「…………という感じで、次からも契約して貰えるようにサービスをですね」
翌日の放課後。部長に昨日はどうだったのかと聞かれたので、余すことなくマルっと報告しました、まる。
そうすると、部長が何故か思案するような顔をしだした。……僕、なんかまずった?
「……ん? ああ、ごめんなさい。イッセーは良くやったわ。顔見知りなのを抜きにしても、新人とは思えないくらい」
「いやぁ、そりゃ僕も1年程お客様相手にラーメン作り続けてましたし……」
結局のところ、やってることの本質は変わらないからね。代価を貰って、サービスを提供する。貰うのがお金なのか他のものなのか、提供するのがラーメンなのか他のものなのか、という違いはあるけど。
ぶっちゃけラーメン食べたければ、近くのコンビニに駆け込んでインスタント買えば食える。手間を惜しまないなら、スーパーで中華麺と中華だしの素、あと好みの具材を買えばそれっぽいのは食える。そして、学食のラーメンでもない限り、間違いなく外で食べるラーメンよりも安上がりだ。まあ、元取るために人件費の他にもサービス料上乗せしてるだろうからね。材料の発注してると、如何にぼってるかが分かる(但し、一部メニューは原価スレスレだったりもするゾ!)。
ラーメン屋に必要なのは、
同じことが、間違いなく僕ら悪魔の契約にも言える。
頼み事するなら別に悪魔でなくてもいい。コスプレしてもらいたいならレイヤーさん雇えばいい、ご飯食べたいなら出前を取ればいい、出会いが欲しけりゃ出会い系サイトに登録すればいい、それがいやなら結婚相談所いけばいい(まあ余程困った時の願いはそうも言ってられないかもだけど)。そもそも悪魔になんか頼むのって、困っていても、どうしようもなくても、普通の感性してたら怖いはずなんだ。
とはいえ現状、僕に『悪魔』としての強みはないも同然。なので『僕個人』の強みを生かすことで、満足させるという方向に持ち込むしかなかった。それも相手が森沢サンだったからなんとかなったようなもんだ。……部長は褒めてくれたが、これはまぐれだ。あるいは部長もそれに気がついて、微妙な顔をしたのかもしれない。
「もう、そんなしかめっ面しないの。勝って兜の緒を締めよって、この国のことわざにはあるけれど、誇るべき所はちゃんと誇るべきだわ。どうあれ、あなたは依頼人を満足させたのだから。ほら、これを読んでみなさい?」
紙を渡されたので、読んでみる。これは……アンケート? 『悪魔との契約は如何でしたか?』って……。
『誰かが自分のために作ってくれたご飯が美味しいものだったことを思い出させてくれる、最高の時間でした。イッセーくんにはまた、お願いしたいと思います』
率直に、涙腺が緩みそうである。
「少なくとも、満足度ならベテランともいい勝負よ。自信持ちなさい」
「はいっ!」
元気よく、返事をする。反省、というか振り返りはちゃんとしたから喜ぶべき所は喜ばないとね!
「ところで、イッセー。実際のところ、あなたの……というより、あなたの所のラーメン屋はどれ程のものなのかしら?」
若干目がギラつき始めた部長に少したじろぎつつ、客観的にどうだったかなぁ……? と頭を回す。
「……系統でいうなら、味よりも腹で満足させるラーメンですね」
基本的に、ウチの1杯が他所の大盛りに相当するぐらいの量と言えば伝わるのだろうか? スープ自体は豚骨白湯で、こってりだけどもそこまで苦しくはないはず。だがそこにかえしと一緒にいれる背脂がこってり度をガン上げしてくるので、女性はキツいのは間違いないな。実際女性客多くはないし。味も悪くないよ?
「……『外食ログ』で★4.2。食後の満腹感は最高、脂の量は店員が聞いてくれるので調整が利く、トッピングとサイドメニューが豊富、ソフトクリーム美味しい、等」
「え、塔城サン?」
なんて言ったものかウンウン唸ってると、隣で塔城サンが『外食ログ』をスマホで検索して表示してた。あれま、意外と人気なのねウチの店。
「……低評価意見、店員の目が死んでるのに明るく対応してくるので気持ち悪い、やはり脂っこい、つけ麺がメニューにない、厨房から焦げた匂いがする、焼き餃子がメニューにない、等。基本的に、脂っこい以外では味の面では高評価、です」
ああ、目が死んでるのは多分中村サンだな。次の日も出勤だからって店で一晩明かすとかやってるし。(店長のために)シャワーもトイレも洗濯機も付いてるから、寝る時に横になれない以外はなんとかなるもんねぇ。つけ麺は無茶言うなと言いたい。焼き餃子に関しては焼き野菜とチャーハンでコンロがいっぱいいっぱいなの……水餃子で許して?
「……あと、個人的な感想としては、財布には厳しいですが、普通に美味しいです」
あ、そういや塔城サンには賄いラーメン上げたんだっけ? 自分用の味付けしちゃったけど、美味しいと言ってくれて安心した。
「ふむ……
「え、なんです?」
「なんでもないわ……今は、ね」
……小声で聞こえた中身は聞かなかったことにしたい。血迷ったと投げ捨ててくれないかなぁ……。
◆◆◆
そしてこの日の夜の依頼者はミルたん……いやマジでそう名乗ったというか、一人称が『ミルたん』だったというか。いやぁ、すこぶる強烈な御仁だった。多分あれを一言で表すなら『漢の娘』だ。世紀末覇者がミルキーのコスをしていたのだから(ミルキーとは、アニメ『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』の主人公である……断じて世紀末覇者のような漢の娘ではない)。
なお、その依頼内容は、
『ミルたんを魔法少女にして欲しいにょ』
という内容だった。思わず素で『異世界にでも転移したらいけるのでは?』と言ったが、それはもう試したとの事。……嘘言ってる気配はないから、余程自分を騙すのが上手い方なのか、それとも本当のことなのか。どちらにせよ、現状で僕よりもファンタジーしてるんじゃなかろうか?
