兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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感想ありがとうございます、とても励みになります。

長らくお待たせしました、間章ようやっと終了です。これを4話で終わらせようとしてたとかマジ……?


その14

 僕は今、例の公園のベンチに座っている。『今』がいつかは分からない。辺りは暗く、街灯と月だけが僕を照らしているだけだ。……とはいえ、恐らく上手くいったんだろうなという感覚があった。何処かに感じていた『僕の骨』の残りが無い。ちゃんとリソースとして使えたようだ。

 

「隣、よろしいか?」

「ええ、どうぞ」

 

 後ろから声を掛けられる、落ち着いた男性の声だ。その気配が隣に腰掛けるのを感じながらも、僕は前だけを見ていた。

 

「まずは感謝と御礼を。類まれなるお人好しの悪魔、無理を徹す恐るべき策士、兵藤一誠君。君のお陰で私は最後の願いを叶えることができた。本当にありがとう」

「そりゃどうも。僕は我欲に従っただけだ、アンタが投げっ放しでムカついてたこともあったけど」

「だが私が迂闊に彼の願いを叶えていれば、彼は死んでいた。それは理解をしてくれ」

「理解と納得は別物だと思いませんか?」

「違いないね」

 

 声に笑いを滲ませやがって、なんとイイ性格をしたジジイだろうか。怒りを通り越して最早呆れてくる。…………なんか全部片付いたんだなと思うと、どっと疲れてきた。しばらく何もしたくない。

 ふ〜……と溜息をついて空の月を眺めてると、沈黙が嫌になったのか、隣の気配が話し掛けてきた。

 

「……何も聞かないのか?」

「聞いてどうしろと? 僕に必要だったのはこのループを解消するための情報と、納得できる状況だけで、アンタがどんな理由で日下部に加担したのか、どの様な方法で以てループ現象を引き起こしたのかは知りたくない。興味はあるけど知りたくないんだ。少なくともこれ以上心労を重ねたくねぇんだよこっちは」

 

 以前部長に聞いたことがある。悪魔は魔力を使って自分の姿を好きなように変えられるって。……コイツの容姿は初老の男性らしい。一般的な感性からして若い姿の方が好まれるだろうにそれをしないのは、『その姿に並々ならぬ思い入れがある』か、『若い姿を維持できない程魔力が衰えてる』か、だ。政治的な理由でとも考えたけれど、こんな無法をかますヤツがマトモな活動してるわけがない。結論、どっちにしたってろくでもない理由が後ろに控えてるってことだ。これ以上悪夢の種を増やされて背負う真似は勘弁なんだ。

 

「だから僕の中では、アンタは『呆れるほどお人好しで心底無責任な悪魔』でいいんだ。それ以上の存在にしないでくれ。ついでに、二度と関わらないでくれると助かる」

「ふむ、成程。条件がある、無理矢理呑ませるが」

「……何?」

 

 無理矢理呑ませるとは随分と穏やかでない発言だなと思っていると、隣からの圧が薄れていく。

 

「そもそも私はこれ以上君と関われない、関わりたくてもね。だから1つ……そうだな、君に報酬を。得られたものが友情だけというのも悪くは無いが、願いには対価が必要だ」

「原則をブッチしようとしたアンタが言えたことかよ……」

「ルールを完全に守っている悪魔なんて存在しないさ。私も、君もね」

 

 ことり、と音が1つ。若干の諦めと共に視線を横に向ければ、そこにあったのはくすんだ真鍮の色をした、古い懐中時計があった。蓋が開いてるソイツは、全く動きがない。

 

『それは私が使っていた神器だ。上手く使うといい』

「……そんなポンポン渡すもんじゃないだろう」

『なに、君ならば似たように使ってくれると思っての判断だ。……さらばだ、兵藤一誠君。悪魔として、君が幸せになれるよう祈ってるよ』

 

 ……気配が消えた。

 全く、悪魔が誰に祈るってんだ。悪魔神でもいるのか? それとも…………まあ、そんなことはどっちでもいい。

 

「ひっでぇモン背負わされたなぁ、クソッタレ」

 

 諦めと共にソレを手に取る。見た目や質量以上の重みが左手を襲う。精神的になのか、それ以外のモノかは分からないけれど。

 

「お疲れ様、良い夢見ろよ」

 

 パチリ、と蓋を閉じる。時はまた刻み始めたのだった。

 

【ループ10.】

 

 

◆◆◆

 

 

 というわけで今回の顛末(オチ)……正確にはあの後の話。

 結局関わった皆んな、記憶を引き継いでちゃんとした次の日を迎えることとなった。僕の青臭い不安は一体何処に持っていけばいいのか分からなくなったのは言うまでもない。実際あんの馬鹿共にイジられたしな!!

