「なんかもう、疲れたよ……精神的に」
「ははは。でもどこか楽しげだよイッセーくん?」
「おめーはその場にいなかったからな! ちくしょう逃げやがって」
「逃げたわけじゃないよ、剣道部にお呼ばれしてね。部長にもちゃんと許可を取っていたよ」
「どーだか。ナシはつけてんだろうけど理由はちげーだろ。おぉん?」
「あははははは」
あの後も、泳ぎを教えたり遊んだり、おもちゃにされたりと初夏のプールを存分に楽しんで。口ではこう言ってるが確かにちゃんと楽しかった。楽しい日常の一幕だった。
だからこそ解散して一人になり、余計に気落ちしたところをコイツに見つけてもらったのはありがたかった。できれば最初っからあの場にいて欲しかったがな!
「ところでイッセーくん。身体動かして少しお腹が空いちゃったから、一緒にラーメンでもどう?」
「お、おう。珍しいな誘ってくるなんて。いいよ、実際お腹めっちゃ空いてんだよね」
んで、ラーメン屋となると基本選択肢は一択である。ウチの店、九頭龍亭だ。ウチの店はアルバイトには社員割が効いてスタンダードなラーメン(醤油、味噌選択可)なら780円のところ700円での御提供だ、安い。……そんなに割引効いてない? ネットで出してるクーポンの割引と一緒にしてるだけだからそりゃそーよ。
「でも疲れてるんだから応援でそのまま勤務、とかしちゃダメだからね。部長必ず怒るから」
「うぐっ……いやだって今日遊んだだけだし、僕が出勤する分の人件費は発生しないし……」
名付けてセルフサビ残。良い勤労者は真似してはいけない。
まあそんな感じであーだこーだと雑談しながらウチの店の前に到着……したのだが、何故かリンリン警鐘が鳴っている。そんな面倒事の気配なんてどこにも……どこ、にも?
「……イッセーくん、アレ」
「……うん」
店の中にどっかで見たような堕天使の総督と銀髪の美青年がいる。出処はアレらだ。
「…………帰るか」
「…………だね」
『おいおいそりゃねぇだろ、美味いぜここのラーメン』
うっせぇわ、知っとるわと飛び込んできたテレパシーに脳内で怒鳴る。気がつけばニヤニヤと笑みを浮かべた総督がおいでおいでしてる。
「……食券だけ買ってバックヤードに引っ込むかぁ」
「……職権乱用じゃない、それ」
「アホ言え、お客様の安全第一だ。あんな劇物放置できるか」
とりあえず店の外の券売機で食券だけ買って出陣。くそぅ、あの男ニヤニヤしやがって。
「いらっしゃいませ……あ、おはようございます店長に木場さん! アレ、今日シフトじゃないですよね?」
「野暮用です。少しバックヤード使いますね」
そう言ってとりあえず目線だけ寄越すと我が意を得たりと二人は着いてくる。……銀髪の方はアレか? 総督の護衛か何かだろうか? いや、気配がこの間の、
『そうだ、白いのだ』
……そりゃ警鐘も鳴るわな、とゲンナリする。なんでここでラーメン啜ってんだよ僕の宿敵。
「あ、お客様、そこから先は関係者以外、」
「あ、ごめんなさい田所サン、この二人僕のお客様なんです」
「あ、そうだったんですか」
「ですです。しばらく話があるので、少しバックヤード占領するんでよろしくお願いします」
さて、さてさて……どう切抜けるべきだコレは?
◆◆◆
「まずは最初に、非常に美味しかった。あれはゲンコツで作った豚骨スープだな? あとは背脂と……香味野菜がいくつか、といったところか。非常に濃厚だが飲みやすいスープだった。食べ応えのある食感の平麺と合わせて非常に満足感のある一杯……堪能させて貰ったよ」
「きっしょ、なんで分かんだよ」
「ラーメンについては多少知識があるからな。あと興味を引いたのが上に載せられた焼き野菜だ。君のラーメンは恐らく日本の東京にあるあのラーメン店に影響を受けたのだと思うのだが、あの系列は野菜は茹でたものが一般的だ。だが君のところでは違う。しっかりとラードと何かのタレで炒め、しかしスープに合わせるように塩味を非常に薄くすることで香ばしさと旨みだけを与えて、普通なら多少胸焼けするようなラーメンを美味しく、食べやすくしている……いい工夫だ。タレは恐らく……チャーシューの漬けダレか何かを使っていると思うのだが」
「だからなんで分かるんだって!!?」
怖いよこの白い龍!! なぁにが多少知識がある程度だよ、通にも程があるじゃねぇか!!
