兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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その7

 

『どうするのだ、相棒』

 

 家路の途中、ドライグはいつもの愉悦の気配を何処かに投げ捨てた真剣な声で僕に問うてくる。……それもそうか、僕たちの宿敵に関わってくる問題だものね。

 

「本当に……どうしよっか」

 

 どうにかする……いや、したい。できるものなら、どうにかしたい。でも、僕と宿敵の力には大きな隔たりがあると思う。……悔しいなぁ、もう少しでも早く神器に目覚めていたら、もう少しやりようはあったのだろうか?

 

「たとえばまた僕のパーツをお前にやって、今度こそ一時的禁手化は可能?」

『不可能だ、二つの意味で』

「それはもう僕の身体に捧げられる部分が残ってないのと、ドラゴン化が進んでしまったことでパーツ一個程度じゃ出力が禁手化には届かないってので間違いない?」

『ああ、その通りだ』

 

 そうだよな、と自分の選択の代償を確認する。心臓と骨をドラゴンの物に置換してしばらく……僕の全身は薄くドラゴンと化している。力加減がまだ完全じゃないので、たまに筆記用具をへし折ったりしてるが……まあそれはともかく。この状況はどうやら、全身をドライグに捧げたようなものっぽいみたいだ。加えて本体がある程度強くなったせいか、仮に捧げるパーツが残っていたとしても本体に見合った出力での禁手化をできないみたいで…………くそ、あの時はあれが最善だったけど、こうなると話が変わってくる。もっと僕のパーツを出し惜しみするべきだった。

 だからと言って今首を括るわけにもいかない。アイツは明確に何かを起こす、ないし起こると言ったようなものだ。無責任に一抜けして……それで皆に何か被害が出ると思うと、絶対に逃げられない。

 

「くそ……今だけは弱い自分に腹が立つ。……仮に、今から修行したとして会談までに間に合うと思う?」

『……訓練だけで至るならば、上手くいけば一年ぐらいは必要だろう』

「…………そうか」

 

 禁手の方向で戦うのは無理。そう思っておかなければならない。なら、今切れる手札は……

 

「まだ内容の決めてない『傲慢』と『憤怒』……この間は今使える力を磨いていった方がいいって決めたけど、万が一に備えて形だけは決めておいた方がいいかもしれない」

『あとは残りの器を満たしていくか…………【9枚目】を完成させるか、だな』

「9枚目?」

 

 はて? と首を傾げ、程なくして思い出す。そうだ、『九頭龍の積層装甲(パワードフレームNo.9)』は七つの大罪に虚飾と……僕自身のを入れた九つのプレートで構成された能力だ。9枚目とは、即ち僕自身のプレートの能力を指す。

 

「……無いものとして考えてたけど、可能なのかソレ?」

『可能だろう、それに9枚目に関しては器を満たす必要も無い。悪魔の駒にも縛られない、お前だけのものだ。恐らく、コイツに手を入れるだけなら一日どころか一時間も必要ない。お前の眼鏡に適うものができるかは分からないがな』

「…………」

 

 博打だが、悪くない一手に思う。使えるものが生まれるかは分からないけど、損するものが出てくるわけでもないし……道具は使い方次第だ。

 

『あとは……少し気になったことがある』

「と言うと」

『今代の白龍皇からは……悪魔の気配がした』

「……!?」

 

 嘘、だろう? 悪魔ってことは……え、アイツはぐれ悪魔か!?

 

「……いや、そんなわけがない。手配書を流し読みしたことあるけど、あんな目立つヤツはいなかった」

『ああ、俺が記憶を読み取った限りでも、ヴァーリという名前は無かったはずだ』

「だったら余計にありえないよ……だって、神器は人間が発現するものだろ!? 僕みたいに悪魔に転生するんじゃなかったら、そんなことありえるはずが」

『……一つは、公になっていないだけの場合。だがそれは考えにくい』

 

 だよな、そんなお尋ね者を総督が連れ回すはずがない。白龍皇ならともかく、アザゼル総督は少なくとも本気で和平を結ぼうと考えていると思う。その状況で悪魔側を刺激するようなことは考えづらい。…………神器関係でなんかあればわっかんないけど。良くも悪くも趣味人だ、アレは。

 

『もう一つは…………人外と人間の間で、子供が産まれ得るということだ』

「……!」

 

 そうだ、僕はその実例を見ている。いや、伝聞情報だけだけど……朱乃サンが、元堕天使と人間のハーフだったってことは、悪魔と人間のハーフだって生まれ得る可能性が……!

