決着編
【月曜日(ループ9)】
あれからのこと。ループの件はあっさりライザー氏にバレた。僕が話してしまったせいであのヒトもループに巻き込まれてしまったっていう。
『お前ホント……頭のネジが3本ぐらい飛んでるんじゃないのか?』
と罵倒されたのが遠い昔に思える。
……ループをここまで重ねてしまったのは、僕の『強欲』を使いこなすため。使い方は単純だったのだが、条件や仕様、出来ることと出来ないことを調べるのに非常に時間が掛かってしまった。そのせいで僕の左腕が無くなったり、僕が死んでループするということも起きたりで少し大変だった。部長には内緒である、言ったら拉致監禁されかねん。…………バレてないよね? なんか日に日におっかない笑顔が上手くなってる様な気がするけどバレてないよね?
ま、まあそんな修行パートのことなんてどうでもいいんだ。重要なのはヤツの身体を何とかする方法と、その材料が手の中にあるという事実だけ。
「しっかしお前、本当にファンタジーの住人になっちまったんだな……」
「あの左腕も進化してるし……少し羨ましい」
「あんまそういうこと言うもんじゃねぇぞー。死なれたら誰が約束守ってくれんだよ」
まあ雑談の話題程度に羨ましがられるのはいっか、となった放課後の屋上。2人にはとりあえず今日で片をつける話をしたので、最終報告という形だ。
「で、ここ最近僕はヤツに会ってないけれど、様子はどうよ?」
「名前を教えても特に記憶が戻りそうな気配はなかったな。しっくりは来てたみたいだけどよ」
「それよりはお前がコソコソと何かしてることを不安がってたぞ。死にそうになってないか? だとさ」
「うーん的確」
アイツも自分の死以外でループしてなんかやってんな? とは思ったんだろう。そりゃすまんかったって話だ。
「これで、何事もなく終わってくれるといいけどなぁ。流石に月曜日に飽きてきたぜ」
「3限の数Ⅱ小テスト、もう満点しか取れてない……」
「あー、2人とも満点取っててびっくりされてたねぇ」
「逆になんでお前は取れないんだよ、毎回ピッタリ平均点じゃねぇか」
「アレだけ執拗にやっててそれなら、逆にすごいまである」
「なんでなんだろうねぇ……僕も流石に見飽きたなーと思ってもなーんかケアレスミスしてんの。最早呪いだって、なはは」
「「笑い事じゃないと思う」」
なんて言って真面目な顔して黙り込んでも、誰からともなく吹き出して笑うんだから世話がない。やはり男子高校生、箸が転がるだけで笑えるオトシゴロなのだ。
「……なぁ、イッセー。解決した俺達はどうなるんだ?」
落ち着いたところで、松田が神妙な顔をして僕に訊ねてきた。………おそらくは、全てが解決した後の、2人の記憶の話だ。
「……わかんない。ループの条件は読めたけど、どんな方法でループさせてるかは分からないから。事件の解決自体には必要な情報じゃないから気にしなかったけど」
「じゃあ、もしかしたら『今の』俺達がイッセーに話すのは、最後かもしれないんだな」
「うん……」
そうとは決まってないけれど、流石に終わりが見えるとしんみりもしてくる。特に僕達は、ちょっと洒落にならない秘密を共有したばかりだ。今の2人、あともしかしたら今の僕もいなくなってしまうかもしれない。ヘタな今生の別れよりもクるものがある。
「ま、だからって足踏みするのも違ぇって話だ、ダチ公」
「忘れてたら、ちゃんとまた説明しろよ。引き続き病まれても困るからな」
「……ああ、約束する。ちゃんと、皆で『明日』を迎えよう」
3人で、拳をぶつけ合う。儀式、と言うには軽いものだけど、こういうものでいいのだ。
また背中を押して貰った僕は、2人を背に屋上を後にしようとする。でも、やっぱりほんの少し名残惜しくなって1度振り返って、言った。
「2人とも、『明日』の僕をよろしく!」
「「おうとも、頑張れよイッセー!」」
◆◆◆
「よっ、おひさー」
『……来たのか、お前』
2人を通じてそれとなく伝言していたからか、誰もいないはずの社交場に1人、幽霊がいた。名を日下部景太、厄介な悪魔に目をつけられた悲しき人間である、と。
時刻は22時。流石にみんなが寝てる、という訳ではないが、そろそろ明日との境界線が見えてくる頃だ、人の気配も無く街灯の光がただただ暗い橋の下を……いや、僕らの足元を少しだけ照らしている。
『……なんか、無茶苦茶やってたらしいじゃねぇか』
「まあね、ループ重ねまくって悪かったよ。……ああ言わんでいい、如何にも心配してます的な顔はずっとされてて食傷気味だ。自暴自棄にもなってなけりゃ死ぬつもりもない。答えが出たからやる気出して頑張ってただけだ。全ては皆と『明日』を迎える為に、だ。気にするこたぁない」
