兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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筆が進む進む……。


その2

 

「へぇ! それで『悪魔の駒』と籠手をリンクさせて能力に幅を持たせたのか! いやぁ、凄い発想だな! 種族差と言ってしまえばそれまでだが、俺達には無い発想で目からウロコだよ! 悪魔の駒の仕組みと神器の基本システムとが融合して……知りたいことが多過ぎる! できることならウチに連れ帰って色々検証してみたいところなんだが……ああクソ、もう少しキミの上司に話を聞いとけば良かったな!」

「いやぁ僕なんてその場にある材料をコネコネしただけですよぅ! 悪魔の駒使う判断してくれたのはドライグですし。つーかそれを言うならアザゼルさんの方が滅茶苦茶凄いじゃないですか!! 龍王と契約して神器作っちゃうなんて半端ないっすよ! いやぁ……ロマンがあるなぁ! ……そうか、生物と契約して封印することで別の道も拓けるのか。籠手もドライグが封印されてる神器だってのに盲点だ」

 

 現在、僕はとあるマンションの一室で黒髪でちょいワルって感じの男性と神器について語り合っている。いやはや、どうしてこうなったのだろうと思わないでもないが、この男性……というか『神の子を見張る者(グリゴリ)』の総督のアザゼルと話が進む進む! 僕には無かった発想を提供してくれるし、向こうも僕のやってきた神器の改造に興味があったようで、かれこれ1時間程喋り続けている。なるほど、ドライグが僕と気が合うというわけだ。実際にそうかはともかく、新たな知見をお互い得られてウィン・ウィンというのは間違いないね。

 

「しかしなんだ。キミが神器をこういう使い方をできているのも、神が死んでしまったからなんだろうなと思うと複雑な気分になるな」

「ふむ……それは聖と魔のバランス、境界が崩れているからということですか?」

「おっ、察しがいいな。『悪魔の駒』は近代の発明品とはいえ明確に魔の産物。対して神器は聖書の神のシステムに属する物だ。中身がどうであれ、システム的には交わらないはずの聖と魔……なんだが、キミの『最善手(インヴェンション)』はその前提を踏み越えている。実に興味深い現象だ……同じくキミの所の聖魔剣も同様の理由で境界を踏み越えたんだろうな」

「なるほど……深くは考えてこなかったけど、僕の存在が既に神の不在を裏付ける証拠だったのか」

 

 先日僕はあの優男に『光と闇が組み合わさって最強じゃん!?』などと言ったが、それはもう僕がやっちゃってたことだったんだね。……うーん、そこはあのイケメンにファーストペンギン譲りたかったな。名前が残るのあっちの方が都合がいいでしょ。

 

「というかですよ。僕程度の凡人で思いついたんだから神器の改造に着手した人なんてごまんといそうなものなんですが」

「それができる環境と才能があるかは別ってことだ、悪魔くん。それに、そもそも分からないものを改造しようと思う勇者は中々いないもんだ」

「遠回しに僕のこと馬鹿って言ってません?」

「いいことを教えてやろう、世界は馬鹿が切り開いていくものだ」

「褒めながら貶すなんて器用なことしますね」

 

 馬鹿なのは否定しないが。でもあるもので何とかしようと思っての行動なのでそこはしょうがないと自分を慰めておこう。

 

「話の流れから察するに、グリゴリでは主に神器の解析に力を入れている……ということなんですね?」

「ああ。分からないものを解析する。危険なものに対処するために研究する。人間社会でもよく見るありふれた光景だろう? もっとも、俺は趣味でやってるところがあるが」

「趣味、ですか?」

「ああ。だって心底、この玩具は面白いだろう?」

「うぅむ……現状振り回されてる身としては素直に頷き難いところではありますが」

 

 とはいえ気持ちは分からんでもないのだ。当事者だから素直に楽しめないところはあるが、神器システムそのものは面白いと思う。……まあ被害者もたくさんいるだろうから大っぴらには言えんけどね。アーシアとかモロに神器の被害者でしょう?