 

「冷静に考えて、ちょっとくさくなかったか昨日のお前」

「『明日の僕によろしく』……ぶふっ」

「笑うんじゃねぇよ!!」

 

 ただまぁ、心配してたことが無くなったのは事実なワケなので、なんだかんだ言いつつ僕らの心持ちは晴れやかなのであった。

 

 …………イジられたといえば、新技? の名前に関しても弄られた。こっちは馬鹿共じゃなくてドライグにだが。

九頭龍の積層装甲(パワードフレームNo.9)』……ドライグが『ナインヘッズ・パラレルプレート』はダサい等と言うもんだからじゃあこんなんどうよ? と提示した新しい名前。マシになるどころか悪化してる等と暴言を吐かれた。

 

『ルビは日本人で言うところのフリガナのことだろう? そこに英文字を入れるのは……流石の俺でも擁護できんぞ。終わってるな、相棒』

 

 ……お前ホントいつか覚えとけよマジで。そういうのがかっこいい、と言ってやりたかったけど実際このセンスがイタい系なのは何処かで理解してるので反論ができねぇ。……いいもんいいもん、これからも変な名前を付けていって『赤龍帝』のサジェスト汚染してやるぜ、お前も道連れだザマァミロ!

 

『そういえば、アレなセンス繋がりだと堕天使に1人、方向性は違うがお前と似たり寄ったりなのがいたな。良かったじゃないか相棒、いつか会った時傷を舐め合うといい』

「舐め合いができる関係なのか……?」

 

 どうやらドライグの頭の中では僕とその堕天使がよろしくやってる様子が簡単に想像できるらしい。どんな変人なんだろうその堕天使。悪魔と仲良くできる堕天使って時点で眉唾にも程がある、と思ったのだった。

 

 イジられた繋がりだと、今回の件でライザー氏が部長をイジったらしい。詳細は教えてくれなかったが、普段ならガンガン舌戦に応じる部長が何も言わずに顔を赤くしてプルプルしてたのだとか。何それちょっと見てみたい……なんてふざけたことを考えたら、

 

「イッセーが将来のことを約束してくれるなら幾らでも見せてあげるけれど?」

 

 等と言うもんだから慌てて思考を無にしたよね。隙を見せたら思いの丈を全力でぶつけてくるノーガード戦法、本当にやめて欲しい。

 しかし、口もかなり立つ我々のボスをやり込める手腕は是非とも聞いておきたい、とライザー氏に連絡を取ると、詳細は部長の名誉の為に話してくれなかったけれど、

 

『弱味を作ることが肝要なのさ。使い古された常套手段だろう?』

「変なネタでゆするとかしたらまたぶっ殺すけどその辺どうなん?」

『いきなり純度100%の殺意を向けるなよビビるだろうが。あの後稀に手が震えるんだぞマジで。つーかお前はお前で上司が頭を下げなきゃいけない状況に持っていくのをやめろ。これをネタに骨までしゃぶられることだってありえたんだからな』

「……後でちゃんと部長に謝っておきます」

『そうしとけ、ったく』

 

 それはそれとして部長がライザー氏に借りを作った形になったので何も言い返せなかったんだそうな。フェニックスの涙の件でも、ループに巻き込んだ件でも無いと言われて、『じゃあ何で借りを作ったんだ?』となったが、ライザー氏は笑うだけで何も教えちゃくれなかったのだった。気のいいあんちゃんなのに本当にコイツ悪魔だよ。今回すげぇ助けられたから感謝しかないけど。

 

 フェニックス繋がりでいくと、フェニックスの涙を使った日下部イネさんは、見事に完治した。それはもう完治し過ぎたらしくて……

 

「若返ったァ!?」

「ええ、それはもう見事に。私の目算で24歳相当の肉体年齢でしょうね。……私も初めて知ったのだけれど、老化にも効くのねフェニックスの涙」

「え、いやその……どう説明するんですか!? 不自然過ぎませんかそれェ!?」

「……とりあえず、細胞を若返らせる特殊な治療をしたということで通したわ。治験も兼ねていたということにもして、無理矢理暗示をかけてなんとか……ってところよ」

 

