兵藤一誠は『異常な普通』です   作:FGMe/あかいひと

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感想がとても嬉しい、ありがとうございます。
あともう少しで間章終わります。


その12

 というわけで、僕は大義名分を手に入れた。正式に、悪魔の取引として2人の願いを叶えることとなった。どんな手でも使えるってワケで。

 

「というわけでライザー氏、絶対アンタんトコの領地に九頭龍亭の店舗絶対作るから、フェニックスの涙を融通してくれないッスかね?」

『いきなり無茶苦茶言いやがるなこの下級悪魔』

 

 僕の知る限り、最強のヒールアイテムと言えばフェニックスの涙だ。その販売元はご存知ライザー氏の実家、フェニックス家である。

 金は無いけど取引の材料はあるし、頼まにゃ損損ってことで早速通話をしたらこのザマである。そりゃそうか。

 

『第一リアスの所の僧侶が回復系の神器を持ってただろう。確か『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』だったか? 大概の怪我はそれで治るのにフェニックスの涙が欲しい理由はなんだ?』

「大概の怪我じゃないからですよ。ご老人が刃物でバッサリ斬られて意識不明の重体。アーシアの神器は傷は治せても生命力まで補填する効果は無いし、それならフェニックスの涙の方が確実かなって」

『だからって俺に頼むのは厚顔無恥にも程がないか?』

「まあ通れば儲けもんってだけで流石に無理かなとは思ってますが」

 

 アハハー! と笑ってやれば、呆れたような溜息が電話口から漏れてきた。そんなマリアナ海溝よりも深い息を漏らすことないでしょうに、失礼しちゃうぜ。

 

『お前、いつもそうなのか……?』

「いつもって何が」

『そりゃあ、その…………いや、何でもねぇ。聞くと頭が痛くなりそうだ。ともかく、流石にそれだけの交渉材料でくれてやれる程安いもんじゃないぞ』

「デスヨネー。まあ本当に言ってみただけです。お忙しいところ、本当にありがとうございます。それでは」

『待て待て待て。流石に詳しいことが気になり過ぎるからちゃんと説明はしろ。電話に出てやったんだからそのぐらいはしてもいいだろ』

「ンまあ、いいですけど」

 

 大っぴらには話せない内容ではあるが、もう隠さなくても良くなったのでループのことはぼかしつつ事件のあらましを伝える。

 

『……その、なんだ。行動力と決断力のある馬鹿程怖いものはないな』

「死ぬ程疲れたような声出さないでくださいよ、僕が何したって言うんですか」

『いやお前俺を殺しただろうが。どうせ似たような覚悟の決め方してこんな無法なことやったんだろう? 正気じゃない』

「悪魔に転生した時から正気なんか無いも同然なんでね!」

『威張るなボケカス』

 

 これ以上なく罵倒されてるぅ……いやまあ残当か? こうまで言われることじゃねぇとも思わないでもないケド。

 

『……あんまり聞きたくないが、俺から貰えない場合はどう考えていた?』

「部長にお金借りて買うつもりでした。多分あのヒト僕を縛るためなら喜んで貸してくれると思うんで」

『倫理観何処に置いてきたんだよ。ヒト様のことをとやかく言いたくはないが、爛れ過ぎた関係はそれはそれで問題だぞ』

「えへへ」

『なあ、笑う要素あったか???』

 

 無いけど。でもこういう反応しといた方が、考えるの面倒臭くなって貰える確率上がらないかな〜、とは思ったが。あらヤダイッセー君たら腹黒〜。元から? そうですか……。

 

『というかそもそも、その内容ならフェニックスの涙だけあったところで解決しないだろう。そこは何かアテがあるのか?』

「ええ。錬金術か何かを勉強するか、最悪凄腕の錬金術師を探してお願いするか、とかその程度ですが」

 

 あとはまあ、魔王様からのお礼も使えるし。ライザー氏は当事者だからそのことについてはちょっと言えないけど。

 ともあれこうなると一気に視界が拓けて、無理ゲー感も薄くなったというものだ。無理を押し通すにしてもやりようはあるからね。

 

『…………条件がある』

「九頭龍亭の件ですか?」

『違う。そんなもの、今のお前がパイプを持ってる相手が限られてる以上、冥界で何かするならどうせ俺の方に話が来る。どうせ待ってるだけでも成立するのにそれを対価として受け取るには割に合わん。お前もそう考えていたからダメ元として聞いてみただけ、だろう?』

