兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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原作と違う点
→兵藤一誠の悪意
→兵藤一誠の場馴れ
→兵藤一誠に対するレイナーレの殺意と怒り
→レイナーレが『聖母の微笑』を手に入れる理由の変化


その9

「(……ああ、やっぱり)」

 

 僕は現在進行形で死地に向かってることを、警鐘以外の面で確信した。

 時間は日が暮れようかというぐらいの時間帯。まだ人通りはあって然るべきだし、気合いの入った小学生が走り回って転んでる位はしていてもおかしくない。

 

 だというのに人通りが全くないって、これ堕天使が現れる予兆だよね? 僕ら2人以外にいたのが、何処かに飛んでく黒い影だけって時点で察して欲しい。それに、酷く息苦しくて仕方がない。シスターさんが僕の様子を訝しんで『大丈夫ですか?』と聞いてくるが、全く大丈夫じゃなかった。

 

 案内を少し遠回りしながら考える。僕の勘が正しいのなら、今僕の後ろを某有名使い魔栽培ゲームのアレみたいに着いてくる彼女は、あまり知らないのだと思う。

 しかし多分、廃教会にいるのってもしかして堕天使一味だったりするんじゃなかろうか? そうなると、不自然な人事も納得がいくんだよ。

 

 ……正直、僕もうここで見捨てて逃げていいと思う。見知らぬ誰かのために命かけるとか、馬鹿みたいだし、そんな義理もない。自分のことが可愛い云々の前に、僕の命はもう僕のものではないんだからね。『シスターの手助けして死にましたー』とか悪魔としてアホもいいところだ、やめやめ。逃げよう逃げよう。

 …………と、ならないのが、僕の阿呆たる所以なんだろう。悪友から『ノータリン』と呼ばれる程度には、脳味噌が足りてなかった。もしかしたら、この状況に酔ってるのかもしれない、お姫様を助ける騎士ムーヴって? ……言っといてアレだけど、ねーわ。

 とはいえ、学校に向かうように歩いていて良かった。あそこにはまだ人がいて、もしかしたら主人と眷属の誰かがいるはず。

 

「……時にシスターさん。君は、堕天使という言葉に耳馴染みはあるか」

「………っ!」

 

 その反応はビンゴか……あーヤダヤダ、警鐘さん仕事し過ぎ。

 

「僕が思うに、君みたいな人畜無害そうな女の子と堕天使と接点があるように思えないし、堕天使達にまともな扱いされるとも思わないんだよ。だから切実に、今から逃げるかお寺か神社に駆け込むことを強くオススメしたいんだけど」

 

 

 

「あら、ダメよそんなこと」

 

 

 

 横切るために通った公園の中。まるであの日の再演か。鳴り止まぬ警鐘とは裏腹に、僕の心臓のドキドキは驚く程治まっていた。

 

 シスターさんを庇うように振り返れば、そこに居たのは口元を包帯でグルグルと巻いている、目付きの鋭い女性で……堕天使。僕の思ってる存在なのだとしたら、随分と寝れない夜を過ごしたらしい。声からも、僕に対する怒気が抑えられていない。いやこれはむしろ……殺気というヤツではなかろうか?

 

「あ……だ、堕天使様……」

「この日を、この日を死ぬ程待ち侘びたわ……。アザゼル様の寵愛を得ることばかり考えてたのが嘘みたいに。最近の私は、もうそれだけしか考えられなかったわ。今の私には、あなたのそれがどうしても、欲しい。あなたなら、言ってる意味が、分かるわね?」

「ひっ…」

 

 背後のシスターさんを睨む、女性堕天使の濁った目は……多分、欲と憤怒で汚れ切ったそれなんだろうなぁって。どこか他人事のように感じてしまう。

 

「だというのに、時間には来ない、グズな子だと聞いていたからなんとか自分を騙せたけど、あまりにも遅かった。待ちきれなくて、探しに出てみれば…………またお前か……また、お前かァ…………兵藤一誠ェェエエ工ッ!!」

 

「ていっ」

 

脚を払って蹴飛ばす。真夜中トラブルで身についた喧嘩殺法の1つだった。不意をつくと人外相手にも有効なのね。イッセー覚えた。

 

「さあ逃げろシスターさん! そこの出口を出て表通りの道を右に走り続けたら、左手に大きな校舎がある! そこで『兵藤一誠を助けて!』とでも叫べば事情を知ってる人が何とかしてくれる!」

「で、ですが……!」

 

 まごつく彼女に、言葉を重ねた。

 

「僕は詳しいことはよー知らん! でも、なんか今の反応からして君の命も無事では済まされる感じではない! 死にたくなければ逃げてくれ!」

「でも、こんな私が……!」

 

 何かに怯える彼女に、また言葉を重ねた。

 

「詳しいこと知らないと言っているッ! いいか、僕は神様なんか信じちゃいねェ! 苦しい時に助けてくれもしなかった、死ぬ間際に手も差し伸べてくれなかったお天道様なんかコレっぽっちもご利益なんてなかった! それでも救ってくれたヒトがいた! だから今度は僕の番だ、僕にお前を救わせてくれ、シスターさん!」

「だからァ、ダメだと言って ──────」

 

 ゆらりと起き上がった気配、着地狩りをするように振り返って、左腕を振り抜いた。いつの間にか装備されていた龍の手が、堕天使の口元を打ち抜いた。

 

「だァってろ堕天使が! 行けよ、行ってくれシスターさん!」

「ぜ、絶対に助けを呼んできますから……!」

 

