「……と、言うわけで自業自得ではありますがトラブルに巻き込まれまして」
『全く……時折考え無しになるのは貴方の悪い癖よ?』
「面目ありません……」
その次の朝。まだ冥界にいる部長に昨日の報告を。なんか思いの外話すことが多かったりするのか、まだまだ帰れる目処が立たないんだって。
『しかし妖精種ね……厄介なのに目をつけられたものね』
「やっぱ厄介なんですか?」
『気まぐれにチェンジリングするような存在よ。グレムリンがそれをする話は聞いた覚えがないけれど、悪戯という観点では大差ないわ。実際、持ってた端末を爆発させられたのでしょう?』
「ええ、はい。とりあえず、ザトゥージさんからは色々とアイテムを貰ったのでそれで対処していければ、と」
実際ヒトが死にかねない悪戯だからなぁ。家に帰ってきたの失敗だったかもと思いつつ、じゃあ何処で寝泊まりするんだよ? という話にもなりかねないので……。
『じゃあ、ご両親にちょっとした旅行でもプレゼントして人払いでもする? お義父様の会社への根回しもどうとでもなるし』
「ニュアンスが違ぇことは一旦目を瞑るとして、ありっちゃありですね。無難に熱海とか行ってもらいたいっすし」
あんまり遠出をしないというか、新婚旅行でローマ行ったぐらいしか聞いてないので、親孝行してもええよねという話。一生に一度は伊勢神宮行きたいと言ってたのでそっちの方がええのかもだが…………
『まあ、それはこの先幾らでも機会があるでしょうから今は気にしなくてもいいじゃない。じゃあ、私の方から手配をしておくわね』
「待ちねぇ上司殿、それは勘弁してください。普通に夫婦三泊四日の旅行ぐらいは出せる備蓄はあるのですが、アンタのお陰で」
『将来のご両親の覚えを良くしておく位いいじゃない』
「だから勘弁してくれと言ってるのですが!!」
札束パワープレイ止めてくれないかな本当に。家の調度品やら家電やらが少しずつ、少しずつ良い物に変わっていくことでこっちの胃がキリキリと痛んでること知らねぇのかなこの女悪魔。パパンとママンは喜んでるけどぼく知ってるぞ、冥界で超有名なブランドのものが紛れ込んでるの! ライザー氏が教えてくれたから間違いない!!
『将来的に貴方、グレモリーの一員になるのだから今から慣れておかないと苦労するわよ』
「決定事項の様に語らないでくださいよ!? 僕はね、貴女のことを愛してますとは言いましたけど、交際する件に関しちゃ首を縦には振ってないンですよ!」
お前もグレモリーにしてやろうかと言わんばかりのファミパンされそうで怯えてんだコッチはよォ!! というか僕んちよりも自分ちへの根回しを先にやりなさいよ!!
『既に終わって…………んんっ。雑談はここまでにするとして、今回は私を頼っておきなさい。早急に対応しなきゃでしょう?』
「へぇ、そういうことなら有難く」
『ええ、それがいいわ。後で魔方陣で飛ばすから、福引で当てたとでも言っておくといいわ。実際うちの系列でこの間までやっていたもの、怪しまれないはずよ』
「手広くやってますねぇグレモリー家……」
もしかしたら上級悪魔が全般的にそうなのかもだけど……今考えることじゃないね。
『で、妖精を始末する算段はつけてるの?』
「家ごと葬ります」
『…………やり過ぎない様に。じゃあ、また夜に連絡するわ』
ピッ、と通話が切れて、程なくしてメッセージアプリで画像が届く。以前ライザー氏がやってたヤツだ、魔方陣から封筒がポンと出現。
「……やっぱ便利だなコレ。倍加で魔力制御に振ったらできるようにならねぇかな」
『それよりも強くなることに執心しろ馬鹿者』
「マジレス止めてくれないかねぇ……。それに無駄にはならんよ、魔方陣印刷したビラ撒いてそこから爆発物でも劇物でも呼び出せば」
まあそれも投下するブツがなけりゃご破算だけどね。優男と手を組むか。ダメか? そうか……。
じゃ、それとなく話を振ってみますかねと自室を出て1階へ降下。すると何やらワタワタしているお父様にお母様。どしたんお二人とも。
「冷蔵庫が故障してるのよ。辛うじて中身は腐ってないんだけど……」
「テレビもとうとううんともすんとも言わなくなってな。ブラウン管のだからいつ逝ってもおかしくはなかったんだが……」
「あと給湯器も様子がおかしいのよね。熱さにムラがあるっていうか……」
「大惨事じゃん…………」
昨日の今日で元気なこったな、と頭を抱えるしかなかった。これ、僕のせいだよなぁ!!?