「ああ済まない、自己紹介を忘れていたな。俺はヴァーリ、今代の
「そっちの赤龍帝は知ってると思うが改めて。『神の子を見張るもの』の総督、アザゼルだ」
事務所のテーブルの向かい側、たった今うちの店で提供してるラーメンのことをほぼ丸裸にした銀髪のイケメンと総督が軽い会釈をする。…………というかなんだよぅ、怖いよぅこの男。
「ご丁寧にどーも。既に知ってるかもだけど、兵藤一誠、リアス・グレモリー様眷属の
「同じく、リアス・グレモリー様眷属の
「おお、お前が例の聖魔剣の! 可能なら見せてもらいたいところだが」
「…………」
一応外面のいい優男スマイルはしているが、警戒心バリバリである。それもそうだろう、赤龍帝の僕のところに白龍皇連れてきた、一応敵組織のトップだもんなぁ。和平は結ぶ予定だけども。
「ははは、そう警戒するなって。今日は本当にラーメンを食いに来ただけだ。もしかしたらキミに会えるかもしれないとは思ったが」
「ホントかなぁ……?」
チラリ、と総督から視線を逸らして白龍皇……ヴァーリを見る。
「……? どうした兵藤一誠。俺の顔に何か付いているのか?」
「……ホントかも」
さっきのようなラーメンの情報開示された側としては、少なくともラーメン目的で来たと言われても信じるしかない。僕の宿敵がラーメン通とかたまげたなぁホント。
「……まあ、そちらにとって運が良かったというのは理解しときましょう。ンで、運良く僕どころかウチの優男とも遭遇したわけですが、その場合は何をするつもりだったんで?」
「どうもこうもしねぇよ。そりゃ、キミ達の神器を心ゆくまで解析したいところではあるが……キミはともかく聖魔剣くんは難しいだろう? こんな物騒なモン設置されちゃあな」
「…………チッ」
いや『チッ』て。何やったのさ優男。僕なんにも気が付かなかったけど。アザゼルが指さした方向見ても何もわからんのだけど!
「……バレたから言うけれど、戦闘になるようなことがあったら対異形用のワイヤートラップを張れるようにセットしただけだよ。片付けないけれどね」
「サラッと仕事人地味てきたなお前!?」
誰だよあの爽やかなイケメン騎士をこんなに歪めたの!! 黒すぎて怖いよ!! ……うるさいなぁ警鐘、僕のせいだみたいに鳴らさないでよ!?
「はっはっはっは! 魔剣創造をこんな解釈で使うヤツに初めて会ったぜ! どうかな、君もグリゴリに来てみないか?」
「……僕は、リアス・グレモリー様の騎士です」
「そうか、残念だ。しかし、キミや兵藤一誠くんが推すリアス・グレモリーってのは相当な傑物なんだろうな」
「「……………………」」
どうかなー? と二人で顔を見合わせる。いやそりゃ、相応にカリスマはあるとは思うし、経営者として切り取るとかなりの凄腕だとは思うんだ。けれど要素を分解していくと、あのヒトって我儘お嬢様なところが根幹にあるからなぁ。現段階で傑物と言われると、ちょっと悩ましいな。
「……んー、まぁ一生を賭して支えていきたい相手ではありますね」
「僕の心はあの方とイッセーくんに救われました。言わば恩人です。離れる選択肢はありません」
「なんだその困ったから別のこと言って有耶無耶にしようって感じの返答は」
だって、ねぇ? まぁ将来有望だろうから頷いても良かったけどさぁ。
「じゃあアザゼル、俺は俺の用を済ませてもいいか?」
「ああ、俺は構わない。済まないな、兵藤一誠くん。少しばかり、ウチのヴァーリに付き合っちゃ貰えないだろうか。なんでも、二人きりで話がしたいんだと」
ガタッ! と隣の祐斗クンが立ち上がる、今にも斬りかかりそうな臨戦態勢だ。
「祐斗クン、やめた方がいい」
「でも、ここで君を失うわけにはいかない」
「大丈夫、多分。警鐘は鳴ってない。…………部長に一報は入れなきゃだケド」
「…………」
渋々、といった様子で引き下がる彼に申し訳なさを感じる。そうだよな、君が正しいよ祐斗クン。乗っかろうとする僕がこの場合間違ってると思うよ。
だけども、僕はここで一旦この男に探りを入れたいと思うわけだ。多分それ次第で、準備が変わると思うから。
