兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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その10

『それで、どうするんだ?』

「……寝起きで開口一番ソレか?」

 

 あんまり頭が働いてない時に声を掛けるのはやめて欲しい、と思う。思うが、コイツはそーゆーのお構い無しだろうな。

 

「とりあえず……表にでてきたってことはできたの、虚飾。言ってた時間より早いけど」

『今回はイメージがしっかりしていた故、更にな。で、どうするのだ?』

「どうするって、そりゃオメー……」

 

 どうすればいいんだろうな、コレ。ぶっちゃけ事態は僕の手を離れてる。そもそも僕の手っていうか誰かの思惑に乗っかってただけなんだけど、話が思いの外壮大になり過ぎてて僕の手には負えない状況になってるってこと。

 

「だからできることと言えば、祐斗クンのサポートをして、部長と生徒会長が殺されないように死力を尽くすのが、リアス・グレモリー陣営としてはベストだと思う」

『戦争が勃発するだろうことに関しては?』

「まだワンアウトどころかツーストライク程度だと僕は思うんだよね。結構お粗末だよ、仮に戦争目的だとしたら」

『ほう?』

 

 僕は堕天使コカビエルのことを何も知らない。人類に天文学を齎したらしい堕天使であることしか知らない。あとは堕天使の中では珍しいタカ派……戦争に乗り気であるというぐらいだ。

 

「……仮に、仮にだよ。僕がコカビエルだったとして戦争を起こすとしたら、まず『神の子を見張る者』内で味方を作る。長い時間を掛けて、味方を作ってクーデターを起こす。ドライグ、堕天使の総督であるアザゼルはどんなヤツなの?」

『そこまで詳しくはないが……あくまで俺の所感でいいか?』

「もちろん」

『アレは研究者だ。必要なら戦うことを厭わないが、基本的には引き篭って自分の研究に没頭するタイプだろう。戦うことが嫌いと言うよりは、戦いに時間を取られることで趣味の時間が奪われることを嫌うタイプと言えよう。アザゼルに限らず、ヤツらは大なり小なり学者の側面がある』

「なるほどなぁ。……恐らく、コカビエルも同じことを考えて実行に移したけれど、無理だったんだと思う。確信が持てた」

『で、あろうな』

 

 だから恐らく大層な脳筋というわけでは無いのだろう、コカビエルも。少数でコトを起こしたとしても、ただのテロとして鎮圧されるだろうことに気が付かないワケがない。僕ですら思い至るということは、即ちそういうことなのだから。

 

「コカビエルの狙いは、ヤツ自身で責任を取り切れない事態にまですることにあると思ってる。聖剣を盗んだ理由は……火種になればいいな、程度なのと。あとは……悪魔に天使側を攻撃する余地を与えるため、かな。でもこれはオマケもオマケ。本命は、部長と生徒会長を始末することにある」

『その心は?』

「聞くまでもないだろう……お前絶対僕よりも頭がいいんだから」

 

 まあ大体理由は分かる。僕を戦いの場に連れ出したい、適応させたいのだろう。何も戦うのは戦場で暴れるだけじゃない。策を練るのも戦争の内、僕にできる範囲のことをさせて少しずつ適応させていきたいんだろう。目を付けられたが運の尽き、か……。

 

「部長や生徒会長が殺されたら、それはもう堕天使の幹部1人では負えない外交問題になるだろう。あの2人は現魔王の身内だ、仮に表向き関係ないことにしていたとしても明確な侵略行為。あれこれ理由付けて報復するだろう。2人の始末に聖剣を使えれば御の字、教会側の監督責任を問うてここぞとばかりに追求すれば、ただでさえ深い溝が……って感じで」

『お前の言い分ならば、コカビエルは順調に事を運んでいる様ではないか。で、あるのに決定打にはまだ程遠いと?』

「おん。……まァー多分奴さんも理解してるとは思うんだけどねェ」

 

 結局、殺せなきゃ意味が無い。そして部長と生徒会長が冥界に引っ込んでしまえば、それでおじゃんになる程度の、本当にお粗末な策なんだよ。部長と生徒会長の両方がプライドに雁字搦めになった脳みそお花畑悪魔でもないと成り立たないのよ、マジで。

 

「それで言うと部長はそのケがあるからそれを期待してたんだとは思うんだけど……多分これに関しては僕のファインプレーだな、良い意味で臆病になったんだと思う。……悪い意味でも」

 

 まあ今はそれがいい方向に働いてるから悪い側面は見て見ぬフリをするとして、だ。

 

