兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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今年最後の更新です。


その14

その14

 

「起きなさいこの馬鹿」

「…………ぶふぁ!?」

 

 意識を取り戻すと、目の前に幼なじみ(仇敵)が居たでござる。溺れそうになって目が覚めた辺り、定番の水を掛けるやつをやった模様。容赦ねェなこの女。

 

「容赦してどーすんのよ、そんな余裕無いでしょ。つーかなんで胸元だけそんなボロボロなのよ」

「心臓爆発させた」

「分かりきってたケド、ほんっっっとうに馬鹿ね」

 

 差し出された手を掴み、身体を起こす。夏に差し掛かり、多少蒸し暑くなってきたとはいえ……流石に布がないとスースーする。

 

『この愚か者め……! 示し合わせていなければ、今頃貴様は死んでいたぞ……!』

 

 そして立ち上がったと同時に相棒の小言が飛んでくる。ごめんてドライグ、でもちゃんと示し合わせてたんだからいいでしょ? ……と胸元を擦る。

 やったことは単純だ、気を失っている間にドライグに神器の主導権を投げ、『強欲』で心臓他諸々を複製して貰っただけだ。足りない魔力も倍加すればなんとでも、ということである。いつかテセウスの船になりそうで怖いね!

 

「ま、ある意味で作戦通りっちゃあ作戦通りか。これで死んだ風を装っておけば、僕の存在そのものが奇襲になる。運良く助けてくれてありがたいよ」

「そりゃどーも。で、情報交換といかない?」

「もちろん」

 

 そう言って周りを見渡す。……パッと見、普通の一軒家。生活感の無さから、ちょっとした別荘みを感じる。

 

「とりあえず……ここは?」

「お父さんが残してたセーフハウス。万が一、この街で何かあった時に私達教会勢力が拠点にできるように抑えてたところ、らしいわ」

「悪魔が支配してる街で上手くやったなァ……」

 

 まあ昔教会があったのは間違いないし、その時からのものなのだろうけど。

 

「で、ゼノヴィア女史は?」

「今外を警戒中。知ってると思うけど、あの廃教会に襲撃されちゃってね。まあバレるとまずいココの囮のつもりだったから想定内なんだけれど、こっちもバレないワケじゃないからネ」

「大丈夫なんかよ一人で。なんか奥の手がありそうな気配はしてたけど、警鐘的に」

「相変わらず便利ねソレ。お察しの通り、本気を出したゼノヴィアは中々強いわよ。まあでも直に戻ってくるわ、イッセー君の目が覚めたって連絡したし」

「さよか……」

 

 ……んで、1番気になるのは、だ。

 

「どーして助けたの?」

「イッセー君に死なれると困るから? 一応身の潔白は証明できるけど、グレモリーと揉めたくないもの。びっくりしたわ、瓦礫と血の海の中で沈んでたのよアンタ」

「死んでそうだった?」

「思いっきり」

 

 ()()()()()()()、と内心だけでほくそ笑む。

 

 きっと盛大に死んだ演技をしたことで、僕の存在はヤツらの意識から外さざるを得ないだろう。一応部長だけにはそうするかもと伝えてあるし、向こうは向こうで部長の方が上手いことやってくれるだろう。頼んだ時の冷たいようなハイライトが消えたような目は死んでも忘れないことでしょう。…………ことが済んだら3日間位はなすがままにされよう、貞操以外。

 

「じゃあ今度はこっちから質問ね。遭遇したのは?」

「はぐれ神父のフリード・セルゼン、斬られ心地的に聖剣を持ってた」

「その聖剣って……こんな感じのヤツ?」

 

 そう言ってイリナちゃんは右手首を僕に見せてくる。……ミサンガみたいに紐が巻きついてるだけ、だと思ったら、急に紐が形状を変化させて……って、

 

「うわっ!?」

 

 首元に向かって伸びるように紐が剣の形を取り、慌てて避ける。……コイツ、このタイミングでも僕のタマ狙ってやがる。部長と揉めたくないとは一体なんだったのか。

 

「ちっ、死ねば良かったのに」

「ひでぇ女郎だ……。まあそんなことすりゃまた自爆するだけだが」

「そーゆーとこだぞお前ー」

 

 まあ、それはそれとして。じっくりと眼前の聖剣を眺める。……言っちゃなんだが、フリード・セルゼンが持ってた聖剣よりも若干チープな気が。

 

「これね、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)なのよ」

「…………これが!? エクスカリバー!?」

 

 オイオイオイオイ…………コレが現物かよエクスカリバー…………夢がぶち壊された気分だよ。ついでに祐斗クンが余計に不憫だよ……。

 

「……その反応だと、これよりも強そうな聖剣を持っていたということでいいかな?」

「う、うん。なんかすげぇ立派そうな……」

「やっぱりか……やっぱりかァ……!」

 

