「さて、そろそろ俺達以外に、世界に影響を及ぼしそうな奴らに話を聞こうじゃないか。ちょうど白い方も赤い方も揃ってることだしな?」
アザゼル総督のあのセリフを聞いてから、かなり意識を飛ばしていたらしい。いや、寝てたワケじゃあないんだけど、心ここに在らずって感じでぼーっとしていた。おそらく体感的に一時間半。
そしたら急にこっちに話を振られて心臓が跳ねた。あ、そういや話される心積りはしとけって言われてましたね、ハイ。
「まずはヴァーリ、お前は世界をどうしたい?」
「俺は強い奴と戦えれば、それでいいさ」
先に質問を振られた白い方の答えは実にシンプルだった。戦えればいい、か。正直なところ、先のコカビエルを彷彿とさせるからずっと良い印象ないんだよな。戦闘狂マジ勘弁。
「じゃあ赤龍帝、お前はどうだ?」
苦笑しながらサラッとこっちに振る辺り、いつものことではある様だ。……さて、僕の番か。何を言ったもんかな。色々考えてきたけれど、緊張ですっぽ抜けてしまった。
だから、結局口から出たのは率直な僕の願いだった。
「……平穏以上に望むことなんてないですよ。世界をどうにかって……僕の手には余る話題です」
「ほう、そりゃまたどうして?」
心底疑問そうにアザゼル総督は僕に問う。ルシファー様もレヴィアタン様も、ミカエル様もその隣の天使サンもじっ……と僕を見つめる。
「人間だった頃の僕の目標は、いい感じの職に就いて、いい感じの人と結婚して、いい感じに天寿をまっとうすることでした。普通であれと、普通になりたいと考えて生きてきたワケです」
以前、幽霊だった頃の日下部に向かって言ったことである。あの時は人生の目標達成率1000%とか言ってたっけか。
「それを踏まえて現状なのですが、悪魔の業務とはいえいい感じの職に就き。あー……誰とかの明言は避けますが僕には勿体ないぐらいの方と相思相愛で。それじゃあ後はもう、天寿をまっとうするしかない。……ですが、その寿命まで生きるというただそれだけのコトが、イヤに難しいと感じる今日この頃デス」
ステイ、部長ステイ。いや特に荒ぶってるワケでもないし表情に出てるワケでもないケド、もしかしたら僕にだけ分かる非常に浮かれたオーラが放たれてる気がしてならんよ! ルシファー様……いやこの場面だとサーゼクス様も妙に目元が柔らかくなってる気がするしさァ!! 本題ソコじゃなくてその後ですからね!?
「……悪魔へと転生してから。いや、正確には籠手を発現させてから、何かしらのイベントに巻き込まれてる気がしてなりません。中級堕天使との殺し合いをしたり、非公認のレーティングゲームに参加して死にかけたり、聖剣使いと殺し合いをして、格の違う幹部の堕天使を不意打ちしたり。……戦うのとは違いますが、この場だってそうです。お偉いサンに囲まれて、胃の痛みに耐えながら僕は此処に立っています。本当のところ言いますとキャパオーバーです、すぐにでも帰って布団にくるまって今日のことを忘れたいまであります」
いや本当にそうなんだぜ? 笑い事のように微笑ましい視線ぶつけるけどねアンタら。僕にとってはこれっぽっちも笑い事じゃあないんだ。
「しかもそれが3ヶ月程度の間で全部起こっているんですよ。……本当に、まったくもって、やってられません。神器の中の赤い龍は『それがドラゴンの定め』と言いますが、知ったこっちゃありません。戦いたいヤツは勝手にすればいい。だけど、僕を……僕を取り巻く環境を侵食してくるな。それが、僕が正直に思うことです」
まあ、無理なんだろうとは思うんだが。可能性を掴むためにドライグの力を借りてきたツケだ。諦めはつく。
「なので僕としては大賛成ですよ、和平。平和な世界、退屈な世界、大いに結構。もちろん、僕は僕の果たすべき責任をしっかりこなすつもりではいますが……それ以上を求められても知らんですよ、としか言えませんよ」
「なるほど。ではお前が望む平和な世界をどうにかしたいと企むヤツらが現れたらどうする?」
「根絶やしにします」
簡潔に、サラッと返したつもりだったのだが……部屋の空気が一気にピリついた。待って待って、僕そんなおかしなこと言ってない。言ってない……よね? いや、感情が乗りすぎたかな?
「ごめんなさい。言葉のチョイスを間違えたかもしれません。僕は、僕が大切に思うその全てを守るために全身全霊をかけて戦います。そのためなら自分がどうなっても────」
瞬間、時計の針の音と共に頭の中でゴンゴンと警鐘が鳴った。鳴り方的に……滅茶苦茶ヤバいヤツだ!!