『…………まあ、いいけどよ』
さて、解答編はやった。理屈は分からないけれど、どういう意図でこのループが起こっていたかは分かった。分からないのは、その発端だ。それを今、僕は明かすべきだと感じた。
「日下部、お前記憶は何処まで戻ってる?」
『いや、聞いたかもしれないがまっったく戻ってない』
「そうか。日下部、お前記憶は何処まで戻ってる?」
『なにこれ新手の宿屋のNPCか?』
「うーむ、じゃあマジで戻ってないのか。本当に?」
『しつこい、なんでばあちゃんが意識不明の重体になってるのかもサッパリだ』
「その説明、部長にしてもらったんか?」
『あ、』
戻ってたか。どっちかなぁとカマかけたら自爆してやんの、ウケる。……いや、ウケないか。
「あの2人にはお前の名前しか教えてなかったからそのことを知ってるはずがないんだよな、記憶が戻ってる場合を除いて。第一、僕の安否を不安がってるってのも少し引っかかった。まるで死ぬ危険性があるって知ってるみたいじゃん? …………何時、の想像は着くけど追求はしないよ、僕も確証があったわけじゃない。記憶が戻ってなかったら対応がちょっと変わるだけの話だから」
『…………名前を聞いたときだよ。どっちかって言うと苗字の方。それで、芋づる式に』
「そうか」
何を理由にソレを隠そうとしたかは…………まあ、無粋だから想像するのもやめようか。ヒトのこたぁ言えないですものね。
「経緯を聞いてもいいか? 無理だったら別に大丈夫。ただ、日下部イネさん殺害未遂の犯行に使われただろう刃渡りの長い刀剣類の存在が気になってね。そんな骨董品を現実世界で大真面目に使う連中なんて、どう考えても裏の世界の住人だろうから」
『……俺も、分からない。ただ、謝ろうと思ってばあちゃん家に行ったら、ばあちゃんが血の海に沈んでた』
そこからは、ヤツの独白。
祖母と喧嘩をしたのだと日下部は言った。
『いや、喧嘩というのも違う。俺が癇癪を起こしただけだ。ばあちゃんは困った顔してただけで……多分、悲しんでただけだ。俺がなんでキレてたかは遠い昔のせいでもう思い出せない、多分クソ程どうでもいいことだったんだろう』
『だから割合直ぐに頭が冷えたんだろうな。日曜日にばあちゃん家に行ったんだ、謝ろうと思って。そしたら、そうなってた』
『わけがわかんなくて、取り乱して、でもばあちゃんの息はまだあったから、救急車を呼ぼうとしたんだ。そしたら、チラシが目に入った』
「……あなたの願い、叶えますとか書いてたんじゃないか? 魔方陣みたいな絵が描いてあって」
『悪魔だから分かるか。ばあちゃんの傍に、そんなのが落ちてたんだよ。……後で聞いたけどよ、ばあちゃんはそれを使おうとしてたみたいなんだ。多分、俺と仲直りするために』
悪魔召喚のチラシは、欲を抱える人の下に投函され、もしくは配られる。…………まあ、そういうことだろうな。
『使いたくなる何かがあったんだろう、俺はケータイをその場に落として端っこが血で濡れたチラシを手に取ったんだ。そしたら、まるで絵に描いたようなシルクハットの紳士って感じのおっさんが現れたんだ』
『コレはホンモノだって分かった瞬間、俺は頭を地面に叩きつけてた。……藁にも縋る思いだった。ばあちゃんを助けてくれって何度も』
『おっさんの悪魔は言った、常套の手段ではばあちゃんを助けることができないって。命を擲つ覚悟を問われた。……やけっぱちって恐ろしいよな、俺は二つ返事で頷いてたよ』
『そこで一瞬、その悪魔の姿がブレたのが印象深かった。そしたらそのチラシのことと、ばあちゃんが使おうとしていたことを教えてくれたんだ。理由は分からないけれど、あの悪魔も俺と同じ答えに辿り着いたんだと思う』
『悪魔は、俺が命を投げ出せばばあちゃんは助けられるって言った。でもそれでは意味が無いとも。……あの悪魔は、ばあちゃんが自殺するか、良くて心が壊れることを恐れていた。……まあそりゃそうだよな、仲直りしようとした孫が死んでましたなんて、それも自分を助けるためにとか、相当精神に負担掛かるのは俺でも想像できる』
『────だから、ヤツの提案に乗った』
「このループか」
『ああ。もしかしたら俺は死んでしまうかもしれないけど、2人とも死なないで済む可能性があるって。下手したら死ぬよりツラい目にあうかもと言われた。でも俺は乗っかった。そしたら…………あとはご存知の通りだな』
「…………」
経緯、というか動機は分かった。いつだったか鬱々しかけて下手人を呪おうと思ったが……いや悪魔の方は今でも呪いたい気分でいっぱいだけど、まあ掌返し位はしてもいいか、となった。
