今更、そんなファンタジーがあるかなんて言わない。少なくとも、僕は悪魔、彼女たちも悪魔。
……もちろん、なんで早く教えてくれなかったんだといつ気持ちは大いにある。いろんな意味で耐えられなくて、死にそうだった。
それでもこうして助けてくれて、恐らく悪魔になることにはなったけど命まで拾ってもらえて。そう思うと、怒る気どころか感謝しか零れてこない。
「…………ありがとうございます。僕の勘違いでなければ、僕はあの時死んで、貴女に生かされてる。そうですね?」
「ええ。あなたがあの天野夕麻と名乗った堕天使に殺されかけて、虫の息だったところを、悪魔に転生させたということなら、私がそうしたわ」
……若干、自己嫌悪が滲んでるのは何故だろうか? 責めてるように、思われてるのだろうか?
「本当にごめんなさいね。本当なら早くにでも伝えるべきだったのに、追い詰めてしまったみたいで」
「あー……いや、まあ精神的に不安定だったとは思いますけど、間違った判断ではないかと思いますヨ? 急に『お前は悪魔になったんだー!』なんて言われても、適応力に定評のある僕だって妄言を疑いますよ。おそらく、自分で別の物になってしまったっていう自覚を促すために、しばらく期間を置いてたのだと推測しますけど」
「その認識で間違いないわ」
なるほど、なるほど……。
とりあえずお礼を言えてスッキリしたので、頭の中で質問を幾つかまとめる。
「悪魔とか、堕天使とか、そんな事情は今はいいです。まず2つ質問があります」
「分かったわ、どうぞ」
「僕の今の扱いはどうなってるんでしょうか? あなたの下僕とか、そんな扱いになってたりするのですか」
「ええ、そういうことになるわ。悪魔に転生した者は、転生させた悪魔の下僕となる。悪魔のルールね」
そんな気はしていた。というか昨日心臓掴まれたような気分になってたのは、上位者が下僕の手綱を握る的それってことか。
「分かりました、受け入れましょう。僕はあなたの下僕だ。主人リアス・グレモリー様」
「……即決ね、本当にいいのかしら?」
「ルールなら従うべきですし……死にたくはなかったけど、あの時死んでもいいと思ったんです。捨てた命を拾われたんだ、もうコレは僕のモノではないでしょう」
それに、と言葉を続ける。
「僕は貴女に救われた。これは、命を使い潰してでも返すべき恩義だ。誰より何より、
「…………」
「……あれ、もしかして僕要らない子だったりします?」
なんか、そんな微妙な顔をされるとすごく死にたくなるんだけど。観賞用レベルの美貌だけど、この人(悪魔?)僕の好みにどストライクだし。
「……いえ、そんなことはないわ。ただ、マッチポンプの様に思えてね」
「マッチポンプも何も、恩人なのは疑いようも無い事実じゃないですか」
少なくとも悪いことはしてないのだし、気に病まれても困るんだがなぁ。そのツケは全部あの元カノちゃんに払わせた。大勝利(勝ってない)。
まあ、僕は気にしちゃダメだよね。これからの頑張りで払拭していこう!
「では改めて、新人下僕悪魔の兵藤一誠です。よろしくお願いしますっ!」
さあ、ここから新生兵藤一誠が始まる。
僕の頑張りが世界を救うと信じて……!【〜完〜】
◆◆◆
……なーんて打ち切りエンド風のモノローグは置いておいてだよ。まだ質問あるし。
「では主人リアス・グレモリー様。もう1つ質問よろしいでしょうか?」
「そんな堅苦しくしないでイッセー。部長でいいわ部長で」
「分かりました、では部長と」
それで、何聞こうと思ったんだか……あ、そうそう。
「なんで僕は殺されたんだと思います?」
「直球ね」
「そりゃあ、そうもなりますよ……殺される理由に思い当たるところがまるでないんですから」
品行方正で通ってたと思うよ僕は。恨みを買うようなことは……まあ、ない? ないよね、ないと思いたい。少なくとも堕天使なんていうファンタジー種族には。
「あら? でもあなた、かなりの頻度で危ない橋を渡っていたでしょう?」
「……ふへ?」
間抜けな声が漏れたのを、部長は微笑ましいものでも見るようにくすりと笑って、姫島先輩に言った。
「朱乃、調査報告書をお願い」
「はい、部長」
そう言って、先輩がどこからかファイルを取り出して、それを部長に渡した。……見間違いじゃなけりゃ、どう見ても『兵藤一誠』って書いてるんですが。
「ここに、あなたの調査報告書があるの。それを踏まえて、恨みを買った覚えは本当にないのかしら?」
「少なくとも堕天使なんてファンタジーな連中相手には。あったこともありませんし」
「ふふっ、上手いこというわね。それとも、慣れてるのかしら?」
…………あ、これアカンやつ。僕がこれまでやってきたことバレてるパティーンでは?
