兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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筆が……進む……!!


その18

 

 みんながその兆候を確認できていない間…………僕だけはそれを確認できた。普通とは違う視界に代わる感覚によって、イッセーさんが殺したはずのカテレア・レヴィアタンに魔力の渦が発生しているのを、僕は確認した。

 

 まず思ったのは、助けなければということ。イッセーさんは気が緩んでしまっているのか、背後のことに全く気がついていなかった。だから、先んじて気がついた僕が、なんとかしなければと思った。

 

 次に思ったのは、恐怖。僕がこの状況を何とかしようとするならば、忌々しいこの眼を使うしかないということ。せっかく周りを停めずにいられるのに、自分からそれを破った時……どうなるか分からない。特に、テロの襲撃に遭っているのだから、僕の心は怯えきっていた。そんな状況で、制御のできていない僕の眼を使うことは、間違いなく自殺行為と言えた。

 

 だけど、それでも、怖くても。

 

 迷いは一瞬。僕は見て見ぬフリを止める為に、眼を見開いて駆け出した。

 

 

◆◆◆

 

 

「──ぬ、……うあ?」

 

 時計の針の音が、嫌にうるさく頭の中で響く。気がつけば僕は尻もちをついていて、見上げれば伸びた蛇の頭が、ギチギチと音を立てながら制止していた。出処を辿れば……そこにあるのはカテレア・レヴィアタンの遺体。……いや、遺体と言っていいのだろうか。彼女だった面影を遺すのはその顔。しかしそれ以外の部分が…………とぐろを巻く蛇の様なものに変質している。

 

「コレは……いや、この『停止』は……!?」

「イッセーさん!!」

 

 友人が、僕を呼ぶ声がする。ドップラー効果を発生させながら、ギャスパーが……文字通り、飛んできた。必死に、『眼』を見開きながら。

 

「おま、ギャスパー……なんで、目……」

「ぐっ……話したいところですがこれ以上持ちません! 一旦避けます!」

 

 首根っこを掴まれ、後ろに引かれる。その瞬間に停止が解除されたのか、僕がいたところに蛇の頭が着弾する。

 揺れる地面、変貌していくカテレアだったもの。気がつけば、絡まりあった巨大な蛇の異形としか言いようがないものに、カテレア・レヴィアタンは生まれ変わっていく。

 

「イッセーさん、まず現状を報告します。制御が出来てない状態で眼を開いてしまったことと、結界内に漂う力を吸ってしまったのか、イッセーさん以外の全てを停めてしまっていました。……ごめんなさい」

「謝る必要どこにもない、むしろお礼しか出てこないよ! …………だから、僕達でアレをどうにかしないといけないってことだな」

「はい。ですがアレは、眼が暴走している状態の僕でも長時間は停められないんです」

「ちょっとでも停められるんだろ? なら、十分だ」

 

 灼けるように痛い左腕から、今か今かと出番を待ちわびているもう一本の聖剣……ガラティンを取り出す。

 

「でも、なんで。お前、怖くて怖くて仕方がなかったンじゃ…………」

「怖いです。今も脚がガクガクして飛んでないとまともに会話できないぐらい震えてます。けれど、」

 

 一旦閉じた眼が、再度開かれる。そこに宿っていたのは決意の色だった。

 

「友達が死ぬことが、今は何よりも怖かったんです」

「……分かった、ありがとう。僕は幸せモンだよ」

 

 剣を二本構える。両方とも聖剣だ、元悪魔を狩るには十分な武器だ。

 

「頼むギャスパー、もう少し力を貸してくれ。リアルデビハン、僕が前衛でお前が後衛だ」

「任せてください……!」

 

 あまりにも頼もしい友の宣言を受け、僕は飛ぶ様に前に突っ込む。第二戦だ、今度こそきっちりぶち殺す!

