兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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本日2話目の投稿です。


その4

 

「……てなことがあったんですよライザー氏」

「それは困ったな……」

「でしょう?」

「お前は俺んとこで抱えてリアスとくっつけようと思ってたんだが」

「お前もか焼き鳥野郎」

 

 魔王様襲来から数日後の土曜日の九頭龍亭。この店にくるお偉方の一人に魔王が追い詰めてくると相談したらこんなトンチキなこと言い始めた。そうだよな、お前もスーツ投げてくるぐらいだもんなちくしょう。

 

「そうは言うがなイッセー。俺が後ろに着いてた方が『円満解消』だったんだって納得してもらえるぞ」

「くっつく気がそもそも無いし、最近ウチの上司と組んで根回しやってるそうじゃないですか。お家同士の仲が決裂したワケじゃないですよアピールも兼ねてんでしょ? 上手いことやりますねぇ」

「誰のせいでこうなったと思ってやがる。……まあ差し引きプラスだから飲み込んでるが」

「謝りませんからね、ルールの上で勝ちきったので」

「アホ抜かせ、謝ったら逆に焼死体にしてやる。それとリアスの件は諦めろ、多分お前はあの女悪魔から逃げられねぇよ」

「アンタもソレ言うのかよ……」

 

 年貢の納め時なのかもなぁ、と思わないでもない。そもそもエロバカ共が『はよくっつけ』と怒鳴ってくるって相当なことだものな。普通なら嫉妬して許してなるものか、って感じになるのに。

 

「それに抱えるって……どうやってフェニックス家が僕を抱えるんですか。前みたいに妹をくっつけるとか言い出すのやめてくださいね? 僕あの子にとんでもないことしたから顔合わせにくいんですよ」

「妹より酷いことした俺に対して随分な面の皮だと思うが」

「だって僕と貴方の場合、男と男が意地を張り合っただけでしょう? ズルはしましたが卑怯なことした覚えはねーですもの」

「…………だな」

 

 悔しそうに、力なく微笑むライザー氏。あれから僕対策で死の痛みへ耐性を付ける訓練してるそうだが、よーやるよほんま。僕は二度と嫌だね。

 

「ちなみになんかコツとかあるのか? 参考までに聞きたいんだが」

「何々よりマシ、と常に思い続けることですよ。ま、あん時ゃ死んだっていいメンタルだったので参考にゃならないかと思いますが」

「いや、ある意味で参考になった」

 

 あらそう? ならいいのだけど。

 

「あと、抱え込むって言ったところでそう大層なことするわけじゃねぇよ。俺とお前で懇意にしてる、ぐらいを匂わせるだけで十分効き目がある」

「左様で……。でもそンなら魔王様が僕に距離詰めてくるの別に構わないんじゃないですか?」

「……政府の役人なんかになられちゃ困るからな」

「役人? 僕が?」

「能力の是非はともかく、死ぬほど中間管理職に向いてるように見えるからな、お前」

 

 ……まあ、今既に中間管理職っぽい感じではあるか。オーナーである部長に対しての雇われ店長の僕って形で。

 でも、ルシファー様からそんな気配は感じなかったけどなぁ。

 

「まあ、ルシファー様ならそうだろうな。だが他の魔王は違う」

「と言いますと」

「例えばベルゼブブ様は能力は必要以上にあるが、政治的なことが面倒だと感じている……らしい。親父からの受け売りだから俺がそう思ってるワケじゃないんだが。……一応は同じ方向向いてるが、ルシファー派とベルゼブブ派は結構小競り合いとか多いしな。当人同士でも、ルシファー様の要請をベルゼブブ様が無視したりとか普通に横行してるしな。親父から話聞くまではパイの取り合いでもしてるのか? としか思わなかったが」

「んー……?」

 

 いやまあそういうことするかしないかって聞くと、平麺さんはするだろうな。めっちゃゴーイングマイウェイって感じするし。でもルシファー様と平麺さんから聞くお互いの名前は…………なんだろう、気の置ける大親友っていうか、僕とイリ坊の関係に近い響きを感じる。少なくとも仲はいいだろう。

 

「だが、そういう政争とかを面倒と感じると仮定すると、矢面に立つヤツが欲しいと思うんだよな。そしたら当人は趣味の研究開発に没頭できる」

「はぁ……でもそういう人材、いないわけじゃないでしょうに」

「そうなんだが……大王派の連中と比べると弱い。だから四大魔王様方はそれぞれが自分の派閥の前に立って戦うことを強いられてるんだ」

「大王派……?」

 

