手を出そうとした瞬間、圧が掛けられた。目の前の白い龍ではなく、部長にだ。
だが、だがしかし。それはダメだ。意図は分かる、部長は僕を守ろうとしている。でもそれはダメなんだ。既に心を守ってもらっているのに、命まで守られるなんて……僕には耐えられない。
「……ハッ。いつかは、いつかは会うと思っていたけど。今会うことになるとはね」
「イッセーッ!!」
「…………偽装剥いでくれ、相棒」
『……いいのか?』
いいわけが無い、何一つ良くない。まだ何にも到達できてない。それでも、今の今まで偽装していたのは、力を僕なりに磨いてきたのはこの時の為だ。
「龍の傲慢さにケチ付けるなって言ったのはお前だろうが、
『……よかろう、我が相棒。兵藤一誠よ。今がその時と言うのならば、俺に是非は無い』
左腕を構える。赤黒くもない、本来の『
「『
『Upgrade:Frame Gear Booster!!』
疲労困憊した身体に負荷を掛けるように、各部位に鎧が張り付いていく。焼けるように痛い、苦しい。だが、これは必要なことだ。
「……まさかコカビエルにトドメを刺した君が、俺のライバルだったとは」
負荷に目が眩んでいる間に、眼前まで白が迫ってきていた。割り込もうとする部長を手で制して、力を振り絞って僕は睨む。
「ガッカリだったかよ、こんな貧弱悪魔が赤い龍で」
「……いや。確かに君は弱い。だがその戦い方には目を見張るものがある。しかしどういうカラクリだったんだ? さっきまでの君は、まるでその気配がしていなかった。偽装、という言葉がその答えとは思うが」
相手も全身鎧のせいで目が見えねぇ。でも、値踏みする様にこちらを見ていることは分かる。
「生憎、目覚めたのが今年の春先だったもんでね。僕は死にたくなかったから、息を潜めて訓練することにしたってこった」
「成程、変わっているが良い手だな。だがそうなると分からない。死にたくない君が、何故今俺に立ち向かうようにその偽装を剥いだのか。戦力差が分からない程馬鹿じゃないはずだ」
「ンなモン決まってる…………命よりも大事なモノを守るためだ」
ああ、死にたくない。死にたくないとも。気合いで抑えてるがそうでもしなけりゃ脚はガクガク震えていただろう。
だが、此処に部長や皆を巻き込めない。僕の命よりも大事なヒト達を、僕の事情に巻き込めない。これは、僕が背負ったものだ。可能性を掴むためにこの神器を使い続けてきた対価だ。…………僕の命一つで、多分この場は収まるだろう。こいつの興味は今、僕にしか、赤龍帝の僕にしか向いてない。だから、こうするしかない!
「……ふふ、そうか。それはいいことを聞いた。それが君の原動力なんだな」
「ああ」
「安心しろ。疲弊した今の君と戦うつもりはない。アザゼルにも、ことを荒立てるなと言われているしな」
「アザゼル……堕天使の総督……?」
……えーと。目の前の推定男から戦意が霧散したからようやっと一息つけたのだけど。推察するにこの男、堕天使の総督からの指示でここにきたってこと……?
「ああ。ちょうどさっき、君が殺した堕天使を回収するように頼まれてね。まさか殺されるとは思ってなかったが…………。代わりに面白い報告ができそうだ」
「………………………………うっそぉ」
じゃあなに? 今僕が偽装を剥いだのは百歩譲って無意味じゃなかったとして…………必死こいてコカビエルをどう殺そうか悩んでたのはぶっちゃけ無駄だった、てこと!?
「…………もーやだァ!! なんのために頑張ったか分かんねぇじゃん!! 僕もう引きこもりたい!!」
「…………? 戦いたくて死力を尽くしたのではなかったのか?」
「阿呆、戦いたくねーわこっちは!! いいか、僕は命の危険がなく、穏やかで平穏な日常が大好きなんだよ!! 好きこのんでこんなことやってられるかァ!!」
もーいやです! ふて寝します! 帰ります! 全部投げ出して部長に飼われてもいいかもしれん! …………いやダメだな、今の僕と戦うつもりがないだけで、コイツとは何処かで決着つけないといけないのは変わんねーか。畜生!!
