兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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辛うじて性格は善寄りなので天使と話してる方が気分はいい悪魔系主人公。


その13

 

「お待たせしました、この後の予定をずらすように話をつけてきました」

「あ、はい。なんかすみません」

「いえ、なんかこちらの方こそ手間をかけさせてしまってすみません……」

「あなたが謝ることではありません。あなたが謝ることではありませんから」

 

 少し席を外したと思ったらめっちゃ目が据わった状態のミカエルさんが戻ってきた件について。心做しかヘイローも輝きが控えめになってる辺り相当ショッキングなことだったのかもしれない。

 

「では、ありがたいことに時間を少し割いていただいたので、ある程度詳しく話をします。切っ掛けは紫藤イリナからの情報でした」

 

 曰く、システムが不調であれどアーシアを追放する流れになったのは不自然、という話だ。

 

「ミカエルさんにお聞きします。僕が耳にした天界の『システム』というものは、聖書の神の奇跡や加護を信徒達に施すようなものと考えているのですが、それに相違はないですか?」

「細かくはともかく大枠はその認識で間違いありません。簡単に説明すると、神が行っていた奇跡などを起こすためのもの。神はシステムを作り、これを用いて地上に奇跡をもたらしていました。悪魔祓い、十字架などの聖具へもたらす効果、これらもシステムの力です」

 

 なるほど、イリナちゃんの言っていたことにも合致する。あの堕天使討伐組はこのシステムの力をフルに活用した儀式でコカビエルを何とか倒せるスケールにまで持っていこうとしていた。実際それは成功していたのだから、『システム』の存在は間違いない。

 

「それらは今、熾天使の皆さんが力を合わせることで何とか起動できている、と」

「ええ。私を中心に熾天使全員でシステムをどうにか起動させています。……ですが、神がご健在だった頃に比べると、神を信じる者たちへの加護も慈悲も行き届きません」

「なるほど、やはり…………。それでもなんとか最低限を維持しようとシステムにかかり切り…………教会への干渉が最低限となり、システムへの影響を考えて不在を知るもの、それに気が付かせてしまう者たちの排斥…………」

 

 やっぱり、そういうことかな。悪魔の方は部長……並びに報告した上の方が調査を開始したばかりだから分からないけど(なんせ悪魔の方にゃ神の信徒を誑かす理由が多過ぎる)、教会側の方もそういうのが起きる土壌が生まれてしまっていた。

 

「質問から入って申し訳ありませんでした。紫藤イリナから、このように言われたのです。『アーシアが異端認定を受け追放されるまでの期間があまりにも短過ぎる』と」

「……と、言いますと」

「アーシアがとある悪魔を癒してから一週間です」

「いっ……!?」

 

 慌てた様子でミカエルさんはアーシアの方を見るが、アーシアは気まずそうに頷くだけ。その言葉の無い返答に、彼はサッと顔を青ざめさせた。

 

「そんな馬鹿な……! 恐らくシステムの問題で最終的に追放という処分になるだろうにしても、それはあまりにも早すぎます! 彼女は裁判に掛けられる義務が、逆に言えば裁判を通して真偽を明らかにされる権利があったはずです!」

「ええ、僕の上司も同じ様に考えたようです。今の異端審問がそんな短く終わるはずが無いし、それで済む即ち異端者の死であると」

「はい。どういう思惑があったのかは分からないのですが……私は、話に伝え聞く異端審問を受けた覚えがないのです、ミカエルさま」

「…………」

 

 ふらり、と倒れそうな位に揺れ、何とか踏みとどまったミカエルさんは、酷く頭を痛そうに抑えた。……気持ちは分かるよ、うん。

 

「……ここの様なSNSで張り巡らされた都会ならともかく、アーシアがかつて居た教会は情報社会からは半分取り残された様な田舎にあったと聞きます。その上で話が広まり、異端の烙印を押され、追放されるまでが一週間っていうのは、あまりにもおかしいスピード感です。そして、追放という処理もおかしい。紫藤イリナも言っていましたが、聖女から一転して魔女と槍玉に挙げたのなら、その熱を治めるのは……処刑。それしか無いように思います。あまりアーシアの前でこういうことを言いたくはありませんが……処刑は一種のエンタメで、意識にも強く作用するでしょう。魔女が浄化の炎に焼かれたとなれば、それは神のいる証明だ。システム的にはこちらの処理の方が断然良かったはず」

 

 そうなると『アーシアを魔女として追放しなくてはならなかった理由があったのでは?』と思わずにはいられなかった部長、その方向で探りを入れると……というのが今回の件。闇が深いにも程がある。

 

「それで話が最初に戻ります。教会側の一部の信徒を売る仕組みが存在しています。……私の上司は、その利用者の何人かを特定したそうです」

「そん、な……」

「恐らくではありますが……教会の一部が教義に反する……かはともかく、あなた達天使の目を盗んで人道に悖ることをしていることには辺りを付けていたのではありませんか?」

