『さて、それでは簡単に私達悪魔についての説明を始めるわね』
といって伊達メガネを掛けた部長の姿を脳裏に浮かべ、その後に行われた簡単な説明を思い出した。
まず、僕が転生したこの『悪魔』という種族の他に『堕天使』『天使』という種族が存在しているらしい。
悪魔は太古の昔から堕天使と、『冥界(人間の認識で言う地獄)』の覇権を巡って争っているらしい。悪魔は人間と契約を結ぶことで得られる代価をもらい、力を蓄え。堕天使は人間を操りながら悪魔を滅ぼそうとする。その外で、神様からの命令を受けて悪魔も堕天使も問答無用で倒そうとする天使を含め、三竦みの状態で今に至るようだ。背中から翼を生やさない限り見てくれは大体人間のそれに近いので、この人間社会にも、彼ら人外は紛れ込んで生活していることもある、らしい。というか僕の主であるリアス・グレモリー部長が実際そうだ。
そしてまあ、そんな永きに渡る戦いを続けていると考えるまでもなく消耗することになり、戦争かなんかで純粋な悪魔もかなり数を減らしたらしい。
それを補填するための、下僕集め。一応、悪魔にも性別があるので生殖行為で個体を増やすことは可能だが、極端に出生率が低いのだとか。……まあ、寿命が万単位とか聞いて確かに納得したけど。それだけの超寿命なら、種の保存の観点から考えてもお魚みたいにポコポコ生まれはしないだろう。
でもそれでは堕天使にも天使にも対抗できないため、素質のありそうな人間を僕のように悪魔にして引き込むと。でもそれだけだと反乱とか招きかねんし、増やすだけで勢力を再び盛り上げることはできないし。ということで、転生した悪魔にもチャンスを与える制度を導入したんだって。力あるものには、『爵位』を与えると……。
で、ここまで部長に聞いて僕は頭を抱えた。悪魔、貴族社会なのかと。
貴族ってメンツの生き物だからなぁ……どうせ足の引っ張り合いしてるんだろうなぁ……一生下僕でいいからそういうくろーいやり取りとは無縁でいたいなぁ。
なお、余談……で済ませるにはあまりにも重要情報だが、リアス・グレモリー様は次期公爵なんだって! ……ドロドロに巻き込まれたくねぇよぉ。
まあそれはともかく、そんな背景もあって悪魔に転生してる人は結構多いのだとか。多分、今までもそういった悪魔達とすれ違ってるだろうと言われて、少し安心した。どうやら目ん玉飛び出る程の異端ではなさそうだと。
『まあ、認知できない人もいるんだけれどね』
と部長は言った。欲望に満ちた人間や、魂を売ってでも何とかしたいほど困ってる人間程、悪魔の存在を認知しやすいんだってさ。なるほど、だから今までの僕は特に困ったことがないからのんべんだらりと生きてこられたんだ。
『ちなみに悪魔なのに欲望が薄いのは?』
『出世したいなら絶望的ね』
『よっしゃあ!』
ガッツポーズをした僕を許して欲しい。だって根っからの小市民が権力持っちゃいかんよ。そういうのは、意思と欲と才能があるヤツの領分だ。意思も無けりゃ欲もない。才能があればまた話は違ったんだろうけど、僕にあるのはありふれた神器とド平凡サンプルと言うべき本体。それっぽく過ごすだけで充分っての。
『ふふふっ、私からすれば欲塗れの様にも見えるわ?』
『んん? 何故です』
『元人間のあなたからして、この状況はとても特異で、抜け出せないことが決まっている。それでも元の環境に戻りたいのがありありと見えるあなたは、欲塗れと言ってもいいのではないかしら?』
『……あっ』
『もっとも、私達悪魔からすれば好ましく映るのだけれど、ね?』
直後にこんなやり取りして、後頭部ぶっ叩かれたような気分になったけど。……これからは、悪魔の基準で『
適度に上を目指す。適度に物欲に正直になる。まず初めに僕が悪魔として達成すべき目標として、そう設定した。
◆◆◆