「既にこの話は冥界に持ち込まれてる。持ち込まれてる以上、どう転んでも……仮に部長か生徒会長のどっちかが殺されてもドンパチをする戦争にはならんだろう。これで連中が駒王町に侵入したらその時点で堕天使陣営にお問い合わせができる。多分天使陣営も便乗するだろう。そうなったら、戦争を基本的にはしたくない堕天使陣営はコカビエルを切るしかない。そしてコカビエルを切ってしまえば、仮に決定打に成りうる事が起きても責任逃れがある程度はできる。ただのテロとして処理できる……いや、せざるを得なくなる」

『コカビエルを処理して、終わりにするしかない……ということだな?』

「うん、それ以上のことをすれば戦争になるのが分かるだろうからね」

 

 だから僕は思う、()()()()()()()()()()()()

 

「それが僕の知識不足か、察しの悪さから来るものかは分からないけれど、間違いなく何かを見落としている。部長と生徒会長さえ殺されなければ大丈夫な筈なんだけど、そんなお粗末な策で堕天使の幹部が行動を起こすか? ……もし何かあるとしたら、コカビエルが現状を我慢できない程の相当な戦闘狂で無敵のヒトになってるか、起爆すると戦争するしかない様な爆弾情報を握ってるか…………あとは、天使、悪魔両陣営のタカ派と繋がってる可能性、か。でもそれぐらいしか思いつかない」

 

 だから、もう僕には状況をどうにかすることはできない。もうここまでなってくると上の連中の判断になってくるだろう。…………いや、打てる最終手段はあるけれど、それを使うには状況が把握し切れていないし、そこまで切羽詰まっている様には思えない。警鐘もそんな鳴り方してないしね。

 

「だからやっぱり、最初に戻ってくる。僕がやることは、木場祐斗の復讐への助力と、魔王の妹2人を死力を尽くして守ること。やることが単純明快で楽だわね」

『お前がそう考えるなら、それでいい』

「含みのある言い方だな、おい」

『そこまで他意は無い。……が、次お前が死ねば、それはそれで火種になりそうだな、とは思ったが』

「………………………………うわぁ」

 

 流石に無いよね……と思ったけれど、僕が死んだら部長も方法はともかく後追いしそうだし、そうなると多分あのお兄さ魔王も動くだろうことを考えると…………うぇぇ、僕自身が爆弾になることとか想定しとらんよ。間違いなくそれで大きく事が動くとは思わないけど、低くない確率だろうし……。

 

「…………うーん、いやまあサラサラ死ぬつもりはないんだけど、いざと言う時自分がどうするかなんて火を見るよりも明らかだからなぁ」

『少し気になったのだが』

 

 ここでドライグが、本当に気になってることがある、と言った感じで質問してきた。今までのは単なる意見の擦り合わせだったけれど、本当に気になることがあったんだろう。

 

『堕天使コカビエルは、聖書の時代から生きている。言わば歴戦の戦士だ。断言してやろう、お前やリアス・グレモリー眷属、あの教会の戦士達では逆立ちしても敵うまい』

「ンなモン既に承知だが……」

『だが、お前はコカビエルのやろうとしてることに頭を悩ませていても、コカビエル本人の攻略に関しては差程考えていないだろう? なんなら余裕すら感じる。それは何故だ?』

「ンあー……コレ言ってもいいモンかね?」

 

 ドライグから誰かにバレる、ということは考えづらいし、まあいいか。

 

「間違いなくお前の考えている通り、コカビエルと()()のは無理がある。多分瞬殺レベルですらある」

『……それで?』

「だけど、()()のはまた別の話だろう? コカビエルが歴戦の戦士であればある程、僕は簡単に殺せる自信がある。詳しいイメージは……まあこんな感じで」

『……うぅむ』

 

 僕がやろうとしていることを、正確に頭の中で思い浮かべる。ドライグはそれを読み取ったのだろう、渋い感じで唸っている。

 

「できそうもない?」

『……否、可能だ。恐らくお前の想像通りの現象を引き起こすだろう』

「そ、なら良かったよ」

『だが相棒、これは些か……』

「尊厳を踏み躙るようなやり方だって? 当たり前だ、僕はこの堕天使の幹部の尊厳を踏み躙って、粉々にして……それで死んでもらいたいんだよ」

 

 そもそもの話…………僕は今、とても怒っている。心底、腸が煮えくり返る程に怒っているのだ。

 