『…………今回のは、随分と風変わりな男なのだな』
「…………?」
どこからした、この声? なんか響き的にウチのクソトカゲに似た感じの…………あっ。
『ああ、いつまで経っても俺のことをトカゲ呼ばわりする何処までも弱いノータリンだ。しかし、悪くはない男だろう?』
『否定はせん。毛色は違えど、龍のような男だな。此度の俺の相棒には劣るが』
えー……なんだ。多分コレ、二天龍で、ドライグの対になるドラゴンの……アルビオン、なんだよね? 前コイツから聞いた話だと、不倶戴天の敵って話だったが……いやに落ち着いて話をしてるな。
『しかし、白いの。お前のことを言えたクチでは無いが、随分と敵意が薄いじゃあないか』
『お互い様だ、赤いの。それぞれ、戦い以外の興味対象があるということだろう』
『で、あるか』
いやぁ、気が利くなぁ僕の相棒。疑問をちゃんと解消してくれた。でもクソトカゲって呼ぶこと自体はやっぱ怒ってるよなぁ! てめぇもノータリン言うからな、ぶち殺すぞマジで(情緒不安定)。
『それに、今は戦いの空気というわけでもないだろう。悪いがこちらはこちらで暫くは独自に楽しませてもらうよ。たまには悪くないだろう?』
『ああ、それもまた一興よな。じゃあな、アルビオン』
『応、ドライグよ』
二人……いや、二龍? の間で話が着くや否や、目の前の白いのが翼から何かを放出して空へと飛び上がる。
「ではさらばだ、俺のライバル。次会う時までに、強くなれよ」
そう言葉を残し、白い龍は閃光となって遠い空へと消えていった。いやぁ……死ぬかと思ったな。何事もなく話が終わって良かったよ。
…………で、だ。
「イッセー。一日なすがままにされるのと、首輪。どっちがいいかしら?」
「本当にすみませんでしたァァァアアアッ!!!」
なんでこういつもいつも締まらない感じになるかねぇ、僕!!
◆◆◆
…………というわけで、今回の
僕の貞操はちゃんと守られました。
「そうじゃねーでしょうスカポンタン。もっとほら、記録することあるでしょ?」
「うるせぇな新人バイト。店長の日記勝手に覗き込むんじゃないよ」
僕の記録帳を覗き込むこの女はイリナちゃん。傍若無人な僕の元相棒。泣く子も黙る破天荒な聖剣使い。
いやほんと、なんで彼女が此処にいるのやら。考えるだけでも頭が痛いのだが、単純にヴァチカンに帰れないからだとか。
「他の信徒に対して情報汚染するわけにもいかないし、帰ったらぜってー謀殺されるからしばらくの間ゼノヴィアと一緒にこの町で潜伏することにしたわ!」
「鞍替えするわけじゃないので悪しからず」
「帰ってくれねぇかな……」
などとボヤいた記憶が、今でも鮮明に思い出せるよ全く……。一応部長には話を着けたみたいだから僕が何を言ってもひっくり返らないんだけどね……。
でも日銭は稼がなくちゃ、ということで『たまたま』出してたウチの店の求人にシスター二人が応募して……痛む頭を振り払って努めて公正に面接し、満を持して今日から初出勤である。図太くて強いなぁこの二人、僕も見習いたいよ。
「というか本職で稼げよ本職で。教会も修復したでしょうが」
「潜伏するって言ったでしょうが。相変わらずの鳥頭ね」
「可能ならそうしたいが、暫くは生死不明で乗り切りたいのでな。…………思うところはあるが、背に腹はかえられん。暫く厄介になるぞ、店長」
そう言ってさらにやってきたゼノヴィア女史。気合十分……と言った装いだ。いや本当に気合十分。黒Tにジーンズ、うちの店の前掛けに三角ナプキン。そして背中に背負ったエクスカリバー。うんうん、戦闘準備万端だね!
「片付けろボケェ!! なに銃刀法違反さらっとかましとるんだ君ィ!!」
「む。店員とはクレーマーと戦う者のことを指すと聞いたのだが」
「戦いはしても舌戦じゃどあほう!! イリナちゃん、イリナちゃん!? ゼノヴィア女史ってこんな天然サンなの!?」
「うん、まあちょっとアホの子よね。頭はいいのに」
「…………心外だ」
とはいえ座学研修をきっちりやれば、二人ともちゃんと真面目に戦力になってくれたからいいんだけどね…………はー、胃が痛い。
聖剣、と言えば。自分の人生に一つの区切りを打った、グレモリー眷属一番のイケメン優男に関して。
「…………『
「うん。同志達の魂が僕に宿ったことで生まれた……『
「はぇ〜、すっご。光と闇が合わさって最強に見えるヤツじゃん」
そう口では茶化して見たが、まったく笑えない。こいつの仇だったバルパー・ガリレイって男は、相当に下衆なマッドサイエンティストだったらしい。それでも、コイツは許したらしいけどな。経緯を聞くに納得だけど、よく許せたなと思わずにはいられない。僕なら絶対に許せないだろうから。
「まったく、君が言ったんだろう? 同志のために復讐しようとしていたけれど、エクスカリバーを許せなかったのは僕だって。……事実、その通りだった。皆は、そんなことを望んでいなかった。ただ、残された僕のことを案じていたよ」
「…………さよか。いい仲間なんだな」
「うん」
大事そうに、宝物にでも触れるように胸に手を当てる祐斗クンを見て、本当に決着がついたんだなと安心した。……あーくそ、僕こういう話に弱いんだよ。涙が出てくらァ。