「まずい、なんか来る!!」
唐突な僕の警告に、咄嗟に反応したのは部長と部下のみんな、あとイリナちゃんだった。一斉に警戒態勢に移行して周囲の警戒をし…………
「……嘘でしょ、そんな大雑把な方法ある?」
最初に気が付いたのは、窓側に座っていたイリナちゃんだった。それに合わせて全員がその状況を理解する。
なんと表現したものか……とりあえず僕の持てる語彙で説明しよう。学校の敷地の外が黒一色…………おそらく、空間ごと。この学園はくり抜かれて孤立していた。
◆◆◆
「……驚いた。こんな芸当が可能なのは悪魔かアレくらいのものだろうな」
衝撃で凍りついた空気の中で最初に復活したのはアザゼル総督だった。悪魔の技術関連で言うと……レーティングゲームで使ってる異空間系のか。確か平麺さんがやってたヤツ。
「流石に我々でも何の準備も無しにこの様なことは不可能だ。それにあの霧のようなモヤ……間違いなく『
疑われてはたまったもんじゃないと、ルシファー様がそう返す。ディメンション・ロスト……聞いたことがあるようなないような……?
『この鳥頭、以前説明しただろう。十三ある神をも殺せる神器、
「ソレ、まずくない!?」
アレ、でもちょっと思い出したンだけど。ドライグが言うに絶霧って霧のようなものを撒いてその霧に触れたものを任意の場所に飛ばしたり異空間に放り込むって能力してるんじゃなかったっけ? そんな感覚は無かったように思うけれど。
「おそらくは……襲撃対策で張っていた結界を逆に利用されたんだろうさ。上手いこと使いやがる」
神器関連のことだからか説明がすぐに飛んできたけど、笑いごとじゃないよね!? 今学校がどんな空間にあるかは分からないけれど、だからこそヤバいよね!?
「そんなに焦るな赤龍帝。確実とは言わねえが、転移させられた時には自分の場所がブレるような独特な感覚がある。悪魔稼業やっているなら何となく分かるだろう?」
「た、確かに…?」
「それが無かったということは細工自体は結界にしかないと思われる。おそらくは俺達を閉じ込めるような効果になっているはずだ。フンっ!」
そう言って彼は右手に力を込めて光の槍を形成してブン投げた!! 確認のために開いていた窓から抜け、ちょうど敷地の境目のところでガオン!! と波打つ様な音と共に弾かれた。
「ふむ、結構力を込めたんだがな。相当な強度だ」
納得したようにウンウンと頷いてるから、おそらくアザゼル総督の見立てに間違いはないんだろう。ということは……最悪とは言わずともその一個前位には状況ヤバいってことじゃないですかヤダーっ!!!
「まあともあれ、
促されて窓の外、校庭の方に視線をやると魔方陣が至る所に発生していた。これ、流れから察するに転移魔方陣ってことよね!? 実際中から人型が出てきてる様に見えるし!
「部長、推定敵です。根絶やしにしても良いですよね!?」
「怯えながら恐ろしいこと言わないの! やっぱりさっきの言葉のチョイス間違ったと思ってないでしょう!? いえどっちにしろ我々が出るべきなのはそうなのだけど! ……魔王様、いかが致しましょう?」
「……そうだね。私が出ると
「承知しました。朱乃、祐斗、小猫は迎撃をお願い」
「「「了解!」」」
指示を受けた三人はすぐに迎撃に向かった。素早くてとてもいいと思うんだケド……
「ねぇ、僕は!? ここ僕が出る流れでしたよねェ!?」
「文句言わないの! さっきの今で出せるわけないでしょう! ……第一、あなたにはアレがあるでしょう? いざと言う時の要人警護にはピッタリでしょうに」
「……あっ、言われてみれば」
そもそもその為にあれこれ実験したワケである。じゃあそれでええか……。
ンで、僕らがそういう判断をするということは他二陣営もそういう判断するのは自然ってもので。アザゼル総督は白龍皇に声を掛けていた。
「ヴァーリ」
「なんだ、アザゼル?」
「お前も行ってこい。俺の見立てでは、雑兵で視線を釘付けにしておいて別ルートでこちら側に急襲すると見ている。お前が出ればある程度は戦力を割いていると判断してこっちに誘い込めるだろう」
「そうか。しかし、」
「俺らのことはどうやら赤龍帝が守ってくれるらしい。それなら一つ、ここはアピールタイムとしておいた方がいいんじゃないか? 心象が良くなればヤツもスパーリングには乗ってくるかもだ」
「……仕方ないな。了解した」
白龍皇は応じるや否や、背中に翼……おそらく『