「ええ。現状僕には何の価値もありませんならね」

『だが、俺はお前の将来性に関しては、買うに値すると思っている』

「将来性ェ?」

 

 そんなもの、クソ凡人の僕の何処にあるってんだい。

 

『イッセー。お前はどういう悪魔がこの冥界で出世すると思う?』

「ん? そりゃあ、べらぼうに強いとか、政治力に長けてるとかじゃないんですか?」

『そんなもの手段の1つでしかない。過程の話ではなく、本質的な要素だ』

「は、はぁ……?」

 

 話が見えないので、先を促すように相槌を打つ。すると顔も見えていないのに悪い顔をしてるような、そんな喜悦に満ちた声音が耳に入り込んできた。

 

『他者の心、欲を掌握できるヤツが、この世界では成り上がるんだよ。強さも、政治力もその手段の1つでしかない。『コイツは、俺の欲を満たしてくれる』と感じさせるヤツが、冥界の上の方で犇めきあってるんだ』

「………………」

『その相手が悪魔だろうと人間だろうと、他の何であろうと関係ない。何となく話が見えてきたか?』

「いや……僕は、そんな」

『惚けるなよ。それとも()()もそういう才能か? ともあれ、お前には『コイツならやってくれる』と感じさせる何かがある。でなければ、あの紅髪の滅殺姫がお前に特別入れ込むことは無かっただろうし、あの魔王がお前に便宜を図ることも無かった。それにレイヴェルも……おっと、今のは聞かなかったことにしてくれ』

「いやワザとだろソレェ!? さらっと爆弾落としてるんじゃないよ種まきクソ焼き鳥!!」

『ハッハッハ! ともかく、なんだかんだあの時のお前の覚悟を見たヤツらは、大なり小なりお前に目を焼かれてるんだ。良いことじゃあないか、お前は悪魔として必ず大成する。俺にはその確信がある』

 

 なんか背筋が冷えてくる。おかしい、僕はダメ元でライザー氏に通話しただけなのに、恐ろしい事実を聞かされてる気分になってくる。否定しようにも、陳列された事実がそれを許してくれない。

 

『取引だ、兵藤一誠。俺はお前の将来性をかって、フェニックスの涙をくれてやる。その代わりに……そうだな、100年以内に必ず上級悪魔になれ。必ず、コレに釣り合う甘い汁を俺に吸わせるんだ。この約定を違えることは絶対に許さないからな』

「う、うぇぇぇ…………」

 

 やっぱりコイツも立派な悪魔だ、そう強く感じた。

 

 

◆◆◆

 

 

 …………目的のブツは直ぐに届いた。メッセージアプリで送られてきた画像が、フェニックス家の魔方陣。それが魔力を帯びて光り出したと思ったらポンっと小さなガラス瓶が飛び出してきた。……便利そうな小技だな、僕もできるようになるだろうか?

 

『やめておけ相棒、詳しくはないが相当繊細な魔力操作が要求されるぞ。基本大雑把な貴様では無理だろうな』

「何事も挑戦でしょ挑戦ンンンンンンンン???」

 

 聞こえるはずもない声。僕を絶望の淵に何度も叩き込んだ厄ネタの親玉、赤龍帝ドライグの声が左腕から聴こえてきた。

 

「いやいやいや、なんか早くね? 早いよね? 1週間って言ってなかったかお前」

『想像以上に貴様の基礎スペックが低かった故、作業も比較的早く終わっただけだ。あとは、何か嬉しいことでもあったみたいじゃあないか、相棒?』

「うっ……そうか、神器は保持者の感情で力を発揮するから……」

 

 心当たりがあり過ぎる。ついさっきボロ泣きする程嬉しいことがあったばかりだ。そりゃあ神器クンも成長するってか? アッハッハッハッハッ……筒抜けじゃねぇか!!! クソ、厭らしく笑ってるだろう相棒がいつも以上に憎らしい!!

