兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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「……なかなかどうして上手くいかない」

「ヒトの良さげな転生悪魔を巻き込むことはできたけど、そういう割り切り方をされるとな。気力振り絞って神器を稼働させてるのに割に合わなくなってしまう」

「かといって、グレモリー家のご令嬢を今更弾くわけにもいかない。可能性は少しでも高めるに越したことはないのだから」

「悩ましいものだ。私には、こうして時間を巻き直すことしかできない。それも無限というわけでもない。あと何回までなら耐えられるか」

「それでも、たとえそれでも次こそは。誰かにもう一度会いたいという願いを、私は決して見捨てない。見捨てられない」

「『時よ戻れ、あの頃の君よもう一度』」



その11

 

【ループ3→4】

 

「イッセー、目を覚まして、イッセー!」

「っ!?」

 

 急な大声で飛び跳ねるように起床。声からして部長だと思われるが、とまだ焦点の合ってない目を声の方向に向ける。

 

「何かありましたか、またループ?」

「ええ、でも今回は毛色が違うわ。イッセー、直前のことを思い出せる?」

「直前のことと言いますと……」

 

 真相解明、ヤツの名前は日下部景太。願いの大凡の形、死んだor死の淵にいる祖母、日下部イネさんの蘇生。現状、自分の命ないし身体を祖母と共有してヤツだけ幽霊っぽい何かになってる。ループ条件、ヤツかイネさんが死んだ時に巻き戻る。

 以上の事柄を共有した上で、部長の覚悟を問う言葉に頭をガツンと殴られたような衝撃と共に意識が……

 

「ええ。私がイッセーに酷なことを訊ねた辺りで、頭痛と共に意識が薄れていった。私の最後の記憶もそんな感じよ」

「おかしいっスね……今までは意識が渦みたいなものに呑み込まれる様な感覚で。それに」

 

 ここで僕らは自分の服装を見る。部長は駒王学園の制服。僕は寝間着で使ってる赤いジャージ。記憶の最後に着ていたソレで間違いないのだが、コレがおかしい。だって僕らの知る【月曜日】ならば、部長が僕を抱き枕にして寝てたはずなのだ。それも一糸まとわぬモザイク必須な有様で。

 

「…………無理矢理ループさせられた?」

「ええ。恐らくは釘を刺すためだと思うわ。直前の会話から推測するに」

「『日下部景太を殺すな』、ですか」

「ということでしょう。最ッ悪ね……一気に事の難易度が上がった気がするわ」

 

 頭を抱える部長に、そらそうもなるわなと思いつつ。僕は申し訳ないけれど、内心で心底ホッとしていた。だってそりゃそうだろう。自分が死ぬ覚悟を決めるのと他人を死なせる覚悟を決めさせるのでは話が違う。余程の下衆外道でも無い限り躊躇ってしまうし、なんかもう仲良くなってきたあの明るい幽霊を死なすのはこっちの心が死にかねん。ダブスタ乙ってヤツだ。いや違うか。

 

「でも最悪って程じゃないでしょう。そりゃ要求値がバカ程上がったってことにはなるし、部長への負担が増えたってことにはなりますけど」

「……問題はそこじゃないわ、悪魔のルールの問題よ」

「と言いますと」

「悪魔とは人間の願いを叶え、その後に魂を貰う存在。現代では魂のやり取りの代わりに物品等で肩代わりするのが主流になってはいるけれど、本来はそういう生物よ。それは勿論把握しているわよね?」

 

 それはもちろん。1番最初の座学で教わったことだし。悪魔は人間の欲を満たすが、必ずその欲に見合った代価は戴くし、嫌でも徴収せねばならない。そういう生物、そういうルールだ。

 

「それを踏まえた上で、先に話した通り死者復活の願いは恐ろしく難易度が高く、手間も掛かるのも覚えているわよね」

「はい。その分代価も凄まじくて、ヒト1人生贄に捧げて何とか…………」

 

 何とか…………あれ、ちょっと待て。願いが成立した瞬間、ヤツは死ぬ? 代価は他所から持って来れないし。

 