◆◆◆
……で、何とかゴリ押し&部長の冥界からのアシストのお陰で何とか両親を旅行に行ってもらうことに成功した僕氏。あの後もポンポン家電とか破裂するから頭が痛くて仕方ないっていうか、もう怒ったよね、うん!
『建て直しとかも視野に入れようかしら? 防犯対策もこれから必要になるでしょうし』
などと言った部長の呟きを笑えないし縋り付きたくなる。まあ部長も自分が揃えてきた家電がぶっ壊されてプチおこなのでその考えは間違っちゃないのだけど。
「しかし自分の失態でこうなるとは……妖精を甘く見ちゃいかんかったなぁ……」
「イッセーくんだけが悪いというわけでもありませんし、そもそも悪いのは下手人ですわ。そのことでイッセーくんが落ち込む必要はありません」
「朱乃サンがウチに来てる現状も落ち込む要因なんですケドね…………学校あるのにわざわざありがとうございます」
爆発しまくって既にボロボロなリビングで困ったように笑う大和撫子はウチの上司の右腕。昨日の今日のこのザマなので、責任感じて応援に来てくれたのであろう。ほんまこの方天使やで……悪魔だけど(忘れがち)。
「それで、イッセーくん。どうしますか?」
「どうしますか? と問われますと……始末するしかない、としか…………」
この手の害獣は殺すに限る、と死んだばっちゃも言ってた気がするので、めいびー。
「ですが、それでは腹の虫が治まらないのではないでしょうか?」
「ふむん?」
「敵は心のある妖精です。…………心底、後悔させてやりたいとは思いませんか?」
ハッとして顔を凝視すれば、嗜虐的な笑みが浮かんでいるじゃあありませんか。……前言撤回、天使じゃないな、うん。でも頼もし過ぎる。
「ですが、本当にそんなこと可能です? グレムリン……ではないですけど、それっぽいの相手に金属とか効く気がしないンですけど」
「別に金属だけが妖精の苦手なものという訳ではありませんわ」
そう言って副部長が胸の谷間から取り出したのは……なんだそれ、赤い実?
「胸から取り出したことは突っ込まないのですね」
「やめてくださいよ考えないようにしてたのに。下手にその手のこと考えると圧が飛んできて悪寒が走るんですよ、主に部長のいるだろう方角から!!」
「愛されていますわねぇ……」
いやもうホント、あのヒトに変な心労掛けたくないンですよ……。やっぱ僕どっかでみんなの記憶から消えてしまった方がいいのでは? ……あ、コレもダメですかそうですか。
「朱乃サン的にも部長を誑かした悪い虫潰したいとかありません? 今なら無抵抗ですよ」
「あまりそういうこと言う様なら、妖精の前にイッセーくんをお仕置きしなくてはなりませんわね」
「酷ぃ……」
「酷いのはあなたの自滅願望です。全く……」
まるでダメな弟を叱りつける姉のようである。事実そういうのに近い関係性かもだが……。
「私にとっては話の合う可愛い後輩なのですよイッセーくんは。あまり私の後輩の悪口は言わないでくださいね?」
「いや僕は兵藤一誠本人なのですが」
「言 わ な い で ね?」
「アッハイ」
そんなマジに怒ることないじゃん、ビビってチビったらどうしましょ。
「……ごほん。ともかく、これはナナカマドの実ですね。妖精避けに役立つものの一つです。他にも、こういうものが」
「マリーゴールドを束ねたもの、塩、クローバーみたいなのの詰め合わせセット……」
へぇ、こういうのを妖精は嫌がるんだなぁ。なんか妖精って自然現象の擬人化みたいに思ってたところあったから、こういう自然物とかが効いたりするのがちょっと意外。
「本当は聖書や十字架、聖水なども効いたりするそうですが……それだとイッセーくんがダメージ受けてしまいますし」