 

 

◆◆◆

 

 

「行くぜガラティン、さんざ出番強請ったんだ……きっちり仕事して貰わにゃ割に合わねぇぞォ!」

 

 僕の叫びに呼応するように、ガラティンが眩く光り、その効果を発揮する。そしてそんな僕を狙う巨頭が十ほど殺到し、打ちのめそうとする。が、

 

「効かないねェ……最硬だから!!」

 

 ガチン!! という音と共に巨頭が弾き返される。ガラティンの聖剣としての能力、それは『所持者にもガラティンと同じ硬さを適用する』こと!! コレが無敵とも思えるガラティンの真骨頂!!

 仰け反った頭はギャスパーによって停められ、すかさず右のアスカロンで切り落としていく。敵の属性は変わってないらしく、バターでも切るかのようにスパリと落ちていく。しかし、

 

「ダメですイッセーさん! 落とした傍から再生が!」

「くっそ、再生怪人の類かよ、悪魔でドラゴンだけど!」

 

 アスカロンの効果が無いわけじゃないのだろう。事実作った傷口はじゅくじゅくと泡立つように血を噴き出していた。だけどまさか、斬られた傷口を別の巨頭で噛みちぎって再生するとは思わんじゃん! 回避を続けながらだから正確なことは分からないけど、普通の傷口からは30秒程で新しい頭が生え変わるみたいですねこんちくしょう!!

 

「頭の数も増えてきてます……現在34!」

「きんも!!? 気持ち悪すぎない!!?」

 

 しかも力がなんか無限にありそうだから、不死身系モンスター討伐の鉄板である『再生を加速させて腐らせて殺す』のもできなさそうだ! オーフィスってヤツはろくなことしねぇな!! ……うるさい警鐘(オーフィス)、抗議してる間があったら活路ぐらい教えろボケ!!

 ともあれそういうことなら方針はある程度決まった。できるだけ一度にたくさんの頭を切り落として、他の頭が傷口を噛みちぎる前にまたたくさん頭切り落として、最後に核みたいなのがあればアスカロンで斬る! なければ身体全体切り刻む!

 それじゃあ、蛇怪物を一気に怯ませる一撃……必要だよなぁ!!

 

「セットNo.8!!」

『Frame No.8:Vanity!』

 

 アスカロンを一旦左腕に収納し、両手でガラティンを握る。そして今回せる魔力を全開にして装甲板を大量に複製、ざっと1024枚!

 

「『継ぎ接ぐ竜章崩姿(メイクシフト・ドラゴン)』!!」

『Vanity:Makeup Galatyn!!』

 

 胸から出てきた『虚飾』の1枚と、複製した1024枚がガラティンに吸われ、形を瞬時に変えていく。教会で試運転した時と同じ、リボルバー付きの大剣に!!

 

「装填8、敵はデカブツ……速いけどマトはデカい! できる限り後ろに退避!」

「はい!」

 

 示現流の蜻蛉の構えのように剣を振り上げ、前進! 僕は剣技が下手くそだ…………けれど、力任せに、爆発的な速度で振り下ろすことはできる!!

 

「ぶっ飛べェェェエエエエエッ!!!!」

『Explosion!!!』

 

 引鉄を弾きながら縦一閃。しかし剣筋はガタガタと歪み、刃は空間を面で捉える! 魔力による指向性を与えられた空気はその面から逃げる猶予を与えられず、その巨躯に刃が触れようかという瞬間にそれは起こる!

 面で捉えた空気は、速度も相まって刃と物体の間にて圧縮空気へと変わり、高温を生み出し、物質の酸化を促進させる!!

 

 つまり、文字通りの爆発だ。

 

 刃が肉を切り裂き、脂に火が着き轟音と共に切断面が爆ぜる!

 その衝撃、校庭を深く割り抉り、肉片を吹き飛ばすが如し! 衝撃と、轟音と、切断のトリプルコンボで、怪物はぴよぴよと全ての頭を回していた。

 

『Purge』

 

 無理な使い方をしたせいで、装甲板の方が持たなくなり、虚飾ガラティンは崩壊。だがコイツでの仕事は果たした。あとはアスカロンで事足りる。全ての頭がピヨってる間に、アスカロンで見える付け根を一気に切り落としていく。ギャスパーの援護もあって比較的楽に済んだ。

 

「……っし、あとは核を探すか、切り刻むだけだな」

 