「ええ。仮にイネさんを何とか治療して、彼の身体を用意しても、契約が成立した瞬間に代償として命を持っていかれるでしょうね。そしてそうなると、このことに納得できない悪魔がループを起こす」

「待ってくださいよ、どうしようもなく詰んでるじゃないですか!?」

 

 一体コイツはどんな無理難題だ? まだかぐや姫の無茶振りの方が可能性がある気がしてくる。事の深刻さがようやく理解できてしまって、頭がクラクラしてきた。

 

「取れる道は2つ、1つは契約の不履行よ」

「願いを叶えるという前提を覆すってことですか……日下部の問題を第三者が解決して、願いそのものを無かったことにする」

「ええ。しかもそのことを誰にも話してはいけないわ。本来他の悪魔の契約に外から手を出すのは御法度もいいところ。よしんば許されても認知されたら通常の契約として処理しないといけなくなるわ。……私のツテを使えばもしかしたら、と思ったのだけれど、どうしてもお兄様にはバレてしまうでしょうね」

「……流石に、魔王様に目を瞑って貰うことはできませんよね」

 

 いくらあの方が妹に激甘だとしても、悪魔の存在意義を揺るがすような不祥事を見逃すワケにはいかないだろう。よしんば見逃したとしてもそのせいで責任取って辞職とかなりかねんし部長としても絶対サーゼクス様に頼む選択肢は取らないだろう。そしてそうなれば絶対に日下部は助からない、ループをされてしまうってことだ。

 

「もう1つは、件の悪魔にループを止めさせること。恐らく、殺そうとした時点でループされるだろうから、諦めるまで待ち続けるしかないわ」

「…………それ、は」

 

 それは、何一つ救われない結末、ということではないか。ヤツを犠牲にしてイネさんを救うよりも、よっぽど救いのない終わりじゃあないか。ここまでやってきて、それはあんまりな最期じゃないか。流石にそれは、

 

「貴方がそれを呑み込めないことは、短い付き合いの中でも分かるわ。そうじゃなかったら、今頃私はライザーと結婚していたでしょうしね」

「……ええ、そんな惨いことは」

「だから、貴方がこれからも僅かな可能性に賭けて彼を救おうとすると言うのなら、私は止めはしない。なんならループの条件に抵触しない範囲で協力だって惜しまないわ」

「部長……」

「けれど、けれども。忘れないで頂戴、兵藤一誠。貴方が諦めないせいで自分を壊すようなことになれば、私は貴方を無理矢理にでも止めるわ。日下部くん達のことは気の毒だとは思うけれど、それはイッセーや眷属達より優先することじゃないもの。もうあんな思いはたくさんなのよ」

 

 …………相当に譲歩をされてる、と感じた。多分、ここ最近の僕が精神的に弱ってることも分かってて、本当なら何がなんでもここで止めてしまいたいと思ってる筈だ。じゃなければ、僕の目を覗き込む青い双眸が、こんなに潤んで揺れてる筈がないんだ。

 それでも、協力を惜しまないと言ってくれた。どれだけありがたいことか。

 

「…………ありがとうございます、部長」

 

 僕には、蚊の鳴くような声で感謝の言葉を絞り出すのが精一杯だった。

 

 

◆◆◆

 

 

 どうすればいい、どうすればいい? もう学校に行く時間なのにベッドの上で布団にくるまって、延々と思考し続けてる。ループに気がついたっぽい馬鹿共のメッセージもスルーして、ただただ心が鬱屈するような作業に没頭してる。

 割ともう現状が詰み切ってるのは部長との話で分かっている。それでも何かできることは無いかと、頭の中がぐるぐるしてる。色々考えても、日下部だけが助からない方法しか思いつかない。本当にダメなんだ、どうすることもできない。

 

 ……なんだか凄くムカついてきた。このループの下手人であろう悪魔は、ループはするクセにそれ以外のことは全部丸投げだ。本当にふざけてる。なんで僕や友人や部長が巻き込まれにゃならんのだ。ある意味でこの悪魔の我儘に日下部も巻き込まれてるワケだしアイツも被害者だ。

 

 日頃の行いが良いとはお世辞にも言えん。馬鹿共はどエロ小僧で成人雑誌を学校に持ち込むような馬鹿だし、僕も部長も大手を振って日の下を歩けない神に背を向けた生物だ。それにしたってこんな、心を殺すようなことに巻き込まれて良いはずがない。ああクソ、イライラする!!

