兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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その3

 

「ずぞぞぞ……うむ、美味しい。普段中々口にはしないが、こういう暴力的な旨みというのも悪くないものだ。アジュカも誘ってくれたらいいのに。グレイフィア、君も一緒にどうだい?」

「いえ、私は……」

「あー……ルキフグス様。大変言いづらいのですが、実は食べる食べないに関わらずルシファー様の後ろに立たれると動線確保の問題で……」

「…………失礼しました」

 

 どうしてこうなったパート2開幕。サプライズ登場した魔王様達が何故九頭龍亭に。いやまあ魔王相手に接客するのは初めてじゃないけど。なんでだろうね。

 ……いやまぁ、話自体は単純だ。駒王学園が三大勢力会談の会場となったから前乗りする、じゃあそのついでに自分の妹が仕事してるところを視察名目でお邪魔しようってことだ。なんか授業参観だのなんでバラしただの学生感の強い会話も飛び交ってたがそれは一旦置いておくとして、だ。

 部長の仕事を視察したい、ということは部長が今やってる悪魔契約とは別の事業も確認したい……ということであり、僕は少し離れていた九頭龍亭の厨房に立つことになってしまった。幸い、今日店にいるのは家なき子二人と匙クンという事情を知ってる三人だけだったので話はトントン拍子に進み……今に至る。いや、匙クンは現在進行形でビビってるし、シスターズは興味深そうに二人を見ているけども。

 

「では席に着いた以上、私もなにか」

「なら……パフェとかどうでしょう? 最近チョコパフェを出し始めたのですが」

「ラーメン屋でチョコパフェ? 随分珍しいデザートだね」

「ええ。元々リアス様がこの店を買い取る前からソフトクリームを出してたのですが、それだけなのは少し勿体ないので店員達と話し合ったんです。家族連れのお客様もいますから、お子様のデザートに……ということも狙えますので」

 

 ソフトクリームも有名なラーメン屋だからできる暴挙である。まあ基本ウチはラーメン屋で、冷蔵庫は仕込んでるチャーシューとかキャベツにもやしでパンパンなため余裕は無い。ので1日10杯限定だ。あんまり多いと仕事も増えるしね。

 

「では、それを一つお願いします」

「はい、かしこまりました。パフェ、お願いします!」

「はーい、ただいま!」

 

 元気よく返事をしてホールからバックヤードに消えていくイリナちゃん。……流石に余計なことしないよな? 祝福だの洗礼だの聖水だので悪魔が食べると痺れるとかないよね?

 

『私を誰だと思ってんのよノータリン。今はしがないラーメン店員よ』

『目で会話するんじゃないよボケナス』

 

 まあ騙し討ちとか(そーゆーの)嫌いそうではあるから信用信頼してはいるけども。

 

「はいてんちょー、盛り付け終わりました!」

「ありがとうございます、じゃあ提供入ります」

「お願いします!」

 

 パフェ、と銘打ってはいるもののその実態は一昔前の回転寿司で出てたようなちっちゃくて少しチープなソレだ。今の回転寿司ってデザートもまあまあ豪華だしね。フレークとバナナとチョコソースの、ありふれた簡単チョコパフェ。お値段なんと300円。

 

「おまたせしました、チョコパフェです」

「ありがとうございます。では、いただきます」

 

 そう言ってルキフグス様が丁寧な所作でチョコソースの掛かったソフトクリーム部分を一口。

 

「……!」

「お口に合った様で何よりです」

 

 目を僅かに見開いて口を抑える姿に心の中でガッツポーズ。そうだよ、ウチはソフトクリームが強いんだ! なんせ機械も先代店長が奮発していいの買ってたし、使ってるソフトミックスが牧場のカフェなんかで使ってるのと同じだからね!

 ……なんで先代店長と繋がりがあったんだろ、緑一色(オールグリーン)牧場のオーナーさん。ギャンブル好きって共通項はあったけども。余談だが僕の好きな役は七対子だ。

 

「ふむ、グレイフィアがこんな風に驚くなんて珍しいね。食べ終わったら私にも貰えるかな?」

「申し訳ありません魔王様。今のでパフェ最後なんです。ソフトクリームだけの提供なら可能なのですが」

「それは少し残念だな。いや、それは次の機会に取っておこう」

 

 そう言って魔王様は楽しそうにルキフグス様がパフェを食べる姿を楽しげに眺め始めた。おーい、麺伸びるぞー。ぶっちゃけ冷めなきゃ食えるけどなー。

 ………………いやそれにしても、これは楽しげと言うよりは。

 

「…………恋人? 夫婦?」

「ングフッ」

 

 あ、ルキフグス様噎せた。

 

「……どうしてそう思ったのかな?」

「いやだって、距離が近いじゃないですか。物理的と言うよりかは精神的に」

「鋭い洞察力だ。前に話した時とは別人だと思うくらいね」

「あの時だって部長に好かれてることは自覚してましたよ……? いや思うとかなりメクラだったとは思いますが」

 

