「というわけで、新しくこの店で働くことになりました木場クンと匙クンです、皆さんよろしくお願いしますね」
「「「よろしくお願いします!」」」
「よ、よろしくお願いします……?」
「よろしくお願いします……。いやなんでこうなってんだ?」
「じゃあ今から僕達は事務所の方で研修行うので、何かあったら呼んでくださいね、すぐ対応しますから」
というわけで九頭龍亭1号店に仲間が2人も増えましたーぱちぱち。……少しだけ経緯をおさらいしようか。
◆◆◆
元々僕が部長にお願いされていたのは、祐斗クンを研修という名目で九頭龍亭に待機させたいということだった。僕は彼のお目付け役として、表向きは店長業務に当たってくれということだ。
『あなたの裁量で、説明する範囲は任せるわ。必要なら全部話したっていい。その辺の見極めは得意でしょう?』
『そりゃまあ、顔色伺うのは得意ですが』
なんでこんな奇策を打つことになったか。1つは単純に、仕事を沢山与えて色々と考える余裕を奪おうって話。まあこれは上手くいけばいいな、位でハナから成功するとは思ってない。そこまで部長も僕も彼の復讐心を舐めてはいないのだ。
もう1つは、通常の契約業務に支障をきたしかねないから。僕は『でもあのなんでもソツなくこなす優等生イケメンだぞ……?』と思ってたんだけど、部長は眷属のことをよく見ているようだ。今日の彼は結構目も当てられない感じで上の空だった。この状態で契約業務に就かせたら彼自身の悪魔としてのキャリアに傷が付くかも、ということで特殊な形態を取ってる僕の悪魔としての仕事の手伝いをさせるとのことだった。まあ元から何回かはグレモリー眷属で研修してもらうつもりだったから、それが早まっただけってことなんだけど。
最後に……まあこれが1番重要なんだが、僕の役目がお目付け役とあるように有事の際は彼を無力化してくれということだ。朱乃サン辺りなら問題なく止められるそうなのだが、互いに無傷という訳には行かない。その点、僕は無傷で相手を昏倒させる裏技があるから、それ故の抜擢ということだ。
……んで、匙クンまで一緒に来たのは僕も謎、というか生徒会長から貸し出された人員の1人ということらしい。夜間警備にも何名か手伝いを寄越して貰えたらしい。代わりに表の部活で生徒会の仕事をいくらか肩代わりする、という形で等価交換みたい。
「てなわけで本当に申し訳ないね、急な話で戸惑ったでしょ。最悪匙クンは働かずにここで時間潰すでもいいからさ」
「いや、そういうわけにもいかないだろ。会長の命令で来てるわけだから、ここでちゃんと仕事しなきゃ会長の顔に泥を塗ることになる。……それに、ちゃんと給金出るしな」
「おん、そこは任せてよ。時給1500円ね」
「飲食店のバイトにしても破格の時給だな……ちょっとありがてぇ。儲かってんのか?」
「じゃなきゃ高校生が店長やるの許してくれないよウチのボス。仕事に関してはあのヒト結構シビアだもん。あー、ラーメンも勤務4時間につき1杯は賄いで出せる。そこのサーバーのスポドリはどんだけ飲んでもOK、熱中症対策だ。細かいお店のルールは纏めたのがそこの棚に置いてあるから適当に読んでおくれ。どっちにしろ初日から2人をお客様の前には出せないからね」
「分かった。…………どんなアレかと思ったけど、ちゃんとした店なんだな」
「4月まではブラックだったよここも、ウチのボスのお陰だ」
「へぇ〜」
そう言って匙クンは事務所に置いてあるデスクの1つに陣取り、僕が頼んだとおり店のルールを纏めたファイルを手に取って読み始めてくれた。
……さて、今からが本題だ。僕は部長に教わった簡単な遮音結界を魔力を使って僕と祐斗クンの周りに張る。これも言わば振動を操る技なので、水分子の振動を制御できるようになった僕には割と直ぐに身に着けることができた応用技だった。
「じゃ、ちょっと個人面談をしますわね〜」
「……これはキミの差し金かい?」
「半分間違い。昨日様子がおかしそうだから部長に報告はした。警鐘も鳴ったしね」
「……?」
神器の詳細は伝えてないけれど、警鐘の話については余すことなく眷属の仲間たちには言ってある。だからどういう理由で鳴ったのか分からない、といった感じだ。