 

『……それにしても、お前は放っておくとすぐ厄介な話に巻き込まれるのだな。ドラゴンの性質と言ってしまえばそれまでだが、歴代でも中々例を見ないペースだぞコレは』

「それ僕悪くないよね……。それに、まあ。女や敵も寄ってくるとか言われてたのからしたら、まだマシかもしれん。こちとらクソ童貞よ? 憤死しちゃう」

『…………おう、そうだな』

 

 言いたいことがあるなら聞くぞコラー。さっきも聞こえちゃいけなかった爆弾発言聞いたような気がするしなー。

 

「それに僕はあのヒト以外とどうこうなったら自分を許せないし、当のあのヒトも許さないでしょ。なのでこの話は終了。で、さっきも言った通り僕の出した案通りにできた感じ?」

『ああ、ある程度の雛形だけだがな。完全に完成させるには足りないものが多過ぎる。お前自身の力もそうだが、それぞれのモチーフ……大罪の器とでもしておこうか。それに詰める何かもだ。お陰で貴様から受け取った『骨』も、半分程度しか使っていない』

「マジで? エコでいいじゃん」

 

 そう言って笑うと、遅れてドライグも笑い出す。な、なんだよう。ちょっと不気味だぞお前。

 

『お前の何処が環境にやさしいものか。まさかとは思ったが、貴様は俺や貴様自身が思う以上に、()()であったようだぞ?』

「強欲って…………それってまさか!?」

 

 言い方に思うところはあれど、でもそれどころじゃない。強欲の部分を強調して言ったのならば、それつまり!

 

『ああ、貴様の強欲の器は既に満たされた様だ。喜べ相棒、間違いなくその手にはお前の好きな可能性とやらが握られてるぞ』

 

 これは喜ばずにはいられない。さっきの話を聞いたあとだと魔王様のお礼券を使うの躊躇ってたところなんだわ! 使う時は使うけど。

 

『とはいえ、先に練習はしておくことだな。ぶっつけ本番が上手くいく試しは殆どない。気の遠くなるような修練は、得意だろう?』

「もっちろん!」

 

 いやはや、どうにも僕は神様には見捨てられてても悪魔やドラゴンには見捨てられてなかったらしい。まあ、それがいいことか悪いことかは置いといてね?

 

 

◆◆◆

 

 

『まずは、実物の仕上がりを見た方がいいな。名前はどうする?』

「え、だから『ナインヘッズ・パラレ───」

『ダサい。いやそちらでは無い』

 

 ダ、ダサいって言った!! 結構気にしてるんだぞコッチは!!

 

『この改造は禁手(バランス・ブレイカー)ではない。その情報を流用はしているが、本質は全くの別物。あちらが世の理を捻じ曲げて起こる現象なのに対して、こちらはお前の性能に合わせただけの……まあ、神器の機能の延長線にあるものだ。禁手、としておくには名前負けが過ぎる』

「大事なのかそれ」

『名前には力が籠るものだ。その手の知識は頭にあるのだろう?』

 

 むむむ、それは確かに。名は体を表すともよく言われるよね。

 

『戦術的にはハッタリにも使えそうだろうな。禁手とも違う何かを使われたと感じたら、良からぬ想像もされよう。俺の趣味には合わないが、相棒はそういうのが好みだろう』

「分かってんじゃん。…………いや、悪いね。姑息なの嫌いだろ、多分」

『もう諦めた……というのは違うか。お前が自分の尊厳を投げ捨て、その様な手段に出るのならば苦言を呈しただろう。しかし、お前はお前のプライドを守るためにそういう手段に打って出るのだろう? ならば俺が口を出していいことではない。竜の傲慢さにケチを付けるのは、逆鱗を逆撫でするのと同義だ。肝に銘じておけ』

「…………うん」

 

 コイツが、僕を認めたことは何となく分かってる。じゃなきゃ僕を延命させようとは思わなかっただろう。……二天龍とかいうドラゴンの頂点みたいなヤツから、お前もドラゴンだと認めて貰えるのは、少しクるものがある。嬉しいとも違うけど、良い気分なのは確かだ。

 

「じゃあ今、ソレっぽく名前を考えた。『最善手(インヴェンション)』というのはどうかな?」

『Invention……発明品? いや違うな、捏造か』

「そ。その場しのぎのでっち上げ、今できるぽっと出の最善手。『赤龍帝の籠手』を僕に合わせた故の急造品って感じ」

『お前にしては悪くないセンスだ』

「でしょ?」

 

 んでまぁ、その『最善手を打つ』ことを『最適化(インベント)』とでもしておきゃいいだろ。

 

『ではお披露目といこう。籠手を構えて唱えるがいい』

「おっけー。……すー、はー」

 

 息を整え、久しぶりに左腕に『決殺の手』を装備する。普通に唱えてもいけるんだろうけど、折角だから神器を発現させた時と状況を揃えてみよう。

 ……今、僕が想像できる最強の物。もう流石に、あの腐れ堕天使のことを最強だとは思えないので別の物。…………最強、とはちっと違うけれども。ライザー氏と相打ちに持ち込めた自分は、想像がしやすい。コレでいこう。

 ……『何があろうと、絶対に』、『僕と一緒に、死んでくれよ』。よし!