「いやぁ、僕もう結構ドラゴン化しちゃっててそんなに聖なるセット効かないんスよね!」
「あらあら、でも無理はしない方がいいですわ」
悪魔ではあるのだけど、そろそろドラゴンの比率が上回りそうとは僕の中の相棒の弁。ガラティン握ったせいで耐性がより付いてるのもありそうだが。
…………今、妙なセリフだったな。お互い、ではなく僕が、って言い方だ。そういやイリナちゃんも気になること言ってたし、うーむ。つっこみたいけどつっこむ場面じゃないしな。デリケートな話題だろうし。
「ちなみに妖精にそういったものが効果的なのは、妖精が堕天使や悪魔をルーツに持ってるものがあるからとか、なんて言われてますわね」
「…………その補足、今要りましたかね?」
「うふふ、イッセーくんは顔に出やすいのでからかっちゃいました」
いやん、朱乃サンったらドS(周知の事実)。いや笑えませんがこの状況。
「お察しの通り、私は堕天使に連なるもの。元は堕天使と人間のハーフでした」
「……えっと、それは僕が聞いていい類の話です?」
「ええ。ちょっとした裏取引がありますが、眷属同士での伝達を縛るものではありませんもの。とはいえ、本当は話すつもりはなかったのだけど」
「先日の一件、ですか」
コカビエル襲撃事件のことを思い出しながら言うと、朱乃サンはゆっくりと頷いた。
「イッセーくんは察しがいい時はいいですから、何かがあるとは思っていたわよね? それでも深く追求しないでいてくれて、その上で変わらず接してくれたので踏ん切りがつきました。…………それまではちょっと、堕天使に対して並々ならぬ敵意を抱いてた様子でしたから」
「あ、いやそれはなんかごめんなさい。堕天使全体が嫌いっつーよりも、僕のことを殺してくれやがったあの阿婆擦れに対して許せなかったっていうか……」
「大丈夫、分かってますわ。とはいえ、前回の件で近いうちに三大勢力で会談を行うことになったそうで。そうなると遠からず私のことも話に上がるでしょうから、先に伝えておこうと思った次第です」
ははぁ、なるほど。とはいえ無駄……とは言わないけど杞憂な心配だとは思うけどネ。
「……と言うよりかは、僕としちゃ朱乃サンの方が心配ではありますが。まどろっこしいこと抜きにド直球に言いますが、朱乃サン的に自分が堕天使混じりなことを疎んでそうな気がするんですけど」
ちょっと前、VSライザー氏に備えた合宿で堕天使のことにちょっと触れた時の表情、あまりいいものじゃなかったから。あの時の優男とどっこいの表情してたってことは……多分そういうことだ。何かしら恨みを持ってるんだろうなと。
「ええ。私は堕天使を憎んでいますし、私自身に流れる堕天使の血を嫌っています。……けれど、自分の仇を許した祐斗くんを見て、私もいい加減に前を向かなければ、と思ったんです。折り合いをつけるにはまだ心の整理がつかないのですが、一個ずつ進めていこうと。……ごめんなさい、急な話でしたわね。でもこういう状況じゃないと、イッセーくんと二人きりになれるタイミングがなかったので」
「いえ、大丈夫です。むしろ、そういうこと話してくれるって、こう……言葉にはできませんが、嬉しいものがあります。信頼してくれてるみたいで」
心底照れくさくなって直視はできないが、それでも今思ったことは可能な限り言葉にしようと思って口に出す。似たようなことを思ってたのか、朱乃サンも少し照れた様に微笑んでいる。
「さて、これを機に生い立ちから話してもいいのですが……それは後にしましょう。ではイッセーくん、妖精退治……楽しんでやりましょう?」
「ええ、そうしますか」
板を影から出して譲渡の準備は万端。炙り出しの時間である!!