 

『相棒、お前はあの剣を……聖剣ガラティンを使うべきだ』

「……ドライグ、それは」

『ああ、本来なら口を出す部分じゃあないだろう。だが、時には取捨選択も必要だ。でなければ、本当に守りたい宝を失うことになりかねんぞ』

 

 …………分かってる、分かってるんだ。強力な武器を死蔵させておく理由なんて無いって。でも、あれは。

 

『気休めにもならん戯言かもしれんが…………あの聖剣使いは、お前のその葛藤を鼻で笑うだろう。そういう手合いに見えた』

「……………………」

 

 どうするべきなんだろう、僕は。

 

 

◆◆◆

 

 

「それでアンタ、私のところに来たってわけ? ケツでも叩いて貰いに来たって?」

「うんにゃ、聖剣の扱い方でも聞いとこうかと」

「それはそれで割り切り方がエグいわね……」

 

 超寄り道してここは廃教会……シスターいるならもう教会って言い直してもいいかもしれないが、今はまだ脱法シスター共なので廃教会でいいだろ、多分。

 

「使わないに越したことはないけど、死んだら没収されそうだってことに気がついてさ。ガラティンを墓標にするのは譲れない決定事項だから、そこ以外は自分を曲げた方がいいかなって」

「ま、納得してるならそれでいいんじゃない? ヘタにうじうじとするよりもよっぽど健全ね」

 

 本当だよね、あははー! と笑い合うが中身は何も笑えない。何処の世界にシスターから聖剣の使い方を訊ねる悪魔がいるというのか。

 

「でもね、申し訳ないけど教えることないわ。いやマジで」

「嘘でしょ? もうちょっとこう……なんかあるでしょうよ、具体的には剣が自分を認めてくれるようになる方法とか」

 

 そう言って籠手に格納していたガラティンを出現させる。聖魔剣で作った鞘で覆ってることでかなりダメージは抑えられてるが、それでも痛い。

 

「前も言ったけど、焼き焦げてないのが既に異常なのよアンタ。相当ガラティンに気に入られてるのね」

「それ、ドライグにも言われたんだけど……やっぱり剣にも意思があるってこと?」

「そ。まぁハッキリしたものじゃないらしいんだけど……使い手を選んだりする程度にはあるわ」

 

 そうなるとなんで聖剣ガラティンが僕のことを気に入ってるのか、という話になる。ドライグ曰く愛憎入り交じったというヤツらしいが。

 

「その話に詳しいゼノヴィアは夜勤のバイトでいないし……どーしたもんかな」

「んァ? ゼノヴィア女史、ウチと掛け持ちしてんの? 十分なお給金出してると思ってたんだけど……」

「意外とね、一気に消えてくのよお金って。具体的には募金とか」

「先に自分達の生活立て直せやオイ!?」

 

 本当頭痛くなるぜコイツらの清貧さ具合……! それで満足そうなんだから付ける薬もねぇんだコレが!

 

「でも案外日々の食事と衣類だけでなんとか生きていけるのよ。寝床は此処だし水周りは貸してくれるし。いやぁ、店長様々ね!」

「じゃあ祈りを捧げるな、物理的に頭が痛い! ……で、ゼノヴィア女史がその辺詳しいってのは、彼女は剣に選ばれた側ってことなのか。めいびーデュランダル」

「ええ。素養だけなら最強格っていうか……これなんて言った方がいいのかしらね? 使っていい紙とペンある?」

 

 少し頭を悩ませたイリナちゃんは、僕に筆記用具を催促した。一応カバンの中にノート一冊と文具セットを常備してるので纏めて投げ渡す。

 

「サンキュ。えー、私の想像というか妄想が混じる話なんだけど。この間バルパーから因子って話が出たじゃない? 聖剣を使うために必要な因子ってヤツ」

「ああ、ウチの優男からある程度は」

 

 そう言って彼女はキャンパスノートにデフォルメの自分を描いていく。その中心に細かく線の入った小さな丸を描いているが……まあ流れから察するに、聖剣使いの因子か。

 

「多分だけど、この因子って聖剣からの印象を良くするものだと思うの。コイツになら使われてもいいかなー、って聖剣の側が思ったら使えるようになる、みたいな?」

「ギャルゲーみたいなので好感度に下駄履かせてもらえるようなモンか」

「そそ」

 

 それは置いといて、と続けて彼女は自分のデフォルメ絵の隣に今度はゼノヴィア女史のデフォルメ絵を描いていく。彼女に描かれた因子は……おっきいなオイ。

 

「……ん? こっちの因子には細かい線は?」

「ああ、あの子は天然物だから混じり気なしなのよ。で、まあ大きさで想像はつくと思うんだけど、ゼノヴィアって多分抱えてる因子の力が半端ないのよ。だいたいの聖剣なら認めてくれるでしょーね」

