兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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感想、評価等本当にありがとうございます。


その11

「全く……やってることが不審者そのものじゃねぇか」

「仕方ないよそれは、イッセー君がやるって言ったんだから」

「そうだけどさァ……」

 

 現在僕は、フードまでしたパーカースタイルで駒王町を徘徊、良さげな所に板を埋めるor仕込む作業を行っている。こんな不審者スタイル、普通なら直ぐに警察に通報案件なのだが、ここで忘れがちな悪魔の特性が生きてくる。そう、悪魔に叶えて欲しい欲を持つ人間にしか存在を認知されないという特性だ。これを全開かつ倍加4回分を以て、僕は誰にも視認されることなく日中の街中を徘徊できているというワケだ。

 まあ流石に板は見えなくするなんて出来なかったから、教えてもらった魔力の使い方で人避けをするぐらいしかできない。公園、道路、廃工場……その他諸々エトセトラ。人が良く触る場所には隠せないので、それも考慮するとえらい大変な作業だ。正直自分でやるなんて言わなければよかったと思ってる。

 

 …………でェ、

 

「なーんでてめぇが着いてきてんだ優男、今の今まで気が付かんかったぞ」

「気が付いてて気が付かないフリをしてるのかと思ったよ。僕も部長に頼んだだけさ」

「……お互いの監視ってか?」

「だと思うよ」

 

 まァ、話自体はコイツから振ったとは思うんだがな。あのヒトが自分から学校休ませるようなことをするわけがない。するとしても合宿ン時みたいに根回ししてからだろうし。

 

「作業の概要は?」

「大まかには。本当なら手分けして……と言いたいところだけれど、君はそれを許してくれないだろう?」

「そりゃ導火線に火がついた爆弾を放置とか有り得ねぇし」

「あはは……酷い言い様だね」

「酷いと思うなら目ン玉ギラギラさせんな。殺意しまえ殺意」

 

 はァ、仕方あるまい。コイツにも倍加のお裾分けしておくか。

 

「ほれ、倍加」

『Ignition Boost』

『Transfer』

「ん?」

 

 なんで倍加の譲渡をしたのかが分かっていないようだ。……いやまあこいつの目からは不審者スタイルの僕が不法投棄してる様にしか見えないか。

 

「僕はパンピーだぞ、悪いことしてる自覚がある時はコソコソとする。具体的には悪魔の種族特性の強化だ」

「ああ、そういうことだったんだね」

「今4回分の倍加を譲渡した。君程面が良くてオーラがあってもそうしとけばバレんだろ」

「イッセー君の神器、本当に便利だね……。まるで……」

 

 そう言いかけて、ヤツは口を閉じた。

 

「…………まるで、赤龍帝のような」

「んあー……噂話の類として聞いたことがあるケド、似てるっちゃ似てるな。というか実在してんのかよ、アレ。まあ神滅具(ロンギヌス)全般に言えるが」

 

 ……っぶねェ。結構答えに迫ってきたなコイツ。今明かすわけにはいかない。どこかでばらす必要はあるが、少なくとも今ではない。

 

「……神滅具は実在するよ。記録の上でも確かにその爪痕がある」

「うぇぇ……マジか」

「僕も全部が全部存在してるとは思わないけれど……『赤龍帝の籠手』と『白龍皇の翼(ディバイン・ディバイディング)』は確実に存在している。何故ならその所有者同士がほぼ確実に殺し合い……その余波で周囲に影響を与えているから。表の歴史に出てきたことだってあるのは有名な話だね」

「あるの!?」

「……? そんなに驚くことかな」

 

 厄ネタ度が増す情報に思わず叫んでしまい、訝しげに顔を見られる。

 

「いやだって……もっとこうファンタジーはファンタジー界隈で収まってるものだと思うじゃん……。世の偉人や有名人が自覚無自覚問わず神器所有者が多いってのは聞いてたケド、それにしたってじゃん。神滅具なんて一般社会に出回っちゃいけない類の存在だろ……」

「気持ちは分かるけれどね」

 

 いや本当に一般社会に出回っちゃいけない存在だろ……聞いてるのか傍迷惑滅茶強クソトカゲ???

 

『クソトカゲ言うなブチ殺すぞノータリン』

 

 ノータリン言うなブチ殺すぞ。まぁーったく、コレが僕と運命共同体じゃなかったらマジで相容れない生物だっただろう。グッジョブ聖書の神、アーメン。

 

「痛ッ」

「……?」

「いやなんか急に一過性の頭痛が」

 

 祈るとダメなのかよ、初めて知ったぜ…………。あっ、よくアーシアがあうあう言って頭押さえてたのコレかァ!

