兵藤一誠は『異常な普通』です   作:FGMe/あかいひと

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難産にも程があった……


その6

「ンじゃあ今日もお疲れ様でしたー。遅くまで本当にありがとうね!」

『『『お疲れ様でした!』』』

 

 時刻は日付を跨いだ頃、普通のアルバイトさん達には帰ってもらい…………

 

「じゃあ悪巧みの時間と洒落こもうか」

「お前が悪巧みとか言うとシャレにならないからやめろ」

「犯罪の片棒を担がされそうで少し怖いよね」

「お前ら、終いにゃ僕は泣くぞ」

 

 悪魔かよオノレらは……悪魔だったか。じゃあ仕方ないか。何を企んでるのかを察してる小猫チャンだけが苦笑するに留めてるのが唯一の救いだ。

 

「単純にアレだよ、本格的な深夜徘徊のお誘いってヤツだ。何のために夜の拘束時間を減らしたんだか分からないだろってこった」

「そうならそうと最初からそう言え」

「あんな感じで言った方がいい感じに肩の力も抜けると思ったんだよ。…………お前のことを言ってんだぞ優男、殺気しまえしまえ」

「…………ああ、分かってるよ」

 

 『深夜徘徊』、と言ったところで察しが着いたらしい我らが騎士、やはり恨みは根深いのかアレだけ言っても殺伐とする模様。仕方の無いことだけどね。

 

「ただ、大義名分が無けりゃ僕ら3人はともかく、匙クンは上司殿に折檻を食らうかもしれない」

「巻き込む前提かよ……」

「でも今更蚊帳の外は嫌だろ?」

「それはそうだが……」

 

 てなワケで、と小猫チャンに目配せする。すると彼女は業務用の冷蔵庫から袋を取り出してきてくれた。中身は、アンパンとパック牛乳である。

 

「なんだこの刑事の張り込みセット、それも沢山」

「さっき小猫チャンに買い出しに行ってもらってた。差し入れをしに……という名目なら怒られんだろ? 怒られるのは情報を開示しなかった僕、というテイでいこう」

 

 まあ行動を起こした初日からぶち当たるとも思わねぇけれども。しかし楽観するには僕の中身がなぁ……。

 

「……裏は無い、よな? そこは信用していいんだよな?」

「流石に怒るぞテメェ。僕は逃げも隠れもするし嘘もつくが、自分のやった悪行を擦り付けることも、それで恩を着せることもしねぇよ」

「いや違ぇ、そこは疑っちゃねーよ。底抜けのお人好しなのは重々承知してる。けどお前が俺たちをダシにして、1人で事を起こすことはほんの少し疑ってる」

「そっちもそっちで怒りたいけどねェ!? 花を持たせる位の配慮はできる男だが!?」

 

 匙クンからの評価が本当にボロクソで笑える、いや笑えねぇや泣けてくる。おらそこ、納得したように揃って頷くんじゃあない!

 

「全く……いやまぁ僕ァドラゴン系神器持ってるから普通よりは厄介事に巻き込まれやすくなるとは考えてるけどさ。流石に3日やそこらで何かが起こる程じゃあないだろ」

「え’’???」

 

 喉が裏返ったようなダミ声が匙クンの口から漏れてその他全員が視線を向ける。ビックリする程青ざめてるし……何より警鐘が鳴り始めた。これは、もしや…………。

 

「……単刀直入に。お前、もしかしてドラゴン系神器を持ってたり?」

「……………………する。『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』っつーヤツ」

「「「………………」」」

 

 いたたまれなくなったのか、ヤツは右手を突き出した。するとそこにはデフォルメされたような黒いトカゲの頭みたいなのが着いていた。

 

「……やったな祐斗クン、多分今日何か起こるぞ」

「……それ、喜んでいいことかな?」

「……なんかすまん」

 

 ズーンと頭が重力に負け始める男子共、ご多分にもれず僕の視界も下の方に下がってくる。

 空気を変えたのは小猫チャン。クラッカーにも負けない音量で手を叩いたことで、仲良く肩を跳ねさせて視界が上を向いた。

 