 あー、それついこの間うっすら聞いたことがあるような無いような……。というか厄介な政治の匂いがする。警鐘もリンリン鳴ってるし絶対そうだ。

 

「ま、飯食いながらする話じゃないからここで切るが。ともかく役人とかになられたらお前から涙の取り分徴収できねぇよ、癒着疑われるからな」

「あ、そういう……」

「ルシファー様と接すると確実にベルゼブブ様との交流も出てくるだろうから、マジで気をつけろよイッセー。油断してると取り込まれそうだからな」

「は、はい。肝に銘じておきます」

 

 …………平麺さんがそうするかはともかく。交流に関してはなんかもう手遅れというか、結構ズブズブな気が。

 現実逃避気味に時計を見る。……いっけね、14時55分じゃん。帰り支度しなきゃ。

 

「ん? えらく短いシフトだな、入る時はガッツリ入るだろうに」

「この後学校行かなきゃなんですよ。なんでも、プール掃除するとか」

「ほう、青春だな。ついぞ俺はそういうの味わえなかったが」

「えぇ? プレイボーイが何言ってんすか」

「俺が通ってたのは貴族のボンボン共が通うようなところだ。あとは言わなくても分かるだろ」

「アッハイ。確かにそれじゃそういうの望めませんね」

 

 繋がりを作るための社交場じゃあ、そりゃ無理ですわなと思いながら、自分がパンピーであることを酷く感謝した。そういう息苦しいのに耐えれる気しないモン。

 

 簡単な引き継ぎをし、制服に着替えて退勤。30分後にゃ講義終わった田所サンと張さんが来るから夜まで万全でしょ。

 

「お疲れ様でしたー」

「「お疲れ様でした!」」

「次はもうちょい話に付き合えなー」

 

 メールでやれや、と思いつつ店を出る。…………僕はずっとライザー氏って呼んでるけど、あのヒトも『チャーシュー丼さん』って呼ばれるようになったんだよな、裏で。陽キャぶりを発揮してウチの店員と話してる姿を窓ガラス越しに確認してなんだかなぁ……と思う。雰囲気を良くする分の会話は別に構わないし、私語云々言い出したら一番アウトなの僕だけども。あのヒトがそれはもうめちゃんこ強い不死鳥悪魔だってことを思うとなんだか妙な気持ちになるのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 プール掃除をするのは、基本的に水泳部だ。なんせいっちゃん最初にプール使うのはヤツらだからな。去年手伝ったがまァ大変だった。水を抜き、苔や砂などのゴミをこそいで捨ての繰り返し。デッキブラシで落ち切れない分は高圧洗浄機を使い……と酷く疲弊したのを覚えている。ただ水を張った後にプールの塩素錠剤で水切りしたのは楽しかったな。50mプールの端から端まで飛ばして爆笑したのはいい思い出だ。

 

 でだ。今年はどうやら生徒会に依頼されてオカルト研究部がやることになった。どういう経緯でかは分からないが、まあ何らかの取引があったのだろう。水泳部がプールを使った練習を始めるまでは自由に使ってもいいという権利と共に、僕らはプール掃除を承諾した。

 去年は大変だった……だが、今は違う!(ギュッ) なんせ今の僕は水分操作を身に付けている! 温度変化だけじゃない、水圧も弄れるし何より……魔力で水を生成できるようになった! VSライザー氏に備えた訓練からここまでかけてやっとだが、何とか身に付けたのだ! 手早く終わらせて、帰ってゆっくりするとしよう!

 ……と、思っていたのだが。

 

「騙された!!」

「騙してないわ。ちょっと3時間先に掃除を始めただけだもの」

 

 部室に着いたときにもう既に誰もいないから先に掃除始めちゃってるのかな? と思ったらコレだよ!! 掃除なんか終わって水着お披露目会になっちゃってるじゃん!! そんな気配がしたから掃除終わったら帰るつもりだったのに!!

 

 ああクソ、肌面積の広さが嫌になる、目が焼かれる! 陽光に照らされてなお負けない白い肌を彩る紅いマイクロビキニの部長が今日だけは憎い!!

 

「で、どうかしら?」

「憎らしい程に似合ってますね、鑑賞すら目が焼けるので背けたいところです」

「最大級の賛辞をありがとうイッセー」

 

 顔を背けた先に回り込んで来るんじゃあない! ニマニマと笑うんじゃあない! いいか、僕は童貞なんだぞ! 赤い童帝目指してるんだからな!

 

『そんなもん目指すなノータリン』

 

 なにか言ったかクソトカゲ!!

