兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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その7

「「……で、弁明は?」」

「「コレが悪かったんです」」

 

 ゴチン! とゲンコツの音が響く此処は、オカルト研究部の部室。僕とイリナちゃんは仲良くゲンコツを落とされていた。

 

「いやだって普通に敵だし、放っておくと駒王町内で変なシンパ増やしそうだしでロクなことになりませんもん、妙な人徳あるせいで。大丈夫、一発だけなら誤射です」

「この悪辣外道魔人が悪魔になったんだもの、それはもう血も涙も心も無い策で私達を罠に嵌めるのが目に見えてるわ。バレなきゃいけると思ったのよ、事故事故」

 

 ゴチン!! と先程より強いゲンコツが落ちた。……痛い。

 

「…………はぁ。本当にごめんなさいねゼノヴィアさん、私の狂犬が迷惑を掛けて」

「…………悪魔に謝られるとはなんともむず痒いが、ここはお互い様というヤツだろう。イリナみたいなのがもう一人いるとは思わなかったが」

「「失礼な、一緒にされると困る」」

「「最早狙ってるでしょう(だろう)!?」」

 

 狙ってはない、狙ってはないのだ。互いが互いにどっかで全責任を擦り付けられないかなって思ってるだけで。全く、久々に会った友人にする所業か?

 

「んんッ!」

 

 咳払いをしたのは祐斗クン。それを見て流石にふざけるのはここまでか、と態度を改める。

 

 場が納められたあの後、連行される形で僕らは此処へ連れてこられることに。一部の人員を除いて皆は引き続き警戒態勢へ。そして一部の人員というのが……まあ関係者と言って差し支えない祐斗クンと、元教会関係者のアーシアだった。元聖女を連れてきていいものか? 精神的にも命の危険的にも、と思ったのだが。

 

『着いてくると言って聞かなかったのよ。……実際いてくれるのは助かるわ、我々の中で1番教会の事情に詳しいでしょうから』

『ええ、お役に立てるかは分かりませんが頑張ります!』

 

 ふんす! と鼻息を鳴らす彼女を見て、頑固だなぁと内心頭を抱えた。心情的な面を抜きにするなら彼女の存在で相手方の失点を誘えるかも、と考えてしまう自分が本当に嫌いだ。

 

『ちなみに補佐の朱乃サンがいないのは?』

『ソーナと一緒に冥界に飛んでもらっているわ。流石に事が事だけに報告は必要だから』

『……なるほど、部長は土地の管理者として離れる訳にはいかず、代わりに生徒会長と部長の名代を務められる朱乃サンに行ってもらった、と』

 

 朱乃サンがいればもうちょい優位に停戦交渉できると思ったのに……と先程のやり取りを思い出しながらゲンナリする。本来ならこの場合、部長の副官は祐斗クンが務めるべきなのだが。今の彼にまともな交渉を、それも聖剣を携えた教会の戦士相手にやれるわけがなく。そうなるとお鉢が回ってくるのは僕の方に……。いや本当、ふざけてる場合じゃあなかったな。いや、口にした言葉はふざけてるわけでもなんでもないのだが。

 

「……失礼しました、申し訳ありません教会の戦士殿」

「本当よ、失礼しちゃうわ」

「イリナ!」

 

 青髪の緑メッシュ女子に頭を下げたつもりだったのだが、イリナちゃんが茶々を入れてまた怒られている。…………苦労してそうだなぁメッシュさん(仮)、とても同情するよ。

 

「……わーってるわよゼノヴィア。でも雰囲気を和ませるぐらいしてもいいじゃない、特にそこの優男の。今にも私達に対して斬りかかってきそうじゃない」

「敵意はあるが実際に手は出していない、それが全てだ。第一、停戦協定を持ちかけようと提案したのはイリナ、お前の方だぞ」

「ええ、その通り。あわよくば失言狙いで討滅する為にね。だからこういう風に振る舞うとも言ったじゃない。……待って怒らないで、その拳を下げて。ね? 相手にイッセー君いるからもうその方向性じゃ無理ってことであけすけに喋ってるだけだから!!」

 

 それがどこまで本当なのやら。ただ優男から殺気は完全に抜けずともある程度毒気は抜かれたようで、少しばかり話しやすい雰囲気にはなった。

 

「というか、イッセー君もそれがわかってたから茶番に付き合ってくれたんでしょう? どーして途中で止めるのさ」

「……一応この状況だと僕はこの話し合いに於いてのNo.2なんだよ、引き際見極めただけだ」

「ああ、昔と同じで『さんぼー』ってわけね。黒幕根性が染み付いちゃってるのかしら?」

 

 はっ、よく言うぜ……と思いながら口にはしない。戯けるやり方がまるで僕のソレだ。大方、昔の僕のやり口を順当に発展させていったのだろうが。部長も怪訝な顔でこっちを見てきたから、同じ考えではあるらしい。