 どこまで信用していいか分からないけれど、警鐘は核があると伝えてくる。ならばそれを探せばいい。そう思っていると、残った肉塊の中心のところからグチュグチュと肉が盛り上がり、また一つ蛇の巨頭を生み出して伸びた。1本ならまだ怖くない、他の傷を噛みちぎる前にぶった切った。しかしその巨頭はこれまで切ってきた頭と違い、そのまま飛んでどこかへ向かっていく。どこかへって…………

 

「おい……何処を狙ってやがる……!?」

 

 それはギャスパーの方角だった。ギャスパーもそれに気がついて眼で停止を掛けていた。だが、

 

「ぐぅ……うぅぅぅ……!!」

「ギャスパー!!」

 

 突如眼を抑えるギャスパー。原因は分からないが恐らくキャパオーバーだ。不安定な『停止世界の邪眼』を限界を超えて酷使したんだ、その揺り戻しが今発生している。

 すぐに駆け寄ろうとして、脚が崩れる様に転ける。間に合わない、間に…………合わない…………!! ギャスパーも、諦めたように笑顔を浮かべている。浮かべてしまって……いる!!

 ダメだ、そんなの……ダメだッ!!! 怖くて眼を閉じてたやつが、頑張って眼を開けてくれたんだぞ!? 一歩、外の世界に踏み出したんだぞ!? その勇気を、命を無駄には絶対に……させない!!!

 

「セットNo.8!! 諦めんな、ギャスパー!!!」

『Frame No.8:Vanity!』

 

 今できること、ギャスパーの生存確率を少しでもあげること。ならばと放った九枚の装甲板は────

 

 

◆◆◆

 

 

 来るべき時が来たんだと思った。死んだ方がいい自分には、随分といい終わりだとも。

 

 ……ずっと、蔑まれて生きてきた。およそ好意と呼べるものをほとんど受けずに生きてきた。吸血鬼にも、人間にもなれない半端者。生きてるだけで誰かを殺し(停止させ) かねない、生まれついての怪物。生きてるだけで誰かを殺しかねない自分という存在の価値が、僕には分からなかった。

 

 それでも、死にたくないと怖がって、リアス・グレモリー部長の手に縋ったツケが来た。本来なら僕は、あの時ヴァンパイアハンターに殺されて然るべきだったのに。僕には不相応な愛に包まれて、ここまで生きてしまった反動が来たのだ。

 

 ……イッセーさん。そんな顔をしないでください。僕、あなたのおかげで凄くいい死に方ができそうなんです。友達を守って死ぬなんて……殺すだけの怪物には勿体ない死に方で。

 

『諦めんな、ギャスパー!!!』

 

 そんな僕の内心を知ってか知らずか、イッセーさんが手を伸ばしていた。必死に、必死に。

 

 ああ、やっぱり僕、死にたくない、なぁ……。

 

 

◆◆◆

 

 

 ガチリ、と何かが噛み合う音と共に秒針の音が狂ったようにカチカチと鳴る。頭の中ではない、現実世界でだ。停まった世界は時を取り戻し、その流れの中へと還っていく。だが、それはギャスパーが死んだからではない。

 

『Vanity:Makeup Devil!!』

 

 瞬間、さっきまで感じていた疲労や負荷なんてメじゃないぐらいの痛みが、僕の目と頭を襲う。……恐らく、コレはギャスパーが負っていた負荷だ。神器を、眼を使っていたその負荷だ。

 

『同調率が上がり過ぎた弊害だろう。いや、この場ではそれは利点だ。お前は今、お前の友の負担を肩代わりできているということだ』

 

 遠くに視線をやる。ギャスパーの姿は見えない、蛇に丸呑みされている様に見える。だが次の瞬間にそれは爆ぜ、中から一人のヒトガタが現れる。

 

 それは僕が纏っている様な、龍の意匠を感じるようなデザインではなかった。僕とギャスパーが仲良くなる切っ掛けへと至った、とあるヒーロー達のシリーズに出てくるような……仮面騎士の様な意匠を持った外装だった。

 

