→魔力は一般並はある
慣れ、とは恐ろしいものだ。悪魔になってから聖なるものと光が弱点になって、それでも慣れれば陽の光は克服できるらしかったのだが、2週間位で克服した。もう授業中寝ることは無い、やったぜ!
なお聖なるものに関してはマジで無理なようで、家に置いてあった清めの塩触ったらジュっていった。めっちゃ痛くて涙が出た上、部長に後で怒られた。
『あなた、自殺したいの!?』
ちゃうんです、好奇心には勝てなかったというか。あと最近酷い目に合いすぎて感覚が麻痺ってたというか。
「というわけで、これはこの間のお礼だ。……見つからないように、こっそりな?」
「「おおイッセー、心の友よ!」」
そんな頃の昼休み、心配かけたお詫びとお礼として、僕秘蔵のコレクションアイテムを袋に入れて猥談仲間の2人に渡していた。松田はどんな形のエロも好きだが元浜はロリが好きなので、コレクションの中に気に入りそうなのが少なくて困った。僕と趣味がまるで違うからね、殴りあったことも数回では効かない。
「にしても、結局アレはなんだったんだ?」
「なんだったと言われたら……軽い鬱?」
肩を竦めて冗談でも言う様に。実際精神的に参っていたので嘘ではないけれど、深刻なものでもなかった。だけどそうとは取らなかったようで、二人とも神妙に顔を歪めた。
「……いじめとかだったら、相談乗るからな?」
「あっはっは! もしそうなったらそいつら纏めて地獄に落としてやるよ!」
最近ボイスレコーダーを手放さないようにしている。元々授業を録音するために使っていたものだが、アルバイトの件で反省した僕は、決定的な瞬間を逃さないようにすることにした。あとはカメラでも使えればいいのだけれど、生憎うちの学校、表向きはケータイ持ってきちゃダメなのよね。
「……俺、時折お前が極悪人に見えるよ」
「右に同じく」
「あるぇ!? どうしてさ!」
「そりゃお前、『地獄に落としてやるよ!』って言いながら笑顔になられても……」
「過去稀に見る眩い笑顔だった」
その言葉に周りもウンウンと頷くのでぐさり、と傷付いた。慣れと共に若干悪魔っぽく性格変わっていってるのでは……? あ、元からですか? そうですか……。
いじいじしながら弁当をつついていると、ここ最近で聞きなれた声が聞こえてきた。
「やぁ、兵藤くんはいるかい?」
「……ん? ありゃりゃ、木場クンじゃん。どしたの」
最近では教室の外から、ではなくてわざわざ僕の席まで来るようになったよね、キミ。僕は別に構わないけど、悪友二人が殺気立つからタイミングは配慮してもらいたいかなー。
「部長からの伝言を頼まれてね。今日は、部室の方まで来てちょうだい、とのことだよ」
「ほいほい了解。わざわざありがとね」
木場クンとの仲はボチボチ、と言ったところか。同じ部活で唯一の同性同士ってこともあって、好きな小説を勧め合う程度には。見た目に反して意外と渋い趣味しててビックリしたよ。
「いやしかし、お前がオカルト研究部になぁ」
「本来なら羨ましがる所なんだが……」
「観賞用の人達に紛れても肩身狭いだけだって」
「「これだからなぁ……」」
これだからな、と言われてもな。実際に美男美女の中に紛れても、場違いだと息苦しいだけだって。いやホント。まあ僕の場合そうも言ってられない事情があるが。
しっかし、まだ下積み中の僕を呼ぶなんて、なんかあったんだろうか……?
◆◆◆
「と、言うわけであなたにもこれから悪魔としての仕事を本格的に始めてもらうわ」
「あ、そういうことでしたか」
短いけど下積みはこれで終わりというらしかった。意外と楽しかったんだけどな、夜中に自転車で駆け回るの。音楽プレイヤーがいい仕事してくれたぜ。
ちなみに、普段あのチラシは部長達の使い魔が人間に扮して昼も夜も配ってるんだって。……いいなぁ使い魔。僕もいつか持てるんだろうか?
「もちろん初めてだから、簡単な契約内容なものからだけれど」
まあですよね。それでいいし、それがいい。
「それではイッセーくん、魔方陣の中央へ」
「分かりました」
姫島先輩に手招きされ、魔方陣の中央に立つ。……むむ、これはもしや、僕が魔方陣で召喚されちゃうとかそういう夢のあること? いいねぇ、これはワクワクする!