 ……よーし行ってくれた。途中でまた転げないか心配だけど、多分大丈夫と信じたい。ほら、シスターさんが学校着かないと多分僕もお陀仏だろうし? あ、お陀仏ってそりゃ仏教だったな、イッセーくん反省。

 

 さて、イチバチの賭けではあったが、上手くいったようだった。もし飛んで、シスターさんを追い掛けられたらどうしようかと思ったけど、余程彼女は僕にキレていたらしい、またもゆらりと起き上がったその目は……昏い炎を宿してるかのような、その憤怒に染まった目は、僕をこれでもかと睨みつけていた。

 

 そうそう、僕あなたに会えたら言ってやろうと思ってた言葉があるんですよ。

 

「ところでアンタ、誰?」

「────────────」

 

心底不思議そうに、首を傾げて言ってやった。想定外のことに怒りすぎて、まるで無の様な反応だ。あ、無ではないか。だってケータイのバイブレーションみたいにブルブルブルブル震えてんだもの!

 

「いやぁ、僕悪魔に転生したから、堕天使と会ったら襲われるとは思ったよ? 実際男の堕天使に襲われたし。でも女の堕天使に、昔からの宿敵みたいに名前を呼ばれても、いまひとーつピンと来ないんだよね? いやほんと、アンタ誰です?」

 

 ああ言ってやった、言ってやったぞ! 人間としての僕の命を終わらせてくれやがった、あの天野夕麻と名乗ったアンチクショウに言ってやったぞ!

 今からまた殺されることになったとしても、仕方ないと諦められそうだと思える程度に、スッキリした!

 

「こ、ここここ、ころ、」

「ん? もしかして君、元カノちゃん? あら久しぶり、随分と様変わりしたから気が付かなかったよ。え、なに、イメチェン?」

「殺すッッッ!」

 

 これ以上ない殺気と共に放たれた光の槍は、僕の脇腹をかすり、その一部を抉りとった。多分、また腹を刺すんだろうなって思ったから、なんとか避けようとしたけど、やっぱり持っていかれた。すっげぇ痛い。息もできない様に錯覚する程に痛い。悪魔にとって、光は毒なんだと再認識した。

 

 けれど、けれども、今ここにいるのは、どうしようもなく、僕のカモだった。

 

 今目の前にいるのは、刃物振り回す酔っ払いと大差ない。そりゃあ僕は死に体で、雑魚で、神器もありふれたものでしかないけども。でも、どうしようもなく、カモだ。感情に振り回されて、まともに戦えなくなってるような相手なんて、避けることに徹すれば時間なんて幾らでも稼げる。え、一発くらってるって? そこはまあほら、うん。

 

「ああそうか、僕が元カノちゃんの唇噛みちぎっちゃったからかァ! ぎゃはははは、ざまーみろ! その僕を見下しやがった澄ました顔を歪めてやりたかったんだよ、殺してくれたんだからお互い様だよなァ!」

「ひょぉおどぉぉおいっっせぇぇええええッ!」

 

 あはは、痛い、笑える、あはは、くそ、また刺された、あは、赤いのが漏れてる、見下してた癖に、あは、痛い、あは、力抜ける、あはは、あははははははははははっ!

 痛みと、生命の危機と、愉悦感で笑みが零れて仕方がない! でも、避けて、刺されて、殴っての繰り返しが止まらない!

 

「アンタも残念だったよなァ……危険視して殺した相手から出てきたのは『龍の手』! 掃いて捨てるほどのありふれた神器なんだってなァ! そんな相手に自慢のお顔台無しにされた感想聞かせてくれよ、なァ!?」

「殺す! 殺す殺す殺す殺す、殺すッ!」

「グッ……くく、くはは、あははははっ!」

 

 また腹部に深く、突き刺さった。学習しないねぇ僕も…………お前もッ!

 

「じゃあ、がフッ……僕な、りの慈悲、ってのくれ、てやる……! その口、二度と開かずに済む、ようにして、やるさ!」

『Boost!!』

 

 抱き寄せるために使っている左腕から、力強い音がした。恐らく、倍化する合図。全身に漲る力を、右手に集中させた。

 口から赤が漏れる。鉄の味でいっぱいいっぱいだ。でも、悪くない気分だ……自分を台無しにしてくれた相手を、これから台無しにする気分というのは。

 

 さて、口を使わなくて済むようにさせようと思ったら、何を潰すべきか。そう考えて、僕は右手で元カノちゃんの喉に爪をたてて、掴み、引きちぎった。

 

「 ────────────ッッッ!!!」

 

 音ににならない叫びが響き渡った。突き飛ばされて、僕の身体は無様に公園内を転がって、その跡を赤く染めていく。

 それでも、それでも、笑って、立ち上がる。悪魔になって頑丈になったからなのか、光以外のダメージは、さして大きくはなかった。いや、血はダラダラと垂れ流してるので今にも力が抜けそうなんだけどね。

 

「あはっ……ほら、もうこれで喋らなくていい」

 

 ついでに、頸動脈もやったから致命傷だろう。殴っても傷があんまりついてなかったから、右手の爪の『貫通力』に力を寄せれて本当に助かったし、その判断は正解だった。僕の神器は、ありふれたはずの『龍の手』は、それでも僕に、可能性を掴ませてくれた。

 

 ああで、も……僕ももうダメ、かも、ね……ごめんなさい、ぶ、ちょ………………

 

 

 意識が、また闇へと落ちていく…………。

 

 

 




魔力が原作イッセーよりも多かったからダメージも少なかったし、場馴れしてたから2倍だけで戦えた……と言い訳をしておきます。どうしてこうなったんだろう……予定と違う……。

……神器、覚醒してないけどいいよね!()
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