「無論、手出しはしない、させない。俺とグリゴリに誓ってな」
「分かりました、じゃあ僕と彼は場所を移しますか」
もちろん、一報を入れた部長には大激怒はされたけれど、なんとか話すセッティングだけはできたのだった。
◆◆◆
場所は変わって近所の公園。僕が死んだり堕天使殺したりで色々お世話になってるあそこである。心理的に落ち着けるので人払いの結界を張りつつそこで話をすることになった。
「……でェ、クソザコナメクジの赤龍帝になんの用ですかコノヤロー」
雑談するには飲み物の一つでもあった方がいいだろうと、通りがけの自販機で買ったコーラを投げ渡し、並んでベンチに座る。
「あまり自分を卑下するな、兵藤一誠。キミは確かに弱いだろう。素養としては一般的、感じる魔力も大した量ではない。けれど、キミは弱い自分を弱いままにしてはいないだろう? コカビエルを倒したのがその証拠だ」
「…………」
僕の宿敵、ライバルにあたるヤツにそう言われると、ちょっと複雑な気持ちになる。あまり嬉しいことではないな、コレは。
「兵藤一誠、キミはこの世界で何番目に強いと思う?」
「…………さあ、分からん。興味もないよ。ただ、何かしら平均だとは思うケド。悪魔か、ドラゴンか」
本当に、その辺は興味はない。戦うことがそもそも嫌だ。必要ならやるけど、闘争に身を置くなんて真っ平御免だ。…………多分、一つ空けて隣に座る男はそういうのに興味があるんだろうが。
「バランスブレイカーに至ってはいない君でも……そうだな、五千から五千五百の間ぐらいだろうか?」
「うげぇ……」
なんだかとてもゲンナリとする。良くないよ、本当に良くない。間違ってもその順位が、平均というわけでは無さそうだから。
守るために必要なら、いくらでも強さを求めるけれど……過ぎた力は身を滅ぼすし、目も付けられる。本当に、嫌だなこの状況。
「…………。本当にキミは戦うのが嫌なんだな」
「うん、それはもう。前言ったことになんの嘘も無いもの。必要だから鍛えるけど、そうじゃなかったら誰がこんなことするものか」
吐き捨てるように言って、ヴァーリの顔を見る。不思議そうな顔で、不服そうな色を目の奥で揺らめかせている。
「俺は興味がある。この世界には強い者が大勢いる。そんな彼らと……俺は戦ってみたい」
「……否定はしないよ。そういうのも理解はできる。昔にそういう妄想をしなかったワケじゃないしね」
そう、男と生まれたからには誰でも一度は夢見る…………っていうのは置いといて。強さに貪欲なんだろうな、コイツ。真っ向から戦ったら普通に死ぬよね。警鐘もそう言ってる。
「だから、俺はこの時代に生まれたことを、戦争がなくなろうとしているこの時代に生まれたことを、残念に思っている。……俺は神を倒してみたかった」
ゾワリ、と背筋を何かが這う。僕は、以前の自分の考えが間違っていなかったと確信した。
「だからこそ、俺はキミと会ってみたかった。戦いたいと思っている。…………残念だ、キミには戦う気がまるでない。必要ならば戦うのだろうが、それだけだ。強さに、自分の持つ可能性にまるで頓着していない」
「……………………」
プシュリ、とヤツはペットボトルの栓をひねった。夏の気温との対比で、酷く冷たい音に聴こえる。
「悪かったな、僕が赤龍帝で」
「いいや、キミは悪くない。ライバルに高望みしていた俺の落ち度もあるんだろうからな」
炭酸で喉を潤したヤツは、本当に……
「俺とキミが二天龍である以上、必ずその時は訪れる。俺はその時を待つだけさ」
「………………」
そうか、そうかよ。嗚呼、本当に嫌になる。
「…………僕からも、一つ聞いておいていいかな?」
「ああ、なんでも聞いてくれ」
「今度の三大勢力の会談で…………
何も語らず、薄く笑みを浮かべたことが何よりの返答だった。
「分かった、いいだろう。……僕は帰るよ」
「そうか、もう少し話したかったんだが……いや、もしかしたら不粋かもしれないな。次に会う時を、楽しみにしているよ」
「……………………フン」
嗚呼…………本当に、嫌になる。
感想、誤字報告等本当にありがとうございます、励みになります。