 

「そもそも、なんだって聖書の神は神器システムなんてものを作ったんだとか、神滅具とか禁手とか発生する余地を遺したんだろうな、とかそういうことに思いを馳せると……うーむ、いかんです。これは時間が溶けますね」

「だろう? だろう? なあ、キミもウチに来ないか? 色々便宜を図ってやれるぞ!」

「それは無理っすねェ。僕、今の上司の為に命をかける所存でして」

「うーむ、残念だ。女か? 女の問題か? うちには美人たくさんいるぞ?」

「ウチの上司が例外なだけで美人は基本ノーサンキューです」

 

 それに……こう。このヒトは僕に思うことはないのだろうか? と考えてしまってなぁ。大前提として僕が部長の下を離れることは無いのだが、その前提が無かった場合でも素直に頷けるか? となる。ほら……一応僕、堕天使は二人殺してますし。

 

「ああ、そのことか。……確かに、思うところはある。特にコカビエルなんかは堕天する前からの付き合いだ。ここ数百年は折り合いが悪かったが、それでもアイツは俺達の仲間だったことには違いない」

「ですよね」

「だが、アイツが一線を踏み越えたのもまた事実だ。運良くウチのがお前に殺される前に回収できたとしても……永久凍結刑(コキュートス行き)は免れなかったろうからな。何より俺がその判断を下していただろう。ならば死んでるのと変わらん、とも思うわけだ」

「……結構、シビアなんですね」

「ああ、欲に……特に知識欲に従順なだけだ。そもそもが俺達は誘惑に負けて堕天した、記録にも残る自分勝手な連中ってことだ。……ま、末路を笑わないだけの情はあるがね」

 

 ……なるほど、コレが堕天使達の長。人間に神の英智を与えた者。基本的にやり手の部長が対峙するもんじゃないと言ったのも分かる。……コイツ、本当におっかないなぁ。

 

「それこそ逆に、キミの方こそこっちに思うところがあると考えていたんだが。思いの外反応がドライで驚いている」

「あぁ、僕を殺しやがった堕天使自体はぶち殺しましたしチャラかと。尊厳もズタズタにしてやりましたしね」

 

 それでスッキリしなきゃ嘘ですよ! と呵呵大笑したらドン引きされた。解せぬ。

 

「それを総督の俺相手に笑顔で宣う胆力は凄まじいな。一見弱く見えても、やはりドラゴン。やはり赤龍帝ということか。いやはや、おっかないおっかない」

「ぶーぶー。堕天使の総督に言われたくはねーですよ。それに僕は必要だから頑張ってるだけで、戦いとか基本的に御免ですしね」

 

 そう言うとアザゼルはぱちくりと目を瞬かせた。

 

「僕は平穏が欲しい。平凡で、在り来りで、たまにちょっと心躍るような非日常があるくらいの、穏やかな日々を過ごしたいと考えています。……悪魔に生まれ変わって、神器も目覚めちゃって、ドラゴンになりつつあって、もうそんな日々は帰ってこないとは理解しています。ですが、それでもソレを目指して頑張り続けようとは思っているんです。そのためにある程度の力が欲しいってだけなんです。僕の大切なものを、平穏な日常を守りきるだけの力が。謎改造してるのはあくまで手段であって、しなくて済むならこんなことはしちゃいないんです」

「……成程。これはヴァーリが少し不満に思うわけだ」

 

 ヴァーリ? と恐らく誰かの名前と思わしき名詞を反復する。それは恐らく……

 

