兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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先月更新出来なかった分です、これで実質月一更新。
色々話してますけどこの作品での設定であって、原作ではどうか分かりません。

解答編


その10

【水曜日(ループ3)】

 

「では、そろそろ答え合わせにしましょうか」

 

 日付の変わった頃に突如魔方陣を光らせて現れた部長が開口一番そんなことを言った。いやあの貴女、一応下宿してるってことになってんですから普通に玄関から入ればいいのに……鍵持ってるじゃないですか。

 

「生存確認よ。さっきアーシアから一緒に教会の掃除をしたって連絡があってね」

「あ、いっけね。連絡してませんでしたねそっちは」

 

 アハー……等とおどけてみせるが、わざと報告しなかったことは見抜かれてるらしい。まさかアーシアが僕のこともまで報告しちゃうとは、不覚。

 

「……まあいいわ。何も無かったみたいだし」

「ええ、ちょいと息苦しかった位で。物騒なモンも何もありませんでした。ところで、答え合わせというのは……」

 

 そう訊ねると良くぞ聴いてくれた! と言わんばかりに破顔した部長が、どこからか紙の挟まったクリアファイルを取り出した。……いや今本当に何処からソレ取り出した? どう見ても虚空からなんか出てきたよーな……?

 

「この程度、乙女の嗜みよ」

「ンな嗜みがあってたまりますか。大方魔力でアレコレしたんでしょうけど」

 

 あと表情から思ってること読み取るの本当にやめて欲しい。隠し事できなくなるじゃん。そもそも隠し事するなって話だが、そこはそれ。

 

「隠し事云々の件はおいおい詰めさせて貰うとして……引っ張るものでもないし、早速説明をするわね。まず、あの幽霊の彼の名前は『日下部景太』。隣町の高校の2年生ね」

「あいつ下の名前景太って言うんすか。つっても苗字教えて1日も経たずによく分かりましたね」

 

 朝の段階でメッセージ飛ばしてだからマジで急転直下の展開だ。部長が優秀……というよりはヤマ張ってたところが当たったみたいな感じがする。

 

「あなたが自分で言ったんでしょうに……彼が食べた物が別の人間を維持するのに使われてるんじゃないかって」

「…………あー、なんか言ったような気がします」

「なんで昨日のことを覚えてないのよイッセー」

 

 いや本当にすみません。頭の出来がそれほどよろしくないんですよ、だからノータリンって自称してるんですけどね?

 

「あ、てことは病院に辺りをつけて見事大当たりってことか。僕のラッキーパンチにも程がないですか?」

「…………まあいいわ。それがどこまで本音で話してるか分からないし」

「疑い過ぎじゃないですかねェ!? いいですか、嘘つくのだって頭が必要なんですよ!?」

「ええ、悪魔ですもの知ってるわ。そしてそんな悪魔を出し抜いて自殺しようとした馬鹿な子が目の前にいるのだけど」

「この話はやめにしましょう、どう考えても僕が口でタコ殴りにされる未来しか見えない」

 

 ちぇっ。嘘じゃないんだけどなー……多分。

 

「ともかく、先日の貴方のラッキーパンチ(仮)に一理あると思ったから、近辺の病院を洗いざらい調べることにしたの。彼の食べた物が……というより彼の今の惨状が誰かの生命を維持する為の必要経費ならば、恐らくその人物は生死の境をさまよってるような重病人、ないし重傷者だと推測したわ」

「そこに、やつの苗字が合わさることで……」

「ええ、日下部イネさん……彼の祖母に辿り着いたというわけ。詳しいことはこの中に」

 

 そう言って手渡されたのは……多分カルテってやつだよな。細かく読もうとすると頭痛くなるのでパスしたいところなんだけど……

 

「……ざっくり纏めると、少なくとも刃渡り60cmはありそうな刃物で腹をぶった斬られたってことですかコレ」

「ええ、何とか生命活動は続いているけれど、何故まだ生きているのかが分からないとも、ね。若ければここから持ち直すこともあるでしょうが、御歳80歳の人間だと……」

 

 まあ何故首の皮一枚繋がってるのかは、多分ヤツが関わってるんだろうけど……ん?