「もしかして、ガラティンも?」

「うーん……それは分かんない。因子とは別に好みがあるはずよ。言い方を借りるなら、あくまで好感度に下駄履かせた状態なだけ。じゃなきゃアンタがガラティン握れてるわけないでしょうに」

 

 それもそうか、と思う。僕に聖剣使いの因子がないのは、話を聞いて調べたドライグからのお墨付きだ。

 

「それにガラティンとか、デュランダルとか、大昔に一本だった頃のエクスカリバーとかの最強格の聖剣は、多分我が強い剣だと思うの。因子の強さの他に、因子の性質とか本体も査定基準に入るはず。そういうのを色々突破して、ゼノヴィアはデュランダルに認められた、と考えてる」

 

 あの子が握ると、結構張り切って暴走するのよねー、と付け足されて背中がぞわりとする。一歩間違えたら僕も巻き添え食らっていたかもしれませんわね奥様!

 

「で、話の流れから察したと思うのだけど、私は後天的に因子を入れられた側だと思ってるわ。確かに聖剣使いになるための儀式でおそらく因子の様なものをいられている。そしてその因子の作り方っていうのが」

「たくさんの、細かな聖剣使いの因子を取り出し、寄せ集めたもの……。この細かい線はその表現か」

「ざっつらい。多分、この寄せ集めのせいで大きさに対して因子の質……というか性質はあんまり良くないものだと推測するわ。あの儀式を受けた人間が、分裂剣の方のエクスカリバー以外を使ってる記憶が無いもの。なんというか……整形して得たルックスでゴリ押してる感じ?」

「やーい整形美人ー!」

「はっ倒すわよこの野郎」

 

 まあ、色々理解した。理解したが……こうなると次の疑問というか……。

 

「あと、多分因子の役目は聖剣からの好感度稼ぎだけじゃないと思うの。おそらく剣の能力と聖なるオーラの制御に因子が関わってるはず」

「そりゃまたなんで」

「アンタんとこの聖魔剣使いよ。いくら二属性で均衡保ってるとはいえ、あの男が自分の剣でダメージ受けてた? せっかく鞘状態の聖魔剣あるんだから、自分で触って確かめてみたら」

「お、おう」

 

 言われた通り、鞘の部分に手を触れてみると…………ダメージって程でもないが、確かに嫌な感じはする。清めの塩を触った感触に近くはある、か?

 

「ドラゴン混じりのアンタでそれなんだから、純転生悪魔の彼がダメージを受けないはずがないじゃない。それがその素振りが全くないのは、聖なるオーラの制御が完全にできているということよ。……あまり考えたくない想像だけど、仮に聖剣使いが悪魔に転生しても、因子に影響がなければ問題なく聖剣が使えるでしょうね」

「なるほど…………」

 

 そうなると聖剣使いの因子自体は、特別聖なるモノというわけではなく…………人間側の体質に近いというものか。

 

「…………あっ、そうなると教えることがないって言うのは」

「アンタに因子が無い以上、聖なるオーラも剣の能力も扱えない。シンプル頑丈で悪魔には絶大な効果がある? 程度の剣として使うしかないってコト」

「…………教会に頼んで因子の都合つけてもらえないかな? 複製できるかも」

「相っ変わらずの倫理観欠如ボーイね!!?」

 

 いやまぁ、そうなると諸刃の剣状態でガラティンぶん回すしか無いわけだが。基本能力が『最硬』であることに感謝した方がいいのかもしれない。

 

「というかイッセーくん。剣術ってできたっけ?」

「鉄パイプならぶん回したことあるぐらいかな。あと多少ウチの優男に教えてもらった程度?」

「アンタねぇ…………手をつけるならそこからじゃない?」

 

 はァ、と溜息をつかれる。いや本当に申し訳ない。

 

「いいわ、それなら教えられることもある。タイミング見て木場祐斗を呼んで此処に来なさい。私とゼノヴィアである程度の剣術を叩き込んであげる」

「え、いいの?」

「良くないわよ。良くないけど、私以外の手でアンタが死ぬのも目覚めが悪いわ」

 

 そっぽ向いて照れ隠しするイリナちゃんに、思わず涙がこぼれそうになる。……ありがたい、持つべきものは本当に友達だよ。

 

 と、ここで僕のスマホが震えてメールが届いたことを報せる。誰だよ、今めっちゃ深夜なんだが。

 

『話は、終わったかしら?』

 

 あっ(死)

 




南無南無……
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