「…悪いことばかりではありません、少なくとも心構えができる。それに確定というわけではない。そうでしょう、イッセー先輩?」

「それはまあ……勿論。すぐにどうこうって感じの警鐘の鳴り方じゃなかった。まあコレも百発百中というわけじゃあないし、完璧にアテにしていいものじゃないけど」

「なんだよその警鐘ってのは」

「後で説明する。ざっくり言うと第六感」

「把握した」

 

 なんにせよ、僕たちのやることは何ひとつとして変わらない。浮いた時間を使ってやりたいことをやるだけだ。ドライグが戻ってきてからが良かったけど、いつでも万全な状態で戦えるわけでもなし。

 ……仕方ない、腹ァ括るか。

 

「じゃあ、()()()()しに行こっか」

 

 気合を入れて頷き合う。さあ、良からぬことを始めよう。

 

 

◆◆◆

 

 

「…………おかしい、覚悟をキメてフラグも建てたのに。何事もなく差し入れが終わりそうなんだが」

「何も無いならいいじゃねぇか。……いや、巻き込まれたくないとかじゃなくてよ」

 

 本っ当に何も起こらずに監視組に張り込みセットの差し入れがほぼ終わってしまった。あとは部長に渡すのみというところ。ココ最近立て続けにイベント開催中だったから疑心暗鬼になりそうだ……。

 

「それに喜んでいいのか悲しんでいいのやら、だよ。こんだけのフラグ力積み立てておいて何も無いってことは、部長の読みが外れたってことだ。……僕は短いけど、僕より付き合い長い2人的にどう? あのヒトこういう読みを外すタイプ?」

「どうだろう……根回しが異様に上手いこと以外は、そういう手腕が振るわれる機会って無かったからね」

「……(コクコク)」

 

 そうか、そうなのか……。待ってもしかして僕が眷属になってからかなり面倒なことになってないかあのヒト。

 

「……んー、やっぱどっかで死んだ方がいいか? 白いヤツと一緒に溶鉱炉に沈んでいくシーン再現した方が良くない?」

「やめてね、本当にやめてね。絶対タダじゃ済まないから」

「次そんなこと言ったら、報告します」

「分かった、分かったから! なんかあったらその後一生陽の光を拝めなくなりそうで嫌なんだよ!」

「お前、何したんだ……?」

「「目の前で告白してほぼ自殺」」

「タチの悪いヤンデレ製造機じゃねぇか!!!」

「うるせぇ!! なんもかんも僕を復活させた悪魔の科学力が悪い!!!」

 

 あとは僕の中のクソトカゲが何より悪い。なんで僕に可能性を見たかなアイツ、目が腐ってんじゃないの?

 

「んんっ。まあともかく、杞憂ならいいんだが別の問題が噴出しちゃうな。あのヒト的にも満を持してって感じだったし何も無いってェことは無いとは思うんだけど……」

 

 そこで少し僕は考えてみる。もし僕が堕天使陣営側、しかも今回事を起こしたメンバーだとして。どういった理屈で、どういった方法で次のアクションを起こすか。

 

「そもそもだ、聖剣を使って大それたことができるか?」

「と言うと?」

「これから復讐の為に聖剣を壊そうとするお前には申し訳ないことを言うんだけど……剣は所詮剣だ、個人兵装であり、それで大それたことをしようにも限界があるように思う」

「…………それは、確かに」

 

 いや、凄い剣なのは分かる。人伝に聞いてさえ凄いとしか思えないのだから、それはもう凄まじい聖剣だったのだろう。だが……それも所詮壊れる程度の剣だ(壊したのがクソトカゲなのは置いといて)。神が持っていたインフレ性能甚だしい刀剣類とは比べるべくもない、特にインド神話に出てくるようなの。

 

「聖剣が欲しかっただけじゃねぇの? 神の子を見張る者は研究者が多いって話だろ、じゃあ聖剣の研究しようと思ったって不思議じゃねぇだろ。あと単純に悪魔達(オレら)に対しては使える武器だしよ」

「その為だけに教会勢力に喧嘩を売るような真似するか? 下手したら戦争だぞ」

 

 そう、下手したら戦争………………戦争?