 

「……それだけじゃあなさそうだけれど、まあいいわ。改めて、話し合いの席に着いてくれたことを感謝するわ。私はイリナ、今回の件で派遣されてきた……あー、所属についてはごめんなさい、ちょっと話せないわ」

「同じく、ゼノヴィア。……既にそちらは事情を把握しているようだが、我々は盗まれた3本の聖剣の回収、もしくは破壊を命じられてこの地にやってきた」

「ご挨拶ありがとう、リアス・グレモリーよ」

「兵藤一誠です、よろしく」

 

 握手は交わさず、テーブルを挟んで席に着く。和やかに見えてもそれは表面だけの話、不倶戴天の敵同士だ。見えない火花が視線のぶつかり合う先で散っていることだろう。

 

「私から質問があるわ。コカビエルが主導して盗んだ、というのは確かかしら?」

 

 そういえばイリナちゃんが会話に混ざってきた時にそんなことを言っていた。コカビエルは『神の子を見張る者』のタカ派だと。そしてその狙いは戦争を起こす辺りが妥当とも。

 

「事実だ。そして此処……駒王町に持ち込もうとしていることも、だ」

「……狙いは戦争かしらね」

「おそらくは」

 

 部屋の空気が陰鬱なソレになる。イリナちゃんが先に和ませようとしていたのも分かる。遠回しに『お前らは人質にされている』と言われたようなものだからだ。

 たかが悪魔を数人殺しただけで戦争になるとは僕には思えない。だが、その中に魔王の血縁ともなれば話は別だ。レヴィアタン様は分からないが……部長が殺されたらルシファー様は間違いなく戦争に打って出るだろう。

 

「まどろっこしいことは苦手なので単刀直入に言う。今回の件に、あなた方悪魔は首を突っ込まないで頂きたい」

「それは無理な相談ね、我々の土地で起こる問題を管理者が何も手を打たないというのはありえない。……まさかとは思うけれど、私が堕天使に与するとでも思っているのかしら?」

「ほぼありえない……けれど可能性はゼロじゃない、というのが私たちの上の判断ね。ああ、貴女の女王が今隣にいないのはそういうことかしら?」

 

 挑発するようにイリナちゃんが言う。部長はアーシアにいれてもらった紅茶に口を付けた。…………これは、多分相当怒っている。気を鎮めるために液体に口をつけるのは普通の人ならよく見るけれど、部長のは初めて見た。少なくともライザー氏が来た時でさえそんなことはなかったんだから。

 

「……所属が言えないというのも納得ね。相当いい耳をしているみたい」

「うん、やっぱりそれなりに頭が回るのは確かみたい。でも聖剣の情報を探る為に色んな伝を使ったのは失敗ね、グレモリー。お陰で興味があります、ってアリアリと分かっちゃう。私達の上司が1番警戒してたのは、実はそこだったり?」

 

 動けば痕跡が残る、とはいつかの部長の弁だ。それを部長がしてやられてしまった様だ。……祐斗クンのためだ、ある程度は危ない橋を渡る必要だったのだろう。それを僕は失敗とは思わないが……気になるのはそれよりも、部長に対しての揺さぶりであろう朱乃サンに対しての言及だ。前に堕天使関連でなんとも言えない表情をしていたこともあるし、もしかして朱乃サンは…………。いや、今考えることじゃないか。空気を持ってかれる前に差し込む必要がある。

 

「どうせドアインザフェイス狙ってんだろ、本当の狙いを話せよ。単刀直入が聞いて呆れる」

「そうであれば理想、というのに間違いは無いのでね。そちらの面子など、こっちは知ったことではないのだから。……もっとも、頭を下げてでも協力を取り付けたいのは君達の方だろうが」

「分かってないなァゼノヴィア女史。ある程度こちらで辺りを付けて、動いても問題ない状況を整えて臨戦態勢入ってんだ。教会の戦士が介入してきたところでそれは大きく変わらん。なんならケチつけて叩き出したってもいい。今此処で君らが話し合いの席に着けてるのは我々の上司の温情だ。そっちからしたら反吐が出るだろうが、その時点である程度の誠意を信じて貰いたいモンだ」

「我々を追い出せるだけの実力が、そちらにはあると?」

「戦いは数だ、圧倒的な個人戦力でもなけりゃ数が多い方が勝つんだよ。例え悪魔キラーの聖剣があったってな。僕には君ら2人が、そんな大層な強さをしてるとは思えん」

「……貴様」

 

 にわかに殺気立つゼノヴィア女史。でも実際現時点では警鐘が鳴ってないわけだからな。あわや一触即発、それを制したのはイリナちゃんだった。

 