 それによくよく考えたらドライグと白い龍殺したはいいけど封印して世に放流したのは本当にダメだからやっぱダメだね。ファッ○ン聖書の神、悪魔崇拝万歳。まあ僕自身が悪魔ですが。

 

「痛ァーッ!?」

「今度は何?」

「いや分かんねぇ……分かんねぇよ……新手のス○ンド使いかァ?」

 

 今のは多分天罰が下ったのだろう、神の器ちっちぇなオイ。

 

「それにしても……お前結構詳しいんだな」

「ドラゴンについて、少し調べたことがあってね」

「そりゃなんでまた?」

「イッセー君は身をもって体験してるじゃないか。ドラゴンは色んなものを引き寄せる」

「……それは」

 

 言わんとしてることは分かった。…………藁にもすがる思い、というヤツだろう。

 

「こういう言い方はどうかと思うけれど……僕は君に本当に感謝をしている。君の『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』が特別性だったのか、それとも封じられたドラゴンが強力だったのかは分からないけれど。腐って、忘却の彼方に消えてしまうかもしれなかった僕の運命を、もう一度動かしてくれた。僕に復讐の機会を与えてくれた。今だってこうして、君には欠片も得することがないのに協力だってしてくれるし、背中だって押してくれた。……感謝しても、しきれないよ」

「……今僕が協力してることはともかく、それ以外のことはたまたまじゃねぇか」

「本当にそう言い切れるかい? 堕天使の一団が此処に来たことも、フェニックス家の三男と戦うことになったことも。そして今回の1件も。君が僕達の仲間になるまで、これらと同列で語れるような出来事なんて起きなかったんだから」

「…………。感謝するのはいいけど、頼むから部長に何かあるようなことはするなよ。僕だってお前のこと殺したくはないしな」

 

 ぶっきらぼうに吐き捨ててやると困ったように笑いやがる。なんだよ……安心したように笑うんじゃねぇよ。

 

「イッセー君は本当に、優しさがひねくれてるね」

「他人に良く思われたいだけの八方美人だぞ、優しいなんて言うんじゃねェよ」

「うん、本当にそういうところだよ」

「ぬぐぅ……」

 

 あーもーゾワゾワすんなぁ! 自己評価との乖離が酷くてマジでさぶいぼが立つ!

 

「つーかそれなら神様の方拝んどけよ、龍神だの悪魔神だのがいるんならだけどさァ…………ん?」

「イッセー君、調子悪いなら帰った方が……」

「いや今度は違う、警鐘が鳴った」

「ッ!!」

 

 殺意全開で臨戦態勢になる祐斗クンをどうどうと抑え、そして首を捻る。

 

「なんかこう……今まで聴いたことの無い、妙な鳴り方だった。危険を報せるでもなく、命の危険を報せるでもなく……。自己主張?」

「うーん……?」

 

 なんなんだろう、この言い表せない感じ。いつもと様子が違うことを、『危機では無い』と安心すればいいのか、『挙動が違って不安』と嘆けばいいのか。

 

「コレは僕なりの考察なんだけれど……イッセー君はいわゆる、『占い師』の1種ではないか、と思ってたんだ」

「占い師ィ? なんていう眉唾…………でもないか、この環境じゃ」

「うん、こっちの世界だと結構ポピュラーな職業でね。彼らは『大いなる知識』に接続して、各々の方法で出力してる……というのが現代占い学での通説になってるよ」

「大いなる知識……アカシックレコード的な?」

「まさにそれ。人によっては表現は違うけれど」

 

 ふむふむふむ…………。しかし僕がそんな占い師と同じってのは違うんじゃないのか? なんというかこう、第六感的な未来予知だと思うんだよな。

 

「占いも未来予知なんだよイッセー君。夢でお告げを聴いたり、水晶に浮かぶヴィジョンを読み取ったり、無作為に選んだタロットカードで運勢を解釈したり。第六感で先のことを感じるのだってそうなんじゃないかな?」

「あぁ……そう言われると」

 

 そうなるとうぅむ……僕は天然物の占い師的サムシングなのか。そこんとこどーなのドライグ。

 

『知らん、管轄外だ。……と言いたいが、心当たりはある。今のお前は知らない方がいいだろうが』

 

 うげぇ……なんか後から知らん設定生えてくんなぁ……。そもそもの話、僕が普通ってのを返上した方がいいかもしれない。何やらせても平均なところとか、中身にクソ神器が入っていたことも含めて割と出生に謎が多いよな。

 

