兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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許せなかったフリード・セルゼン
許せなかったが割り切った兵藤一誠
じゃあ、木場祐斗は…………


その17

その17

 

「く……がはっ……!」

 

 ドサリ、と力なく崩れる男。僕の仇。3本のエクスカリバーを束ねられた時は少し冷汗も出たけれど、冷静に対処できれば所詮戦い慣れしていない研究者。僕の相手ではなかった。それを加味しても動きが鈍い様にも思えたけれど。

 胸に去来するのは達成感……ではなく、虚無感だ。全てを薪に焚べてでも果たしたかった行いとはこんなものだったのか、という虚しさだ。

 

「足りなかったというのか……! まだ足りないというのか……!」

「道半ば、ということか。残念だったね、だが因果応報だ」

「絞りカス風情が偉そうに……!! ガフッ!」

 

 数多の可能性を手折ってきた研究者が、自分の可能性をも途絶えさせる。こりゃ傑作だ! ……とイッセー君なら煽るんだろう。苦しくても、苦しいからこそ。でも僕にはこれが限界だ。

 しかし、気になることを彼は言った。絞りカス、とはどういうことだ。

 

「そうだ、お前は、お前達はただの絞りカスだ! 1人では聖剣も扱えない程度の因子しか持ち合わせない、絞りカスだった! それを……それを私は有効活用してやったというのに!」

「…………そうか。そういうこと、だったのか」

 

 詳しくは分からない。分からないけれど……僕らは実験台ですらなかった。聖剣を扱うのに必要な因子というものが存在して、集められた僕らはそれをほんの僅かだけ持っていた。僕らは養分として聖剣計画の下、その因子を抽出された。

 

「そんなことの為に、皆は……!」

 

 沈めた復讐心が顔を出す。息が荒くなり、握った魔剣が悲鳴をあげる。殺すのは簡単だ。ただ、この刃を力一杯振りおろせば…………!

 

「…………ダメだ、そうじゃない。そうだろう、木場祐斗」

 

 自分に言い聞かせ、力を抜いた。こんなもののために、こんな唾棄すべきものの為に彼らを理由にしていいことは、あってはならない。僕は今、『僕の復讐』をする為にここにいる。断じて、同志達を復讐の理由にする為じゃないんだ。彼らにしたことは許せないことだけども。それでも、彼らとの日々をこんな余分で汚したくはない。

 

 だから……

 

「だから……僕は貴方を赦すよ、バルパー・ガリレイ。貴方が僕にしたその全てを、僕は赦す」

「なん、だと……!?」

「エクスカリバーも、貴方も。所詮、この程度だった。復讐する価値すらない。言っただろう、怨恨で殺すことは止めにしたって。僕がかつての仲間を思い出す度に、お前達のことまで思い出したくないから殺すんだと。この程度ならエクスカリバーの使い手を増やしたってたかが知れてる。貴方が心血を注いできた一切合切は、全て無価値だったんだ」

「黙れ……黙れ黙れ黙れ!! 聖剣は、エクスカリバーは────」

 

 墓標を突き立てる様に、手にした魔剣を男の心臓に突き立てる。血を吸う魔剣はその効果をしっかりと発揮して…………バルパーは皮が張り付いただけの骨と成り果てた。

 

「…………許してくれ、とは言わない。僕は許されない。君達の為に復讐を完遂できなかった僕は、許されるべきじゃないと思う。けれど、けれども。僕は決して忘れない。君達と過ごした思い出も、君達を亡くした無念も。全部全部引き摺って、歩いていくから」

 

 ここがまだ戦場であるのは分かった上で、僕は蹲り、手を握って、祈る。とうに枯れ果てたと思っていた涙が頬を伝い、地面を濡らす。

 

 

 

 

 

『大丈夫、大丈夫だよ』

 

 

 

 

 

 光と共に、声が聴こえた。

 

「……えっ」

 

 それは、ヤツの死体から……違う、ヤツの死体から解き放たれた何かから発せられていた。そしてその声は聞き間違うはずもない、僕の…………!