「まあ実際4対1で劣勢になり掛けてたから否定の仕様がないわ。ごめんゼノヴィア、素直に私のミスよ」

「…………」

「底を見せてはいないけれど、それはあちらさんも同じこと。情けないことを言うようで悪いけれど、私と貴女でイッセー君を含めた十数人の悪魔を相手取るのは難しいと思う」

 

 ……困ったな、相手に倣って僕も挑発しようとしたが、イリナちゃんが強敵過ぎる。手の内がバレてる以上に、油断がないのが困る。

 

「ごめんネ、ゼノヴィアったらちょっと脳筋なの。血の気が多くて困っちゃう」

「真っ先に僕を殺そうとしたヤツのセリフじゃないと思うけど」

「あはは、それはその通り。でもそれはそれとして、戦士に対して力量を疑う発言はするものじゃないわよイッセー君。私もそれなりにカチンと来るから」

「そいつは悪かったよ。……でェ? 代替案も考えては来てるんだろう?」

「それはその通りだけど……先にそちらの考えを聞かせて欲しいかな」

 

 そう聞かれて、此処はこっちの要望を言っておくべきだと判断して僕は部長の方を向く。ちゃんと息も整った部長も同じ判断をしたらしい、彼女は部屋の隅でじっとしている祐斗クンに視線を向けた。

 

「祐斗、構わないかしら」

「……はい」

「!」

 

 ある程度暈して話すものだと思っていたが、祐斗クンに許可を取ったということは、もしや…………

 

「そこにいる私の騎士、木場祐斗は『聖剣計画』の生き残りよ」

「……何?」

「あちゃあ……そう来るかぁ」

 

 

◆◆◆

 

 

「……凡その事情は分かった。噂に優る、大した眷属愛だな」

「そうなるとちょぉぉおっと事情が変わっちゃうわね。どうしたものかな……?」

 

 掻い摘んでだが、だいたいの事情を部長はぶちまけた。精神的に揺さぶりを掛けることもあったのだが、誠実に対応することを選んだのだろう。まあ変に取り繕って堕天使と共謀してる、なーんて不名誉なことは思われたくないだろうから正しい判断だと思う。敵のマトは少ない方が楽で確実だからね。

 

「そっちのプランがオシャカになったのは何となく察したけど、元々はこっちに何させるつもりだったのさ?」

「あー…………うん、もう言っちゃっていいかも。聖剣奪取が目的じゃなかったら、回収してくれることを前提で聖剣の破壊を許可をしようと思っていたの。共闘するのは勢力間の問題でありえないケド、潰し合って貰う分には全然ウェルカムだから」

「まァそんなこったろうとは思ったけどさ、ビッグネームが出てきた割に2人しか送り込めなかった時点で察するものはあるよ」

 

 どーしても教会側は2人しか……いやもっといるかもしれないが、それでもたくさんの人員は送れなかったらしい。それがどんな事情によるものかは分からないが。だから協力ではなく、潰し合ってもらうという解釈で今回のコカビエル一味を削ってもらいたいんだろう。じゃあ最初から首突っ込むなとか言うもんじゃない……と思うが、ポーズは一応必要だし仕方の無いことか。

 

「じゃあ、何が問題なのかしら? 恐らく、我々とそちらの利害はある程度一致している筈よ」

「…………イリナ」

「言うしかないわ、こうも誠意を見せられたら。というか私達に死んでこいしたんだからアイツらも胃が痛くなって貰わないと困るわザマァミロ!」

「イリナ…………」

 

 不意に警鐘が鳴り始める。非常に厄介なことを聞かされる確信がある。僕が警鐘を聴いたことを察した部長は、胃を痛そうにしつつも表情を引き締めた。

 

「……まず、そこの彼に聞きたい。キミの復讐の対象は、本当に聖剣ということでいいのだろうか?」

「…………何が言いたい?」

「詳しい経緯を聞かずとも察することはできる。あの事件は教会側でも最大級に嫌悪された、忌まわしい黒歴史だ」

「よく言う。僕らの犠牲の上で成り立ったであろう君達に何を言われても、心には響かないよ」

 

 どういうことだ……? と思ってピンと来た。イリナちゃんは聖剣使いだった。そして多分ゼノヴィア女史も聖剣使いなのだろう。そして聖剣計画は聖剣使いを育成するプロジェクトであり……。

 思い至って2人の顔を見ると、揃って苦虫を噛み潰したような顔をしていた。ビンゴ、か。

 

「ああ、だろうな。私もそう思う。だが今から私が言う言葉を、君は心して聞くべきだ。聖剣への……否、『聖剣計画』への復讐を果たそうと考えているのなら」

「…………」

「『聖剣計画』の実態が明るみに出た時、我々は計画の責任者に対して異端の烙印を押した。その男の名はバルパー・ガリレイ、別名『皆殺しの大司教』。今回の聖剣強奪事件の首謀者、コカビエルに与する者の内の、1人だ」

「バルパー……ガリレイ…………!」

 

 これは……まずいことになったかもしれん。

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