 

「……落ち着け兵藤一誠。今足りないものは何だ?」

 

 怒りで少しはマシになりはした。が、代わりに逸る気持ちを宥める為に、自分に言い聞かせるように独り言を口にする。

 

「知識が足りない」

「伝が足りない」

「力が足りない」

「全貌が見えない」

「意図が分からない」

 

 幾つか口に出す。確かに足りないもので、重要な要素だ。……だが、今一つしっくり来ない。もっとその前に、必要な物があるはずだ。

 

 前提として、それらを借り受けることはできる。部長も力にはなってくれると言ってくれたし、保留にしてる魔王様からのお礼の件もあるしね。でもそうできる前提に僕らは居ない。何故なら、悪魔のルールを破る行動だからだ。人間から徴収されるべき対価を無かったことにしようとしてるのだから。ということは、何より足りてない物は……

 

「『大義名分』だ」

 

 そうだ、大手を振って行動する為の大義名分が僕には無いのだ。そしてそれを得るには何が必要か。つまり悪魔の仕事だ。

 悪魔の仕事は、人間の欲を満たすこと。誰かが願えば、悪魔はその願いを叶える為に全力を尽くせる。持てる繋がりを行使できる。誰かの願いとぶつかることがあるかもしれないが、それはそれ。僕自身の領分で悪魔のルールを破らない範疇ならば、あの魔王様のお礼も躊躇なく使えるってモンだ。

 

 今、日下部景太を助けたいと願う人間がいるとするならば、ソイツは、ソイツらは…………

 

「…………もう、友達ではいられないかもしれない、か」

 

 だが、これなら覚悟は決められる。決められた。誰かが損なう様子をまざまざと見せられるよりも、自分が削れる方が幾らかマシだ。自分の大事なところが削られずに済むならば、僕は。

 

「……よっしゃ。腹ァ決まった」

 

 僕は放置していたスマホを手に、震える手でメッセージを打った。

 

『大事な話がある、学校サボれるか?』

 

 さあ、前提をひっくり返しに行こう。

 

 

◆◆◆

 

 

「……てなワケで、僕は悪魔なんだよ」

 

 バサッと翼を拡げ、なるべく目の前の2人を刺激しないように、柔らかな笑顔を心掛けて、軽い調子でそう告げた。

 場所は例の公園、何かといつも大事な話はここでしてるからか、無意識にここに来るようにメッセージを飛ばしていた。

 

「「…………」」

 

 眼前の2人……松田と元浜は、空いた口が塞がらないようで、呆然と悪魔(ぼく)を、その証である黒い翼を見ていた。

 

「……手の込んだイタズラ、じゃないよな。流石に」

「そりゃあね」

「…ホンモノなのか、これ」

「あんま触らんでくれ、くすぐったいんだそれ」

 

 ちょっとした硬直が解けた後、おっかなびっくりといった様子で、僕に真偽のほどを確認する。…………やはりと言うべきか、少し怯えのようなモノが見て取れる。覚悟はしてきたが、ちょっとツラいものがある。

 

「…………いつからだ?」

「えっ?」

 

 なすがままにされてると、松田から急にそんなことを訊ねられた。想定してない質問だったから、上擦った声が口から飛び出た。

 

「当ててやろう、5月ぐらいだな?」

「いやだから何が……」

 

 今度は元浜から、よく分からないけど何かを推測された。いやだから何さ?