◆◆◆
「「………………」」
1時間、お互いにテーブルで突っ伏していた。いやだって…………数が多い、多過ぎる…………!
「朱乃サン、何匹虚無空間に放り込みましたっけ……?」
「100を超えてから数えてませんわ……」
手元の黒い膜を被せたような鳥籠からは、『ギャピー!!』だの『ギュピー!!』だの『ギュアー!!』だの阿鼻叫喚と言った様子の鳴き声がひっきりなしに聞こえてくる。これは朱乃サンがフェニックス戦で披露してくれた『五感剥奪』のマイナーチェンジ版。空間の大きさと縛る五感を削ることで比較的簡単に起動、維持できるようになったスグレモノ。そこに妖精の嫌がるものをうんと詰め、僕がそれらの効果を512倍してやることで、物の見事にヤツらは苦しんでくれている。いる…………のだが、如何せん数が多過ぎる。
「例の妖精の一族……? それにしちゃ、見てくれが同じに見えたケド……」
「恐らく分裂しているのでしょうね……元を辿ればイッセーくんの遭遇した個体のはずです」
うげぇ、とげんなりしてくる。どこぞの映画だと水をかけると増えるタイプのモンスターがいたけど、そういう感じでも無さそうだしなぁ。これどうするよマジで。
『『『ケケケケケ!!』』』
「……まだまだいますよね」
「声からでも10匹はいますわね……」
やっぱ家ごと始末した方がいいんじゃないか? ちょうど僕と朱乃サンいれば聖水蒸気爆破でヤツらを蒸し焼きにすることも可能だし……。
「……そもそも、どうやって増えてるんだ? メシがあるわけじゃあないだろうし」
「食材等に手をつけられた形跡は皆無、電気を活動源にしてる気配もありません」
「そして妖精が嫌うものをちゃんと嫌ってるから妖精ではある……はずと」
なんなんだろうなぁこの生物。そう思いながら突っ伏した僕に蹴りを入れてこようとする妖精の脚を摘んで逆さ吊りにする。
『ヤメロー! ハナセー!』
「うわ、人語も話すのかよ……」
「理解して話す妖精は少数ですけれど。でもこの子達は理解して話してそうな知性がありますわよね……悪い意味で」
揃ってげんなりしてると、摘んだ妖精の姿がテレビの砂嵐のようなものに覆われて……しばらくすると2匹に増えていた。こんな感じで増えるのかよ、お前ら。
「…………やはりおかしいですわ。こんな増え方をする妖精がいるなんて聞いたことがありません」
「新種だ新種だ言ってましたが、本当に新種……」
「何より、機械の中に物理的ではなく電子的に潜伏しているようにも見えます。イッセーくん、被害にあったのは全て家電ですわよね?」
「はい、間違いなく」
「ですが照明器具に被害はないですわね」
「言われてみりゃ確かに……?」
爆発の余波で破損したものはあれど、確かに照明の類が爆発はしてない。それがなんだって思わなくもないけど、朱乃サンが言うなら何か意味があるはずだ。
「…………自己増殖。コンピューター・ウイルス?」
「え、いやいや待ってくださいよ。妖精なんですよね、いくらグレムリンっていう機械を扱う妖精がいるにしても」
「イッセーくんは迷宮に発生する魔物についてご存知でしたよね。妖精も、現象や物質に発生することがある魔物なんですわ。もしかしたら……」
うっそだろ、おい。それなんて仮面騎士スーパーエイドだよ。
「その場合だと、この家だけで被害が留まってるのは奇跡に等しいですわ。何せ相手はコンピューター・ウイルスのような妖精。その気になればネットワークを伝って……」
瞬間、ジリリリリ! と僕のスマホから音が鳴る。僕はこんな着信音を設定した覚えはないので……
「……っ!」
いつでも倍加で処理できるように準備しながら画面を見ると……僕が予想していなかった文言が、画面に表示されていた。
『手伝いましょうか? G.V』
フライング登場。
感想、誤字報告等本当にありがとうございます。