兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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その3

 

「迷った」

『だな』

 

 マップアプリを頼りに森の泉を目指してたけれど、一向に辿り着かないどころか同じところをグルグル回っている気がする。景色が変わらないもん。

 

「うーん……僕、特別方向音痴ってわけでもないんだけど。耳も痛くねぇし……」

『恐らくだが、何らかの迷宮を構築する魔物に取り込まれたのだろう』

「なにそれ」

『簡潔に言うと、人を迷わせる土地、場所、機構に稀に発生する魔物だ。1番有名なものだとラビュリントスだな』

「ああ、ミノタウロスの。……え、あれミノタウロスの能力とかそういう話ではなく?」

『ああ。どちらかと言うと共生関係に近いだろうな』

 

 さらに深掘って聞くと、迷宮系の魔物はその中に住み着く魔物と獲物を誘き寄せる魔物の組み合わせで共生してることが多いのだとか。龍とか、中に住み着く系生物の一種らしいしそれもあってドライグは詳しかったそう。

 

「ちなみに攻略法とかはあるの?」

『幻惑系ならそれを解いてやればいいのだが、そういった気配では無い。単純な迷宮型ならその地ごと焼いてしまえば良かろう』

「よかろう、じゃねぇんだよ。話のスケールが違い過ぎるし生態系壊して何らかの弁償とかしたくないよ僕は」

『全く、我儘なヤツだな相棒は』

「ねえこれ僕が悪い? 僕が悪いの?」

 

 当たり前のこと言ってるだけなんだけどね? 迷ったのは僕のせいだが。

 そんな風にぶつくさ文句を言いつつ朱乃サンに『森で迷いました』とメッセージを飛ばしておく。最悪横のプロに話が通って助けてくれるかもだし。いやぁ、通信だけは生きてて良かったー。

 

「じゃ、留まってるのもアレだしレッツ迷宮探索。住み着いてる魔物がそんな強くないといいんだけど」

『気配からして強い気配は無いな。警鐘も鳴っていないのだろう?』

「確かに」

 

 まあ強いのがいなくても、嵌められて力を吸い取られてグチョグチョに……なんてーのはソリッドブックにはありがちなことらしいのですが。僕その手の女の子が酷い目に合う本読めないタイプのデビルなんだよね…………。YES、純愛! おねショタものだとなお良し!

 

 そんなクソどうでもいいこと考えながら歩き進んでいると、足元がグチョグチョしてきた。嘘、噂をすれば影ってコト!?

 

『スライムの跡だな。通った後なのか遺体なのかは分からんが』

「スライムかぁ……強いのか弱いのか分からんのがなんとも」

 

 古めのRPGだとスライムとかアメーバの粘性生物は雑魚モンスターの代表格みたいなところがあるけど、昨今では強かったり厄介だったり主人公だったりなどしてきているので、僕の知識だと判別しづらい。弱い側の生物だと助かるのですが。

 

『ああ、特別強くはないはずだ。本体を見てないからな判別はつかんが。だいたい何かを溶かすことが多いため、珍しいスライムなんかは厄介だと聞くが。……この跡を見るに、草も地面も溶かしてはいない。警戒する必要はないだろう』

「ほうほう」

『それにお前なら瞬殺できる。水分を操作してやればいい』

 

 ああ、水操作でなんとかなるのね。どうも、赤龍帝では珍しい水属性の兵藤一誠クンです。いや、本当に珍しいかは知らんが。

 

『珍しいな。生前の俺の…………あー、お前で言うところの必殺技が炎だったせいか、だいたい火属性に寄った連中が多い。もっとも、お前も水というよりは『運動』『熱』を主軸に水を操作してる故、概念的には近いと言えるが』

「なーるほど」

 

 生前の必殺技ねぇ、とても気になるところだが……とスライムの跡を辿っていくと、いた。ゲル状の液体が木にへばりついている。なんだか元気が無さそうである。

 

『ありふれたスライムだな。これは服を溶かす類のスライムだろう』

「なんだそのエロゲ生物」

『共生相手も基本的には女性の粘液を啜るタイプの触手だしな』

「セット、譲渡9」『Ignition Boost!!』『Transfer!!』

 

 ばちょん! とスライムは爆ぜた。降りかかる粘液は装甲板でガード。よし、悪は滅びた。

 