 まあ他人事になれば鋭くなるのは人の常。客観視は苦手なのよ。まぁ僕は悪魔なのですが。

 しかし、ふうむ……話が見えたぞ。

 

「…………大方、自分達が大恋愛かましたからその負い目も少しあったっつーことですか」

「実際そうだが思いの外ズケズケ言うね……」

「運良く無礼討ちにならないかなと思ってるだけです」

「なるほど、後でリアスに報告しておこう」

「待ってください、待って。それされると見過ごす対価に何されるか分かったものじゃないんです」

 

 こっちの首を縦に振らせるためなら割と何でもするからなあの上司。…………そういや不穏なことも言ってたな。自分ちの根回しは既に終わって…………いや、まさかね?

 

「と、ともかく。無遠慮に思ったこと口にして申し訳ありませんでした」

「いや、構わないよ。公的な場ならともかく、プライベートでまで畏まられると疲れるからね」

「は、はぁ……」

「それに私達は既に家族のようなものだろう?」

「ングフッ」

 

 今度はこっちが噎せた。爆弾発言にも程がある。

 

「…………あの、ルキフグス様。これ、魔王様のお茶目な冗談、」

「ではありません。リアス様はほとんどの根回しを終えられております。あと私の事はグレイフィアで問題ありません、若様」

「貴女も大概イイ性格してますね!?」

 

 冗談じゃない、冗談じゃない!! マジで人生の墓場に片脚突っ込んでんじゃないか僕ちゃん!! いや、遊びたいとか今更部長以外に懸想する相手をとかそういうことは絶ッ対にないけど、僕は部長に幸せになって欲しいだけで僕がその相手になろうとは微塵も思ってないんだよ!!

 

「いやぁ、あんなに手際良く話を詰めてくるとは思わなかったよ。まさかライザーくんまで味方につけてね」

「……あの二人、婚約してる時より仲良いんじゃないですか?」

「同じ方向を向いてる時の悪魔の仲の良さは凄まじいからね」

 

 あんの焼き鳥野郎が……! 僕がすげぇ嫌がると思って部長に手ェ貸してんだろうなちくしょう! つーかアレか? たまに送られてくるスーツって『そういう』場面で着ていけって!? なんか貴族に囲い込まれようとしてないか僕!?

 

「実際のところどうなんです? 僕、三大勢力観点だとすげぇ厄ネタなわけじゃないですか。チラリと僕の中の相棒に聞きましたけど」

「だからこそ、じゃないかな。二天龍が敵にならなくて済む、というのは君が思う以上に安心感がある。なんだったら自分達の思い通り……とはいかずとも、リアスの為に動いてくれるとなれば、ね? 少なくとも、悪魔側では好意的に見られてるよ」

「……まぁ、でしょうなァ」

 

 流石に僕が生前のドライグと同等の……ってのは無理だが、『倍加』と『譲渡』が扱えるだけでも相当やばい能力だ。僕が最強にならなくとも、最強をもっと最強にできる。仮にそれができなくとも、敵として赤龍帝が現れないだけで心理的負担は減るか。抱え込むのは変わらず厄ネタだろうけど、抱え込まなくても厄ネタってワケか。僕ァ不発弾かね?

 

「それに私としても君でなくては、と思ってるんだよ。グレモリー家の跡取りでもない、魔王の妹でもない、ただのリアスのために頑張ってくれた君にこそ、あの子をお願いしたい。……まあ、一発殴らせて欲しいとは思ってるけどね」

「やめてください死んでしまいま…………いや、死ねるならアリか?」

「これも報告しておくね」

「やめましょうよ、ねェ!?」

 

 馬鹿言った自覚はあるけどさァ!! くそ、お茶目な権力者はこれだから困る!!

 

「ところで、私達の相手をしていて問題無いのかい? もちろんありがたいのだが……」

「この時間になるとお客様の入りも悪くなりますからね。元々三人で店を回せるぐらいですよ。それに聞かれちゃまずい話もあるかもなので遮音結界張る必要もありましたし」

「ああ、さっき君が魔力を使っていたのはソレか。申し訳ない、こちらが配慮するべきだったよ」

「いえ、多分僕がしなくてもルキ……あー、グレイフィアさんがやってたかもなので、出過ぎた真似かもとは思ったんですが」

 

 ルキフグス様って言いかけたら妙な視線が飛んできてびっくりしちゃったよ。釘を刺すってまさにこのこと。……うーむ、ご実家苦手なのかな?

