村サンに店長業務の講習やったじゃないですか! 監視する必要なんて無いくらい彼ら優秀ですよ、僕なんかと違って!」

「ことある事に自虐する癖辞めないと、次は褒め殺しにするわよ」

「斬新な脅し文句ですねェ!?」

 

 それされると吐きそうになるのでマジ勘弁。自分に胸を張れるようになったとて、平凡であるスタンスは変えないつもりの僕なのである。

 

「とはいえ実際にその通り、彼らがいれば何事もなく営業できるでしょうね。……問題は、我々悪魔の目が無くなるということよ」

「ああ、成程」

 

 つまり小猫チャンは用心棒ということか。実際腕っぷしは立つし、成程納得の人選である。

 

「あとはちょっとしたデータ収集ね。イッセー、貴方の成績……というより、九頭龍亭の事業が私達グレモリー眷属の中で一二を争う成績になってるのよ」

「……わぁーお」

 

 朱乃サン達先輩方ともう肩を並べるような事業になってるの。すげぇなラーメン。

 

「将来的に九頭龍亭をフランチャイズチェーンとして悪魔相手に売る商品にしたい、ということは伝えていたと思うのだけど。思いの外順調だから話を少し進めて、実際に未経験でも操業ができるかどうかのテストってところかしら?」

 

 多分これからしばらく誰かが研修で店長をする機会が増えるわ、などと続けるもんだから背筋が冷えてくる。話が大きくなって着いていけないのに、おもっくそ僕ちゃん当事者なんだよなァ!

 

「……となると、最初の1日でできることなんて限りがありますし、マニュアルに不自然なところが無いかを見てもらう、辺りですかね」

「イッセーがそう思うならそうなのだと思うわ。少なくとも九頭龍亭の実際の営業に関しては貴方の方が詳しいでしょう?」

「はい、そこは確かに」

 

 1日目から新人を麺場、焼き場を任すのはあの憎き元店長だけで十分だ。現場OJTはある程度事前知識を頭に入れてからじゃねぇと効率悪いってのにあの野郎…………!(再燃する怒り)

 

「……少し残念」

「残念がるところじゃねーですよ後輩殿。なんでそんなにやる気に満ちてるんだ」

「……常連さん程じゃないけれど、結構行ってたので九頭龍亭の裏側にとても興味がありました。感無量、です」

 

 つってもキミ、ソフトクリームぐらいしか食べてなかったジャン……お節介で賄い麺出してからは麺も食べるようになったけど。先行投資大成功。

 

「ンまぁ、ありがたいけどサ。慣れてるヒトじゃ気が付けないことも、外から来たヒトなら気付くこともザラだし。気負わず適当によろしくね、ホントにマニュアル読み込んだりちょっと店の中確認する位でいいから」

「はい、任されました」

 

 シュッシュッ! とシャドーボクシングをするが、それは間違いなくウチの店では活きない動きだぞ……大丈夫かな? 大丈夫か……。

 

「ところで、イッセー先輩の用事というのは? 部長も関係のありそうな話みたいですけど」

 

 そう言われると答えないワケにはいかない。事前に擦り合わせた方便が、僕の口から吐き出された。

 

「…………九頭龍亭2号店の候補地巡りだよ」

 

 もう僕、普通を名乗れないかもしれない。強くそう思った。

 

 

◆◆◆

 

 

「てなわけで、ここが候補地……というかウチの部長殿が私的に買ってた牛丼屋の跡地だとよ」

「そんなところ一般人連れてくるんじゃねえよビビるわ!!」

「変な顔で見られてたぞ……そうだよな、学生服の3人組が跡地に入っていってるもんな……」

『(あのネーサン本当にとんでもないんだな……)』

 

 吐いた言葉を嘘にも出来ねぇ、てなワケで部長が抑えてる場所からまだ建屋が残ってるヤツを1つピック。そこを今後の話し合い等で使おうってことで2人と幽霊1人ご招待、というわけである。隣町かつ川の堤防に近くで幽霊くんも来やすい立地だ。中もキッチンはともかくテーブル等の内装がそのまんま残ってるのでちっとリフォームすればほぼそのままで店やれるな。まあ詳しいことは丸投げするとしてよ。