「……白龍皇の」

「ああ。うちで抱えてる白い龍の名前だよ。アイツはキミのことを大層気に入っていた。反面、全力で戦うつもりは無さそうなことに不満げだったよ」

「は、はぁ。いや、必要となれば命を賭して戦う所存ではありますが……? あ、いやでも和平になったら戦わなくて済む……?」

「そういうところだよ。ま、命を掛けたガチバトルじゃなくても舞台は幾らでもある。悪魔にはほら、アレがあるだろう。レーティングゲームってヤツが。アレはいい、とても面白い。是非ともウチにもフォーマットを輸出してもらいたいモンだ」

 

 ああ、それは確かに。そうか、何も戦うのはそういうのじゃなくてもいいっちゃいいのか。ありがとう平麺の常連さん。貴方のおかげでマジでガチバトルしなくて済むかもしれない。

 

「えと、気になるなら話し合いの場セッティングしましょうか?」

「ん? ツテがあるのか?」

「ええ、ウチのラーメン屋の常連さんみたいで。アジュカ・ベルゼブブ様って」

「……驚いた。力を惹き付ける才能は歴代随一かもしれんな、悪魔くん。それはともかく実際に会うのはパスだ。確かに興味深い話は聴けるだろうが、多分アレと俺では話が合わないだろうからな」

 

 そうなんだろうか? 同じ研究者で話も合いそうだと思ったんだけど……ああいや、タイプが違うのか。平麺さんは一からモノを作る発明家っぽいけど、総督サンは今あるものに手を加えていくタイプっぽい。確かに新たな知見は得られても、話が合うというワケでは無さそうだ。

 

「いやしかし、久々に心から楽しい時間を過ごしたぞ悪魔くん。いや……兵藤一誠くん。会談までの間、人間のフリしてキミを悪魔召喚する予定だから、よろしくな」

「はい、よろしく……………いやダメです。流石に営業妨害なんでウチの上司に報告しますケド!?」

「ちっ、流されなかったか」

 

 結論……アザゼルという男は、面白いけどおっかない、堕天使の総督というポジションにふさわしい存在だった。

 

 

◆◆◆

 

 

「分かった段階で逃げてきなさいこのお馬鹿!」

「あいて!!?」

 

 帰ってきて事の顛末を話すと、部長は案の定カンカンに怒って拳骨を僕の頭に落とした。うう……鍛えて頑丈になってるはずなのに痛い。

 

「でも、結構話の分かるお方でしたよ。神器の話で弾みましたし」

「危機感緩んでないかしら!? あなた、自分が堕天使を二人も、その内は要人を殺したって自覚はあるの!?」

「その話もしたんですけど、生きて回収しても永久凍結刑だかで死ぬも同然だったから気にしない、と」

「あなたのハート、ガラスはガラスでも超強化ガラスね!? 機嫌損ねて殺されるとなんで思わなかったの!?」

「いやぁ、警鐘あんまり鳴ってなかったんで。なんなら後で怒られるぞー? ぐらいの反応っていうか」

 

 まあ仮にアザゼルが僕のことを死ぬほど恨んでいたとしても、アレは僕を殺さなかっただろうなと思う。アレは必要なら非情な手を打てる手合いだ。堕天使陣営が危険な神器所持者を殺して回ってるというのはよく聞く話。組織のトップとしての判断で、自分の心を殺すぐらいはやってのけるだろう。今ここで僕に手を出したら、また戦争に突入とかなりかねんわけだし。

 

「あなたって……本当にあなたって……」

「部長、落ち着いてください。イッセーくんがおかしいことなんて今に始まったことじゃありませんわ」

「おかしいってなんですか、おかしいって!! あなたにだきゃあ言われたくねーですよドS女王!!」

「こら、お姉ちゃんに向かってなんて口の利き方ですか」

「姉弟設定まだ続いてたの!?」

 

 ガックリ来てる部長慰めるのはいいけど、その言われ方は納得してねーぞ僕ァよぉ! あの後詳しくあの妖精に何したか聞いたけど、久々に人間の闇を垣間見たんだからな!? 朱乃サン悪魔で堕天使だけども!!