 思いっきり頭を抱えるイリナちゃんを見て、とうとう警鐘が鳴り始める。ご丁寧に緊急アラームみたいなソレだ。

 

「……恐らく、恐らくだけれど。フリード・セルゼンの持っている聖剣はエクスカリバー……なんてものじゃあない」

「まあソレは想像つくけども。だってエクスカリバーは七本分裂面白聖剣なんだもんな、つまり本来の1/7の性能ってこったろ? たとえヤツが持ってる聖剣が本来のエクスカリバーより劣るものであっても、完品なら、そりゃ分裂剣より強いに決まって、」

「それどころじゃないんだってば!!」

 

 がす! と頭にチョップを入れられる……痛い。

 

「フリード・セルゼンの出自、経歴からして、教会から離反してでも欲しいなんて聖剣はただ一つ! 悪魔側では知らないでしょうけどねぇ、あの男は昔、手練の聖剣使いの弟子だったのよ!」

「お、おう。その聖剣使いが持ってた聖剣ってことなんだろ?」

「そしてその聖剣はエクスカリバーの兄弟剣……数ある中で、最も頑健と呼ばれる刃こぼれ知らず! 聖剣ガラティンよ!」

 

 な、なんですと!?

 

 

◆◆◆

 

 

 外回りを終えたゼノヴィア女史が部屋に入ってきたので、今の情報をおさらいしつつ作戦会議をすることになった。いやこれ僕いる? 一刻も早くここを出ていきたいんですけどそれは。

 

「今それどころじゃないのよ……あーもう、アテが外れたにも程がある……!」

「それって、ゼノヴィア女史の奥の手と関係があるのか? ……察するに、彼女の佩いてるソレとは別の聖剣があると見てるんだけど」

「…………イリナ?」

「もう今となっちゃバラした方がいいわよ、ちょっとばかし相性が悪過ぎるからアイデアの1つでも貰いたいところよ」

 

 着いたテーブルに突っ伏し、半ば投げやりに彼女は言うが……。

 

「……現物を見せる訳にはいかないのだが。私が今使っている破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)とは別に、もう一つ強力な聖剣を持っている。銘をデュランダル……聖剣デュランダル。破壊力、斬れ味という観点では最強の聖剣だ」

「…………ああー、そりゃ疎まれるワケだ。ウチの優男からの話だと、基本的に聖剣ってのは個人の才能で持てるかどうか決まってるんだろ?」

 

 そしてイリナちゃんが突っ伏してるワケも分かった。刃こぼれのしない……つまり矛盾でいう盾のガラティンに、矛のデュランダルというわけだ。

 

「私もそれなりに腕が立つ自信がある。……が、相手もかつて教会の天才剣士と呼ばれた男。負けはしないだろうが……」

「勝ちが狙えるかは不透明。そして、君らはコカビエル以外の取り巻きは最悪力押しでどうにかなると考えていたから、そこそこ致命的な状況ということだ」

「もしかしたらあの男も参加してるかも、とは予測してたけどガラティンは想定外よォ……というかなんで行方不明のガラティンをバルパーが確保してたのよ本っっつ当にろくな事しねぇなアイツぅ!!」

 

 ダン! と台パンされましても……まあ想定外なんて日常茶飯事だぜ元相棒。予想外を楽しむのも人生を楽しむコツだ。

 

「他人事だと思ってるんでしょー薄情者!!! 一体どれだけ恩があるか忘れちゃいないでしょうねぇ!?」

「一度死んだしチャラでは?」

「ムキーッ!!」

 

 ……とはいえ、この2人にとっての想定外は僕にとっての想定外でもある。ある程度彼女達の勝ち筋に乗っかることも考えていたわけだから。

 というわけで、提案タイムだ。

 

「……実は、フリード・セルゼンにはマーキングを済ませてある。余程入念に、余程丹念に洗浄しないと取れないマーキングだ。まあ、僕の血なんだけど」

 

 私情ではあるが。僕はあのフリード・セルゼンなる輩を殺したい。アレは放っておくと僕の大事な人達を殺す類の存在だ。…………僕が、堕天使にされたようなことをしてる気分になって嫌になるが。人間って、そういうダブスタをやるものだろう。僕は悪魔だが。

 

「血を爆薬代わりにでもしたのかしら?」

「大方そんなところ。ちょっとした裏ワザで血に魔力をたっぷり練り込んであったから、今でも僕の魔力を漂わせてるんじゃないかな」

 