 

「というかお前、グレモリー先輩に話したのかよ」

「大丈夫なのか? その……色々と」

「いいんじゃない? ループしなければ(大嘘)。学園祭用の展示物増やせるってウッキウキだったし」

 

 まあ、表向きはそういうことである。一応オカルト研究部としてもちゃんと研究というテイで色々調べてますよ風はしてるみたいで、今回の件も可能であればネタの1つとしてプールしておきたいし、嘘では無い。無い……んだが、なんか恋人陣営で人狼してる気分になってくるな。ループに巻き込まないために部長にも嘘つかせてるし本当に良くない流れである。

 

 んで、席についてこれからの方針を話し合おうとするが……

 

「とりあえず、ループに合わせて消えた写真はさっき撮ったからこっちで印刷までやってもらうけどよ。毎回これするのダルくないか?」

「徒労に終わるのが1番ツラい……」

「ループ先に諸々持ち込めねぇし、そこに関しちゃお手上げだわなぁ……」

 

 結局これに尽きる。なるべくループしない様に立ち回り、一刻も早く名前を割るというのが目標だ。名前さえ割ってしまえばループ毎に調べる準備をする手間が無くなるからな。

 

『そればっかりは俺自身でもなんともし難いな……極力人目の付かないところで息を潜めようとは思うが……』

「それがどこまで持つか……」

「……なんか思い出せることはないのか? 的を絞れば多少効率的になると思うんだが」

『すまん、さっぱりだ……』

 

 揃って頭を抱える3人を見て、まずいな……と思い始めてきた。僕もそうだが、終わりが見えず同じ時間をやり直ししてると気も滅入るというものだ。2回目までは楽しめても、3回あれば億劫にもなってくる。これが何度も続けば…………こういう表現はキライだが、『心が腐る』様になるのだろう。

 この2人をファンタジーな事情に巻き込んだ判断事態は、まあ放置しててもこんな状況になっただろうって想像ができるんで間違っちゃないと思うが、それでも思うところはある。嫌なら抜けてもいいぞ、という準備だけはしておかないといけないかもしれない。

 

「……まっ、そもそも掲示物作っただけで情報入るのはこれからって話だったしな。せめてその様子だけ確認して悩もうぜ」

 

 そんな陰鬱な空気を振り切って、松田が明るい声でそう言った。その声に若干救われた僕達の表情から、少し陰りが取れた。

 

「だな。とりあえず幽霊くんにはここでヒソヒソしてもらって、なんか作業する時はここ使おう。電気は適当に使っていいってよ」

「じゃあ俺はここにパソコン持ってくる。……ビラの印刷はコンビニでするしかないか。ネット回線は?」

「流石にないねぇ……」

「分かった、デザリングで対応する」

『俺になんかできることはあるか? 俺のことなのに本当に役立たずで……』

 

 幽霊くんにそう言われて、でもどうしようもなくね……? と首を捻ったところで思い出す。早朝、部長の見解ではコイツは霊体なだけでまだ生きているとのことだったではないか。つまり記憶が無いのは、生前の記憶を思い出せないというよりは、記憶障害という線も無くはない。悪魔との契約で記憶も奪われてるってパターンなら何とも言えんが……。

 

「……ふむ。君、ストレスに感じてることはないかい?」

『ストレスぅ?』

「うん。幽霊にそれが当てはまるかは分からないんだけど、記憶障害って線も追った方がいい気がしてね」

 

 そう言って目配せすると、今朝の部長の発言を思い出したらしい。得心がいったような顔をして……そしてすぐ眉の間にシワが寄った。

 

『それがなんでストレスだってんだ?』

「まだ若いから老化とか衰えから来る記憶の障害とは思わない。んで、素人のうろ覚えなんだけど、記憶障害ってストレスで発生することもあるんだと。ほら、あまりにもショックな出来事から自分を守る為に忘れてしまうって聞いたことはない?」