 これ、思いっきり僕のせいだよなぁ。日下部からも苦情が来たけど、この部分は甘んじて受け止めるしかないよなぁ。安易に便利アイテムに頼るんじゃなかったと思わずにはいられない。

 

「でも1つ発見があったわ。薄めて使っても軽い病気や怪我ならすぐに治ることが分かったのよ。もちろん、ただ水で薄めてもそんなことは無かったのだけど」

「えーと、RPG的な回復薬は冥界には存在してなかったんですか?」

「もちろん無くはなかったのだけど、少々値が張ったのよね。その点、フェニックスの涙は…………詳細はちょっと言えないけれど、通常販売されてる1本分で1万本分は薄めたものを使えるみたいね。そこそこ加工するから1/10000の値段というわけにはいかないけれど、楽しそうな仕事の匂いがするでしょう?」

 

 過去にそんな試みが無かったか? と問われたらそんなことは無く、でもその尽くが失敗してきたそうだが、今回日下部イネさんに使った時に気になる反応があったらしく、それを部長なりに纏めてフェニックス家の方に報告。そしてあっちの方で実験してみたら……ということだ。なんでも、人間の毛がキーアイテムなのだそうだ。……今まで気が付かれなかったのは、フェニックスの涙を人間に使うなんてトンチキな出来事が存在しなかったからなんだろうなぁ。

 

「まあ確かに面白そうなシノギの匂いですけど、色々大丈夫なんですソレ? 医者の仕事を奪いかねなかったり、利権とか諸々」

「そこはたくさんの家と医師会、あとは冥界にいる錬金術師や薬師などとをたくさん抱き込んでやっていけば大きく問題は噴出しないわ。仕事を奪うシロモノにせず、仕事と金儲けを両立するツールとして拡げていくの」

「さっすがー……。そうなるとあとは人間の毛髪を回収する仕組みが欲しいですね。契約業務で奪ってやってもいいですが……ここはド定番の1000円カットの理髪店でしょうね。あとはよく効く育毛剤の開発も」

 

 転んでもタダでは起きぬと言わんばかりに金儲けの話になる辺り、やっぱこのヒトはやり手の経営者よなぁと思ったのだった。

 

 イネさん繋がりで、最後に日下部の話。問題なく身体を取り戻して日常生活に戻れたそうな。

 

「結局お前、あの時何をやったんだ?」

「命の複製をした」

「…………なんて???」

 

 命の複製をした、2度は言わない。

 僕の新しい力、『強欲』の能力は『欲と犠牲と取捨宣託(ネバーセイ・ワンモア)』。予想通り名前についてドライグには文句を言われたけど取り敢えず置いておいて。コイツは僕の魔力を用いて複製を作る能力なのだ。……まあ僕の貧弱魔力だけでは到底足りなかったので、今回命の複製を作るにあたってはドライグが残してくれた『僕の骨』の残り半分を全部リソースに注ぎ込んだのだった。訓練初期の頃は身体の半分を持ってかれたりして死にかけたり死んだりして大変だったよ本当に。

 

「例の悪魔がお前とイネさんの命を共有させたのが功を奏したんだろうな。その外法によって概念的にも物理的にも同じ命になったから、複製してもお前が使う命としてちゃんと適合してくれたってことで」

「要はiPS細胞で臓器を作る的なののウルトラ上位互換をやったのか」

「そゆことー」

 

 これから先無理に禁手を使ったり、無理な強化をする必要はない。既に最善手を持て余してるのだから、さらなる強化の前に今ある手札を強くしていくフェーズにあるってことなので。だからストックされても僕の骨は無用の長物で倉庫の肥やし。だったら有効活用してやらないとねってことで使っちまったという話。そもそもが今の身体を強くするために置換した、言い方は悪いけど産業廃棄物みたいなものだから惜しくもなんともないのだ。

 

「お前がいいならそれでいいけどよ。……なんにせよ、本当に助かったよ。ありがとう、どうやって感謝を示しても足りねぇくらいだ」

「やめろやめろ、むず痒くなる。もし気にするならウチのラーメン屋の売上に貢献してくれってんだ」

「おう、任せとけ!」

 