 

「待ってください、躊躇い傷が無いってことは他人がやったって扱いになってるんすよね。これ結構な大事件ですよ、報道とかあって然るべきじゃないですか。しかも使われてるのは結構なサイズの刃物で……」

「ええ、()()()周知されてないわ。報道以前に警察が捜査をしていなければならない様な事件ね。……日下部くんに契約を持ち掛けた悪魔側か、それとも日下部イネさんを襲撃した側かはわからないけれど、認識阻害その他諸々を掛けて秘匿ないし証拠隠滅を計っているのでしょう」

 

 自分から秘匿ってどういうこっちゃねん……と思わないでもないけど、まあそういうもんか? とは思った。使われた凶器に関しても、裏側の人間なら持っててもおかしくないサイズ感な気がしてきた。実際オカ研のイケメン殿が魔剣をぽこじゃか生み出せる神器持ってるしな。

 

「誰に襲撃されたかは……推測は立つけれど今回の問題の大筋からは逸れてしまうし、今は置いておくわ。ともかく、彼は祖母の命を救うための願いを何処かの悪魔にしたということでほぼ間違いないわね」

「まあ……世を儚んで死んだ、とかは無さげだったから色々ようやく腑に落ちましたけれど」

 

 で、1つまた疑問が生まれるわけですが……

 

「実際、死んだ人間を生き返らせる願いって可能なんですか?」

「ほぼ無理よ。まず死んだ本人を蘇らせようとした場合、魂が天国と地獄、あるいは現世を彷徨ってるかで難易度が変わるわ」

「まず天国なら……」

「不可能ね。地獄に送られた魂の場合でも管轄とかの問題で限りなく不可能に近い場合が多いわ。現世を彷徨う魂なら、探す手間あるけれど確保自体は難しくないかもしれないわね」

 

 もっとも、磨耗したり混ざったりして本人と呼べるモノかは分からないけれど。という補足説明にゾッとする。分かっちゃいたけどこの世は結構シビアな世界だ。

 

「で、運良く魂が確保できたとして、次にその魂が復活を希望するか否かでまた変わってくるわ。まあ、確保できるような魂が死んだままを良しとすることはほぼ無いでしょうから、ここはスルーね」

「ちなみに当人が拒否をすれば?」

「復活の成功率が9割程落ちるわ」

 

 1割は成功するんだ……と思ってしまった。今まで分の悪い賭けをし続けてきた弊害かもしれない。

 

「そしてここまで何の妨害もなく準備が整って、いざ復活の願いを叶えるところまで来たとしましょう。その時直面する問題が願いの代価よ」

「……ああ、ここが1番無理ゲーだったりします?」

「ええ。復活させたい人間の価値をそこそこ上回る人間を代価に捧げて何とか可能というレベルね。上回ってなければいけないのは、そこに至るまでの対価の分よ」

「他所から人間を攫ってきた場合は?」

「悪魔も表社会や天界勢力から不必要に目をつけられたくないから、攫ってきた他所の人間を生贄にというのは今は御法度。絶対に認めないでしょうね」

「当人が命を削るか、そもそも死ぬ位でようやっと成り立つと……うわぁ、クソゲー」

「死者復活の願いをクソゲー扱いするんじゃないの」

 

 でもじゃあ、素材を用意した場合はどうなるんだろう? とある錬金術漫画に出てきた水35L、炭素20kg、アンモニア4L、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、少量の15の元素……っていう有名な台詞がある。アレで実際にちゃんとした人間ができるかはともかく、ちゃんと配合とか揃えたらいけなくは無さそうだ。

 

「まず前提として、悪魔側に錬金術と人体について知識、もしくは下僕か協力者に錬金術士が必要になるわね」

「お、なんかいけそうな予感」

「その上で、確保してる魂から読み取れる情報だけで、寸分の違いもない肉体を錬成して、降霊術を行えば成功するでしょうね。もし例え0.001%でも狂いがあれば魂は消滅するわ」

「コッチもクソゲーだったか……」

「できる悪魔がいないわけではないから、さっきよりは見込みはあるわ。その悪魔は地獄でも上澄み中の上澄みにいるだけで」

「つまり基本的に契約を取りに行く下級中級悪魔では無理と」

 

 じゃあ神器ならどうだろう? と言いかけてやめた。多分そういう神器は無いか、神滅具にあるって話で終わりそうだ。

 