姫島先輩が何やら詠唱をする傍らで、若干ウキウキの僕。平和平穏大好きとは言え、そういうのに心が踊らないわけじゃないからね、僕も男ですから!
「今回は、小猫に予約契約が2件入ったから、その片方を頼むわね」
「……よろしくお願いします」
なるほど、両方行くのは難しいのね。……アレ、これ地味に責任重大じゃなかろうか? コレ、僕がヘマをしたら塔城サンの顧客も失うことに……。
「と、塔城パイセンの顔に泥塗らない様に頑張りまっす!」
「……先輩、変なものでも食べましたか?」
「あ、いや、緊張し過ぎてつい。それに悪魔のことなら塔城サンの方が先輩だから間違いではない気もするよ?」
「……気持ち悪い、却下」
ぐっ、割とズケズケものを言うよね。嫌いじゃないけど傷付くわァ……。
と、落ち込んでる間に、姫島先輩の詠唱が終わったみたいで、魔方陣が妖しく輝いている。
「……ふぅ。部長、イッセーくんの刻印を魔方陣に読み込ませました」
「ありがとう朱乃。さあイッセー、手のひらをこちらに」
言われるままに左手を差し出すと、部長は僕の手のひらに指先で何かをなぞっている。……ははーん、コレあれだな? ついこの間説明されたばかりだから覚えてるよ僕。
悪魔が魔力を使うとき、だいたい魔方陣を介して発動させるのだという。使う魔方陣は、今まさに僕が立っている魔方陣を絡めたもの。僕を含めた部長の眷属悪魔にとってこの魔方陣は家紋のようなものであり、契約をしようと悪魔を召喚する人間にとっての記号であり、力を行使する媒介でもある、ということらしい。とりあえず、身分証兼、魔力というエネルギーで回す万能回路って認識で大丈夫だろ。
そんでもってその魔方陣を身体に書き込んで、魔力を通すことで起動する……と響きはお手軽だが、魔力の扱いが赤ん坊レベルの転生したての悪魔は、まず魔力のコントロールから始めるんだと。
とはいえ、僕を召喚(もしくは転移?)なんて大掛かりな現象は、魔方陣でもないと使えないってことだろう。
そして僕の予想通り、何らかの模様を描いていた部長の指が離れると、円形の紋様が光ながら僕の手のひらで浮かんでいた。
「なるほど、これが転移用の魔方陣ですか?」
「あら、先に勉強でもした……わけないわね、まだ下積みだけしかさせていないし。察しがいい、と言ったところかしら?」
「『魔方陣』『召喚のチラシ』『魔力の使い方』について説明されたこと覚えてたら、大方の想像はつきますよ」
「そういうことね。でもこれは転移だけではなく、契約が終わればこの部屋に帰還するためのものでもあるわ」
「なるほど……」
なお、この察しの良さは勉強などには使えない模様。万年平均点って、一体どうなってんの……?(困惑)
「朱乃、準備はいい?」
「はい、部長」
そして部長と姫島先輩が魔方陣から出て、中で突っ立ってるのは僕のみとなった。
「さて、イッセー。覚悟はできている?」
「もちろん! 一発目、バシッと決めてやりますよ!」
「いい返事ね、じゃあ行ってきなさい!」
魔方陣が輝きを増して、視界が白い闇で包まれて…………。
視界が回復すると、そこは小綺麗なアパートの一室のような……。
「……あれ!? 君、九頭龍亭のアルバイトくん!?」
「えっ嘘!? かえし増しストレート固めの常連さん!?」
まさか、顔見知りに会うとは……!