 

「しかし……そろそろこういう話をするための部屋を用意した方がいいかもしれないとは思ったりしてるんですよね。平め……ベルゼブブ様もいらっしゃいますし、ライザー氏も週一で来ますし。あとなんか嗅ぎつけた堕天使の総督あたりも明日辺り来そうで……。いや勿論、カウンターで食べたいと言うなら否はないのですが。それが風情だ、と言うのも分からんではないので」

「確かに。ビジネスだったりこういう話ならば他のお客さんに迷惑のならない場所が必要かもしれないね。特にこれからそういうことはとても増えそうな気がするよ」

「……やァですよ、お偉方がラーメン啜って条約かなんか話し合う図」

 

 しかもそれが九頭龍亭、僕の店ともなりゃあ胃がキリキリしてくるというもので……。イリナちゃんとゼノヴィア女史辺りの件で天使か誰かが不意打ちで来そうでもあるし…………。

 

「おい店長、『おっちゃん』来たぞ」

「あ、了解。今日の分のサイコロチャーシューはさっき漬けてるのあるから提供お願いします。ゼノヴィア女史ー、生お願いします」

「了解した店長」

 

 おっちゃん来たかァ。今日は何軒目のハシゴだろうな。見たとこ既にぐでんぐでんになって席に着いてるが……うーむ、アレならまだ3軒目か。なら良し。

 

「ここはお酒も出してるんだね」

「ええ。飲み会の二次会三次会とかで来てくださる方もいますし、ここでラーメン食べずに呑むだけの方もいます。サービスで出してるサイコロチャーシューが好きなんですかね?」

 

 酒類提供時はサービスでサイコロチャーシューを小鉢で出している。呑むには味が多少濃い方がいいってんで、薄めたかえしダレを温めてその中にサイコロチャーシューを漬けている。普通にラーメンのトッピングで出すには向かないんだけど、妙に人気なんだよな、アレ。

 

「うぅむ……気になるところだが」

「今日は控えておいた方がいいかと」

 

 釘を刺すルキフグス様に心の中で同意する。今部長達が僕ん家で魔王様達泊める準備してくれてるからね。今日泊まる宿の都合つけてなくて、ならウチでどうです? と冗談で振ったらあれよあれよと話進んだからな。親からゴーサインは出たけど、まだ2人とも旅行で帰ってきてないから自分達で準備はしなくちゃ、ということである。僕んちなのになんで僕が足止め係なんだろう……まあラーメン屋の仕事の説明を僕に投げるのは正しい仕事の振り方だけどさ。

 ンで、そろそろ準備もできそうなので会場をそっちに移した方が良くね? というワケだ。

 

「ではそろそろお暇しようかな。ご馳走様でした。今度は仕事の話抜きで来たいものだ」

「ありがとうございました。心臓キュってなっちゃうので程々でお願いしますね」

「それは聞けない相談だ。だってアジュカは結構な頻度で来てるんだろう? 渾名が付くぐらいに」

「いやだって平麺の常連さんは平麺の常連さんと言いますか…………」

 

 いや畏敬の念はあるにはあるけど、接してきた長さ的に魔王様という認識の前に常連客の印象が張り付いて仕方ないんだな、これが。

 

「……ふむ、ちょっと悔しいが挽回のチャンスはいくらでもあるか。だって未来の義弟なのだからね」

「決定事項みたいに話さないでくださいよ……」

「ははは。ではまた後で、イッセーくん」

 

 軽い会釈で二人が店を出て、抑えていた汗がどっと吹き出す。いやぁ、うん。緊張したなぁもう。

 

「いや、お前大概馴れ馴れしかったと思うが」

「それが良いってんだからそう求められたように振る舞うだけだぜ……」

 

 匙クンはまるで僕のことを強心臓のように言うが……ンなワケがない。だって()()()()()()()()だぞ、マジで。

 

『そりゃあビビるのも分かるわ……流石紅髪の魔王、聞きしに優るバケモノっぷりね』

『だから目で語るなって……いやまぁ分かるけどさぁ』

『流石にアレを斬るのはまだ難しい、か』

『斬るなよ、間違っても斬るなよ? …………ゼノヴィア女史まで視線会話に参入してきた!?』

 

 殺す気も無いどころか、本当に、本当にあのヒトは気さくな魔王様ってだけだ。それは間違いない。だが生物としてずっと死を覚悟せざるを得ないような感覚に襲われていた。最近おちゃらけていた警鐘も、今回ばかりは真剣にリンゴン鳴ってたのがその証拠だ。アレ、本当に悪魔か?びっくりしちゃったんだけど。

 そんな感じだったので僕は真剣に、相手に求められたように振る舞った。望んだ様に振る舞うしかできなかったんだんだ。……いやまあギッチギチに固くなったら傷付くだろうなって思いもあるケド。いつかボロが出そうだからちょっと本気で鍛えた方がいいかもしれない。

 

 しかし、まあ、なんだ。

 

「……イメージプレイでもしてんのかな、アレ」

「お前それ、頼むから魔王様本人に向かって言うなよ。フリじゃ無いからな」

 

 まあ、元々メイドさんだったとかそういう理由はあるかもだが…………一度部長に聞いておいた方がいいかもしれない、と思った。

 




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