 

「『最適化(インベント)』」

『Promotion:Powered Frame!!』

 

 神器が叫んだと思ったら、腐るように、溶融するように爛れ落ち、消えた。けれど感覚的に分かる……今、自分の中にナニカがある。でも、なんというか、説明し難いんだけど……元あった物が熱を持ってるような……?

 

『意外と感覚が鋭いな。確かにちょっとした外法を使った故、その弊害だろう』

「…………待って、嫌な予感がする。というか警鐘も凄くガンガン鳴ってる」

 

 さっき神器はなんて叫んだ? プロモーション、パワードフレーム…………プロモーション、『昇格(プロモーション)』?

 

『察しがいいじゃあないか相棒。体内にあるお前を悪魔足らしめるピース。悪魔の駒をそれぞれ改造し、それぞれの大罪の器兼装甲板となるようにした。お前はこれで、これから先普通のプロモーションは使えなくなるだろうな』

「サラッと重大発表するなよ!?」

 

 え、え? 普通の僕が普通の悪魔から外れた存在になってる? 何それアイデンティティクライシス? というか部長にも怒られそうな案件だしどうしたら……???

 

『単純にお前の性能が足りなかったのだ。であれば、あるところから引っ張り出す他あるまい?』

「……もしやお前、骨全部使い切らなかったのは悪魔の駒を素材にしたからだな?」

『そういうことだ』

 

 ムカつく! コイツ絶対ドヤ顔してるだろ!! …………いや、僕も無茶な注文したから仕方ないっちゃ仕方ないんだが。でももうちょっとこう、なんかあるだろ、なぁ!?

 

『だが、その分性能は申し分ないだろう。普通にプロモーションを使うよりは強いだろうことは保証する』

「そこァ疑っちゃいねぇよ。なんせ最強のドラゴンと悪魔の結び付きなんて弱くなる要素がないんだから。なんなら僕本体が足枷まである。なはは」

 

 ともあれ、僕の中の変化の理由が分かったし、正体も分かったのでそれを取り出すように念じてみる。

 すると目の前に、まるで絵の具が白地のキャンパスに滲み出るように、ソレは現れた。赤く、黒い、まるで血が酸化した様なおぞましい色をした、薄い板だった。

 

「……これ、僕の中の悪魔の駒そのもの?」

『ソレを出すことも出来なくはないが、全ての装甲板を破壊された時お前は死ぬぞ。今取り出したのは、改造した駒から装甲板の機能だけを取り出した分体のようなものだ』

「へぇ……」

 

 とりあえず、出現させた板を操作してみる。飛ばす、落とす、浮かせて固定、その上に乗る、乗った上で移動、落下。流石に無茶があった。

 

「思いの外自由が効くね……これは凄い、色々悪いことができそう」

『喜んでるところ悪いが、まだまだ機能はあるぞ。それに、相棒に今必要な機能はそれではあるまい』

「まあね。でも時間は腐るほどあるから、悪い意味で」

 

 では籠手の本来の機能、倍加を試す。いつものように『Boost!!』の掛け声と共に僕の全身に力が漲る。ついでに装甲板が、赤熱したように赤くなった。明らかに倍加してますよ、という見た目は騙すのには向かないけど分かりやすくていい。ついでに部分倍加や譲渡も試してみるが、問題ない。以前と同じような感覚で倍加を使える。

 

『今のお前では身体が持たないが、複数の装甲板を出せばその回数の倍加なら一瞬で行うことができる。2枚なら2回分、つまり4倍。3枚なら3回分、つまり8倍』

「……装甲板は9枚で間違いない? だったら最大で512倍の、」

 

 使えると思ったらすぐさまやってみたくなるというのがヒトの性。念じて直ぐに装甲板を4枚表出させ、その辺の石に向かって倍加と譲渡を敢行。

 

「よっし譲渡」『あっおい馬鹿!』

『Ignition Boost!!』

『Transfer!!』

 

 前とは違って、自分の中に倍加を溜めずともそのまま倍加を譲渡できてしまい、そしてそれはそのまま路傍の石にヒットして…………『ッパァン!』というちょっとしてはいけない音と同時に塵もなく消えた。

 

「すんげぇ、コレ上手く使えたら相手破裂させられるよ」

『大馬鹿野郎か貴様は! 一歩間違えたらお前が汚い肉袋になってたのだぞ!』

「ごめん、つい。やるなよと言われたようなもんだからついやっちゃった☆」

 