◆◆◆
かえし増しストレート固めの常連さんの名前は、森沢サンと言うらしかった。
常連なのに名前覚えてないのかよとか言った壁の向こうのお前、仕事中に必要以上の無駄口叩けると思ってるのか。常連さんの中でも僕らに声をかけてくるガチ勢の方は、常連さんの中でもひと握りだっての。
ちなみに平麺をよく頼むこの間の常連さんは、名前は知らないけど通称『ベル』さん。向こうからそう呼ぶように言われた。あの人マジでガチ勢だよね、食べる前から一目見るだけでスープの背脂の炊き込みの甘さとか見抜くもん。やべぇやべぇ。
「ここのところ店にいないなーって思ってたら、そういう事だったのか……」
と、森沢さんがグラスにお茶を入れて僕の前に置いてくれた。あ、お気になさらず。え、知り合いを招くの初めてだから飲んでって? それなら遠慮なく。
「いやぁ、それがつい最近堕天使に殺されちゃいましてネ。今の主人がたまたま通りかかって悪魔に転生してくれなきゃ今頃あの世でしたよ! アッハッハッハッハッ!」
「笑い事じゃないと思うよキミ!?」
「でもドラマチックで面白くないですか? 契約営業の掴みにしようと思ってるんですけど」
そう首を傾げて言うと、若干森沢サンが表情を陰らせて言う。
「……初対面の相手なら、冗談と受け取って笑い話になるかもだけれど、僕は無理かな。流石に知り合いがいなくなってたかもしれないってのは、ね」
「……なんか、ごめんなさい」
話を聞くと、彼は昼間は公務員の仕事をしていて、真面目にやってきたそうなのだが、人との触れ合いが少なくて、悪魔の召喚をしたのだとか。ついでに九頭龍亭に来るのも、それが理由の半分だとか。
「仕事なんだろうけどさ、キミいつも笑顔で話しかけてくれるから、そっちでも救われてたんだよね。僕の好み覚えてくれてるし……」
開幕で殺された話をした数分前の僕を全力でどつき回したい。
「とはいえ安心したよ。一応店長は有給で休んでるって言ってたけど、2週間も休むなんて、普通だとなんかあったと思うからさ」
「心配おかけした様で……」
しかし、意外なところで人と人の繋がりはあるものなのだなぁ……あ、僕は悪魔だった。
「それで、今日僕は小猫ちゃんに来てもらうようにお願いしたんだけれど……」
「すみません、塔城サン人気みたいで、指名が被ってしまって。ここは一つ、顔見知りということでお目こぼししてくれませんか?」
「うーん……まあ、アルバイトくんだからいっか」
「ありがとうございます!」
立ち上がり、深くお辞儀をする。案外、僕の運は捨てたものではなかったらしい。あ、殺されてることに関してはノーカンで。あんなの事故事故。
「ちなみにですけど森沢サン、小猫ちゃんを呼んでどんなお願いするつもりだったんですか?」
「ああ、実はコスプレをしてもらおうと思って……」
そう言って彼が部屋の奥から持ってきたのは、パッと見どっかの女子高生の制服だった。
「……あ、それ暑宮シリーズの」
「そう、短門キユの制服……」
……代わりにできることがあれば、と思ったけど、それは流石に難しいかな。本職のレイヤーさん連れてこないと。
「アルバイトくん、短門は好きかい?」
「クールキャラは好きですけど、それ以上に夜水可子が好きです」
「理由は?」
「胸です」
女性のどこに目が向くかと聞かれたら、僕は間違いなく胸、おっぱいだと答える。次点で尻、もしくは脚。
ちなみに男が胸に目がいく理由は、猿の時の名残りらしいね。オスザルはメスザルのケツを追っ掛けてたけど、立つことによって、代用品として乳房が肥大化したと。つまりオッパイスキーは尻も好きなんだろうな、僕も嫌いじゃないよ!