「
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!』
光と共に現れたのは、コカビエルん時に遭遇した時の、白い全身鎧の姿。変身が終わると同時に、ヤツは窓から飛び立っていった。
……息するように禁手化してんなァ、あんなのが殺し合う相手とか本当に勘弁したいところなんだけど。
天界・教会側も何人か悪魔祓いと思われる人員と、ゼノヴィア女史を出動させるようだ。……意外なことに、イリナちゃんは僕と同じで待機組だ。
『やーい戦力外通告ー!』
『うっさいわねグレモリーの狂犬。適材適所よ、これでもね!』
『ンまァ、擬態の聖剣で簡易聖域作れるの考えたらそらそーか』
ちらっと小耳に挟んだけど、アレ本来防衛用の陣らしいからね。アレを攻勢転用するコイツがどうかしてる。どっちが狂犬って話だよ。
……遠目に交戦開始を確認する。わらわらと魔法使いと思しき人員が表れ、それを迎え撃つこっち側。うん……警鐘も今は反応が無いし、ばっさばっさと無双ゲーのように敵が散っていく。沢山敵が湧いてくる以外は問題はなさそう、だね。白いのがビュンビュン飛び回ってキルスコアめっちゃ稼いでそうなのが怖いけど。アイツ強過ぎねぇ……? アレが今から敵になる予定とか僕の人生の難易度調整どうなってんだよ。
「しっかし、何かある何かあると思ってたらきっちり何かあって草なんだが。いや笑えねぇケド」
溜息と共に愚痴がこぼれつつも、室内の警戒を怠らない。多分転移対策はしてるンだろうけど、穴のないセキュリティは存在しないだろうからね。
「ちなみにアザゼル総督、こっから転移か何か使って要人だけ避難するとかできないんですか?」
「それをいの一番に俺に聞くのか兵藤一誠」
「だってほら、この場で一番そういうのに詳しいのは貴方でしょう?」
そう返すと『だろうな』って感じの表情で少し考え込んだ。考え込むってことは……多分できるんだろうな。
「……可能だが、しない方がいいってところだな。最悪ミカエルとガブリエルは送還した方がいいかもしれんが、下手に逃げる姿勢を見せると外から突かれかねん」
「ああ……聖書勢力の別の神話体系からってコトっすか。ンで、熾天使の御二方はシステムの運営を担ってるから万一死なれると人間界が酷いことになる、と」
「そういうことだ」
うーん、みんな避難してもらって敵諸共自爆! って手段は流石に取れんか。まあ学校無くなったら即ち『図書館(隠語)』も吹き飛ぶから、馬鹿共との約束的にもできないか。命拾いしたな!
「それに、多少詳しいヤツを捉えて情報吐かせるぐらいはしたいからな。肉を切らせて骨を断つ……常套手段だろう?」
「心当たりがあるようですね、アザゼル」
「ああ。多分お前らよりは知ってるだろうさ。神器保持者を集めていたのは研究の為でもあるが、ソイツらに対抗するためでもあるからな」
……つまり、だ。アザゼル総督は今回の襲撃を、ソイツらだと思っているということ。ソレ、もうちょっと早く言うべきじゃなかったか? ……いや、敵の手際の良さから内通者がいる可能性疑ってたのか? それならまぁ分かるケド。
「『
カオスブリゲード……直訳すると混沌旅団だが、この時点でろくでもないのが分かる。あと警鐘が妙にうるさく鳴っている。なんというか『私は関係ない』とでも言いたげにリンリン鳴ってる。……え、僕の警鐘ってそのテロリスト集団と関係あるの?
「そのトップとは、一体誰なんだい?」
「『
一瞬で空気が更に張り詰めた。僕もドライグから聞いたことあるぞソレ……世界最強の存在、最強のドラゴンって話じゃん!?
『そう、オーフィスが『禍の団』のトップです』
どこからともなく響く声と、突如光り出す床。そこにはまるで見覚えの無い紋様をした魔方陣があった。……尋問したいとか言ってたけど、それで悠長に構える理由もなし!
「セット、譲渡:9!」
『Ignition Boost!!』『Transfer!!』
そして次の譲渡の準備をして構える中、魔方陣から現れたのは……
「カヒュー……コヒュー……」
『『『し、死んでる……』』』
息も絶え絶えな女悪魔でしたとさ。着地狩り成功!
部長:殲滅力だけで見るなら朱乃の方が上だし、アザゼルが戦力を割くとしたら白龍皇を向かわせるだろうから危険を避けるためにもイッセーを引っ込めておかないといけないわね……。
感想、誤字報告等本当にありがとうございます!