部長はほぼ勝ち確の状態だから冷静にことを運びますよ、多分。
「どこにしまってあったかしら……あったあった、コレよコレ!」
迂闊なことを言った昨日の自分を絞め殺したい。そんな気持ちで僕は我が家のリビングにいる。
結局部長は大した要求をしてこなかった。幾つか僕らの間でルールを決めた程度だ。
まず、九頭龍亭への出勤は週3回、多くても週5回。部長の私情も大いに入ってるとは思うが、それ抜きにしても僕の下僕悪魔としての教育が遅れてるので、その為の時間を設けたいとのことだった。一応自習はしてるんだけどね、それで睡眠時間が削られるのは違うでしょってことみたい。もちろんお店の緊急事態に対しては僕が出動することになるからそれは除外。そんなことは滅多に起こりえないだろうけどね。
次に、寝床を不必要に変えないことを約束させられた。これは私情丸出しである。よく部長は僕の布団に潜り込んで来るけど、その度に僕は抜け出して床だったりで適当に寝てる。それを許さないための約束だ。…………このヒトマジで僕の理性を狩り取るつもりらしい、泣きそう。
最後に、翌日……つまり今日のことだが。旧校舎の清掃と定期メンテをするから今日の表の部活を兵藤家でやりたい、という話。僕は構わないけど、それは自分の一存では決められないので母さんと相談してください、ということで勿論通った。母さんがそういう楽しそうなことを見逃すはずもなく、ってヤツだ。
1番やばいのは寝床固定の件だと思ってたんだ、本当に。それぐらいなら僕の理性を512倍して耐え切ればいいとマジで思ってたし、使った。一瞬悟りの境地が見えたよね。こんなことに使われるとはドライグも思っちゃいなかっただろう。
『アレはアレで訓練になるからな。つくづくお前は異端だなと思いもしたが。過去の使い手の中には毎晩女を取っかえ引っ変えしていたヤツもいたぞ』
そんなヤツは敵である、少なくともこっちは儒教の考えが根付いた日本人、そんな複数人と破廉恥なことをするなんて有り得ません。…………悪魔の常識で考えろって言われると何も言えないけど。
ともかく、まぁどんな誘惑をされようが耐え切る自信があったので、僕は迂闊にも『なんでもします』と言ったわけだ。部長は結構押せ押せだけどマグロ相手にどうこうってタイプでも無いだろうしね。部長もぐぬぬとなったことだろう、ざまぁみろ。
だが! だがしかし! 僕は自分の敵が身内にいたなんて思いもしなかったのだ、具体的には母さん!
あろうことかマイマザー、リビングに集まったグレモリー眷属一同に向かって「ウチのアルバムを見ていかない?」等と言いやがったのだ! なして!?
「待って、ねぇ待って母上。僕は見られたくない、見られたくないんですがそれ」
「お義母さま、是非お願いしますわ」
やっぱ乗っかるよなぁ僕の上司ィ!! しかも昨日の夜のことを根に持ってんのかびっくりする程満面スマイル! ごく稀に器を小さくするのやめませんかねぇ!?
五分ほどの舌戦、敗北、そして無慈悲にも拡げられる兵藤家のアルバム。僕は、あまりに無力だった……っ! 決め手はお母様の「ウチに女の子がたくさん来たらアルバムを見せてみたかったの」という一撃。おまっ……ソレは反則でしょう!? とフリーズしてる間にあれよあれよとこんなことに。勝ち誇った表情の部長が憎らしい。
というわけで女性陣達が我が家のアルバムを見てワイキャイしてるエリアからこっそりと離れ、隅っこで学校の宿題をする僕。大丈夫、心を透明にすれば耐えられないことは無い。今までも、これからも……。
『あのイッセーにも可愛い時代があったのね……』
『あらあら、こっちのイッセーくんはまさにザ・虫取り少年ですわ』
『……どうしてこの子がイッセー先輩に』
『し、失礼ですよ小猫ちゃん……』
いや、心透明にしなくても大丈夫そうだな。別な意味で泣けてくるけど。遠回しに皆様が僕に対して心がスレてるって言ってません?
