兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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新章は8月と、そう言ったな。
あれは嘘だ。

というわけで、できてしまったものは仕方がないので投下します。

原作からの変更点
・紫藤家の引越しが遅くなった


CHAPTER3:トラストユー・フォーエバー
その1


 ────少し、昔の記憶。

 

『どうしたの、なにかなやんでる?』

『……うん』

 

 私は迷っていた。前は上手く言葉に出来なかったけれど、今なら分かる。信仰に迷いがあった。ただ漠然と、両親から教えられ、書物で深めていく尊き教えに対して、言葉にできない不安があった。

 

『信じたいひとがいるの。でも、ほんとうに信じていいのか、私には分からなくて』

『うーん……なんというか、めずらしいね』

 

 父や母に相談するのは気が引けて、その時の私のイチバンの友達、隣の家の幼なじみに相談した。そうとは分からないように、曖昧に。

 

『その人は、どういう人なの?』

『とてもすごいひとなの。きせき? でまよえる人をみちびく、そんなひと。どんなこんなんにも立ち向かう、まるでヒーローみたいな』

『すげー、まじもんじゃん。そんなの信じるしかなくない?』

『でも、じっさいにはいないの』

『アニメ?』

『ちがうよ。……お父さんとお母さんがよくお話をしてくれるの。2人は本当にいるみたいにお話してくれるけど』

『うーん……』

 

 思い出してみて、あの時覚えた違和感に納得がいった。そうだ、ありもしないモノを私は信じることができなかったのだ。戦隊ヒーローが実際には存在しないことに気が付くように、仮面を被ったヒーローが悪党をやっつけてくれないことに気が付くように。

 だってそうだ、あの時私は見たのだ。父さんのとても悲しいような怒ったような、一言では表せない壮絶な貌を。もし本当に主がおわすならば、父さんはあんな顔をしない筈なんだ。だから私は、無意識に信じることができなかったのだ。

 

『僕さ、思うんだよね』

『なにを?』

『まず自分を信じなくちゃダメだって』

『自分、を?』

『そうそう。どんなことでも自分を信じなきゃ始まらないよ。ほら、やったことないことでも【自分ならできる!】って思ってやってみるでしょ?』

『……うん』

『だれかを信じるってさ、そうしてからじゃないとできないって僕は思うよ』

 

 今にして思えば、これは彼なりの悟りだったのだろうか? それを聞いてみるには、ちょっと時間が開きすぎてしまったけれど。

 

 それでも、私は忘れない。あの日の彼の言葉を、絶対に。

 

『だいじょうぶだよ、イリナちゃんはすげーヤツなんだから。そんなイリナちゃんが信じたい人なら、ぜったいに信じてだいじょうぶ!』

 

 私の中に通った、揺るがぬ信仰。それを形作ってくれた彼の言葉を、私は死ぬその時まで忘れないだろう。

 

 

◆◆◆

 

 

「いらっしゃいませー! 空いてるお席へどうぞー!」

「「「いらっしゃいませー!」」」

 

 本日のイッセー店長、順調快調絶好調! ディナータイムの本当によく混む時間でも、このとおり見事な動きでお客様を捌いていくぅ! ハイテンション過ぎて背中からナノマシンが噴き出しそう! 文明終わらせちゃう? ねぇ終わらせちゃう???

 

『やろうと思えばできることを思いつくもんじゃないぞ。それとも本気で世界征服狙ってみるか?』

 

 ロボアニメからとったセリフだよわかんないかなぁ!? と頭の中で響く相棒の声にツッコミを入れつつ、お客様から食券を預かる。お、新メニューの汁なし麺だな? 追加してから本当に飛ぶように売れんねぇコレ!