「……分かってる、分かってるんだ。避けられない戦いだってある。どこまで行っても戦争は政治的行為の1つでしかない。でも、コカビエルという堕天使はそれを敢えて起こそうとしている。……手段が、目的になっている。それが僕には許せない」

『…………』

「しかもムカつくことに……恐らく小競り合い程度に収まったとしても、ヤツはある程度の鬱憤が晴れるに違いない。万が一魔王様が出てくることになれば、それはもうヤツは気持ちのいい死闘に身を投じるだろう。どう転んでもヤツにとっては楽しい楽しい戦争だ。……多分、それで誰が死んだってお構い無しだろうぜ」

 

 自分勝手であることを咎めることは、僕にはできない。だがそうであるならば、誰が自分勝手にコカビエルの尊厳を踏み躙ったって文句は言えないだろうよ。

 

「楽しい戦争なんて絶対にさせてなるものか。色々理由はあるけれど、()()()()()()()()()。それじゃあ納得できないか?」

『……いや、文句は言うまい。以前にも俺はお前に言った。お前の傲慢さにケチは付けない、と』

「助かる」

 

 ま、文句言われようが何しようが止めたりなんかしないが。正しさという免罪符があれば、人間は何処までも悪辣になるということを身をもって体験してもらわないと。いや……そっか、僕は悪魔だな。じゃあ理由無く悪辣でもいいか、わははは。

 

 

 

 

『…………酷く同情しようコカビエル、運悪く眠れる竜を叩き起こすとはな』

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「と、言うわけで今日僕学校休みます」

「何がというわけで、なのか分からないのだけど???」

 

 あり? 部長にこの後の予定を形だけでも報告しようと思ったけど伝わってない? 盗聴か思考を盗み見てると思ってたけどそんなことはなかったか。

 

「貴方、私をなんだと……というかそういうのがお好みならそうしてあげましょうか?」

「ストーカー、ヤンデレその他諸々は美人以上に観賞用だということをお伝えしておきます。ともあれ普段相当心を読まれてると思ってたんですけれど、僕ってそんなに分かりやすいんですか?」

「顔には出ないけれど、仕草が分かりやすいわね。普段は話す時色々ジェスチャーを交えているけれど、隠し事がある時はそういうのが全くなくなるもの」

「普段からジェスチャー我慢しますね」

「するんじゃないわよおばか」

 

 コツン、と軽く頭を小突かれる。いやでも将来的にそういうの必要だと僕は思うんだよ。いや分かってるよ、部長相手には隠し事しないでっていう話でしょ? でも一応僕、首を縦に振らないっていう勝負の途中だしなァ……。あ、それとこれとは話が違いますか、そうですか。

 

「えっと、ドライグに頼んでいた新しい能力ができたので、それを効率的に使うために駒王町全体に装甲板を撒いてきます。悪く言えば不法投棄ですね」

「敢えて悪く言う必要あったかしら……」

 

 それはともかく、部長にも新しい能力『虚飾』の概要を説明する。

 

「…………成程、確かに先にセットしておくことで効果が十二分に活かされるのは分かったわ。私の方で許可は出す。出す……けれど、休んでまですることかしら。例えばほら、私達や生徒会の皆に頼んで各所に配置していく方が効率的でしょう?」

「それはその通りなんですが、遅くとも夜になるじゃないですか。昨日の今日で何かが起こる、なんて思いたくないですけれど……一応教会の戦士がいますからね、何時敵になるか分かったもんじゃないので昼間のうちにやっておこうかと。流石にあの2人も一般人の前で剣を出すわけにはいかないでしょうから」

 

 名付けて『一般人ガード』、字面だけなら最悪である。中身も大差ないが、僕は向こうの善性を確信してるからね。

 

「うーん……そういうことなら分かったけれど……ああ失敗したわね、貴方には早めに使い魔を見つけてあげるべきだったわ」

「使い魔? ……あー、普段はチラシ配り担当してくれてるあの」

「と言うよりは、簡単な雑用、雑務を肩代わりしてくれる魔物ね。チラシ配りはそのうちの1つよ」

 

 ああ、話は見えたぞ。同じノリで僕の使い魔にチラシ配りならぬ装甲板不法投棄をできるようにしておけば良かったってことだな。

 

「まあ無いものねだりしても仕方がないですし、いい感じに自分でやってきます。落とした場所は報告した方がいいですか?」

「ええ、間違ってこちら側が回収しちゃうと意味が無くなってしまうし、一応お願いするわ」

「うっす」

 

 とはいえ、学校を休むってのに学校内や学校近辺で細工をするわけにもいかないので……

 