『……この間からずっと言おうと思っていたのだが、譲渡は相手を破裂させる機能ではないのだぞ』

「でもそう使えるんだからいいでしょ? 凄い便利だし」

 

 触手を見つけたらどう始末してやろうかな、なんて考えながら僕はさらに森の深くまで足を進めることになる。

 

 

◆◆◆

 

 

「出られん」

『だな。無闇矢鱈に歩き回るからだ』

 

 おっしゃる通りで。相方の小言に何も言い返せないのでとりあえず装甲板を敷いて座る。

 

 遭遇する生物は特に僕の敵になるようなヤツはいなかった。スライムも触手もゴブリンも。腹が減って仕方がないのでイノシシっぽい魔物を狩って丸焼きだ。部長の別荘地での訓練がこんなところで生かされてしまってる。水分操作で火を通すのも可能だし……あらヤダ、僕ってば野生適性あがっちゃった?

 

『野生の赤龍帝ってか? あまり笑えない冗談だな、聖書勢力にとっては』

「張本(にん)が言うことじゃあないな」

 

 いつかはどんなことをやらかしたのか聞いてみたいものだけれどね。でもドライグにとってはアルビオンとの闘争の日々は、忌々しくも大切な思い出ではあるようだ。まだ踏み込んでいいことではないと思う。大事なのはそのせいで巻き込まれてることだけだ。……ちょっと腹立ってきたな。

 

「それにしても、強そうな魔物いたらそいつと契約しようとも思ったけど……」

『お前がそれなりに力をつけたこともそうだが、共生をするような生物なぞ、基本的には単体で生き残れないから協力しあう生物ということだぞ。便利な魔物を探すならともかく、強い魔物を探すのは違うだろう』

「まあそうなんだろうけど……それでもさァ」

 

 別に死にはしないので構わないケド、時間経ちすぎると部長がすっ飛んで来そうだしなァ。仮にすっ飛んで来なくても、このままだと僕が迷宮に住み着くタイプのドラゴンになりかねんし……。

 

「そういえば迷宮系の魔物ってどうやって存在を維持してるのさ。具体的には食事」

『中にいる生物から生気を吸い取ったり、魔物の食い残しを食ったりしてるようだな』

「はえー。じゃあ現在進行形で僕は力を吸われてる可能性がある、と?」

『そんな感じするか?』

「いや全く」

 

 ドレイン系の技は相手が強すぎると使えない、ということが多いがそういうことかもしれない。

 どうすっかなぁ、焚き火でもして煙で目印作る? 朱乃サンからの返信も『わかりました、迎えに行くので安心してください』だったし待つしか無いんだろうけど。

 

 ……………………。

 

「セット、譲渡4」『Transfer!!』

『ギャピーっ!?』

 

 複製予備端末に譲渡、爆ぜる音と共に中から飛び出して来る謎の小生物。青いトンガリ帽子が目立つ、小さな人型。可愛らしくはあるがコイツの所業のこと考えると即殺してもおかしくない対象である。

 

「ちょっと偽装が足りなかったなおチビちゃん、朱乃サンは僕が馬鹿なことしたら一応先にお小言が飛んで来るんだよ!」

『お前、自分で言ってて悲しくならないか?』

「シャラップ!」

 

 ふよふよ浮いてる人型に向かってそう自虐してやると、ヤツはこちらをキッ! と睨み、空中に溶けて消えていった。アレは一体なんだったんだマジで。

 

『俺にも分からん。妖精の一種なのは間違いないが、見た覚えがない種類だ。ノームの系列っぽい気配はあったが』

「本場にいたお前が言うならそうなんだろうけど」

 

 なんせドライグは赤い龍、ウェールズの龍。ブリテンには大層そういうのが生息していたことだろうよ。でも、そのドライグでも見たことがないとはどういうことだろうか?