 

「……教会勢力への挑発、聖剣、警鐘、駒王町、魔王の血縁が2人」

 

 そして今回、事を起こしたのは恐らくレイナーレ達の様な少数グループだと部長が予測していた。つまり、つまり、だ……。

 

「……溝を作って戦争の火種を作る、こと?」

「まあその辺が妥当かしらね? だって今回の下手人のコカビエルって、神の子を見張る者の中ではタカ派で有名だもの」

「へぇ、そうなんだ。詳しいね」

「敵のことはちゃんと調べるに決まってるじゃない、それがウチから聖剣奪ったともなれば余計にね」

「それもそっかー……」

 

 …………横を見る、そこには白い外套を纏った栗毛のツインテール女子がいた。いや、この表現は正確ではない。僕らにとっての明確な敵がそこにいる!

 

「皆離れろ!!」

「「「ッ!!」」」

 

 離れ、少女を囲むように各々が戦闘態勢を取る。その中心には、僕と…………

 

「……随分と急な里帰りじゃあないか、死んだかと思ってたぜ」

「あらまあ、随分酷いご挨拶ですこと。()()()()()()()()()()()()()?」

 

 このやり取りで祐斗クンは眼前の人物が誰か見当が着いたらしい。静かに、しかし殺気を深めて僕らを観察し始める。

 

「おいおい、付き合いはそれなりに長かったのにそれは無いだろ? そもそも人の心なんてあると思ってなかったクセに」

「まあその通りと言えばその通りだけど……自分で言ってて悲しくならない? 自虐癖は相変わらず?」

「そういうそっちは随分とやさぐれたみたいじゃないか。皮肉を口にするなんて、イノシシ同然だった君らしくないじゃないか」

「どうも私なりの配慮が気に入らなかったみたいね。じゃあ直接的に言ってもいいの?」

 

 視線は鋭く僕を射抜く。……会話内容を聞かれていたこと以上に、多分もうバレてるみたい。

 

「まさかとは思ったけれど、幼なじみが悪魔なんかに成り下がってるなんて……これは悪夢か何かかしら?」

「奇遇だね、僕もそう思う。だが、成り下がるという表現はいただけないな。これでも生活充実してるンだぜ?」

「意外、本当に楽しくやってるのね。幼なじみが幸せそうで何より」

「「アッハッハッハッハッ!」」

 

 心にもないことを、と口にはできない。それは多分違うからだ。僕の幸せを、素直に喜んではいる。僕も彼女との再会が嬉しくない、と言えば嘘になる。

 だが、まあ、しかし。どれだけ僕らの背景に色んなものが積まれていても、コレは敵だ。恐らくそれは向こうも同じ認識なので…………

 

「「()()()()()()」」

 

 そうなると行き着く答えは同じ、何の感慨も無く僕は左腕に籠手を纏わせ、腕力2倍と共に殴りかかっていた。

 ガキンッ! と金属質な音が鳴る。僕の籠手を火花を散らしながら受け止めるそれは、見ただけで背筋が凍る気配を纏っていた。恐らくこれは……聖剣!

 

「ッ! 最適化(インベント)!」

『Promotion:Powered Frame!!』

 

 これは死ぬ、という生存本能から反射的に最適化、籠手が溶け出すと同時に装甲板を4枚、聖剣との間に析出させて無理矢理相手を弾く。僕が大きく仰け反ったのに対して、相手は差程驚いた様子もなく体勢を整えていた。くそ、分かっちゃいたが僕より数段上だなチクショウ!

 

「装填:4!」

『Ignition Boost!!』

『Explosion!!』

 

 細かい調整をやってる隙は無い、装甲板4枚で全身を強化。思考も加速したお陰で、よろけた僕の首を飛ばそうと聖剣を横薙ぎにしようとする相手の姿が捉えられた。先に析出させた4枚とは別に、3枚の装甲板を首元に展開し、なんとか防御。恐ろしく殺意が高い……!