「つまりは巨乳派、と」
「YES.貧乳も可愛いと思いますけど、並ばれたら僕は迷わず巨乳を選びます」
しかし森沢サンのこのノリ……実に猥談コンビとのそれを彷彿とさせる。案外あの2人と合わせると思わぬ化学反応が見れるかもしれない。
「そういう森沢サンは貧乳派、と。なるほど、塔城サンにその服を着せようとした理由が分かる。身長足りてないですけど、雰囲気似てますもんね」
「ああ、だからこそ着て欲しかったんだけど、なぁ……」
そうガックリ肩を落とす彼に僕はなんとも言えなくなる。流石に代わりに着る、とは言えないしねぇ。次に塔城サン来るまで我慢してください、としか。
「……えっと、僕にできることなら、ある程度は」
「うーん、そういえばアルバイトくん。名前は?」
「兵藤一誠です。親しいヤツはイッセーと呼ぶので、気軽にそう呼んでください」
「そっか、じゃあイッセーくん。僕に、何かご飯作ってくれよ」
……ご飯? ご飯、ですか。
「普通の料理とラーメンは大分毛色が違うけどさ、厨房にいるキミ、手際が良かったから。多分普通に料理も出来るんじゃないのかい?」
「まあ、多分一人暮らしの男よりは凝ったの作れますけど。よし、分かりました。そのお願い、承りましょう!」
「うん、ありがとう。冷蔵庫にある材料は適当に使っていいからね!」
そう言われて、ウキウキ気分で冷蔵庫を開けて……愕然とした。
「(……食材、ほとんどなーい!?)」
◆◆◆
……意地とプライド、あと普段の習慣がそうさせたのか、今ある食材で一つ、作れそうなのを思いついた。
お米、ある。
卵、ある。
だし醤油、ある。
ザラメ……はなかったが、三温糖はある。
冷凍刻みネギ、ある。
七味、ある。
手を洗って、それらの素材を取り出して、精神統一。
最初に、コンロに火をかけて鍋で水を沸騰させる。ちゃんと蓋をして、早めに沸騰させよう。
次に、お米を研いで3合を早炊でセットする。水は少し少な目の方が森沢サンの好みに合いそうだ。
お湯が沸く前に、卵を4個取り出す。森沢サンから画鋲を借り、ケツの方に穴を空ける。
そうしている間にお湯は沸いた。そこに穴を空けた卵を投入して、ケータイのアラームで6分セット。
この6分の間に、隣のコンロで雪平鍋を使い、4倍希釈のだし醤油を水と1:3ぐらいの割合で適量投入。さらに三温糖も大さじ一杯くらい入れて煮立たせ、火を止める。
これで卵が4分ぐらいか、シンクにボールを用意して水を張る。氷があれば良かったんだが、ないので水でさかっと洗ってから冷凍庫に入ってた保冷剤をその中に入れる。冷えてないと意味が無い。
ケータイのアラームが鳴った、すぐ様卵をお玉で掬い、先程のボールに入れて冷やす。
充分に冷えたとおもったら、スプーンを用意して卵をケツからぺちぺちと叩く。先程穴を空けたのは、剥きやすくするためだ。
全体的にヒビが入ったら、ケツから殻を、薄皮ごと破くようにして取る。慣れてる人なら、そこからスプーンを滑り込ませてつるんと剥ける。
そうこうしてるうちにご飯が炊けた。……早いな、いい炊飯器使ってるね。
お茶碗を棚から取り出して、適量盛る。そしてその上にさっきのゆで卵をのっけて、スプーンで割ってやる。するといい感じに半熟になった黄身が、トロォ……って白いご飯の上に拡がる。
さて、ご飯の熱で黄身に火が入ってしまうのでここからはテキパキと。先程煮立たせたタレをカレースプーン3杯分ぐらい掛けて、刻みネギ、七味を掛ける。
僕特製、半熟玉子飯の完成だ。
さて、残ったタレと卵は……っと。
◆◆◆
「うまい、うまいねぇこれ!」
「気に入って貰えたようで何よりです」
かき込むように半熟玉子飯を食べる森沢サンを見て、思わず笑顔になる。やっぱ、作った料理を美味そうに食ってもらえるのは何物にも代えがたい、作り手の幸せだよね。
「さて、今回のお代は……普通に300円ですか。なんか普通で店で売ってる気分になりますね」
貸し出された端末を見て、思わずゲンナリである。
「そうだよ、これ九頭龍亭で出したら絶対売れるって!」
「いやぁ、ご飯と卵、原価率悪いんで……」
ウチだと小盛ご飯を100円で提供しているんだが、元取れてるとは言い難いんだよなぁ。
「さて、そろそろお暇しましょうか」
「あ、そうか。契約が果たされたから。ありがとねイッセーくん。機会があったら、次もよろしく頼むよ!」
「ええ、いつでもお待ちしております! ……あ、後で冷蔵庫見てくださいね?」
そう言って僕は帰還の光に包まれながら、くふふと笑みを浮かべるのだった。
◆◆◆
「冷蔵庫を見てくれ、かぁ。どうしたんだろ?」
「……これは、タッパーと、メモ?」
『タレは違うので味は変わってますけど、味玉子を仕込んであります。多分朝ぐらいにはいい感じに浸かってると思うので、朝食に是非。今後ともよろしくお願いします。[兵藤一誠]』
「…………これは、ズルいなぁ」
◆◆◆
感想、批評、ダメだし、よろしくお願いします。