「最近、この駒王町ではちょっとした噂があって。どうも、素顔を隠したヒーローが出没するそうね」
「そのヒーロー、多分隠してる自覚なんてないと思いますよ」
「あら、そうなの?」
「赤いパーカー着ただけで、フードを被ってるわけでもない。単にその顔が印象に残らないだけです、異様な程に」
そう、まるで僕のような。と観念して吐き捨てた。
「そもそも、ヒーローしようと思ってやってるわけじゃないです。ただ、僕の精神的安寧のために、困った誰かを放置できないだけです。心の狭い人間だと思われたくない見栄っ張りとも言います」
バイト帰り、夜も遅いので不穏な場面に出くわすことは稀にある。ひったくりとか、酔っ払いが殴り合いしてたりとか。……見て見ぬふりは出来ないんだよね、モヤモヤするし。
だからその場面に出くわした時だけ、何かしら自己満足のために身体を張る、自己満足のために。大事なので2回言った。
そんなことをしてたら、姿のないヒーローとして有名になるんだから、何が起こるか分からないよね。ちなみに、天野夕麻からの告白を受けて突っぱねなかったのは、そうした流れで関わりがあった人かもしれない、という判断もあったからだった。勘違いも良いところだけどさ。
「…………もしかして、そのせいだなんて言いませんよね?」
「ええ、言わないわ。違うもの」
「……では何故」
「あなたの人となりを直接把握したかったから……かしら?」
悪戯っぽく笑う様がとても絵になりますね、部長。流石悪魔なだけあります。
「真面目な話をすると、貴方は『常人には持ちえない何か』を持っていて、それを危険視されたために狙われたのよ」
「……心当たり、全くないのですが」
だってほら、自他ともに認める平凡オブ平凡ですし。庶民サンプルとして優秀な、どうも僕です。
「確かにそうね。どう見ても発現している風には見えなかったし。恐らくあちらも、ギリギリまで判断が付かず、調査のためにあなたに近付いたのでしょうし」
「…………」
まあ、よくわからないけど。僕にはなんかの力が備わっている。目覚めてはいないけれど、危ないから処理をしたい。だから殺された、と。そんな感じなのは分かった。
「……驚く程冷静ね」
「ええ、まあ。実際に殺された身としちゃたまったものではありませんが……人間もよくやることですから、なんとも」
ほら、鳥インフルとか豚インフルとかで殺処分をするじゃん。『危険』だからって理由で。納得は出来ないけど理解はできる。
「それに結果的に生きてますので、『そうなんだ』ぐらいのことしか。ちゃんと仕返しもしましたし、特にこれと言って何か思うことはありません」
「そ、そう」
まあ、運は悪かったんだろうなと思う。そして悪魔として拾われたので、僕の中では打ち消されてる。生きてりゃめっけもん、だ。これ以上何を望めばいいのやら。
「それでその不思議パワー、名前はついてないんですか?」
「私達はその何かのことを、『
「セイクリッド、ギア……ねぇ」
そんな物が、僕の中に? というか、どういうものなんだろうか?
という風に首を捻ってると、木場クンが口を開いた。
「神器とは、特定の人間の身に宿る、規格外の力。例えば、歴史上に名前を残す人物の多くがその神器所有者だと言われているんだ」
「へぇ……。じゃあナポレオンなんかは、カリスマを得るような神器を持っていた、とか?」
「ありえない話じゃないね」
そうなのか……まるで『才能』みたいだな。
「現代でも、神器をその身に宿している人はいるのよ。世界的に活躍している人達の大半は、神器所有者でしょうね」
「い、今明かされる衝撃の真実ゥ……」
姫島先輩が続けて入れた説明に、少し頭がクラっとした。意外と身近なものなのね……。
しかし、だとすると僕の神器って一体……? 危険視されるようなものだとは思わないんだけど、その程度なら。
と思ってたら、補足を入れるように部長が口を開いた。
「大半は、人間社会規模でしか機能しないものばかりよ。ところがその中には私達悪魔や、堕天使の存在を脅かす程の力を持った神器が存在しているわ。おそらくあなたの中にある、まだ目覚めていない神器も」
「……うぇ、いらね」
おっと、思わず本音が。だって現状厄ネタでしかないじゃん。
しかしその本音がウケたのか、お姉さま方はくすりと笑っている。なお、木場クンは苦笑、塔城サンは無表情だが。
「でも、使いこなすことが出来ればこの上なく便利なものよ。特に、これから悪魔の社会で生きるあなたにとっては」
「……なるほど、言われてみれば」
人間社会では持て余すものだが、悪魔を相手にするこれからの生活では、確かに有用なのか。……これのせいで死んだことを考えると、実質±0だな。
「ちなみに、発現させるのって何か特別なことをしないといけないとかってあったりするんですか?」
「いいえ、なんなら今からでもできるわ。早速だけれど、手を上にかざして貰えるかしら」
「分かりました」
とりあえず、言われるがままに右腕を上げた。
「目を閉じて、あなたの中で一番強いと感じる何かを心の中で想像してみてちょうだい」
一番強い何か、ねぇ。
まずフィクション系は全て除外。いや、強いんだろうけど、僕が『現実にはいないし……』と思ってしまってるからダメだ。すまんな空孫悟、二次元に生息していたのがダメなんだよ。
あと強くても、実感が湧かないものは同じ理由でNG。銃火器とか強いと言えるけど、現物見たことないし。
となると、一択だな。僕を殺してくれやがったあのこんちくしょうの元カノ、天野夕麻。
「想像出来たら、その存在が一番強く見える姿を思い浮かべるのよ」
…………相手を見下す様に、『死んでくれないかな?』と言って槍を突き出す姿? これ、どうなんだろう、確かに強そうなんだけど。
「……では、ゆっくりと腕を下げて、その場で立ち上がって」
右腕を下げて、立ち上がる。さあ、次はなんだろう? まあなんか僕の頭の中で警鐘鳴ってるから、碌でもないことな気はしてるけども!