「…………その通りです」

 

 まあだからこその和平でもあるんだろうけどな。小競り合いを続けると細って死んでいくのもそうだが、人間ってのは弱い生き物だ。教会の様な人の集まった組織は何もなけりゃ腐るように出来ている。監視の目がなけりゃ楽な方楽な方に流れていきがちの怠惰な獣なのだから当然っちゃ当然か。熾天使がシステムにかかり切りになり、神の不在について知られる可能性を減らそうと人間界にあまりに深く干渉できなくなり、そうなると…………まあそうなるよね。そういう話の片鱗が、実はフリード・セルゼンの口からも語られていた気がする。

 

「しかしそれでも貴方がた天使達にこの人間たちの蛮行……信徒を脱法的に追放し、悪魔やそれ以外に商材として売りつけるビジネスの話が全く通っていないのはおかしい。何度も質問をして申し訳ありません、ミカエルさん。天使は何らかの要因があれば堕天することは、堕天使が存在することから明らかですが…………神から天罰を与えられる以外に何があれば堕天しますか?」

「欲に目覚めてしまった天使が堕天します。それはシステムによって…………っ!?」

 

 流石に扱ってるだけあって想像も行くところまで行ったか。多分、僕と同じことを考えている。

 

「推測するに、聖書の神がご健在だった時は堕天するラインが厳しかったんじゃないかと思います。つまり、今は堕天に達するラインが低い……ないし、穴があると思われます」

「……天使の側にも、天使のままビジネスに加担している者が、いると」

「確証はありません。ですが、ビジネスが存在しているのは事実です」

 

 僕は十中八九そうだろうとは思っているけれどね。この誠実そうな熾天使には申し訳ないけれど。一部がコソコソとやるには難しい話だ。見つけた数人が氷山の一角と思われるって部長は言ってたし…………多分三桁は余裕であるんじゃないかな。

 

「今回僕が……というより僕の上司がお願いしたいのは、そのビジネスを仕切ってる連中を摘発する協力です。下手に突くと消えられて、地下に潜られる。なので一番いいタイミングで挟み撃ちに、ということを考えているみたいなんです」

「それは、こちらからお願いしたいくらいです。……なるほど、今此処で話を聞けたのはとてつもない収穫でした」

 

 そう言われて、ああそれで! と心の中で手を打つ。天界側の相手がミカエルさんだけという状況で、悪魔側が買い取った神社の敷地っていう極めて秘匿性の高い状況を作れていたから部長がGOしたんだろうなって。話してこいって言われて頷いただけだったから考えてなかったよその事。ちょっと反省。

 そんな感じで思考を回していたら、いきなりミカエルさんがアーシアに向かって頭を下げ始めた。な、何が起こってるんだ一体!?

 

「申し訳ありませんでした、アーシア・アルジェントさん。あなたを異端として追放してしまったばかりか、悪辣な陰謀に巻き込まれていたとも知らず……」

「あ、謝らないでくださいミカエル様! 確かに、苦しく悲しい出来事ではありましたが……おかげで私には大切な友達が、たくさんできたんです。それにこういう形ではありますが、憧れのミカエル様にお会いすることができたのです。だからここまでの道行、その全てに感謝はできなくても……後悔はしていないんです」

「……すみません、あなたの寛大な心に感謝します。これ以上あなたの様な被害者を生まないことを、我が名に誓います」

 

 うーん、良かったねぇアーシア。イッセーくん涙出てきそう。状況的には生きてる間に実質異端取り消しで名誉回復ってこったろ? アーシアが何も悪くないって証明じゃん! ……いや、元々は運と間が悪いだけでアーシア自身は何も悪くないとは思ってたけど。でもそれを熾天使ミカエルが頭を下げて謝ったってんだから話の重みが違うよ、うん!! ……悪魔になっちまってることは取り返しがつかないけど、それは天界側の問題というよりも僕のせいだしね。

 

「あなたにも貴重な情報に感謝を、兵藤一誠くん」

「いえ、僕ァ上司のメッセンジャーというだけですので。……ですがそうですね、あの大天使ミカエルさまが僕如きに恩を感じてくれるなら…………」

 

 そう言って頭を回す。手放しでバンザイというわけにもいかんが、僕の天界側への心象はかなり改善されている。あと残ったしこりがあるとするなら、ば。

 

「あのぅ……難しいかもしれませんけど、紫藤イリナとゼノヴィア・クァルタの両名の名誉ってどうにかなりません? あの二人、神の不在を知ってしまったから他の信徒への精神汚染防ぐためにずっとホームレスしてるんですよ……」

「ああ、そちらなら既に手を回しています。ある意味で今回の最大の功労者ですから」

「そ、そうですか! それは良かった! それなら、もしかしてこれまでシステム関連で追放された方々を……?」

「ええ、可能な限り」

 

 よーしじゃあ僕に心残りありませんね! いやはや、熾天使というだけあって本当にいいヒトだったなぁ!