「遠くない先で、厄介事が起こるって感じの鳴り方だった。多分、聖剣絡みだろう。……ごめん、僕は部長からキミの過去について無理矢理聞き出した。あまり聞かれたくないことだったろ」
「…いや、いつか行動に移したとき、隠し切れることじゃないからね。それで、暴走をさせない為にこんなことを?」
「2割正解。でも我らがボスは、キミの復讐をバックアップするつもりの様だぞ」
「……えっ?」
心底意外だったのか、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔、のまさにお手本と言った感じで、口がポカンと空いた間抜け顔を晒した彼を見て、『どこまで話したもんか』と悩む。
「詳細は教えてもらってないけど、教会側からエクスカリバーが盗まれたらしい」
「ッ!!」
「落ち着け、そして座れ。……無理もないってことは察するけどな」
ガッと立ち上がった彼を制止。向こうもなんとか理性を総動員してくれたのか、なんとか座ってくれたが、目も据わっている。怖いから本当に勘弁して欲しい。
「放課後集まって説明あったろ、駒王町に神の子を見張る者の手のものが侵入した形跡があるって。あれは7割嘘なんだってよ」
「……でも、嘘なら部長や生徒会長は動かない」
「イエス。奴ら様の行先の候補に駒王町が最有力候補に入ってる、という予測だ。そして、エクスカリバーを盗んだのは、」
「神の子を見張る者……。成程、それで僕の監視をするってことなのかな? 僕が我を忘れて行動した時に対処する為に」
「3割正解。……言ったろ、我らがボスはキミの復讐をバックアップするつもりだって」
そう言って、僕は自分の通学カバンから資料を……部長から預かったエクスカリバーのソレから見せてもいいものを纏めた束を引っ掴み、向き合った陰鬱な面の男に寄越す。
「これ、は……」
「監視目的なのもあるが、実の所拘束時間が契約内容次第で大きく変わる通常業務をさせない為なのが主題だ。監視網に引っかかった時にお前に直ぐに出てもらえる様に、かつお前の経歴になるべく傷をつけない様に仕事を調整するとなると、ここで研修というのが1番都合が良かったのさ。データ取りで研修はしてもらいたいけど、いなくても仕事は問題なく回るからな」
「…………」
「お前、本当に愛されてるよ。あのヒトはお前に幸せに生きて欲しかったみたいだけど、それでもお前の生き方を否定していたわけじゃなかった。こうして虎視眈々と、合法的にお前が本懐を成し遂げる機会を狙ってたんだよ。見返りもクソもない、なんならかなり危ない橋を渡ってる。これが愛じゃなけりゃなんだってんだって話さ」
彼の目に戸惑いが宿る。多分、自分の胸に去来した感情を上手く整理できないんだ。何となく察するものがある。自分は恵まれているとか、それに近いことを考えてるだろうと思う。
「僕もその手の感情に理解はあるし、なんならこの手で復讐を完遂した身だ。それでお前の復讐を手伝わないは筋が通らねぇ、全力でサポートしてやる。……だが、それでお前があのヒトを窮地に追い込むことになってみろ。必ず僕はお前を殺す。そしたら晴れて犯罪者だ、後腐れない様に僕も死ぬ。どうだ、やる気は出たろ?」
だから、
とても長く感じる沈黙の10秒の末、彼の方からそれを破った。
「……殺害予告をして、それでやる気が出たかって、普通聞くかな?」
困ったように、それでも今日初めて、彼は笑顔を浮かべた。
「いいじゃんか、励まし方は人それぞれだ。最近身に着けた、僕なりの個性ってヤツよ」
「初めて会った時から、イッセーくんは個性に溢れてたけどね」
「うーん、そいつはちょっと目が節穴じゃねぇかな」
ナハハ! と笑うと肩をちょんちょんとつつかれる。なんだよ、今ちょっぴり感動的なシーンなんだが!
「おい、おいお前ら…………エクスカリバーって、神の子を見張る者って何の話だよ……?」
「「あっ」」
『途中から遮音結界解除されてたぞ、迂闊なヤツめ』
も、もしかして僕ちゃん、やっちった……?
◆◆◆
僕の良くないところは1つのことにしか集中できない点だ。つまりどういうことかって言うと祐斗クンとの話に集中し過ぎて遮音結界の維持が疎かになっちゃったらしい。馬鹿なのかな?