 

『ありがとう、ずっと覚えていてくれて』

『ごめんね、引き摺らせてしまって』

『ありがとう、生きていてくれて』

『ごめんね、独りにさせてしまって』

「違う、違う!! 謝るのも、感謝を伝えるのも僕の方だ!! 君達のお陰で、僕は今日まで生きてこれたんだ!!」

 

 涙が止まらない、視界が歪む。結果的に僕は間違えていなかった。みんなは、復讐なんて望んではいなかった。ああ、そうだ。復讐したかったのは、僕だった。

 

『もう、独りにはさせない』

『一緒に歩いていこう』

『神がいなくとも、』

『神が見ていなくとも、』

『僕達は、ずっと一緒だ────』

 

 光が…………みんなが、僕の胸に……僕とひとつになる。

 

「ありがとう、みんな。ありがとう……」

 

 決して、決して神になど祈りは捧げられないけれど。もう一度彼らに巡り会えたこの奇跡に、僕は感謝した。

 

 

◆◆◆

 

 

「……タイミング、いいのか悪いのかわっかんねーわね。ま、ノルマ達成ってとこかしら?」

「一応悪い、ということにしておこう。回収できなくなったからな」

 

 先にコカビエルのところへ行け、とイッセー君に蹴飛ばされる形でこちらに来たけれど、戦況はぼちぼち悪い、といったところだった。さっきまでバルパー・ガリレイだったものと、三つ首のバケモノ……ありゃケルベロスか、その死体が転がっている辺り、悪魔側である程度の対応はしていたみたいだけれども。推測するに、余興か何かでそれらに対応していたってトコか。今まさに宙に浮いた椅子からコカビエルが立ち上がるところですもの。

 

 しっかし、聖剣使い増産のカラクリってそういうことだったのね……。聖剣使いになる為に入れられたあの青白い球体は聖剣を扱うための因子。それを抜き取って束ねて……ってところか。多分データはそのまま教会側でも引き継がれてって辺り? こっちもこっちで上は真っ黒ねぇ。ま、流石に殺しはやってないでしょうから、それでも仕方がないと思っちゃうのは……やっぱスレちゃったのかしらね。

 どう思う、ゼノヴィア? と声を掛けようとして彼女の方に視線を向けると……うわっ、目から滝じゃない。

 

「あに泣いてんのよアンタ。一応悪魔よ、アレ」

「うるさい、感動したものは感動したんだ」

 

 気配を消すために嗚咽を漏らしてないのはいいけど、イヤに気持ち悪いわよマジで。表情変えずに声も漏らさずダバダバと涙だけ流してる図。

 

「そもそもイリナ、お前だって…………いや、泣きはしてないが、思うところはあるだろう」

「……まあね。随分と上等な着地で良かった、ぐらいは思ってるわ」

 

 諜報に都合のいい部署に飛ばされて早……何年かしら? ともかく、言ってはいけないがこんな話腐るほど見てきたわ。ろくでもない末路だって何度となく。……だから、全てを果たした上で自分を許せる結末に落ち着いたのなら、復讐としては満点超えて120点のウルトラCでしょ。悪魔じゃなかったら泣いて喜べるのは確かね。

 

「……さて、それはともかく。ここからどう仕掛けようか。意識がこちらに向いてないっぽい今のうちに仕込みだけはやっておきたいところだケド」

「ああ……いや、ダメだな。こちらにも殺気が飛んできている」

「便利ねぇ野生の勘」

 

 うげぇ……と思いながら仕方なく張られた結界の中……駒王学園の中へと侵入する。こうなりゃイッセー君が来るまで持ち堪えるしかないじゃない! 頼むわよあの男、いいタイミングで来なさいよマジで!!

 結界は私達を遮る効果はなく、なんの抵抗もなくすり抜ける。堂々と乗り込んだからか視線が四方八方から突き刺さる。敵の追加!? みたいな感じじゃないのは……多分グレモリーが話を通してたみたいね。助かるわぁ………。

 

「ふん、コソコソとネズミが這い回っていると思ったら…………教会の戦士か。勝ち目の無い戦いに良くもまあ出張ってくるものだ」

「生憎、命令を拒める立場じゃなくてね。下っ端の悲哀よ。さて、グレモリー。共同戦線といきましょ? 知ってると思うけどイッセー君と手を組むことにしたの、もうここまで来たら悪魔が二人も十人も変わらないのよね」

「……時間稼ぎ、頼めるかしら?」

「お互いに、って感じ。そっちも切り札用意してるように、こっちも切り札準備してるのよ……ねッ!」

 