 

「汁なし硬め脂増し!」

「はい、中太入れます!」

 

 汁なし麺の何がいいって、スープを使わないことだよね。専用のかえしを別で作るのが手間だけど、閉店間際にスープの残量が足りなくて売り切れ対応しなくて済むのがいい。オキャクサマはともかく、楽しみに来てくれたお客様に『申し訳ありません、売り切れてしまいまして……』と頭を下げるのは意外とメンタルにくる。まああまりにも汁なし麺が売れ過ぎて今度はスープが結構な量余り始めてるんだけど。売上予測が上手くいかなくなってるのはちょっと問題かも。頼れる経営担当の平野サンに相談しないとね。

 

『その平野とやらは新店舗の関係で忙しいのではなかったか?』

 

 そうだった。現在僕が(お飾り)店長として働いてるこの九頭龍亭、なんと2号店並びに3号店を出すことが正式に決定したのだ! いえーいぱちぱち! 割と攻めた戦略じゃない? と思ったけど、部長と平野サンが『いける』と言ったのでいけるのでしょう、いずれはそういうのも勉強しないといけないなぁ。

 んで、新店舗を出すにあたって部長が平野サンと一緒に呼んできた立山サンと、元から九頭龍亭にいた大ベテランの中村サンがそれぞれの店長として抜擢。何人かのバイトさん達を連れて此処1号店から旅立ってしまったのだった。喜ばしいことだけど、寂しいものがあるねぇ……。

 

 まあそんなことなので、平野サン含めて新店舗立ち上げ組は、何故か僕の作ったマニュアルを広げながら開店準備をしているのだとか。……忙しいよね、それなら平野サンじゃなくて部長に相談した方がいいかも。

 

「麺あがりまーす!」

「お願いします!」

 

 そんな思考を巡らせながらも染み付いた作業が身体を動かす! 少し大きめのラーメンどんぶりに汁なし用のかえし、背脂を入れてそこに新人バイトの大和田サンが茹で上がった中太麺を投入。トングで麺を返して絡ませたあと、僕がすかさず焼き野菜並びにトッピングのサイコロチャーシューやコーン、粉チーズを載せていき、最後に生卵をてっぺんにON! 完成、汁なし麺一丁上がり!

 

「高山サン、15番さん卓に提供! 汁なし麺硬め脂増し!」

「はーい!」

 

 うーんパーフェクト。ありがたいことにバイトの募集も結構あって人手不足とは無縁! 新店舗が開店したらそっちに一部は人が流れてしまうだろうけど今のところ売上も上々! 僕のラーメン屋店長道は中々順風満帆だった!

 

「お客様ご来店でーす、いらっしゃいませー!」

「「「いらっしゃいませー!」」」

 

 

◆◆◆

 

 

「では店長、お先失礼します。お疲れ様でした!」

「お疲れ様です、気を付けて帰ってね!」

 

 閉店後の作業も終わり、時間は日付を跨ぐ間際。バイトさん達も全員あがって店には僕だけ。まあ店長業務と言うやつ。売上計算や券売機のお金を回収等々を済ませ、バックヤードでパソコンと向かい合う。まあ単純にシフト表を作ってるだけなんだけどね。スプレッドシートを作ってくれたヤツは神、ハッキリ分かんだね。

 それはそれとして、僕がシフト表を印刷して紙で配るのが当たり前だと思ってるからそうしてるけど、実際どうしたものか。昨今タイムカードですら社員番号を入力して時間を打刻、ネットで管理する時代なのに前時代的なままでいいんだろうか?

 

「そういうアプリを導入する? あーでもガラケー使いがいるから厳しいものがあるなぁ」

『社用の端末を配布するのはダメなのか? そういうのもあるのだろう?』

「ありっちゃありだけど、結構値が張るんだぜ?」

 

 法人契約で、かつ月1G程度の通信量のヤツならそこまで値段がしないことも分かってるけど、端末がなぁ。売上は順調とはいえ、まだ個人のお店に毛が生えた様な規模の九頭龍亭。それならバイトさんや社員の給料底上げした方が良くね? となるわけで。

 

「いっそのこと部長に新規事業頼んでみる? ケータイ業界に殴り込んでもらってそこから融通してもらう的な」

『あの女もそこまで万能かつ手が広いわけではないだろう。あちらもあちらでフェニックスの涙の件で方々に出向いてる今、ヤツもそんな余裕は無いだろう』

「流石に与太話だよ、無理なもんは無理なのは分かってる」

 

 でも僕が頼んだらやってくれそうな危うさがあるよなあのヒト。いつかとんでもないヒモ男引っ掛けそうで僕は今から不安ですよ……。

 

『…………まだ逃げれる気でいるのかお前。率直に阿呆では?』

「脳内ぐらい自由な想像してもいいじゃん。逃げはしないけど」

 

 まあ何かの間違いで目が覚めてくれないかなぁ、とは思わないでもないけれど。でも部長が僕のことを好きだと言って思ってくれてるうちは、僕もそれを疑わずに信じて、その上であのヒトの役に立とうと思う。心労すごく掛けてるから、最低限働きで返していかないとね!