「あー……なんかそれ聞いたことあんな」

「調べたら、確かにそれっぽい記事もあったぞ」

 

 そう言って元浜がスマホを、その記事を表示させて机の上に置いた。……ふむふむ、大きくは外れてなさそうだ。

 

『んァー……そもそもその心当たりもねえんだが……。ストレスって、今のストレスもあんのかね?』

「分からない。けれど精神的に安定した状態ってのは大事かもしれない。なんで遠慮無く今感じてることを言って欲しい、切に」

『うーむ……1番感じてるストレスが、気が狂いそうになるほどループしてるっつーことだからどうしようもねえっつうか……』

「「「ああー……」」」

 

 思わず同意の声がハモった。3回程度で根をあげそうな僕らならとっくに狂ってる程のストレスを感じてるに違いない。

 

『……だからその、この状況は結構救われてるんだよ。ループはしてるが、こうやって変化がある。それが今の俺にとって、死ぬ程ありがたい』

 

 あらためてありがとうよ、と言われて僕らは言葉を無くした。そりゃそうもなるでしょ? 軽い気持ちで首を突っ込んだことで、分からないなりに盛大に感謝されちまってんだから。こんな重い『ありがとう』に、一体どう言葉を返せばいいってんだ、畜生。

 

(……ああ。これ、ブーメランか)

 

 あの日の夜、僕にクソみたいな独白と感謝を伝えられた部長もこんな気分だったのかもしれない。まさに因果応報、上に向かって吐いた唾が自分に掛かる見事なオチだった。笑えないけれど。

 

 

◆◆◆

 

 

 なりふり構ってられない、ということで死者の尊厳を踏みにじるような『尻フェチ』という文言が行方不明者捜索掲示板やビラに追加され、ついでにストレスの軽減になるかもとゲーム機の類を持ち込む。気分は秘密基地を作ってる小学生だ。久しぶりに大乱闘的なゲームをやって逆に僕はストレス溜めたがね。復帰狙ってメテオするとか人の心がねぇなアイツらァ……!!

 

『あまり順調とは言えないわね……』

「ですねぇ……八方塞がりというかなんというか……。手当り次第に倍加を譲渡したカメラで撮って貰ったりとかしてますけど」

 

 そしてその日の夜、自室で自分のノーパソとにらめっこしながら部長とのお電話。今日はこんな感じの進捗でしたよー、と報告したが声音が芳しくない。多分こっちがというよりは、部長の方があまり良い結果にならなかったのだと思う。

 

『こちらも、()()()()何も見つからなかったわ』

「何事もそう簡単に上手くはいかな……え、予想通りだったんですか?」

 

 何それ僕ちゃん聞いてないんだけれど。

 

『人間と上手いことやっていこうという時勢に逆らってるもの。人間の命を対価に願いを叶えるなんて、本人が納得してたとしても角が立つわ。だから少なくとも記録には残してないのは察していたの』

「じゃあなんの為に……」

『記録から何かを消したら、僅かでもその痕跡が残るものよ。私が確認したかったのはソレ』

「ははぁ、成程……」

 

 しかし、どうも声の調子から確認したかった痕跡は見つからなかった模様。

 

『そうなのよ……まあ見つからなくて良かった、とも思ってるのよ。もしあの家がこんなことに関わってたのなら……スキャンダル、という言葉では済まなかったでしょうから』

「じゃあ、あんまり遠慮せず動いちゃってもいいことが分かった、ということですね?」

『それだけじゃないわ。見当をつけるためにそのまま他の契約業務の記録も見るに決まってるじゃない。貴方と違って1つの目標に向かって突進するしかない猪武者じゃないのよ私は』

「サラッと凄く貶されましたね僕」

『褒めてもいるわ、覚悟を決めた貴方の目的遂行能力は大したものよ。忌々しい程に』

「その節は本当に申し訳なかったのでいじめるのやめてくださいよ」

 

 随分と根に持たれてるようで何よりですわよ本当に! 全部僕が悪いんだけどね!