 練り込んだというか、ドラゴンハートのお陰で心臓が動くだけで魔力が込められていくというか。魔力炉……と言うよりは魔力の自然回復が早くなったのと、骨で作った血と併せて貯蔵上限が増える機能の増設という感じで落ち着いた。心臓を強制稼働させりゃ話は別なんだけれどね。まあそんなわけで、僕の魔力の貯蔵庫も兼ねてる血は、それはもう赤が赫になるくらい魔力がくっついており。聖水ぶっ掛けただけでは浄化もできないという副次効果を生み出すに至った。基本的に僕の魔力技は対象にくっつけた魔力から起動するので、滅多なことではマーキングを消せないというシナジーが生まれた。やったぜ。

 

 そしてマーキングさえしておけば、あとは煮るなり焼くなり……なんだけど、警鐘がそうは上手くいかないと言っている。少なくとも、『循環する苦痛』で落ちる類の相手では無さそうだ。そもそもエクソシストのカソック、何かしらの防御能力が備わってると見た方がいいか。

 

「だからまぁ…………アレは僕が殺すよ。そしたら君らの計画的には問題ないんじゃないかな?」

「秘策が?」

「そんなモン無いよ。でも聖剣にさえ気をつければ、種族差の暴力で押し切れる。……しょーじき、コカビエルより苦戦しそうだけどね」

「イッセー君じゃなきゃ信じられないわね、その大言壮語」

 

 実際、あの神父はクソ強いんだろうと思う。種族差の暴力でどうこうなんて無理かもしれない。

 ……が、その程度で僕が膝を着くことも無いのだ。こんなこといくらでもあったわけだしな。無理ゲー感はない、せいぜいがクソゲーだ。やってられない、という共通点はあるけどね。

 

「…………どうスっかなコレ。イッセー君に素直に頼んだ方がいいのか、それとも」

「…………あまり言いたくはないが、次善の策として彼には生き残ってもらった方が良くないか?」

「そうなんだけれどねぇ……だからと言って共闘はまずいわよ。ただでさえ異端認定スレスレなのに」

「それはお前だけだろう。…………いや、私も巻き添えを喰らうか。お前に付き合うと決めた時に覚悟していたが、いよいよもってここまでか」

「いやいや待ちねぇシスターズ。僕が死ぬ前提で話進めんじゃないよ」

「さっき自爆した男がなんか言ってるわね」

 

 困った、それに対する返しは無い。

 

「というか、その言い分から想像するに……もしかして、其方サンのコカビエル対策って結構分が悪い賭けなの?」

「……いいとこ3割」

「すげぇな、相手って神話上のやべぇのだろ?」

「そっくりそのまま返すわよ。……まぁ、それってゼノヴィアが万全な状態なことが前提なの」

 

 というと……なるほど、聖剣デュランダル関連か。そう意志を込めてゼノヴィア女史に目を向けると頷きが返ってくる。

 

「だが、運良く私が万全の状態でコカビエルに相対しても倒せる確率は3割だ。確実に殺さねばならない相手に対してこの勝率は……少々問題だ」

「最悪ね、異端認定されたっていいのよ。そん時ゃ新派閥でもおっ立てて生き残ってみせるわ。問題は、コカビエルを始末できないことよ。だから自信のありそうなイッセー君をぶつけたい、というのが本音なの」

「…………分からないな。なんでそこまで殺意ギラギラなのか。堕天使だから殺すってわけじゃないだろう? それに異端者扱いって、そんな軽く流すものじゃないだろうが」

 

 異端者の烙印を押された末路については……不本意ながら良く知っている。グレモリー眷属の妹分であるアーシアがまさにソレだったのだから。それを軽く流すのは……アーシアにとっても、この2人にとっても良くないことだと、僕は思った。

 

 ……だが、僕はこの2人の信仰心を少しばかり舐めていた。

 

「2人の犠牲で戦争が止められるなら安いもんよ。戦争したいバカ共が万人死のうが億人死のうがどうだっていいわ。……だけど実際に犠牲になるのはバカ共じゃなくて、救われるべき子羊達よ」

「信じるものは救われる……否、救われなければならない。神の御加護があると、誰よりも私達がそれを証明しなければならない。その為の授かった力、その為の教会の戦士だ。喩え我々が罪を犯そうと、真摯に罪の告白をすればいつかは赦される。だが信徒達の命はそうはいかない、取り返しがつかないのだ。……ならば、我が身可愛さで、より大きな罪を犯すわけにはいくまい?」

「──────」

 

 この2人は。本当に心根から『聖職者』なんだな、と。脳天にトンカチを落とされた様な衝撃と共に理解させられた。軽い気持ちで来ては無いだろう、なんてこっちが軽い気持ちだったわ、本当に。

 

「…………はぁ。一応さ、僕の策を聞いてから考えよう。それからでも話はできるでしょ?」

 

 そして僕は、例の策について話すことになった、のだが。事態は思わぬ方向に飛ぶことになった。

 

 いやさぁ、誰が思うよ…………まさか()()()()()()()()()()()()!!

 




本年もありがとうございました。

皆様、良いお年を。
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