 そんなこんなでこの傍迷惑なループ、繰り返す悪夢を徘徊する話はおしまい。めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 …………とはならない、ならないのだ。

 

 

 

 

 

「日下部イネさんに事情聴取をしたところ……犯人は白髪で赤い目をした、カソック姿の少年だったそうよ」

 

 そう、もしかしたら僕たちにとってはこっちが本題。悪魔の敵、堕天使並びにその勢力に属するはぐれエクソシストの存在だ。

 

「この特徴を持ったはぐれエクソシストは悪魔の間でもとても有名。…………『フリード・セルゼン』、殺戮を愉しみ過ぎたが故に教会を追放された。悪魔のみならず、悪魔に関わった人間の殺戮も起こすため、こちらでも非公式に賞金首になってるはぐれエクソシストよ」

「コイツが……」

 

 渡された資料。そこに記されている経歴、推定殺害人数、簡単な性格のプロファイル。素面で直視するにはあまりにも残虐行為に、非公式に掛けられたまあまあな賞金の額。

 

「イッセー、聞かせて頂戴。どうしてコレを知りたいと思ったの?」

「殺すためです」

 

 ハッキリと、殺意を滲ませて僕は吐き捨てた。

 

「もちろん、積極的に自分から殺しにいく真似はしませんが。でもこの手のヤツとは必ず何処かで当たります。…………他人事じゃない。僕は僕の我儘でアイツらを悪魔(ぼく)を連ませました。僕のせいでアイツらが死ぬなんて、そんなことは耐えられません」

「…………イッセー」

「まあ、それで別の問題が起きるならやめとこう、と思える程度には理性は働いてますよ。だからまた死に急いでるみたいな顔をするのはやめてください。勝手なことして部長の立場が悪くなるのは申し訳ないですから」

 

 ……と、今回の反省も踏まえて部長には言ったが、どこまで信じて貰えるか。本心からの言葉だと胸を張って言える。しかし客観視してる僕が、僕の発言を何処か信じていない。遭遇するようなことになれば、僕は恐怖から凶行に走る可能性を捨てきれない。

 

 そんな、少し後味の悪い不安を残しつつ、僕らは日常へと帰っていくのであった。

 

 

◆◆◆

 

 

「はいはいこちらフリード・セルゼンくん。ただいま開店休業中でござーい。ピーという発信音の後に……あ、今そういうの要らね?」

 

「でもこっちもそれなりに虫の居所が悪いんだぜ旦那〜、つまらない要件なら即! 切るんでそこんとこシクヨロ」

 

「…………へぇ、エクスカリバー、統合。それも糞悪魔の根城で」

 

「────最っ高にファンキーじゃねぇか、乗ったぜバルパーの旦那」

 

 

◆◆◆

 

Next CHAPTER3:トラストユー・フォーエバー

 

To be continued.

 




本文に載せる必要を感じなかった補足
・時止めの神器は『時留めの針(ロック・クロック)』、禁手化して『時よ巻き戻れ、あの頃の君よもう一度(エターナル・タイム・リワインド)』。勿論オリジナル神器。細かい神器の効果は考えてないけれど禁手の方は自分の寿命使ってループさせてた。

・老紳士の悪魔の設定は組んであるけどあえて説明はしません。享年200歳前後であることと、禁手の名前で色々想像して欲しい。一応『その11』の前書きでチラッと台詞を載せてます。

・ライザーさんが主人公相手に上級悪魔になることを強要したので、それまではヤツは死にづらくなるだろう、と部長に耳打ちをしたせいで強く出られなかった。そうでなくとも眷属の問題に巻き込んでるのでひたすら部長が縮こまってる、可愛そう。

・本来はループ物にする予定は無く、はぐれエクソシストに殺されて無念過ぎて現世に留まってる幽霊の成仏を見送って、その後味の悪さと共にはぐれエクソシストを殺すという決意をさせるという話にするつもりでいました。その話をしたら『人の心がない』と言われたので、じゃあ救いのある結末で行くか……ついでにパワーアップも挟んどく? 的な感じでここまで話が増えました。大まかな流れも書き出してたのに原型が2割程です、どうなってんだ。

 こんな感じで、ようやっと3巻に突入です。本当にグダグダとやってすみませんでした。8月ぐらいからまた月1程度に頑張ろうと思います。
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