 

 

◆◆◆

 

 

「思ったよりも落ち着いていましたわね、イッセーくん」

「んん?」

 

 何度もぺこりぺこりと頭を下げるミカエルさんを見送った後、流石に僕もアーシアも力が抜けてもうしばらく神社の本堂で休憩をすることに。普段部室で入れてもらってる紅茶とは打って変わって湯呑みでほうじ茶をありがたく頂いて啜っていると、そんなことを言われたのだった。

 

「いやあの、僕ってそんな天使に対して噛み付くように思われてました?」

「失礼とは思いますが……はい」

「いや確かに思うところはある、とは言いましたが……」

 

 ちらり、とアーシアにも視線を向けるがこっちもこっちで申し訳なさそうに苦笑いするだけだ。うむ、何やら凄く勘違いされている気分になってきたぞぅ。

 

「そりゃ管理責任を問いたいとは思いますが……別にあの熾天使サンが直接やったわけでもなし。それを過失というのはちょっと酷でしょうよ。……システム関連の対応については、人の心何処よ? と思わんでもないのですが……まあ相手天使ですからね」

「しかし私が思うに、そういう理不尽をイッセーくんは嫌うのではなくて?」

「なるほど、そういう理由で」

 

 そう聞くと、そりゃあそう思われても仕方ないわなとお茶を啜る。うーん、美味しい。

 

「僕は一人(じぶん)殺して十人(みんな)が生き残るならそういう判断をする人間……じゃなかった、悪魔ですよ? 必要悪というものへの理解と諦観はあります」

「…………」

「それに、それが投げっぱなしになるなら拳の一つでも叩き付けたところですが、少なくとも手は尽くす様なことを言ってましたし、それなら部外者の僕が口出しすることはありません。その権利のあったアーシアがそれをしてなかった、それでFAです」

 

 まあもしかしたら、アーシアが一緒に居てくれたから引き出せたところもあるのかもしれないけどね、と思いながらミカエルさんに心の中で合掌する。いやぁ、被害者連れ出されて目の前で『お前がこの被害者産んだ(意訳)』されて結構凹んでたしな。システム関連では割り切ってたろうけど、自分達が干渉してないせいであんなこと行われてたってなったら、そりゃあねぇ?

 

「それにほら、一々ムカつくことをぶん殴ってたら今度は僕が二天龍になっちゃいますよ! やーですよドライグの二の舞、世界全部が敵になってぶっ殺されるの!」

「……ふふっ、確かにそれはイッセーくんには似合わないですね」

「イッセーさん、どちらかというと逆に世界の方を操ってそうですもん」

「アーシア、アーシア!? キミ僕のことなんだと思ってるの!?」

 

 まあ冗談だろうけども! でもそんな酷い冗談で二人揃ってくすくす笑わなくてもいいじゃん!?

 全くもう、と残ったお茶を煽る様に飲んで気を落ち着かせる。……んぁ? なんか急に見知った魔力の気配がするな。

 

「あら、そちらのお話の方は終わったのですね、部長」

「ええ、グレイフィアがあなたの代わりに着いてくれたお陰で。……特に建屋が壊れてない辺り、こっちも穏当に終わったようね」

「部長もそれ僕に言うんですかァ!?」

 

 振り返ると、少し紅い長髪をたなびかせた部長が立っていた。……合流するって言ってたっけ? 僕の記憶容量から消えてただけか? うーん。

 

「それで、ミカエルの反応はどうだったのかしら?」

「酷くショックを受けてました。ありゃシロですね。まあ腹芸されてちゃ分からんですが……それをするようなタチにも見えませんでしたし」

「そう、それなら最悪は回避されたと見ていいかしら」

 

 コトがコトだからなぁ。悪魔側が買い手として関わってることに突っ込んで来なかったのが気になるが。お互い様と捉えてるのか、悪魔がそういうことする手合いだと思ってるのか他の理由があるのか…………まあ色々引っ括めてだとは思うので、今は置いておこう。

 

「それでアスカロンの方も?」

「ええ、無事神器に収めました」

「よろしい。それじゃあ朱乃、早速で申し訳ないけどイッセーを教会の方に連れていくわ」

「あら、残念ですわね。もう少しお話をと思ってたのですが……仕方ありませんわね」

「教会? え、いや僕聞いてない」

 

 いや本当に僕聞いてないよ!? 流れから察するに……アスカロンの習熟訓練とは思うけどさ!?

 

「既に教会の二人と祐斗が手ぐすね引いて待ってるわ。何から教えたものか、なんて随分と愉しそうな様子だったわね」

「うわぁ……嫌だなぁ」

 

 ……そんなわけで、僕は部長に首根っこ掴まれてドナドナと出荷されることになりましたとさ。




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