 

『妖精も世代を経ることで新種が生まれていく。アレもそういう世代を経て生まれた新種なのだろう』

「なるほどねぇ。しかし何故に僕をここまで誘導して…………あ、迷宮との共生か」

『で、あろうな』

 

 しかし、随分と現代的なファンタジーもあるものだなぁ。機械を扱う妖精なんて…………グレムリンしか聞いたことがない。でも機械そのものに入って操作をするなんて聞いたことないぞ。

 

「ともあれ仕方ない、次の複製使うか。……うわ、めっちゃメッセージ来てる」

 

 想像通りのお小言と心配と、あと迷宮攻略のアドバイスなどなどを読み進め、僕はなんとか皆と合流できたのであった。うーん反省反省……。

 

 

◆◆◆

 

 

「うぅむ、確かにその特徴はグレムリンだが……端末に入っていたってのはちょっと引っかかるな」

「プロでも分からないんですか……となるとマジの新種?」

「その可能性が高いな」

 

 合流してとりあえずどんなことがあったのかの説明をすると、ザトゥージさんも妙な引っかかりを覚えたようで。というかザトゥージさんなんで黒焦げなのさ?

 

「大変でしたねイッセーさん……」

「ガー」

 

 そう慰めてくれるアーシアと、その肩に乗っかるちびドラゴン。なるほど、これが蒼雷龍の幼体。どうやら無事にアーシアは契約を結べた様である。

 

「はい、雷撃を放つのでラッセーくんです! イッセーさんからお名前をいただきました」

「グアー」

「……ああ、うん。そっか!」

 

 自分のから捩って名前付けられるとなんだか妙に擽ったくなる。そして妙な親近感も湧くと言うもので。

 

「これからアーシアのこと、よろしくお願いするよラッセーくん」

 

 そう言って頭を撫でようとすると、ラッセーくんの身体が蒼く光り……

 

「あばばばばばばばばばばばば!!?」

「ガゥ」

 

 痺れるような衝撃、めんたまチカチカスパーク! 身体がガクガクして上手く動かせない! 間違いない……電撃を、受けている!!

 

「あ、こらっ! ラッセーくん、無闇に雷撃を使ってはダメですよ」

「……ガゥ」

 

 そっぽを向きながらもアーシアの言う通りにしてくれたお陰で痺れから解放、真後ろに向かってバタンと倒れる。なるほど、ザトゥージさんもこれにやられたワケだ。…………うふふ、イッセー君怒ってない。怒ってないよ。子供に怒るなんて大人気ないもんね。……………………いつか仕返ししてやるからな蒼トカゲ(殺意)。

 

「というわけで僕も負傷したわけですし、今日のところはお開きにしませんか。多分アーシアと違って僕はまだ使い魔早いです」

「負傷したと言う割には機敏に立ち上がりましたわねイッセーくん……頑丈なのはいいことですが」

「たかが電気ショックで死ねる身体じゃないんですよ、魔改造し過ぎて」

 

 殺すならライザー氏以上の火力用意するか急所狙うかするんだな、ワハハハ! そう思念を込めてラッセーくんに視線をやると非常に悔しそうに睨みつけてきた。はっ、勝ったね!

 

『子ドラゴン相手に何を張り合ってるんだお前は……』

 

 でも僕もドラゴン歴が半年も無いし、幼体と言っていいのでは? まあどう足掻いても絵面は大人気ないが。

 

「……ちょっといいかなイッセーくん」

「?」

 

 ずっと思案していた様子のザトゥージさん。心配そうに僕に声を掛けてくる。

 

「妖精というのは、良くも悪くも享楽的な生き物だ。楽しいと思ったもの、愉快だと思った行動をする。悪戯もその一環だな」

「……? はい」

「イッセーくんは、そのヤツらにとって楽しい行為を邪魔したヤツ、ということになる。特に相手はグレムリンの様な妖精だ。目をつけられて報復……ということは十分にありえる。気をつけてくれ」

 

 そう言って渡された妖精除けのお香やら捕獲ゲージやら色々な物品。すげぇなプロの使い魔アドバイザー。リュックも某青狸みたいに沢山ものが入ってそうで……。

 

「ああ、このリュックは同じものなら99個まで入る特別性だぜ! 近々同じものなら999個入るヤツに更新しようと思ってるが」

「だから版権大丈夫なのかよ、マジで」

 

 ともあれ、ザトゥージさんに無茶苦茶心配されつつ僕らは駒王町へと帰還するのであった。しかしここまで心配されるとは…………妖精に目をつけられるって、本当に危ないことなのかな?

 

 

◆◆◆

 

 

『…………ギュピ!』

 

 

◆◆◆

 




本番は次から。被害総額幾らになるかな……。

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