 『擬態の聖剣』に力を流し込み…………それを地面に突き刺す。すると聖剣は溶けるように地面を這い、紋様を描いていく。

 

「死にたくなかったら範囲から逃げなさい、一時的に今から作る陣の中を聖域にするわ!」

「ッ! 総員、待避!」

 

 臨戦態勢だった悪魔が、私の作る陣から離れる。ええ、邪魔がなくなってイイ感じ。それでも油断なく手元に魔力の塊を形成し続けてるグレモリーは…………あれが切り札なのね。二の矢三の矢があるのは心理的に凄い楽だわ。

 

「ほう、何やら愉快なことをしようとしているな。いいぞ、お前たちもこの俺に掛かってこい。全員纏めて、でも構わんがな」

「ケッ、余裕綽々でヤな感じ! ……まーでも、そういうヤツに限って、虫のひと噛みに殺られるのよネ。…………準備完了よ、ゼノヴィア」

「ああ、必ず成功させる。ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ我が声に耳を傾けてくれ」

 

 ゼノヴィアの言葉と共に、陣に力が更に込められていく。……が、それは単なる余波。今ゼノヴィアは、自分の言葉で空間を歪め、その歪みの中に手を伸ばしている。そう、彼女の本当の剣。エクスカリバーなんて目じゃない、聖剣界の暴れん坊!

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。──ゆくぞ、デュランダル!!」

「デュランダル、だと!?」

 

 ハッハー! 流石のコカビエルでも驚きは隠せない様ね! だったら驚きついでに、大ケガもしてもらいたいところ!

 

「セット、状況再現術式。『主に逆らい、堕天使に下された天罰』!!」

「…………ッ!?」

 

 展開した陣が光を放ち……それにあてられたコカビエルが拘束され、地へと墜ちる。拘束は振り払えないはずだ。何故ならこれは状況再現、過去に実際にあったことだけに縛ることで、それが完遂されるまで行動を制限する術式。要はノンフィクションリアル芝居を強制するためのもの! そして堕天使にはあるのだ、主に一撃を下され、冥府に堕ちたという過去が!!

 

「っし! ぶちかませ、ゼノヴィアッ!!」

 

 これ以上無いくらい決まったナイスパス! 頼りになる私の相棒は、目にも留まらぬ速さで接敵し、振りかぶった!

 

 

「神罰…………執行ッ!!」

 

 

 墜ちたコカビエルに振り下ろされる、聖なるオーラをこれでもかと纏ったデュランダルの一撃。地面は割れ、光が夜空を割いて立ち上る。聖剣の中で最強の破壊力というのは伊達じゃあない!

 

 …………だけど、

 

「く、くははは! 流石に、効いたぞ。その一撃は」

「ちっ、力及ばずか」

「…………っぱそうかー」

 

 光が止んだその中で、ボロボロになりながらもヤツはいた。心底楽しそうに、心底愉快に、笑顔を浮かべていた。

 ……そう、結局『状況再現』だ。多分ゼノヴィアのデュランダルの一撃じゃあ神罰に遠く及ばないのもそうだったのだろうが、それ以上に『堕天使達はその一撃で生き延びてる』というのが大きいだろう。

 

「だが、狙いは別にある」

「そーそー、古傷は開いてんじゃなーい?」

 

 そう、()()()だ。私たちの狙いは状況再現で古傷を開くこと、力を大きく削ぐことにあった。強大な堕天使の幹部を、私たちが勝負に出れるスケールまでに弱らせることが目的だった。それでも勝率3割がいいとこだけど…………うん、いい感じに狙い通り。必要はなくなった陣を回収し、剣の形に再形成する。

 

「成程、上手いことを考える……。見事、という他ない。いいぞ、これなら俺も楽しめるというもの」

 

 力を削がれてなお、その気迫は健在。どころか、より大きな戦意を伴って威圧が拡がる。…………くそ、コレは想定外ね。やる気マシマシじゃないの。油断も薄れてきているし……

 

「しかし、神罰か……笑わせてくれるものだ」

「はァ〜? お笑い要素何処よスットコドッコイ!」

「いやなに、本来ならばそのデュランダルの一撃は俺を屠るに足る威力だったろうことを思うと…………くくく、憐れなものだな」

「……………………なんですって?」

 