『延命工作しかできないと悪魔は言った。自分にできることはそれだけだってな。まあそれだけでも……0%が0.01%になるだけだったとしても、乗っかる理由には十分過ぎた。……俺は、何としてもばあちゃんに謝って、仲直りしたいんだ。お前は、馬鹿だなって笑うか?』
「笑えねぇよ馬鹿野郎、ここにいるのがほぼもう答えみたいなもんでしょうが」
『……だよな、ありがとよ』
しかし、そうなると分からないことが……
『ああ、分かってる。ばあちゃんを殺しかけた下手人に心当たりがあるって、悪魔が言ってたんだよ。お前がなんかやばいことしてるって聞いて、もしかしたらソレか……? と思ってよ』
「……マジで?」
『まあ今の反応でソレじゃないってのは分かって一安心だけどよ。はぐれエクソシストって見立てだった』
はぐれエクソシスト……部長とアーシアから聞いた覚えがあるぞ。道を外れてしまって教会から叩き出されたエクソシスト、だいたい堕天使勢力に身を寄せるのだとか。
…………いや待てよ? もしかして、
「……ごめん、責任の一端は僕にあるかもしれない」
『あん?』
「つい最近まで、駒王町の廃教会を根城にしてた堕天使とその一派がいた。そこの元締めの堕天使をぶっ殺したんだ。どのくらいの規模の組織だったのかは分からないんだけど…………もしかしたら、そこにいたはぐれか堕天使がそっちに向かったのかもしれない」
族滅、というのは違うけれど。でも敵の組織を徹底的に掃討して被害を増やさないようにするべきだったと思う。それができなかったのは……僕がぶっつけ本番で元カノ堕天使を殺したからだ。……マジで、責任の一端は僕にあるじゃあねぇか、クソ。
『…………いや、それはお前が悪いわけじゃねぇだろ。唐突なことにその後のことまで気を配れってのが無理な話だ。それを言うなら、俺だって癇癪起こさなきゃばあちゃんが悪魔に目をつけられることも無かったんだ。気にするのは勝手だけどよ、変に責任とか言い出したらぶっ飛ばすからな』
「……ん、了解」
とはいえ、気合いが入る理由が追加されたというもので。もう一度気合いを入れ直す。
「……っし! じゃあちょっとしたおさらいも兼ねて、お前が件の悪魔と交わした契約、その願いを教えてくれ」
『俺が交わしたのは、ばあちゃんを治して仲直りしたいという願いだ』
「おっけ。僕らが今からやろうとしてるのは、日下部景太が悪魔と交わした契約の不履行、日下部イネさんを治す為……というよりギリギリ現世に留まらせる為に徴収されたお前の身体を取り戻し、日下部イネさんを完全に治療すること。契約の外にいる僕らが日下部イネさんを完全に治すことで、件の悪魔が契約を履行できない状況を作り、お前から対価を徴収させない状況にする。対外的な問題は、僕も契約業務の範囲で動いてるので問題ない。OK?」
『ああ、問題ない。……頼む、イッセー。ばあちゃんを助けてくれ』
よし来た。僕はスマホを取り出して既に準備をしているだろう部長に連絡を取る。ワンコールもしない内に電話は繋がった。
『はい、連絡待ってたわ。状況は?』
「契約の内容的にシビアなタイミング調整は必要無いです。日下部がイネさんに謝罪を述べるまでは完遂されません」
『分かったわ。ではこちらの方でフェニックスの涙は使用しておくわね。その後はしばらくの間、イネさんの容態を診る、でいいのね?』
「ええ、ありがとうございます部長。よろしくお願いします」
『気にすることはないわ。……落ち着いて、しっかりやれば大丈夫よイッセー。相当訓練をしたのでしょう?』
「はい、僕は僕のやるべき事を成します」
『よろしい、吉報を期待するわ』
通話が切れる。後は、僕がきっちり日下部の生命を用意することだけだ。
「本来ならば。無くなった生命を復活させるなんて相当な知識と技術、政治力が必要だ。だけど、お前達は『同じ』生命を共有している。だからこれで通じる。何度も自分で試した。覚悟を決めろ日下部景太、
一呼吸、そして神器を構える。
「……
『Promotion:Powered Frame!!』
溶け落ちていく左腕の籠手、それを握り潰す様に掴むと、それがノート大の板へと変わっていく。
「『
『Frame No.3:Greed!』
二度と言わない、二度と言いたくない。僕はどっちを選ぶなんて言わない。
「『
『Greed:Create Imitation!!』
板が赤黒い光を発して、そして────
後はオチという名の蛇足です。
この章でやりたかったのは、とあるはぐれエクソシストとのフラグを建てるためでした。本当は3話位で終わらせるつもりがこんなに間延びして……。