しかもその願いを端末で入力すると、この人では無理だっていう。僕の力量云々じゃないところで引っ掛かられるとマジでどうしようもない。
そこで僕は懇切丁寧にその事を説明した上で、教材なら取り寄せられるという旨を伝えた。あと魔法を使えない原因を、僕の方でも勉強しながら探っていくとも。誠実な対応が功を奏し、定期契約を結ぶことに。やったぜ。
なお教材『スライムでも分かる初級魔法』の取り寄せに対する代価はミルキーのDVDボックス初回限定版だった。視聴用、観賞用、布教用で3つ揃えたのだとか。僕はそのうち布教用で保管していたのを代価として徴収することに。ミルキーは僕もたまに見ていたので(魔法少女とは思えない熱い演出が割と好きである)、どうにかして部長から貰えないかなーと思ったのだが、いつもの如く警鐘が鳴って調べてみると、オークションでウン十万ぐらいのプレミアになってた。しばらくするともっと跳ねるかもしらん。……恐るべし、ミルキー。
しかし僕の召喚者二人とも、サブカル好きだね。僕もその手のはある程度は手を出してるので置いていかれない程度に話はできるが。……なんか、召喚者とあった悪魔が呼び出されるのが基本らしいので、これからの依頼者はサブカル好きで固まってるのかもしれない。……まあ、眷属同士での仕事の奪い合いがないということで、良いように捉えよう。
そんなこんなで次の日の部活で褒められたし、いいスタート切れてるんじゃなかろうか? その事が恐ろしくある。だってこれアレだろ? どっかで心折られるパターンだって。
というわけで、表の部活も終わったので解散! 早く帰って僕も貸し出してもらった『スライムでも分かる初級魔法』読まないと。ついでに『新人転生悪魔でも分かる魔力講座初級編』も。そんな感じで気分だけはルンルンと歩いてると、
「きゃう!?」
と背後から声がした。
振り返ると、どう見てもシスター服を着た女性が、顔を路面に突っ伏して転がっているではないか。今どきにしては奇妙な転け方をしてますな、漫画でもあまり見ないぞ昨今。
これ、助けてもいいものなのだろうか? 悪魔ってバレて殺されそうになるとかないかな? お互いに。
……危険な目にあうのと見捨てる後味の悪さを天秤に掛けて、後者に傾いた。まるきり善意と嘯いたら許してくれないだろうか? 悪魔としては失格かな?
「大丈夫ですかシスターさん?」
「うぅ……なんで転んでしまうんでしょうか……? ああ、すみません。ありがとうございます……」
ふぅむ、声からして思ってたけど、顔見るとえらい若いな。ついでに観賞用レベルの美少女だった。エメラルドの様な目と、少し溜まっている涙が、並の男ならハートにバキュゥンされてる事だろう。なお現在僕は彼女の胸に輝くロザリオを見て命の危険的にドキドキしております、死にそう()。
……というかあかん、嫌な予感が警鐘鳴らし始めた。多分僕らと同じぐらいで、その上でシスターって、僕には『孤児』とか『捨て子』とかチラついてしかたがないんだが。
とりあえず風が強いので『ヴェール飛ばないように気を付けて』とも添えて、手を引っ張って立たせてあげた。
「旅行……には見えないね。こんな辺鄙な街に十字の方と会うのは久しぶりだ。もしかして、今廃教会になってるところに来た方かな?」
そう、この街にも教会があっ『た』。過去形だ。確か、昔お隣に住んでた家族がクリスチャンで、彼らが引っ越してから教会も廃教会になっちゃったみたいな話を母から聞いた気がする。
「あ、はい。実はそうなんです。あなたはこの街の方なんですね……これからよろしくお願いします」
「あ、あはは……うん、よろしくお願いします」
教会なんて死んでもお世話になりたくないなぁ今となっては! ……お隣さんに再会したら嫌われちゃう? 厄ネタ転がってて草も生えないよ。
……しかしおかしいな。人事異動にしたって、普通こういうのって日本支部みたいなところでどうにかするんじゃないのか?このシスターさん、目の色と顔の形からどう考えたって日本の血混じっとらんし。それに、『廃教会』だぜ? ……やーな予感が拭えないよ。
「この街に来てから困ってたんです。その、私って日本語上手く喋れないので、道行く人皆さんに言葉が通じなくて……」
「あぁ……」
日本人マジそういうところ冷たいよね。でも昨今ならスマホでなんとかなったりするもんだから、僕は声掛けられたらボディランゲージとスマホ駆使して対応してる。
しかし、悪魔になってそれも必要なくなった。それが今、恐らく欧州系の顔してるシスターさんと会話できてる理由だろう。
悪魔になった特典で、悪魔の話す言葉は聞き手の1番馴染みのある言語で聞こえ、僕が耳にする言葉は、僕にとって1番馴染みのある日本語で聞こえるようになると教わった。実際英語の授業では先生の話す英文が日本語に聞こえて戸惑ったものだ。……悪魔の話す言語って、もしかしてバベルの塔が崩壊する前の統一言語だったりするのかな? いやいやまさか……。
「……とりあえず、廃教会の場所なら分かるよ。案内しようか?」
とりあえず、廃教会なら行っちゃっても大丈夫だろう、と判断して案内することにした。だってここでバイバイは流石に可愛そうだ。
「本当ですか!? ありがとうございます! これも、主のお導きなのですね!」
…………だから、さっきからうるさくて鳴り止まない警鐘は黙っててくれ。僕を怖がらせないでくれ。