というわけで隠すわけにもいかず、彼に了承を取って全部ゲロった。洗いざらいゲロった。部長に匙クンには話しちゃいけないとか言われてないのでゲロった。
結果どうなったか……
「うぅぅぅ……」
匙クンが泣いた、あまりに悲惨な話に大号泣した。というか当事者から話してもらっただけあって新情報と細かな感情の補足も入って話を先に聞いてた僕も目から鱗と涙が溢れた程だ。
「お前、本当に辛い過去を送ってきたんだな……ちくしょう、我がことのように泣けてきやがる……!」
「あーあー泣くなとは言わんがシャツで顔を拭うな。おら、ウエスで顔拭け」
「すまねぇ……助かる……!」
それにしても、結構涙脆いというか熱血というか……ちょっとしか付き合いがなかったけど、それでもなんか意外な一面というか。
一頻りおんおんと泣いて落ち着いたヤツは、真っ赤な目を擦りつつ口を開いた。
「そういう話なら協力してやりてぇ。やりてぇ……んだが、会長がなんて言うか。多少の折檻で済めばいいんだが……」
「生徒会長はやっぱり厳しい感じ?」
「そりゃあもう。もちろん理不尽なことはしないが、明らかにルールを破るようなことをすれば……」
顔を青くし、身震い。そ、そうか。なんか思い出させたくないこと聞いて悪かったよ、うん。
「とりあえず、部長がどの程度生徒会長に話をしたか分からないから確認は取っといた方がいいと思う。流石に堕天使や聖剣相手に突撃しろとは僕の勝手な判断では言えんよ、実際僕は堕天使に殺されて転生したしな」
そう言うとまるで信じられないものを見たかのようにヤツがこっちを見てくる。なんだよぅ、どういう解釈で受け取ればいいんだソレは。
「いや、お前死ねたんだなって」
「不死身のバケモノとでも思ってたんかいテメェ」
「いやいや冗談だ、9割ぐらい。で、その堕天使は……」
「喉喰いちぎって殺した、完膚無きまでに」
「ああうん、それでこそだよな……逆に安心したわ」
逆に安心するってなんぞ、と思わないでもないがそれは置いておいて。……いやぁ、元カノ堕天使をちゃんと殺しておいて良かったよ。じゃなきゃ夢に出てきて魘されてそう。ふぁっ○ゅー。
「そういや、僕は部長から九頭龍亭の手伝いで匙クンが来るって聞いただけで詳しいことは聞いてないんだけど」
「駒王町に他勢力からの侵入者の形跡があったから警戒態勢に移行するって聞いたんだよ。それで俺はお前に協力しろって言われてここに来ることになったんだ」
にゃるほどねぇ。不確定な情報が多いから確実なことは言えんわな。…………あっ、やっぱ話したのまずかったかもしんねぇなこりゃ。
「……祐斗クン、これ話しちゃまずかったかな?」
「うーん……かなりまずいと思うよ」
「匙クンごめん、聞かなかったことにしてくんね?」
「できるかアホォ!! この、このやり場の無い感情をどこにぶつければいいんだよ!?」
「敵が来たらそいつらにぶつけよう! 大丈夫、部長の予測では9割駒王町に来るってよ!」
「ちくしょう分かったよその時はやってやる! でも兵藤、お前本当に覚えとけよ! 絶対何かで復讐すっからな!!」
うがァ! とキレる匙クンに本当にごめん、と心の中で謝る。賄いラーメンはちょっと豪華にしてやろう。
「ところで結局、僕達はここで何をすればいいんだい? 初日から店に立たせるようなことはしないと言っていたけど」
「あー、それね。ちょっと待ってて」
そう言って僕はまたもカバンから1つの紙の束を取り出す。僕が今制作中の、九頭龍亭のマニュアル:店長編だ。
「祐斗クンは聞いてるかもだけど、ウチの部長は『人間相手に契約を取りやすくする仕組み』を商材として売ろうと考えてるんだよ。ターゲットは契約業務が振るわない元転生悪魔の上級悪魔とかに対して。九頭龍亭はその実験で運営してるところがある」
「リアス部長、そんなこと考えてるんだな」
「そ。んで、そうなると重要なのはこういう店舗経営が初めてでもちゃんと運営できるマニュアルってかなり重要だと思うんだよね」
そう言ってマニュアルを2人に見せる。作りかけだったそれを突貫工事で作ったものだ、あまり人に見せられたものじゃあないが、コレが一応の本題なので見せない訳にもいかない。
「完璧なマニュアルってのはこの世に存在しないと思うけど、それを商品として売り出す以上、それに近いものを作る必要がある。つまり……」
「未経験の俺たちでも、問題なく店舗運営ができるマニュアルが仕上がってるかどうかを、実際にやってみせたいってことか」
「うん、データ取りってそういうことなんよ」
ウチの時給が高いのも、その実験手当が含まれてるところがある。将来への投資だ。まぁ、儲けはちゃんと出してますが? だいたい経営担当の平野サンのお陰なんだケド。あのヒトを切った前の会社は相当人材に余裕があったに違いない(ド皮肉)。
「かなり大きなプロジェクトに関わってるんだね、このお店……」
「そうなんだよ、結構荷が重いんだよ。なんで僕が店長やってんだろうね……」
だいたい部長の罠だが。できる女社長だけど無茶振りは酷いよね。
「まあだからって2人にそれ見てぶっつけ本番でやれってんじゃなので、それを見て何となくできそうかどうかを判断してもらいたいのと、実際に厨房に立ってもらってラーメンの提供をちょっとだけでいいからやって欲しいって感じよ。校外学習でやる職業体験の延長線的なアレで」
「おう、そういうことなら任せとけ!」
「うん、じゃあイッセー店長。よろしくお願いします」
ま、本題は聖剣を盗んだ堕天使の件なんだけど。でもことが起こるまでは心穏やかに過ごしたっていいじゃない。そんな風に思う僕なのであった。
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