 

「うふふ、張り切った甲斐がありましたわね部長。(イッセー)くん、私の方はどうかしら?」

 

 そう言って微笑む朱乃サン。こちらもまた布面積がえっぐいビキニっすな……白いから部長と並ぶと映えること映えること。

 

「いや、めっちゃ似合ってますが…………なんか不穏な単語に読み仮名振ってませんでしたか?」

「うふふ」

「いやうふふじゃなくて」

 

 なんだろう、警鐘とは別のところでむっちゃゾワゾワする。見過ごすとなんか致命的なことになりそうな気配をビンビンと感じる。主に電子妖精の一件から。……なんかやらかしたっけ僕。

 

「……程々にしなさいね、朱乃。イッセーのメンタルはそんなに強くないんだから」

「もちろん、姉は弟を守るものですもの」

「だからまだ続いてたんですか!?」

 

 どうしよう、僕に知らない姉が生えようとしてる……!? 姉名乗る者はまずいですって!!

 よし、掃除終わってるなら逃げよう。実は下に学校指定の水着履いてるけど水着履いてないからって逃げよう! そうしましょうそうしましょう、兎さんと亀さんも言いました!!

 

「はっはっはっ、どこへ行こうというのかね?」

「げえっ! イリ坊!?」

 

 ぐおっ、馬鹿な!? (首を掴まれ)身動きが取れん! というか何故お前がここにいる!?

 

「いやぁ、グレモリーからお呼ばれしたの。シャワーは毎日浴びてるけれど、たまにはバシャっと全身を水に浸したいじゃない」

「意外と切実な理由来たな……」

 

 シャワーは店のやつ使っていいよと貸し出してるので(衛生管理の一環)不潔ということは無いが、どれだけ傍若無人ガキ大将であろうとそこはやはり女の子ということか……。てェことはゼノヴィア女史もいるな?

 

「ああ、お邪魔している」

「はい、どうもー。……イリナちゃん、首離して」

「はいはい」

 

 掴まれた首をさすりつつ振り返ると、そこには黒い競泳水着を来た教会コンビが。

 

「えらいスポーティだな御二方」

「教会の水中用装備ね」

「防弾、防刃性に優れ、動きも阻害しない。カッコイイだろう」

 

 ふふん、とドヤってるゼノヴィア女史には悪いが…………いやまあ、機能美という意味ではカッコイイのか? 戦士として鍛えてるのもあって二人ともうっすら腹筋割れてるのもその印象を後押しする。…………あとこの装備作ったヤツは相当趣味がアレだと思う。これを装備にしてええのかマジで。

 

「というか腕とか脚とか防げねぇじゃんソレ」

「ああ、これちょっといじるとスイムスーツになるのよ」

「うわ、マジかよ」

 

 実際に指パッチンと共に腕や脚まで覆われるのみると、無駄な技術力だなと逆に感心する。それでいいのか教会勢力。

 

「で、どう? どう? 朴念仁でも褒める言葉は持ち合わせてるでしょう?」

「見てくれだけはいいよな、ホント」

「ちょっと、グレモリー達と扱い違うんじゃない!?」

「あ、ゼノヴィア女史カッコイイよ。めっちゃイカしてる」

「そうか、ありがとう兵藤一誠」

「ねェちょっとォ!!」

 

 うがァ! と喚かれても……ねぇ? 部長がいる前でそんな素直に褒めて嫉妬の原因作るほど馬鹿じゃあないでゲスよ僕ちゃん。

 

「で、ここまで来るとアーシアと小猫チャンもいるはずだろうけど……」

「ああ、二人はあそこだ。プールサイドのベンチで休んでいる」

 

 そう言ってゼノヴィア女史が指さした方向に確かにいた。由緒正しいスクール水着を身にまとって……なんか二人とも疲れてない?

 

「何でも、アーシアは泳いだことが無いし、塔城小猫は泳ぐのが苦手とのことで、さっきまで練習していたんだよ」

「プールを使わせてくれる代わりにコーチしてたの」

「へぇ〜」

 

 アーシアは……そういうこと経験してこなかったんだろうなって思うけど、意外なのは小猫チャンだ。小柄ながらフィジカルタイプで運動関係はなんでもこざれって印象だったのに。……猫繋がり? まさかね……。

 

「ま、そういうわけだから観念なさーい。アンタを逃がさないことも約束事に含まれてんのよ」

「やることがえげつねぇよウチの上司……」

 

 チラリ、と視線をやると勝ち誇ったかの様に笑みを浮かべて手をヒラヒラ振ってくる。

 ……仕方ない、観念して楽しもう。楽しい空気に水を差すのも普通じゃない、ってコトだ。トホホ……。

 




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