 嫌な予感がする、この先を聴いては、問い質してはならないという第六感が。

 

「魔王が来るまでの暇潰しだ、講義をしてやろう。お前達が行った一連の……そうだな、『儀式戦闘術式』とでもしておこう。ソレは聖書の神が運用していたシステムの補助で成り立っている。違うか?」

「………………」

「雄弁な沈黙だな。まあ知っていようが知るまいが何も変わらん。あるものを使うしかなかったお前たちにはな」

 

 何だ、この…………なんだ? 答えのピースは揃ったのに、恐怖から答えに到達できないこの感覚。酷く恐ろしい話をされていると感覚は理解しているのに頭が上手く回らない。

 

「システムとは、神の奇跡を司るモノだ。信者への加護、天使の生産、敵対者への天罰、天界の運営、神器システム……等。その用途は多岐に渡る。これは神が自らの仕事を効率良く回すためのものであり、今となっては教会勢力にとって無くしてはならぬだろう機構だ」

「……随分と詳しいわね。古巣なだけあるのかしら?」

「古巣どころか、俺たちはかつてシステムの歯車の一つだったと言っても過言ではない。その辺の木っ端天使なぞよりも、余程アレに熟知している」

 

 ダメだ、と踏み止まる防衛反応を無視して無理矢理頭を回す。そして気が付いた。気が付いてしまった。コカビエルはなんと言った? 聖書の神が運営して『いた』システムと、ヤツは言った。

 周りを見渡す。この事実に気が付いたのは…………いた、グレモリーだ。グレモリーが分かりやすく顔を青ざめさせている。

 

「システムが完全であったならば、天罰を意図的に引き起こすその儀式戦闘術式は正しく機能しただろう。状況再現、とお前は言ったがそれでも神ならば多くの信徒に被害を及ぼす俺を見て見ぬふりはしないだろうからな。信徒を守るために、今度は本気の一撃を────」

 

 瞬間、背後から伸びる光を呑む一条。グレモリーが放っただろうソレはコカビエルの脳天目掛けて飛んでいき……それをヤツは右手で払った。

 リアス・グレモリーの魔力特性は『滅び』。特殊な方法を取らない限り、触れたものを跡形もなく消し去るソレが引き起こしたにしては……起こった反応が妙だ。障壁か何かを展開していたにしては腕が折れているし、さりとて消し飛ばされたと言うには原型がそのままだ。

 

「ふはは……そういうカラクリか! 良い工夫だ、魔力が足りぬなら()()と、そういうことか! ははは、此処で殺すには惜しい才能だな、リアス・グレモリー!」

「黙れ、堕天使」

 

 声に怒気が乗っている。これは、義憤の色だ。

 

「ほう? 随分とお優しいことだ。兄に似て…………否、グレモリーとはそういう一族だったか。轡を並べて戦っているとはいえ、敵にまでその甘さを向けるか」

「黙れ、黙れ堕天使! 私達は人々を惑わし、堕落させる者! けれど許可なく心を踏み荒らす下衆になった覚えはない! 魔王様が相手するまでもない…………今此処で殺してやる、コカビエルッ!!」

 

 何処か遠くで、その怒りの発露を聞いていた。…………あの男は、この悪魔のこういうところに救われたのだろうか? 何はともあれ…………とんだ人垂らしだなと、思ってしまった。

 

 だから…………

 

「……いい、大丈夫よリアス・グレモリー。安全策でいきましょ。こんなヤツの為に、命を散らす必要は無いわ」

「…ッ! 貴女、でも!?」

「オイオイ、なんて顔してんのよ。悪魔なんだから、ちゃんと弱味につけ込みなさいよ」

 

 本当、なんて顔よマジで。そんな悲痛そうな顔しなくても大丈夫よ。

 顔を叩き思考が冷える、息が戻る。…………どんな事実があろうとも、結局やることは変わらないし、信じるものも変わらない。

 ゼノヴィアを見る。何も分かってなさそうな顔だが深刻さは伝わっているはずだ。それでも、大丈夫だと頷いてくれる。……よし、答え合わせの時間ね。

 

 

 

「……確認よ、コカビエル。神は……我らが主は、亡くなった。そうね?」

 

 

 

 嫌味ったらしく釣り上がる口元が、その返答だった。




感想等、本当にありがとうございます。
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