「…でェ、なんでお前はこっち来てるワケ?」
「いやぁ、見られたくないものがある気持ちは分からないでもないからね」
「武士ならぬ騎士の情けってか?」
ありがたいやら情けないやら、悲痛そうな僕と向かい合う形でグレモリー眷属のイケメン枠、木場祐斗クン。グラスに入ったオレンジジュース飲むだけでもサマになるなこの男。
「でもなんというか、意外だね。あんまり昔のことを聞かれたり見られても動じないって印象が勝手にあったよ」
「んあー……そうでも無いよ。まだ高校生の時分なのに若気の至りなんざ幾らでもある」
例えばアルバム関連だと、そうだな…………
「多分、笑顔の写真が少ない」
「それは、昔は笑えなかったという話なのかい?」
「うんにゃ。写真撮るって分かったら笑顔は作れるよ。でもそれ以外の部分はほとんど笑ってないと思う」
まあその辺に繋がる話は部長とはしたし、もう一度語るとかダルいのでしないが。まぁ無愛想なクソガキだったろうねと思う次第。
「今でも厨二っつーか悪化して高二病も併発してるけど、昔はもっと顕著だったからね。自分が特別〜じゃなくて自分はゴミカスって方向で。だから昔の写真とか見ると黒歴史を思い出しちゃって吐きそうになる。……何かがあったわけじゃないのにねぇ」
「…………」
「……ん? あ、すまんすまん。こんな空気にしたいわけじゃなかった。軽く受け止めてよ、今本当に充実してるからさ」
なははー! と笑い飛ばしても、なんだか微妙な笑顔になってるあたり失敗したな、と思ってしまう。どうスっかな、こんなんになるなら辱めに耐えてた方がいくらかマシだったかもしれん。
仕方ねぇ、比較的マシだろう時期のアルバムを女性陣の所から拝借する。
「あ、それまだ見てないのだけど」
「いいじゃないですか、僕にも思い出に浸らせて下さいよ」
飛んでくるブーイングを軽くいなして祐斗クンの前でご開帳。まあ予想通りといった感じで、悪い顔で笑うクソガキがまあたくさん。
「これは?」
「小学校低学年の頃だな。お隣の大バカ野郎……いや、女子に野郎は違うな。まあバカとアホで連ンで大暴れしてた時期だよ。ほら、結構生傷多いだろ?」
いやぁ本当にあの頃の僕もアホだったよなぁ。お隣のガキ大将に連れられていじめっ子成敗って本当にアホかと。高学年や中学生まで出張って来た時はマズイかもとか思ったけど、なんだかんだで大立ち回りの末に完勝。向こうの親御さんの言い掛かりも証拠写真や証拠品で赤っ恥かかせて撃退。あんまりにもやってることがアレなのでお隣さん共々親から拳骨落とされるなんて日常茶飯事であった。だいたい実力行使担当がお隣さん、裏工作を僕がやってたので『さんぼー』なんて呼ばれてた記憶もある。この時からロクでもねぇな思い返すと。
「……高校入ってからそういう荒事をしてたって言ってなかったっけ?」
「記憶にございませんねそんなこと」
ジト目で睨まれても何も出ないですことよ? それに『さんぼー』だから主に暴れたのは僕じゃありまっせーん。実際大まかな喧嘩スタイル確立したのは高校生になってからなのは嘘じゃないしね。
「そもそもドブカス共と同じ舞台に立つ時点で負けなんだよ、僕ってば弱っちいし。殴り合う前に終わらせないと」
「なかなか聞き馴染みの無いレベルの暴言が君の口から出てきて凄く驚いてるよ僕は」
「イジメなんてするヤツはそんな扱いでいいよ、更生は期待するけど性根が僕と同レベルだから無理ゲーだし」
「自虐のレベルも恐ろしいね!?」
よしいいぞ、いい感じに陰鬱な感じが空気から取れてきたな。いやぁ、他人振り回すの楽しいよね!
「……でも、確かにこの頃は笑顔の写真が多いね。とても楽しそうに見えるよ」
「実際その通りだったし。……バカだなんだって言うけど、僕にとってこの子はヒーローみたいなものだったんだ。そんなヒーローが僕のことを必要とか言うんだぜ? 自己肯定感ギュインギュイン上がるよ」
「あはは……イッセー君は普段からもっと自己肯定感上げた方がいいと思うけどね」
そんな感じで、結局宿題ほっぽり出して思い出の補足なんかをして談笑してたら、祐斗クンの動きが止まった。
「…………これ、は?」
「ん? あー……そっか。お隣さんクリスチャンだったんだ」
その視線の先にあったのは、お隣さんの家で撮った写真だ。聖書らしきものも、十字架もあったり宗教色が強い。……そうだよなぁ、クリスチャンなんだよなぁあの子も。元気してるかなァとか言ったこともあったけど、多分次会ったら殺し合う関係だよな。まあその時は容赦無く殺すが。仮にあの子がエクソシストとかなら…………まあろくなことにはなってないだろう。暴力面と正義感をより強化した僕の上位互換みたいなヤツだし。
「そうか……じゃあコレはやはり。イッセー君、コレに見覚えは?」
彼は同じ写真に写っていた大人の男性(恐らくお隣のお父さん)、正確にはその男性が佩いている西洋剣を指さしていた。…………声の調子がおかしい。さっきまでにこやかに話してたトーンから急転直下。殺意すら感じ取れそうな負の感情の発露に、僕は彼の顔を注視する。ジロジロ見てるのにも気が付かない程に、その目は指さした西洋剣に釘付けだ。