 

「というかドライグ、最近よく仕事中も話しかけてくれるから感覚麻痺してたんだけど。お前的に僕がラーメン屋やってるのはどうなん?」

『別にどうも思わん。いや、名前に龍を冠した店で、お前は赤龍帝だ。業界のトップを取るぐらいは当然してもらいたいが?』

「変な方向で変なプライド発揮してんなぁ……」

 

 あんま言いたくないけど、ドライグがおかしな方向で僕に毒されてる。そんな風に感じてしまった。

 

『あと何故かは分からんが、お前がラーメン屋を経営することは白いのとの戦いで活かせるかもしれん。自分自身でも血迷ったか? と思っているのだが、そんな予感がしてならない』

「ははは! 納得の一杯を提供して、白龍皇を負かすって?」

 

 そんな平和な決着だといいな、と思った。…………そんなことは、決してありえないけれど。それこそ、想像するのは自由だろう?

 

 

◆◆◆

 

 

 まあそんな感じで。僕は学校に仕事にと精を出していたんだけれど、

 

「イッセー、貴方働き過ぎよ」

「…………えっ?」

 

 なんか色んな心のつかえが取れて、もう我世の春っ! って感じで生きてたのがダメだったらしい。部長からストップが言い渡された。

 

「驚くことじゃないわよおバカ。最近週何回九頭龍亭に顔を出してるの?」

「えー……あー……週7ですねぇ……」

「睡眠時間は?」

「えーと…………1日3時間…………ぐらい?」

「前にも言ったわよねぇ……ブラック勤務をさせるつもりはない、と」

 

 青筋浮かべてキレる部長を、僕は初めて見た。何やってもしょうがないわね……と許してくれた優しい部長は何処。いや今怒ってくれてるのも優しいからなんだけど。

 

「イッセー、おバカなイッセー。今1号店は人手が足りているのよね?」

「……はい」

「貴方は仕事に対して手を抜いてはいない。つまり新人教育もしっかりと終わって、ちゃんと戦力になってるのよね?」

「……はい」

「特に溜まっていたり火急の仕事があるわけではないのよね?」

「……はい」

「貴方が顔を出さなくても、張さんが店長代行を務められるのは、勿論把握してるわよね?」

「……はい」

「それなのにどうして貴方は毎日出勤して、睡眠時間もこんなに削っているのかしら?」

 

 あはは、どうしてなんでしょうねぇ。なんか喜ばれるとつい頑張っちゃうっていうかー……。っべー、部長本当の本当に怒ってるわ。1個も茶化す要素が無くて頭上げられねぇ。

 

「で、でも部長だって最近とてもお忙しそうで……」

「それでも最低限5時間の睡眠は取っているわ。…………仕事一筋の旦那を待つ嫁の気分って、こういうものなのかしらね?」

「ほんっっっとうに申し訳ありませんでしたァ!!! なんでもするんで許してください!!!」

 

 迂闊なことを言った! 自覚はある! でも今此処でこのカードを切らないと陽の光が当たらないところで暮らす未来が見えかけた! いやそういうのも悪くないかも……? と思いかけたけど、せめてお付き合いは健全な方がいいじゃん! アブノーマル、ダメ絶対!!

 

「なんでも、本当に?」

「本当に、誓って!」

 

 とはいえ後悔はするんだろうなぁ、諦めの境地で沙汰を待った。僕が羞恥で悶える程度で許してくれるなら安い買い物だと、本気で思っていた。

 

 …………まさか、まさかこの時、別の意味で後悔するなんて知らずに。僕は呑気に構えていたのだ。

 嗚呼本当、僕の人生は波瀾万丈にも程がある。

 




歴史は繰り返す。

感想ありがとうございます、本当に励みになります。
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