「だから何、というわけじゃないんだけれど。今一度自分のルーツを確認しておいた方がいいってことなんじゃないかな?」

「……ひと段落したら、占いを趣味にしてみるのも手か?」

「あはは、失礼かもだけど結構似合いそうだね」

 

 そんな暇はねーぞと、警鐘はリンリンと鳴っているが、少しぐらい夢を見たっていいじゃない。人の夢と書いて『儚い』とはよく言ったものだ。いや僕は人じゃねーけどな。

 

 そんな雑談を挟んだり、昼休憩に九頭龍亭に寄ったりしながら、気がつけば大体の箇所への設置は終わっていた。残すところは…………

 

「あー、ここはぐれ悪魔がいた廃工場じゃないか」

「アーシアさんが眷属になった直後の時のかい?」

「そうそう。ここで僕の神器が只者じゃないことに気がついたワケなんだが……」

 

 警鐘は……一応ある。チリチリと首の産毛を燃やされてるような、その程度の話だが。それでも警鐘は警鐘だ。

 スマホを見る、時刻は19時を回っていて夕方と夜の境目……まさに逢魔が時と言った空模様だ。

 

「隠蔽強化、1個削るぞ」

「分かった」

 

 その言葉に甘えて、僕は両腕と両脚に装甲を2枚ずつ重ねて装備する。身体への強化も全体4回付与と大盤振る舞いだ。

 

「……」

 

 場数踏んできただけあって、隣の優男も息を潜めつつ魔剣を生み出して構えた。夜とは僕達悪魔だけの時間ではなく……堕天使の時間でもある。理屈はともかく、部長たちの網に引っ掛からずにそこにいたって何もおかしくは無いんだから。

 

「「…………」」

 

 目線で合図を取って、もう本来の役目を果たしてない錆びたハンガードアを蹴破る算段。この手の連携は、ライザー氏とのレーティングゲームに備えた訓練合宿で練習済み。基本的には比較的タフな僕の方が先に突入して意識を集中させ、祐斗クンが不意を突くカタチ。

 3……2……1……今!

 

「……ッ!」

 

 本来軽くはないはずの鉄のドアも、経年劣化と悪魔の身体能力(×16)にかかれば紙屑同然。タックルで吹き飛んだドアの先には誰もいない。それがいい事か、悪い事かはともかく。

 

「……イッセー君」

「いない……だけど人のいた痕跡がある。この間のはぐれ悪魔との戦闘で付いた損傷のとこ。埃がうっすらついてるところと無いところがある」

「教会の戦士達の可能性は?」

「無くはないが可能性は薄い、一応の寝床で部長がそれとなく廃教会のこと伝えてたからな。寝床にするならそっちだし、警邏するにしてもあそこからここまでは遠い。着いて1日2日でここまで足は伸びることはちと考えづらい」

 

 警鐘が軽く作動してたから、僕らにまるきり害のないヤツがいた、という線は消えている。それが誰なのかは分からないし教えてくれないが。…………仮に占いだっつーんならそこまで教えてくれたっていいだろうに。

 

「流石にコレは報告だな、仮に堕天使一味だったら死人が出かねん。廃屋を重点的に警邏&監視、あとは悪魔召喚を控えてもらう方向で」

「……ねぇイッセー君」

「どした?」

 

 どんな風に手を打って行こうかと考えていると、祐斗クンが声をかけてきた。

 

「この間、君が巻き込まれた事件。それに使われた神器ってまだ持ってるのかい?」

「ああ、持ってるが」

 

 ゴソゴソと懐に手を入れて、古びた懐中時計を取り出す。これがどんな名前なのか、どの形態なのかは分からないが効果は分かっている。蓋を開き、巻き戻したい時間まで時計の竜頭を回すだけだ。回すだけ……とは言ったが、遡れば遡る程に精神力を使うし、竜頭は無限に重くなる。……あの悪魔本当に命削ってたんだなと、背負わされた重荷に背筋が震える。

 

「それじゃあ此処に来る直前辺りまで時間を巻き戻してみよう」

「いや、それなら1日ぐらい巻き戻そうぜ。今日の作業は徒労に終わるけど、ここにいた下手人を抑えられるだろ」

「それだと君に負担が掛かるし、例えここにいた誰かを抑えられたとしても、末端の可能性が高い。それならば……此処を罠として使う方が有効活用できる。……じゃないかな?」

「じゃないかな、ってオメー…………」

 

 その後、優男から優男らしからぬアイデアを聴いてゲンナリしつつも同意。早速実行に移った。

 いやほんと、誰だよ性格までイケメンをここまで外道にしたの。……僕か、僕だよなぁ。

 




尾を食む蛇は全知全能らしいですよ、他意は無いですが。
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