 

「いつから悪魔になったんだ、って話だ」

「んで、多分それは5月ぐらいからだろ? ってことだ」

「いやまぁ、確かにそのぐらいだけど」

「「やっぱりな……」」

 

 やっと意図が見えて、そして納得した。2人が結構目敏いのはつい先日のことから想像ができた。付き合いもそれなりだ、僕の変化は見て取るように分かっていたんだろう。

 

「なんかおかしいな、とは思ってたんだ。趣味に合わないことばっかしてやがるなってよ。前のイッセーなら死んでもキラキラ人種ばっかりのオカルト研究部なんか入らなかっただろ、あの手この手尽くして」

「お前だって人間だ。……いや人間じゃなかったけど、その時はそう思っていたから、調子の悪い時期だってあるのかもしれない、と思っていた。だが、それも長く続けば怪しみもする」

「だから色々腑に落ちたんだよ、この間の腕のことも合わせて」

「相当気を病んでたんだな、イッセー」

「病んでるなんて、そんな…………いや否定はできねぇな」

 

 まあたしかに。相当ハートは軋んでたと思う。部長のお陰で緩和はしたけれど、ずっとしこりを抱えて生活してたことは否めない。間違いなく、心が病んでいただろう。

 

「まあタネが分かればなんてこたぁない。やることも変わらねぇってこった」

「腫れ物扱うみたいで張り合いも無かったし、何より気色悪かったからな」

「……まあ、うん。対応が変わらないのは願ったり叶ったりだけど、もうちょっとこう、なんかないの?」

 

 気のいいヤツらだ、僕が悪魔であることを打ち明けてもそう変なことをされるとは思ってなかったけれど。でもあっけらかんとした様子には、逆に面食らってしまうというもので。

 

「「いやだってお前元から相当悪魔だったろ」」

「言い方ァ!! もう、ちょっと、こう……手心を、さ……」

 

 ……まるで、そんなことは関係ないと言わんばかりにそんなことを言われて、堪えようと思った涙が、溢れて止まらない。気安く返そうと思っても、どうしても言葉が詰まって、うまく話せない。

 

「お前ら、お前らホント、さァ……! なんで、なんで…………! ちくしょう、なんで僕は泣かされてんだよ、ちくしょう……!」

 

 涙で潤んで、視界が見えない。けれど多分、2人は『仕方ないヤツだな』って笑って、それで黙っていた。それが何よりも……僕にとっては、何よりも嬉しかった。

 

 

◆◆◆

 

 

「……で? 本題そこじゃねぇだろ」

 

 泣き止んで、何とか僕のメンタルが持ち直したところで、松田が切り出してきた。そうだ、本題はこんなお涙頂戴案件なんかでは無いんだ。

 

「かくかくしかじかで、まあとりあえず僕が大手を振ってアイツを助けようと思ったら、大義名分が必要なんだよ。横紙破りにも作法があるって話だ」

「悪魔との契約か……厄介な話だな」

 

 実際に非日常に身を置いてしまったからか、元浜の呟きは非常に重い実態感を伴って響く。気持ちはマジですげぇ分かる。今からでも僕の人生修正できない? ダメ? ダメかぁ〜……。

 

「でもよ、それって俺らに何か関係あるのか? もう人間の範疇じゃどうしようもないところまで来てるだろこの件」

「うん、だからお前らに事件解決の為に何かしてもらうってことはない。危険だしね。お願いしたいのは、僕の背中を押してもらうこと、だ」

「それと大義名分の何が関係が……」

 

 まあ、分からないだろう。悪魔な僕ならともかく、人間の2人じゃね。

 

「本当なら、僕の根底を揺るがすような秘密、悪魔である事実を押し付けて、それを対価として成立させるつもりだった。けれど多分、それはさっきを以て無価値なモノになった。じゃあ別のものが必要だ」

「…………いやいや、おい。まさか」

 

 

 

 

()()()()()、日下部景太を助けてくれと願ってくれ。その願いの対価に、僕への変わらぬ友情を」

「僕の生命にも勝るその対価を以て、僕はこの事件を全て終わらせる」

 

 

 

 




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