「……学校の方はお願いしていいですか?」

「そのぐらいなら構わないわ。モノはあるのかしら?」

「僕の部屋のクローゼットの中に100枚程、九頭龍亭の裏倉庫に200枚程、ですね。部室にも置いときゃ良かったッスね……」

 

 そう言うと、ちょっと曖昧な顔で笑う部長。すげぇ、このヒトが愛想笑いしてるところ初めて見た。

 

「……やっぱ色がダメですか」

「嫌いじゃないけれど、ちょっと……」

 

 まあぶっちゃけると酸化しかけの血の色だからな、装甲板。如何にもな呪いのアイテムっぽさがあって、1枚ならオカルト研究部っぽさがある。何枚も何十枚もとなると……うん、ダメだね。

 

「一応甲冑型には加工できますが」

「部室に配置する分はそれでもいいかもしれないわね、お願いできるかしら?」

「では、先に9枚ほど複製します」

 

 『強欲』の装甲板と新たに生まれた『虚飾』の装甲板を取り出す。何となく虚飾の方はキラキラと輝いてるように見えるが……まあ色で台無しだわな。

 とりあえず強欲の能力で虚飾の装甲板を9枚まで複製。ゴソッと魔力が持っていかれ、まるで酔ったような感覚になる。感覚だと許容限界の1/4は消えたな。

 

「うぅ……あとはこれを装甲として変化して」

 

 どろり、と液状化。その後、析出するように9枚の板がプレートメイルの各部位へと変化。ゴロゴロと、部屋の床に転がった。

 

「……意外と重いのね」

「あり、そうですか?」

 

 装甲板は前に持ってもらったことがあるけれど、そっちは重さなんてあってないようなものだったらしい。けれど装甲にしてしまえば、それに足る重さは生まれるみたいだった。僕は自分で装備してしまうとその重さを感じなくなるので、今初めて知ったよ。

 

「一応今は僕のサイズに合わせたのにしか加工できませんけど、1度皆に装備さえしてもらったら、そのサイズのはいつでも加工できるようになります」

「……やはり学校休むのやめて部室に集まらない? 一応全員分のサイズ調整はしておいた方がいいかもしれないわよ」

「あー……」

 

 ばら撒きさえしておけば直ぐに装備させることはできるけれど、その場に僕がいるなら直接板を生成して装備させた方が色々とロスが少なさそう。…………いや、そもそも味方に装備させるのは重さの観点からどうなんだ? 緊急時にはかもだけど、重くて動きづらいって可能性無くはないし。それにコレ重いってことは…………

 

「……僕の思うように改造できるまでは難しいかと思ってたんですけれど、現時点では拘束具としての運用に振り切った方が有用かもしれません。実は重ねがけに関しては把握してる限りだと上限がないみたいで」

「いきなり話が飛んだわね……。ちなみに何枚まで試したのかしら?」

「ざっと50枚です。厚さは9倍からは増えなくなったので、ゴテゴテさせて拘束するのは難しいですが……」

「これの、50倍…………」

 

 色々と悪いことを思い付いたのか、目が怪しく光り口の端が吊り上がる部長。この悪巧みしている時の顔が嫌いではなかったりする。

 

「でもイッセーがその場にいないと使えないのよね?」

「流石に。僕が視認なりなんなりで認識してる板じゃないと装備できないことは確認済みです」

「まあいいわ、そこは追追考えましょう。きっと素敵なことができるから」

「本当かなァ……。んんっ、ともかくそれならやっぱりすぐにでもばら撒いた方がいいですね」

「結局そうなるのね……うーん」

 

 部長はまた難しい顔で思案し始める。……うーん、なんか気を使われている?

 

「部長、部長。僕のことなら大丈夫ですヨ、なんなら今やる気が有り余ってますから! 無遅刻無欠席は途絶えますが、ンなもん屁でもないので」

「屁でもない、なんて言うんじゃないの。……いえね、こっちの不手際もあるから悩んでいただけよ。本当ならいの一番に使い魔の手配をしてあげるべきだったのに」

 

 まあそーはゆーてもイベント目白押しかつラーメン屋からしばらく離れられない生態してましたから無理もねーですよ、とは思うのだが。

 

「ただ無理はしないでね、日中はただでさえ我々の力が落ちるのだから」

「ええ、勿論です。では!」

 

 さてさて……久々に赤パーカーだけで街に繰り出しますかねっと。




コカビエルに対して何をやるか分かった人は、多分かなり読んでくれてる人。
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