 

「まあ…うん。イッセーくんはもう少し部長に対して手加減してあげた方がいいんじゃないかな?」

「おう、この間までのお前を思い返してから言えな優男」

「それを言われると痛いけど、そういうところだと思うな」

 

 そしてこちら、僕に対しての遠慮がほぼ消えたウチの部が誇るイケメン騎士。ウチの学校の腐女子共め……お前ら知らんだろうけど、結構毒吐くぞこの男。仕返しにバラしてやろうかな……いやダメだ、新しいネタ提供するだけだわ。なんか水面下で既にソリッドブック出回ってるらしいし……ナマモノはどうかと思うよ、僕。

 

「というか祐斗クン聞いたぞ。なんか鎧作れるようになったとか」

「うん、イッセーくんから進められた小説を読んでみて解釈が拡がったからね。本当は拳銃を作れるようになってからお披露目しようと思ったんだけど」

「ファンタジーにどっぷり浸かってンじゃないよ、あれはフィクションだからね!?」

「ファンタジーの極みみたいな僕らが言うと説得力ないと思うけどね……」

 

 この男がどこを目指してるのか、もうよく分からんよ……。こんなキワモノみたいなことしといて本来の剣の冴えとかは更に磨かれてってんだからやってらんないよ。僕なんかよりこっちの方がバグだろ。

 

「あ、なんかお前に対しても興味持ってたげだから気を付けろよな。多分大丈夫とは思うけど」

「ああ、気に留めておくよ。でも、いざとなれば協力してくれるだろう?」

「もち、任せな」

 

 ゴツン、と拳をぶつけ合う。遠慮が無くなったというのも悪いことばかりではない。こうやって軽いやり取りができるのも仲良くなった証拠、なんだろう。

 

「……それにしても、小猫チャンとアーシア遅くない? 僕より早く出て僕より戻ってくるの遅いって珍しいと思うのだけど」

「そう言われてみれば変ね」

 

 机に突っ伏していた部長が再起動、今日の二人の契約相手を確認する。

 

「相手は常連の森沢さんね。今回は二人セットでの希望ということで一緒に行ってもらってるけれど」

「森沢サンか。あの人なら特に変なことはしねーと思うんで、そっちのトラブルでは無いと思うんスけど」

 

 僕と同じオタク趣味で、人との触れ合いに飢えてる森沢サン。最近は九頭龍亭での常連達との交流で徐々に(人との触れ合い的な意味での)社会復帰を果たしていた。……が、それはそれとして小猫チャンのファンなので今でも常連なのであった。

 しかし、僕の店の方でも常連なのでだいたいの人となりは知っているので、余計に業務的なトラブルでは無いと断言できる。となると別のことで問題発生してるかもということだが……。大イベントを控えたタイミングだし、ちょっと不安になってくる。実際、野生の堕天使総督がこの町に潜んでいたわけだしな。

 

「……ただいま戻りました」

「遅くなってごめんなさい」

 

 と、ここでガラガラと部室の扉が開いた。入ってきたのはまさに今話題に挙がっていた二人だ。しかし何故だろう、本来契約が終わったら魔方陣で帰還するようになってるはずなのだが……?

 

「……部長、お客様です」

 

 なんと説明したものか、みたいな表情で視線をさ迷わせたあと、そう言って小猫チャンはとある人物達を部室へと入れた。片や紅髪が眩しいイケメン、片や怜悧な印象を覚えるメイドさん。……いや待って待って、この二人アレじゃん!? 片方は視界に入れるの初めてだけど部長と似てるってことはそういうことだよ! 理解した瞬間に膝着いて頭下げたよね!

 

「急に訪ねて申し訳ないね、今日はプライベートで来ているから楽にしてもらって構わないよ」

 

 魔王サーゼクス・ルシファー様と、その女王グレイフィア・ルキフグス様だ……!!

 なんだか今日はビッグネームに会い続ける日だなぁ!!?




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