「『土足で心を踏み荒らすようなことをして申し訳ありませんでした』…………ですって」
「わざわざ部長にまで? 律儀ですねェあのヒト……」
公開授業日は大きな問題もなく終わり、契約業務の方も今日に関しては近隣の悪魔に委託していたらしく、素直に帰宅して自室なう。1階ではウチの親と部長のお父様とお兄様が談笑している。……なんでさ? と思うもそうなんだから仕方がない。今日撮った成果物の鑑賞会をしているせいで居心地悪く自室に逃げたのも仕方がないというものだ。
……しっかし、部長のお父様もおっかなかったよなぁ。お兄様みたいに殴らせて貰えないかな? みたいなことは無かったけれど、まさか『お義父様と呼んでくれても構わないよ?』なんて言われるたァ思わなんだ。……逃がす気、無いんだろうなぁ。落ち着いた紳士然としたおじ様にそんなこと言葉の外で言われると萎縮しちゃう。いよいよもって部長が家族の懐柔を終わらせたことを直視せざるをえない。アレか? ウチの親と仲良く話してるのも近い未来で家族になる予定だからか? 大丈夫かな二人とも……真実知ったら卒倒しない?
まあ部長が僕を追い詰めてるのはいつものことなので置いとくとして。同じく羞恥で逃げた部長が僕の部屋に入ってきてはそう切り出してきた。会長から直接謝罪は既にされてたから僕の中では終いにしたのだが……うーむ、あまり重く受け止められても困るんだけどな。
「私とあなたでのことだもの、関係無い……とは言いきれないわね。真面目なソーナのことですもの、相当気を揉んだはずよ」
「ははぁ……随分と似た者同士でいらっしゃる」
表面的には正反対の印象を覚えるが、根っこのところで真面目な部長だ。恐らく類友……もしくは幼なじみとして長く時間を共有してきたからお互いに影響し合ったか、かな? …………随分とファンキーな兄、姉がいるから真面目にならざるを得なかった可能性もあるのが頭を抱えるポイントだ。
「気にしてない、と言えば嘘になりますが……謝罪は既に貰ってますし、同じ立場なら似たようなことをやってるかもなんで、それでムッとするということはないですよ」
「そう、良かったわ」
ホッと胸を撫で下ろす部長…………表現としてそう思い浮かべたけど、実際に撫で下ろそうとしたらすげぇつっかえそうよなこのヒト。
「あら、なんなら直接確かめてみる?」
「やめんか、嫁入り前ぞ貴女」
「ふん、先に不埒なことを考えるからよ」
……そいつァ失敬。確かに先に変なことを考えたのは僕だ。僕……だけど、勝手に頭ン中覗いたのアンタですよねぇ!? 口が裂けても突っ込めないけども!
「でェ、本題はそこじゃない……とまでは言いませんケド、別件ありますよね。めいびー天界側案件」
「全く、察しの良さも考えものね。……変に鈍感発揮されるよりは何倍もマシなのだけど。ええ、例の聖剣授与の件で。正式に決定したわ」
「あー……胃が痛くなるぅ……」
ということは、近いうちに熾天使ミカエルと会うことは確定だし、ガラティンの件が天界側に漏れてないことを願わないといけないし、バレてしまった場合はガラティンを向こうさんに渡さないために舌戦を繰り広げないといけないワケだ。ビッグネームなのも嫌だし、アーシアにゃ悪いケド天使はあんま好かんし、どうしたものか……。そもそもどんな聖剣が渡されるのかも分かんないし…………これで龍殺し的なブツ取り出されたら間違って手が出るかもしれん。…………警鐘うっせぇなぁ、マジで龍殺し渡されんの???
「龍殺し……聖剣……有名どころだとアスカロンだけど」
「あなたの警鐘、本当に便利ね。イッセーに渡される聖剣はアスカロンで間違いないわ」
「それ、僕を殺そうとしてません??? 本当に会って大丈夫なんです???」
警鐘的にはマジでプレゼントするだけらしいことが分かったのだが、それにしたって命の危機を感じてしまうのは悪魔でドラゴンな僕のサガ。部長も悩ましいものを語るかのように顰めた眉間を揉んでいるので同じ感想らしい。
「……恐らく。センスがアレにも程があるだけ、とは思うのだけど。……本当、どんな神経してるのかしら?」
「あ、あはは……胃が痛てぇ…………」
なんかもうマジで胃の辺りが真剣にキリキリしてきた…………イリナちゃんに後で助言貰っておこうかしらん?