「……分かんね、儀礼用のなんかだとは思うけど。剣振り回してた記憶はあんまり無いよ」
「そう……。だけど、コレは間違いない」
今、記憶とピントがあった。僕はこの顔を見たことがある。それは彼の顔ではないけれど、僕は鏡に向かってそれを見たことがある。現代日本では、あまり目にしてはいけない類の、その感情の名前は。
「これは聖剣だよ」
復讐…………そう呼ぶに足る顔の歪みと、鳴り出した警鐘が僕の心をザワつかせた。
これはちょっと、マズイかもしれない。
◆◆◆
部活が終わり、部長とアーシアを除いた皆が帰って行った後、僕はひっそりと自室で頭を抱えた。
「ループの次は聖剣かよ……!」
『イベントには事欠かないようで何よりだ』
「ぶっ殺すぞクソトカゲ」
『やれるものならやってみろノータリン』
殺意を滲ませて罵倒し合うが、ただただ虚しい。そりゃドラゴンの性質でそういうモノを引き寄せる、つまりドライグが僕の中にいるせいなのだが、ヤツは性質を付け加えてるだけであって、結局それって僕自身のせいな気がしてくる。まあだからコイツも煽ってくるんだろうが。
『実際お前が望んだせいでその性質が強まってるところはあるやもしれん。強くなりたいと思ってるだろう?』
「…………まあ、そだな」
『つまりその願いのせいでお前を強くする為の試練が寄ってきているわけだ。実際、何かある度に順当に手札を、戦力を拡充させていっているわけだからな』
「じゃあ僕ちゃんずっとこのまま?」
『これ以上強くならなくてもいいと思えば、あるいは』
人それを、無理ゲーと呼ぶ。ひでぇ話だ。今の僕なら下を見てもキリがないかもしれないが、上は上でキリがない。単純にバケモノが多過ぎる。弱点を突けたからライザー氏を倒せたけど、実力そのものは天と地の差があり、そんなライザー氏も冥界ではそこそこ強い止まりだ。あとそんな組織が堕天使陣営の『神の子を見張る者』に教会勢力、あとは聖書グループで括られた我々以外にも他の神話体系があり…………ダメだ、プチッと潰される未来しか見えない!!
「そもそもなんで契約業務が主体の悪魔に腕っ節が必要なんだよ……誰だよレーティングゲーム作った大バカ野郎は……」
『魔王アジュカ・ベルゼブブだが』
「平麺の常連さんかァ……」
そう、平麺の常連さんの正体は魔王様だったのだ……。真実を知った時愕然としたよね。
『どうも、店長。いつものやつで……どうしたんだいその顔? …ああ、その様子だとサーゼクスから聞いたのか』
『如何にも、俺は魔王アジュカ・ベルゼブブだ。まあ急に改まった態度になられても調子が狂うから常連客と同じ扱いでいい。……どうしたんだいまた固まって。魔王であることは知らなかった? ……サーゼクスめ、あえて黙っていたな』
『ご馳走様、今日も美味かった。店長、悪魔になってしまったのは予想外だったが、それでも変わらずこの店を切り盛りしてくれることを嬉しく思うよ。今日は1分ほど煮込みが足りなかったと見えるが。新人教育も大事にね』
……とのやり取りで判明した。サーゼクス様の時も思ったけどフランクかつ態度が軽くて意識が飛びそうになった。軽い調子で明かす内容じゃねえんだよ。煮込みの甘さを指摘してくる辺りはいつもの平麺さんで逆にホッとしたが。このヒトが悪魔の駒だのレーティングゲームだの、今の悪魔社会を支える発明を数多く排出してきた魔王だったのか……。
「つかお前、気が付いてただろ。お前もあえて何も言わなかったな?」
『魔王だとは気が付いてなかったぞ、嘘偽りなく。あの男、かなりの隠蔽を重ねてはいたから相当な実力を持つ悪魔だとは思ってたが……』
「……万能だな平麺さん」
魔王も常連になる九頭龍亭、一体あそこに何があるんだろうなぁ……? 一介の転生悪魔が店長やってていいお店じゃなくなってきてる気がするよ……。
…………話が逸れすぎた。ともあれまずは、部長に『聖剣と木場祐斗』の関係について聞く必要がある。ある……ンだが、これを素直に聞いていいものなのか。コレを聞く、つまり厄介事の構図だ。これでなにか問題が起こって部長の責任とかになったらそれは困る。つい最近ライザー氏にも怒られたばかりだし。かと言って何も伝えずにのんべんだらりと過ごすのも……ぐぬぬぬ。
「つーか地雷がそんな所に埋まってるなんて分かるかよ……恨むぞイリナちゃん……!」
「へぇ、地雷って何のことかしら?」
「そりゃあお隣さんの家に飾ってあった、推定聖剣のことで…す、が。……あっ」
自室の扉に目を向ける。そこにはとてもニッコリと可愛い笑顔を見せてくれる部長の姿が。
「はぁいイッセー。まずはその聖剣の話について聞かせてくれるかしら?」
「…………はい」
……まぁ、なし崩し的に祐斗クンについても聴けそうだからいっか、と僕は開き直ることにした。
感想に評価、ありがとうございます。
調子よく書けるうちはテンポ良く投稿していくつもりなんでよろしくお願いします。