「そして、その姿を真似なさい。強くよ? 適当にしては発現しないわ」
「ウソだろおい」
え、今から僕、『死んでくれないかな?』って言って槍を突き出すモーション取らなきゃいけないってわけ? ……レベル高ぇなぁ。
まあ、いいや。やるからには本気でやろうか。おままごとでも、振り切って遊ぶ方が楽しいってもんだ。
すぅー……はぁー……。
……あの日が沈む瞬間の出来事。まだ心に焼き付く、絶望の瞬間。アイツは、まるで消しゴムを貸してくれないかな? みたいな調子で、ニッコリと笑って、言った。
「……[死んでくれないかな?]」
誰かの、息を呑む音が聞こえた。
そしてそのまま、左腕を僕の腹部に突き出すように…………オルァ!
「……さあ、目を開けなさい。魔力の漂うこの場所でなら、神器も容易に発現するはずよ」
部長の指示に従って、ゆっくりと目を開く。……何も、起こってないな。と思った瞬間、突き出したままの左腕が、赤く、眩く光りだした。
あ、これアレやっとかないとダメかもしれない!
「目がァ、目がァー!?」
実際、目が灼ける様な光だった。赤く、力強い、光だった。この期に及んで信じてなかったわけじゃないけど、確かに僕の中に変なものが入ってたんだな。あと誰も僕のボケに反応してくれなかった、残念。『海底の城アトランティス』のカムス大佐は有名だと思ったんだけど。
光が収まって視界が回復してきて、僕はようやっと『それ』を見た。左腕に装着されていた、それを見た。
かなり凝った装飾の、赤い籠手。手の甲の部分に、翠の宝玉が埋め込まれている。見た感じ、何某かのコスプレアイテムのようにも見えるが。
「それが、あなたの神器よ。……見た感じ、『
「トゥワイス・クリティカル。なんか、二撃決殺みたいなカッコイイ響きですね!」
でも首を捻ってる部長を見ると、恐らくそう大したものではなさそうだ。
「ふふっ、確かに言葉の響きはそうね。でも、その神器は割とありふれたものよ。使用すると、所有者の力を一定時間倍にする力を持っているわ」
「なんぞ、そのチート」
力を倍って、それ普通にヤバくない? と頭を回転させてあれこれ考える。
「そ、そう、かしら?」
「『力』の範囲が適用されるのかは不明ですけど、仮に僕にかかる『摩擦力』にも適用されるなら、上手く使えば壁登りにも使えそうですし、そんな凝ったことしなくても視力、聴力を倍化すれば諜報には便利でしょうし、『エネルギー』も力の範疇に収められるなら質量だってエネルギーだし、重さだって上げられる。普通に有能なのでは?」
あーでもどうなんだろ、僕が思い付くようなことって誰でも思い付くような気もするけど。それで微妙評価なのだとしたら……ま、いいか。検証検証。
「まあ、でも安心しました」
「それは必要以上に強力な神器ではなかったから、かしら?」
「あれ、顔に出てました?」
「あなたの様子見てたら何となくだけど、分かるわ」
ああ、まあそうかもしれないね。
変なものが入ってたから殺されてしまった、というのは置いておいて。ほら、悪魔になっちまって普通とは外れてしまって、その上で悪魔社会での普通すら飛び越えてしまうようなものが入ってるんじゃないかってドキドキしていたけれど、実際はありふれた物。やっぱり、身の丈に合ったものが一番なんだって。
「ふふっ、まだまだ『異常な普通』の名前は返上しなくて良さそうです」
機嫌良く呟く僕を、4人はおかしなものを見るような目で眺めていた。
◆◆◆
「……おかしい」
「危険視されて殺されたイッセーから出てきたのは、龍の手」
「……少し、調べる必要がありそうね」
◆◆◆