「じゃあ死体の現物があれば?」

「死んだ直後なら難しくないでしょうね。現に貴方がそういう復活の仕方をしたわ」

「あ、僕の転生の仕方も言われてみれば蘇生って言って差し支えなかったんだった」

 

 そう考えると、なんか僕ちゃん悪の救世主って感じしない? しないか、そうか……。こういうふざけた思考してる時につっこんでくれる相方がいなくて寂しい。

 

「というかよく淀みなく説明できますね。もしかしてよくある質問で纏められてたりします?」

「似たようなものよ、実際定番の願いに関しては質問されたら答えられるように下僕に対して説明しておかないといけないもの。…………貴方への教育が滞ってるのは素直に申し訳ないと思うのだけど」

 

 まあ僕はその分ラーメン屋で働いてるワケですからね……いずれちゃんとやるってことで。

 

「じゃあ話を戻しまして。今回のヤツのケースは、死体の現物があったケースにあたるんでしょうか? なんか代価として自分の身体売っぱらってるようにも見えるし」

「おそらくは否、難しくないと言っただけで簡単というわけではないもの。代価も自分の命を擲ってどうかというレベル。……こう言ってはなんだけれど、ごく一般的な高校生の彼の魂が残ってる時点でそれは無いと思うの」

「あまりいい気分はしませんが納得です」

 

 となると……どういうことなんでしょう? 死者蘇生というわけじゃないのならば……

 

「まだ息は残っていた……?」

「ということでしょうね。死の淵にいる人間を、ギリギリ現世に押し留めるだけなら下級悪魔でもできるでしょう。それが生きてる人間と命を共有させるという外法を用いたのなら余計に」

「成程成程……っていうか、命を共有させる外法???」

 

 なんぞそれ? となったが、詳細はともかくそれがヤツが霊体で彷徨ってる原因となったものだろう。命を共有する、かぁ。

 

「簡単に言うと、1つの身体に2つの魂が乗っかってる状態にしたということよ。厳密には違うけれどね。ともあれここで、貴方のラッキーパンチ(仮)の話に繋がってくるわ」

「……ああ! ヤツが食ってた食事は、ヤツと日下部イネさんが共有してる命、身体を維持する為に使われてるってことですか!」

「ええ、そこまでは間違いないわ。お手柄よイッセー」

 

 しっかし……また複雑なことになってやがンな……。回復させるにしてももうちょっとなんかやりようあるだろう。

 

「……多分この契約に乗り出した悪魔は性根のところはともかく、とても彼に対して親身になってると思われるわ。恐らく彼が差し出せる対価では、彼の祖母を復活させることは出来なかった。もしくは悪魔本人が彼の祖母を回復させることが出来なかった。だから半ば犯罪の様なことに手を出して、何か打てる手を探している、のだと思うわ。バレたら減給……程度ではすまない所業よ」

「危ない橋を渡ってでも、なんとかヤツの願いを叶えてやりたかった、ということですか」

「そして彼らは運のいいことに、どうにかできる私達を巻き込めたわ」

 

 あり? どうにかできるんですかこの状況、というか助ける流れですか? 僕の心情的にはすごぉくありがたい話ですけれど。

 

「ええ、せっかくですもの。他所の悪魔に恩を売るのも悪くないわ。…………とはいえ、」

 

 そこで区切って、部長は表情に影を落とす。何か問題があるのだろうか?

 

「そうね、貴方も心の準備ぐらいはしておかないといけないわ。時として、割り切ることも大事だということね」

「心の準備って、そんな大袈裟な……」

 

 嫌な予感がして、ついついおどけて返す。しかし部長はいつものように呆れて窘めるのではなく、痛ましいものを見るような視線を向けてきた。……なんか、本当に、まずいかもしれん。

 

「……まずは日下部くんに話をしましょう。その後で彼に訊ねないといけないわ」

 

 

 

 

「自分の存在を犠牲に、日下部イネさんを生き長らえさせることはできるのか、と」

 

 

 

 

 …………その後の記憶は、ちょっと無い。ただ、ガツンと頭を強く殴られた様な衝撃だけが、ジンジンと響いていた。

 




1巻部分でヤツを撃退しなかったから……
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