「だから、本当にありがとうイッセー君。僕に、前に進む切っ掛けをくれて」
「やめろやめろ、礼なんて言うんじゃあない。どこまでも、自分のために行動しただけだからな」
こうして、彼の復讐劇は紛うことなきハッピーエンドで幕を下ろした。これからの木場祐斗クンの活躍に乞うご期待、といったところだ。
復讐繋がりでいくと……僕の手の中には、まだ聖剣ガラティンがある。これだけは誰にも……リアスさんにも任せられない、僕の罪の象徴にして僕に殺されたあの男の墓標だからだ。
しかし片付ける場所に困ったところ、なんとドライグが神器に収納できる、と提案してくれたのだ。
『だがそのままだとお前は常にダメージを受け続けるだろう。木場祐斗辺りに相談して聖魔剣で造った鞘で封印することをオススメする』
「ういうい。駄目元でお願いするかー」
流石に同志の魂でもある聖魔剣をそんな使い方するのを認めるわきゃねーだろ…………と思っていたのだが、思いの外乗り気で鞘をお出しされた。…………なんかむっちゃ僕に対しての好感度高くなってないか? 無責任なこと言っただけなんだけどな、僕。
まあそんなこんなで、腕の中にきっちり聖剣ガラティンは収められた。肉体的なダメージを受けることはなくなった。なくなった…………が。やはりあの時のことを思うと、悲しくなってくる。殺したことは後悔してない。けれど、アイツがああ成り果てるまで止まれなかったことが、なんだかとても悲しいことだと思うのだ。それを忘れない為に、僕は一生この剣を抱え続けるだろう。例え教会勢力を敵にしてでも、だ。
『しかし存外貴様は気に入られているらしいな。愛憎入り交じった、といったところだが』
「え、何それ。剣に感情とかあるのかよ」
『さあな。だが剣ごとに好みがあるのは確かだ。悪魔のお前がガラティンに焼かれ切っていないのがその証拠だ』
「うげぇ…………」
こんなモノに好かれたくはないよ。僕ってばきっちり悪魔だよ? と思わずにはいられなかった。
そして後は…………僕自身のことか。
僕が赤龍帝であることは、僕自身の手によって白日の元に晒された。今となってはあの暴露も必要だったのか悩むけれど……まあ部長や皆が殺されるよりかはマシだと思ってるのも事実だ。実際ああしないとどう転んだか分かったもんじゃないしね。
そして今の今まで騙していたことは、めっちゃあっさりと流されたのだった。特にイリナちゃんの反応が酷かった。
「まあ、うん。驚きはないわね。だってアンタ、ナチュラルボーン・パブリックエネミーだもの」
「おい、僕が何言われても傷つかない生き物と思ってないか?」
「傷付けるために言ってるもの。抱え込むのも大概にしなさいよマジで。手遅れになるわよ、特にグレモリー関係で」
「やめろ、言うな」
今回の自爆します宣言もかなり精神的に負担掛けたみたいだからね……。僕がヤンデレは美人以上に観賞用だって言ってなかったら瞬く間に闇堕ちしそうで怖いよ。全部僕のせいだが。…………暫くは色々自重しようと思う。
「……今回は、こんなところかな」
パタリ、と記録帳を閉じる。意外と書くことが多くて既に3冊目だ。このまま続けていけば大長編になるかもしれない。やだなぁ、せめて10冊程度で収まってくれないかなぁ。
『それは無理だろう。白いのと出会った以上、お前達は戦う運命にある。10冊で仕舞いになる、即ちお前の死だろうさ』
「無慈悲なこと言わないでよ。というか受け入れはしたけどコレお前の因縁に巻き込まれてるだけだからな!?」
そうじゃなかったら今頃部長の誘惑に負けてペット生活できてたかもしれないのに!!
『なんだ、そういうのが好みなのか?』
「いやまったく。でも思いの重さ感じるとたまにゾクゾクするよね」
『……破れ鍋に綴じ蓋、か。犬も食わんな』
さて、与太話はここまで。僕もちゃんと日常に戻って働かないと、ね!
「…………相棒。僕はちゃんと頑張るからな、赤龍帝」
『応、期待しているぞ相棒』
心の中で拳をぶつけ合ってバックヤードを出る。
…………いつの日か、僕が殺したあの男のように殺されるのだとしても。せめて悔いなく逝けたらな、と。そう思う僕なのであった。
◆◆◆
「面白い男だったな。……名前を聞き損ねたのが痛いが」
『ああ。しかしこれから幾らでも機会はあろう』
「そうだな。…………しかし、本気で戦う気はなさそうなのが残念だ。彼は、どうしたら本気で戦ってくれるだろうか?」
◆◆◆
CHAPTER3:トラストユー・フォーエバー
The End.
反省点が色々と残る第3章でしたが、それでもお付き合いいただき本当にありがとうございました。
年明けてから家族や職場のことで色々とバタバタとアンラッキーだったのですが、整理が着いて何とかここまで書けました。感想が本当に沁みる……。
教会コンビのどっちかが悪魔になるのでは、みたいな想像をした方もいるかと思われますが……あんな啖呵切っておいて悪魔になるわけが無いよね、ということで現状は駒王町で潜伏してるホームレスシスターズにジョブチェンジです。まあ強く生きてくれるでしょう。
次はサブ章挟んで第4章です。この作品書いてて、一番書きたかったのが此処なので、全力で書きます。今度こそ月一投稿を守りたい……!