というわけで今、下僕として最初に命じられたのは、『魔方陣の描かれたチラシ配布』だった。欲望の持つ人が使えば、部長とその眷属(僕を含めた、部長以外のオカルト研究部の面々)を召喚できるそれを、欲を持つ人間の元に配るという作業だ。所謂下積み、というやつだね。
しかし、これに幾つか問題があった。
まず、この作業に自転車を使うようにと言われていたんだけれど、つい先日自転車は壊れてしまったばかりだ。
これに対し部長は、『先行投資ね』という名目で、僕にママチャリを買ってくれたのだった。2万円がポンと出るなんて……貯金だと余裕で買えるだけの分はあるが、それでも結構な出費なので僕なら躊躇う。でも黒いカード出てた辺り、端金なのかもしれんね、部長にとって。
次に、この作業は夜中に行うことになっているということ。あんまり遅くに帰ると親に心配される。
これに対し部長は、両親に説明をしてくれた。……のだが、どう見ても暗示にしか見えんかった。目が怪しく光ってたしね、部長。ともあれ夜間の外出が許されたので、これもクリア。
最後に、バイトが出来なくなってしまうという問題。どっちを優先させるかと言われたら明らかに部長の方なんだけど、バイトはバイトで僕の生活費を稼ぐ手段として必要なものだった。
これに対し部長は、『すぐにどうにかは難しいわね。でも暫くは、溜まってるはずの有給を使って休んでちょうだい』と言った。え、僕の働いてるラーメン屋『九頭龍亭』にそんなものあったの? と店長に聞いたら、若干バツが悪そうにある、と答えた。なるほど、黙ってたんだな? と溜まっている3週間分の有給の存在を聞いて思った。なお全て使うと言うと『お前がいなくなった穴はどうする?』と若干脅されたので、ボイスレコーダーを突きつけ、ダメ押しで部長に連絡した。この駒王町、学校も含めて部長の支配下にあるようで、この街でならある程度の無茶も何とかできるようだった。顔が青ざめた店長を見て、若干被害者と化していた僕や先輩アルバイターの中村サン、中国人留学生の張サンとで笑ってやった、ざまぁwwww(なお、足りない人手はグレモリー家の方から派遣してくれるんだって)
ここまで至れり尽くせりだったので、これはもう一生部長には頭が上がらないなと思いながら、お爺さんに救われた鶴の気分で恩返しを改めて誓う。
そんなわけで現在、部長より渡された悪魔製のスマホのようなもので、欲を持つ人間の家を確認し、そのポストにチラシを投函する日々。配る範囲は、部長の縄張り……悪魔ごとに決められた、活動のできる範囲の中で。要は他の悪魔のお仕事盗っちゃダメよってことね、イッセー覚えた。
「でも、異様に広くねぇ……?」
明らか駒王町の範囲を超えてるので、流石(次期)公爵……ということなのだろうか? 下積みが終われば、契約の仕事は何とか貰えそうだ、と前向きに考えて只管に投函を続ける。
しかし、仕事、ねぇ。
基本的に、悪魔のお仕事は『契約』。召喚され、契約を結んで、願いを叶える。代償として、それ相応の代価を貰う。
昔は命を代価に、みたいなこともあったようだけれど、現代だと願いと釣り合わないのでだいたい破談になるのだとか。
『人間の価値は平等じゃないわ』
と微笑んだ部長がおっかなかった。
まあそれはともかく、僕にそんな仕事ができるのかという話だよ。大したことが出来るわけでも……あ、そういや願いを叶えるのは別に僕の力が及ばないこともできるのか。なら巧みなトークで契約者を納得させれば勝ち、なのね。騙す、じゃないのはリピーターを作るため。もう一度契約したい、と思わせるのができる悪魔の契約術なんだって。
……ふっふっふ。これはもう、ここまでアルバイトで培ってきた接客術が活きてくる展開、来るんじゃないんですかね? これはまさかの兵藤一誠クンの時代が来ちゃいます?
「よぉし、やる気もっと出てきたァ! 凄腕営業マンに、僕はなる!」
もっとも、今は下積みだけどね、トホホ……。