 だがやられっぱなしではいられない。強化し底上げした身体能力にものを言わせ、地面を踏み砕く勢いで踏ん張り、後ろに倒れ掛けていた身体を前のめりに持っていく。

 

「ッ!」

 

 必殺の一太刀だったのだろう、剣が弾かれ今度こそ大きく仰け反ったが故に彼女に隙ができる。体勢を整えられる前に、右腕を突き出して顔を掴む。アイアンクローだ。

 

「くたばれッ!」

 

 そしてそのまま力任せに地面へと叩き付けるために、全力で押し倒す。上手く決まった大外刈りのようなものだ、この一撃から逃れられま……ガッ!?

 

「……っ!?」『Burst』

「女子の頭を掴むなんてデリカシーなってないわよ!」

 

 白く弾ける視界、カチ上げられた頭。どんな柔らかさだってんだ……ほぼ押し倒されている形から顎を蹴るなんて! 無理な体勢だったからダメージはそれ程だが、力を緩めてしまうには十分だ。星が飛んでピヨってる間にまんまと抜け出されてしまう。……だが、ヤツに外野まで気を配る余裕は無くなったはずだ!

 

「優男ォ!」

「言われずとも!」

 

 視界が回復するかしないかのタイミングで、我が意を得たりと祐斗クンがヤツに斬りかかっていた。

 

「大丈夫ですか先輩!?」

「僕はいい、みんなに報告して周囲警戒しろ! この状況で教会の戦士が1人なわけが無い!」

 

 頭と視界が揺れて、2人の剣士の戦闘シーンをマトモに追うことが出来ない。こんな僕を介抱してる暇があったらとっとと連絡回して袋叩きの構図を作り、不意打ちの可能性を消すことが重要だ。

 

「物騒ね、もうちょっと話し合うとかないのかしら!?」

「教会の戦士が聖剣持って襲ってきた癖に、何を今更!」

 

 通常の僕の目では置いきれない二人の剣戟の応酬の末に鍔迫り合い。それでも相手はどこか余裕げな表情で祐斗クンと口撃しあっていた。おう、もっと言ってくれ優男。

 

「いやまぁ!? 彼を殺すなら今かなって思って動いたのは悪かったけれど! 一応停戦協定結びに来たつもりなのよ私!」

「どの口が……!」

 

 ……まずい、ラーメン屋セラピーでなんとか持ち直してきた優男から冷静さが剥がれてきている。このままだと暴走しかねん。多分彼女は嘘をついてないだろうし、ここでどっちかが死んだらそれが原因で聖書の戦争パート2が始まってしまいかねない。

 仕方ない、ここは自分諸共3人仲良く昏倒してもらうしかないだろう。

 

「セット、『循環する──」

 

「そこまでよ」

 

 凛とした声が、殺伐としたこの場に響く。声の主は聞き間違うはずもない、我らが上司殿。揺れる視界に痛む頭を抑えながら声の方向を見ると、そこにはリアス部長の姿と、襲ってきた彼女とお揃いの白い外套を来た青髪の少女がいた。何故か2人とも困ったように頭を抑えていたが。

 ともあれ2人の登場で一応剣は収め合ったようで、安心と共に緊張の糸が途切れた。道路なのもお構い無しに大の字になって横になる。……痛さには耐性が着いたと思っていたけれど、思いの外ダメージを受けている。この感覚は土手っ腹に光の槍を突き刺された時と似ている。聖剣以外にもそういう効果があったんだろう、ブーツか何かに。

 

「……亜種の『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』、ね。普通気取りにはお似合いの、いい神器じゃない」

「……そりゃどーも」

 

 僕の顔を覗き込み、手を差し出す彼女。目から殺意は消えてないけれど、少なくとも今ここで僕を始末するつもりは無いらしい。どうしたもんかと思いつつも、出された手を掴んで身体を起こす。

 

「久しぶり、イッセー君。元気してた?」

「今まさに絶賛大不調だよイリナちゃん」

 

 アルバムを見た時からまともな再会になるとは思わなかったけれど、まさかこんなことになるとはね……。僕の人生、そろそろ修正入りませんかね?

 

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