 しかしともあれ、『あまり順調ではない』と言っていたところから察するに、そちらの方もあまり芳しい結果ではなかったと思うンだけど…………それともややこしい情報でも掴んだのかな?

 

『…………全くと言っていい程、無かったのよ』

「んぇ?」

『ここ1ヶ月の駒王町並びにその近辺での契約の記録に、命を代価にするような願いの記録も、消した痕跡も、何一つ無かったのよ』

「…………マジですか」

 

 それって、どういうことなんでしょう?

 

『彼から漂っていた魔力の残滓から、間違いなく悪魔か、あまり考えられないけれど堕天使が関わっていることは間違いないわ。そして堕天使に関してはレイナーレの一件からそう時間も経ってないから、駒王町近辺で何かをするというのも考えづらい。9割9分悪魔の仕業と考えていいわ。その上で記録に残っていないということは…………彼の件は現在進行形で契約を履行している最中である可能性が高い』

 

 えーと、とりあえず現状は理解できた。そうなると……今、どういうことが起こってるんだろう? パニックになって頭が回らなくなっている。

 

「で、でもおかしいじゃないですか! それだと僕らはその悪魔契約の邪魔をしていることになる、だったら妨害なりなんなりがある筈でしょう!?」

『その妨害がこの状況(タイムリープ)なのだと思うけれど…………貴方の考えていることを当てるわ。あまりにも手緩すぎる、でしょう?』

「はい、あの幽霊に近付けさせない為ならもっと方法がある筈。これではまるで僕らが巻き込まれてくれた方が都合がいいみたいだ……」

 

 ああもう、ワケが分からない。一体全体、どういうこった……?お互いに言葉が出ず、沈黙だけが耳を貫く。部長も部長で、この状況が掴めずにいるんだろう。

 

『……一度、分かっている情報と推測できる情報を纏めましょう』

 

 沈黙を破った部長の提案。そして部長は箇条書きにするように簡潔に今の状況を纏めていった。

 

『まず、あの幽霊には魔力の残滓が漂っていた。ほぼ間違いなく悪魔が関わっていると見ていい』

『次にあの幽霊の正体について、自然に飲み食いをしている点で少なくともただの霊体ではないわ。恐らく、生きたまま霊体になってると見ていいわ』

『後はタイムリープした状況、貴方が聖水を掛けた時と私が滅びの魔力をぶつけた時。あと何もせずに3日間が過ぎた時。あの幽霊が死んだ時にタイムリープしてるのは今朝も言った通りね』

『最後にただの推測ではあるけれど……彼のこの状況は、現在進行形で契約を履行している最中であること。本来余所者が手を出すなと警告をされてもおかしくない状況で、妨害らしい妨害がタイムリープしかない』

 

 そこまで言って、部長は続けてこう言った。

 

『私が思うに、恐らくこの契約を担当している悪魔は時間稼ぎをしているように見えるわ。契約が履行できなくなった段階でリセットボタンでも押しているみたい。……あの家の関係者なのか、あるいはそういう神器を持っているのか』

「…………僕らがタイムリープに巻き込まれただけで何も妨害らしい妨害を受けていないのは、その方が履行できる可能性が高まるから」

『そう考えるしかないわね。推測に想像を重ねているから正しいかどうかは分からないけれど』

 

 そうなるとやはりアイツの記憶を取り戻すか、正体を割り出すかしか思いつかない。それもちゃんと飲み食いしてもらって生命維持して貰った上で。

 

『あと、間違いなく彼が死ぬことでタイムリープするというのは重要よ。彼が死ぬ事と、契約が履行できない事はイコールと見て良さそうだわ』

 

 そう言われて、僕は1つ閃いた。もしかしたら、もしかしたらだけど……

 

「…………部長、ヤツが口にした飲食物は何処に行ってると思います?」

『イッセー……?』

 

 

 

 

 

「ヤツが食べた物が、他の誰かの命を維持するのに使われてる可能性は、無いでしょうか?」

 

 

 

 




いつも感想等ありがとうございます。

あと3話位で終わればいいな……本当はこの章4話で完結させる予定だったのですが!
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