『イッセーさん……これ……!?』

「はは……ははは……! かっこいいじゃあないかよ、ギャスパー! まるで仮面騎士(ヒーロー)だ」

『え、えぇっ!? そんな、僕みたいな臆病者には分不相応というか……!』

 

 ワタワタと手を振る姿が、中身はギャスパーなんだと再確認させてくれる。……が、いつまでも悠長に話してはいられない。

 恐らくさっきギャスパーに飛んでった時に、核にあたる部分を生やした首の方に移動させたらしい。そのせいで、今ので内側から爆ぜた首の残骸が、一匹の大蛇へと再生していく。

 

「ギャスパー、ごめん。今ちょっとイッセーくん限界も限界でさ。代わりにいっちょ、アレをぶっ倒してくんねぇかな?」

『え、でも……!』

「大丈夫、眼の負担はこっちが肩代わりしてるし、今のギャスパーは512倍だ。思ったこと、やりたいこと、なんだってできる」

 

 話している合間にも眼と頭が痛むが、そんなことはおくびにも出さずに笑う。……こんなのに耐えて頑張ってくれてたんだ、僕も頑張らないでどうするよ。身体は動かんが。

 

「頼むぜ、ヒーロー」

『……任せてください!』

 

 背中から悪魔の翼を広げて飛び立ち、ギャスパーは大蛇と相対する。

 

『やりたいこと、やれること……!』

 

 そう呟くと、ギャスパーの姿が崩れていき、九匹の蝙蝠へと変貌する。それらが円になって大蛇を囲み、

 

『邪眼……解放!』

 

 18の眼で、大蛇を完膚なきまでに停止させた。……ぐっ、負担もハンパねぇけど、効果も半端ないってか! 能力は視界に由来するって僕の考察は間違ってなかったってことだ。

 そして蝙蝠が寄り集まってギャスパーの姿に再形成される。そして彼は、右脚に魔力をこめ始めている。つまり、やるんだな……今、ここで!!!

 

『いきます! ヴラディ…………キィィィイイイイック!!!』

 

 翼によって勢いをつけた、その見事なまでのキックは。停止している大蛇の核を貫通させ、

 

『爆・散!!』

 

 爆発し、跡形もなく消え去った。

 

 

◆◆◆

 

 

「イッセー! ギャスパー! 無事なの!?」

「あー、はい。一応何とか。でもギャスパーは……」

「きゅう…………」

 

 虚飾の反動、あと眼の酷使の反動でぶっ倒れたギャスパー。命に別状はなさそうだが、割と深刻な疲労状態だ。一刻も早くベッドに寝かせて安静にさせるべき状態だった。

 ともあれ、停止させられていたことに気がついた部長がアーシアと一緒に飛んできてくれたのは本当に助かる。ありがとねアーシア、痛みとか疲労とか抜けていく…………疲労まで抜けていく!?

 

「アーシア、もしかして神器が」

「はい、ちょっぴり成長しました。今までは傷を治すだけだったのですが、少し理解を深めたことで疲労物質の除去ができるようになったんです」

「すっげぇ……いくらでも戦えんじゃん」

「あ、でも身体に蓄積された負荷が消えるわけじゃないので、無理は禁物ですよ」

 

 まあ、ですよねぇ……。でも痛みとかが消えて無くなっただけでも本当に助かる。とはいえマジでつっかれた……想定してないレイドボスを少人数攻略することになるとは夢にも思わなかったよ。

 

「さて、と。戻りま────」

 

 警鐘。……しかし分かっていたこと。何処かで、絶対に。ヤツはことを起こすと思っていたからだ。

 

 青白い魔力弾が、僕達目掛けて飛んでくる。それを僕は、氷の盾を形成して防ぐ。

 

「……ずっと、ずっとどのタイミングだろうかって疑ってたけど。今このタイミングか。弱ったところを狙うとは、随分と臆病じゃあないか。ええ? 『白い龍(バニシング・ドラゴン)』」

「仕方がないだろう。思わず目を奪われる位にキミが生き生きと戦っていたものだから、ついタイミングを見誤った。こうなってしまったことは俺にとっても不本意だ、『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』」

 

 光翼を広げた白い鎧。ヴァーリと名乗る男が、僕の前に立っていた。

 




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