 まあいけるという感覚があったから試したワケだが。倍加の機能というか何かが外側にあるから、多分自分を経由しなくてもいけそうな気がしたんだよね。あと一応今の僕が4回の倍加までなら耐えられるからそこも考慮はしてるよ、うん。

 

「で、あとは装甲板を装甲そのものにする機能、と」

 

 出した4枚の装甲板を、右腕、左腕、右脚、左脚にそれぞれ纏わせるイメージで、貼り付ける。すると装甲板ば溶けるようにそれぞれに纏わりつき……『決殺の手』と似た意匠の籠手や脛あてに変化した。

 

「これは9枚使えばフルプレートメイルになるの?」

『ああ、そのはずだ。ちなみに重さは感じるか? 装備者には重さが掛からない様になっているのだが』

「……ほんとだ、全然重さを感じない。動きやすいね、これ!」

 

 いつもと同じ感覚で、パンチにキックができる。走ってもガシャガシャするだけで負担にならない。すごい、使いやすい!

 

「それと、装甲板の重ねがけ……」

 

 今度は右腕以外の3か所から装甲を外し、右腕だけに4枚の装甲板を集中させる。すると、流石に4倍の厚みが出るわけじゃないが、よりゴツく刺々しい意匠の装甲に進化した。

 

『練度とイメージ力が上がれば、武器腕の様なことも可能だろう。今はより頑丈にするだけで精一杯だが』

「コレでも十分だよ。殴るだけで鈍器として通用しそうだし。…………さて、」

 

 そして僕は装甲板を1枚を残して消し、残った1枚を手に取った。

 

「本題だ。既に強欲の能力ができてる。だよね?」

『いや違う。強欲に因んだ力を発現させる準備ができているだけだ。コレをお前がどういう風に形作るかは知らないが』

「そう、良かった。今なら望んだように力を組み替えられるワケだ」

『だが、本当にいいのか? 貴重な枠を、たかがニンゲン1人を救うために使うのは』

「……まあ、大きな視点で見れば。本当に勿体ないことをしてるとは思うんだけどね」

 

 思うんだけど、そうしないと僕が死ぬのだ。身体じゃなくて心が。

 

「僕さぁ、今まで自分の為に誰かを手伝ったり、助けたりしてきたよね。それは、自分に対して胸を張れる様になった今でも変わらないと思うんだ」

『ふむ』

「…………僕さ、誰かの普通(あたりまえ)が損なわれるのが、相当キツいみたいなの。見てられない。これがぶっ殺されても文句言えない様なヤツなら全然平気なんだけど。他人の普通(あたりまえ)を奪うようなヤツは特に」

『…………』

 

 日常とは、当たり前とは僕個人で完結するものじゃあない。周りもそんな穏やかな平穏にあって、初めて『あたりまえ』だ。少なくとも、僕はそう考えている。

 

「自分の中身を増やすために、というのも嘘じゃあなかったけどさ。僕が周りを手伝ったり助けたりすることでそうしようとしたのは、そもそもそうしたかったからなんだよ、多分ね。自分のことなのに、ちょっとよく分からないよね」

『それは、お前自身を削ってでもそうしたいことなのか?』

「うん。自分が削れるより、平穏な風景が損なわれる方が嫌だ。非日常(あくむ)の中で、僕は生きていたくない」

 

 …………本当は、無理だって分かってる。僕自身が頑張ったところでどうにもならないことはあるし、そもそも僕自身が非日常の権化みたいな生物に生まれ変わってしまった。……アレからずっと、僕は息が詰まるような悪夢の中で生き続けてる。

 

「だから、さ。僕の思う日常の象徴みたいな2人にさ、変わらず接してもらえて、僕は凄く嬉しかった。でも、そんな2人も今、ループなんていう非日常に叩き落とされてる。こんな悪夢は、僕は絶対に許せない、許しちゃいけない、生きていけない。だから、僕はやるよ。どんな愚行でも、生きるためなら許されるんだ。カルネアデスの板が許される世の中なんだ、それと較べたら悪夢を多少愉快にするぐらい、幾分マシな理由だろう?」

『…………ああ、ならば止めはしない。兵藤一誠、我が相棒よ。その欲の赴くままに、力を欲するがいい』

 

 そうして僕は、強く、強く。ある力を念じたのだった。




ファンキー・ナイトメア・ウォーカーズ
愉快な悪夢を歩む者たち
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