「それで、肝心の日程は……」
「土曜日の明日を挟んで明後日ね、急な話になってしまったけど、お願いできるかしら?」
「…………きゅう」
バタン、と意識の暗転。後に聞いたところによると、それはもう見事に椅子から転げ落ちそうだったらしい。
……ところでリアスさん、申し訳ないけれど役得だったとはどういうことなんでしょうか?(困惑)
◆◆◆
「てェことがあったんだけどさァ、これ天界側に文句言っても許されるよねェ? ……あっ、畜生乙った」
「イッセーさん突っ込み過ぎです、リアルだと凄く頭使って立ち回るのに……」
「頭をあぱー! したいがためにゲームやってんのに無理に頭使いたくないよ僕は。最低限回避は極めてるけれど」
「警鐘、でしたっけ? とても便利な能力です……いいなぁ、僕そういうのが欲しかったなぁ」
「見え過ぎるのも問題らしいケドな。なんでも、見え過ぎたせいで首括る占い師もいるみたいだし。そう考えると、鐘が鳴る程度しか感じ取れない僕の警鐘はいい塩梅かもだけど」
まあいい塩梅だろうが異能力な時点で論外と言い切りたいところなのだけれど。まあそこはそれ。
卒倒より復帰した翌日の黄昏時。様子を見に行く兼愚痴りたくて仕方がなかったので旧校舎の開かずの間に直行。社会復帰という名目なので協力プレイができるゲームがいいだろうということでデビルズハンターの最新作、フォールンを持ってきてプレイすることに。幸いギャスパーも持ってた……どころか極めてたのでなんなら僕が立ち回りを教わる感じになってしまった。まあでも楽しそうに会話してくれるのでいいことだね、うん。
「しかしイッセーさんも大変ですね。聖剣を渡されるなんて…………うぅ、僕なら絶対耐えられません……!」
「安心して、僕も耐えられてない」
「安心できる要素何処ですかぁ!? ……あ、金猿逃げたのでエリア6行きましょう」
「おけー」
いやぁ、アイツ速すぎて警鐘鳴ってから回避余裕でした、とはならないんだよな……えー警鐘サマ、警鐘サマ。もうちょっと早めにお知らせできません? ……『できるけどしない』? そっかー……。
「時にイッセーさんは、現実逃避ってしますか?」
「現在進行形でしてるかな……」
「……まあ、精神的な意味でならそうなんでしょうけど。物理的に、しないといけないことから本気で逃げたことってありますか?」
「あぁ、そっち? …………うーん、どうだろう? 適度に逃げてるつもりとは思うような」
リアスさんの誠意に向き合うことからは逃げてるような気がしないでもない……というか必死で抵抗してると思うし、死ななきゃなーと思ってるけど色々理由付けて逃げてるような気がしないでもない。なので一応逃避はしてる、と思うんだよね。
「それも元を辿れば結局は、自分がそうしなければいけないからではありませんか?」
「…………」
図星を突かれ思考に空白ができ……金猿の突進に対しての反応が遅れてしまう。やっべぇな、死ぬとこだったぞ。
「まあ、うん。優先順位を付けて逃げる先の取捨選択はずっとしてるかも」
「……それは、自分にはとても出来なかったことです。僕は、イッセーさんのその強さ……いえ、頑なさを羨ましく思います」
そうかな、そうかなぁ……? 顔を背けることができないイノシシたァあの腐れシスターの弁だが。誰が視野狭窄じゃボケ。
「ですが実は僕、イッセーさんと少し似ていると思ってたんですよ。いえ、今でも似てると思ってるんですが」
「似てる? 趣味が?」
「いえ、それはそうなんですが違うくて」
言いながらボウガンで的確にダメージを重ねていくギャスパー。すげぇな、射撃系でよく立ち回れるよな。
「気を悪くしないで欲しいのですが……イッセーさんって、凄い臆病ですよね」
「ド直球ドストレートで草。いや笑えねぇが」
悪意があったら問答無用でゲンコツ落としてたとこだぞお前。正しい判断かつ何かを諭そうとしているげだから何も言わないケドさぁ!!
「……てェことはアレか? 『僕とイッセーさんの違いなんて逃げてるか逃げてないかの違いです』って繋げる感じか?」
「言い方に棘が……まあそういうことですが」
困った感じの空気が流れるが、それでも攻勢の手を緩めない。いい感じに設置した落とし穴に金猿が落ちたところだ、徹底的にタコ殴りである。
「問題は、偏り過ぎてることですよ。僕は勇気を出して立ち向かうことが出来なくて失うものが沢山ありました。イッセーさんは……」
「…………」
「心当たりがあるみたいですね」
なんかこう、痛いところを突かれるなぁとゲンナリしてくる。なるほど確かに鏡を挟んで非常にそっくりみたいだな僕達は。
「……僕は貴方の話を聞いて、貴方と話をして。僕と同じくらいには臆病なのに逃げないイッセーさんを見て、僕にだってと一歩を踏み出そうとしました。そのことを凄く感謝しています」
「……だから、俺にも頑張れってか?」
「いえ。頑張ってるヒトに頑張れと言うのは違うと思います。……いえ、そもそも頑張れって言われると胃が痛くなるのでぇ……うぅ」
あぁ、引きこもりにはすげえ効く言葉だよな、めいびー。部長辺りから頻度は分からないけど何度か言われたのかもしれない。
「なので僕からは、自分を大切にした方がいいと言いたいです。少なくとも、僕は自分のことだけは守れたので」
「…………」
「逃げた時に失うものだけ数え過ぎたせいで、自分から削げ落ちたもののことを見て見ないフリを、貴方はしていませんか?」
「…………………どうだろうね?」
現実逃避、まさに現実逃避。僕は逃げるように画面の中の悪魔に意識を向ける。見たくないものに蓋をするように、殺したいものに刃を振り下ろした。
感想等ありがとうございます。
なんとか頑張ります!