励みになります。
◆◆◆
反転、暗転
「このタイミングで反旗を翻すか、ヴァーリ」
一歩も動けない様な硬直状態。その沈黙を破ったのは僕の隣に降り立ったアザゼル総督だった。気がつけば他の人員も僕らの周りを囲むように、ヤツを警戒している。
「そうだよ、アザゼル」
「……全く、俺も焼きが回ったもんだ。……いつからだ?」
「コカビエルの件でここに出向く最中にオファーを受けたんだ。悪いなアザゼル、こっちの方が何より面白そうだし……何より彼と戦える」
鎧に覆われた双眸が、再び僕の方へと向く。……分かっちゃいた。分かっちゃいたけれど、脱力感と同時に怒りがフツフツと湧いてくる。しかし、今不意打ちはできない。あまりにも僕は、コイツに手の内を見せ過ぎた。愉快そうに喋りながらも、僕の一挙手一投足に目を光らせている。何かをする余地が、ない。
「『白い龍』が、オーフィスの軍門に下るとはな」
「いいや、あくまで協力するだけだ。魅力的な提案をされたんだよ。『アースガルズと戦ってみないか?』とね。こんなことを言われたら、自分の力を試してみたい俺では断れない。戦争嫌いのアザゼルの下では、絶対にアース神族となんて戦わせて貰えないからな」
「……そうかよ。いや、俺は心のどこかでお前が手元から離れていくのを予想していたのかもしれない。お前は出会ったときから今日まで強者との戦いを求めていたものな」
諦めたようにアザゼル総督は言う。それはどこか、反抗期の息子に呆れたような響きを持っていたような気がした。呆れるじゃ、済まないことを言ってると思うんだけどね。
全く……僕の運命とやらもここまでかもしれないな。ずっと死ぬかもしれない死ぬかもしれないと言い続けてきたが、今日のは格別だ。実際、警鐘もいつにも増して僕に『
「約束してくれないか、白い龍。今からの戦闘に、僕以外の誰も介入させない。だから、僕が死んだらお前は撤退して欲しい」
「イッセーっ!!」
あの日と同じように、部長から制止を求める声がする。だけれど、コレは多分もうどうしようもない。前に早とちりしたことが、今になって追いついただけの話。可能性を掴もうと神器を使ってきたツケ、ドライグを振り回したツケ、『|赤龍帝の籠手』を宿してしまったツケだ。
「ああ、いいだろう。それでキミが心置きなく戦えるのなら。それにどっちにしたって、いくら俺でもこの数と相手は分が悪い。素直に退くとも」
納得して貰えたから、腕を横に開いて下がるように示す。……だが、ほとんどのヒトに納得して貰えない。
「……退くぞ、お前ら。ドラゴン同士の決闘に割り込んでいいことなんて一つもない。それは以前、学んだことだろう」
だがアザゼル総督が退くように言ってくれた。ありがたい、本当に。
「では兵藤一誠。今一度名乗ろう。ここに至ってまで隠し事というのはフェアじゃないからね。……俺の本名はヴァーリ。ヴァーリ・
『『『っ!?』』』
先程まで対峙していた女のせいで、その名前が示すもの全員が気が付く。つまり、こいつは……!
「先代ルシファーの血縁…………それもハーフか!?」
「ご明察。俺は旧魔王の孫と人間の母から生まれた混血児。人間の要素があったから、『白い龍』としての力を手に入れるに至った。運命、奇跡というものがあるとするなら、俺のことを指すのかもしれない。……なんてな」
「笑えないな……ギャグのセンスはイマイチと見た」
……此処に至っても、神器は覚醒の兆しを見せない。まあ、そう簡単にホイホイ『禁手』できてたまるかって話だ。目の前のやつはそうみたいだが。ほんと、笑える。
だが、ここまでかもしれないと確信していても。可能性をハナから捨てるというのは違うだろう。それに僕はドライグと約束した。最後まで戦うと。赤龍帝を頑張ると。なら、僕はそうあるべきだ。
「『
『Upgrade:Frame Gear Booster!!』
もう一度、解けた鎧を編み直す。アーシアに回復してもらったから、多少はまだ戦える。手札自体はある、逆転の一手になりうるものもある。……あーは言ったけど、こんな戦闘狂に殺されてたまるか、という怒りはあるのだ。
……ガラティン、力を貸してくれ。剣として振るう余裕はないから、鎧にその力を。
「っし! じゃあ殺し合おうぜクソ野郎!」
「ああ、やろう兵藤一誠!」
そうして始まったのは、ただの醜い殴り合いだった。
◆◆◆
ここで『白龍皇の光翼』並びにその禁手『|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》』の能力をおさらいしておこう。
ドライグと対になるドラゴンであるアルビオンを封印したその神器は、能力も籠手と対になっている。基本能力は『半減』と『吸収』。10秒毎に触れた相手の力を『半減』し、それを『吸収』する。際限なく半減と吸収するのでいずれはパンクする……と思いきや、余剰分は光翼部分から噴出することで排出することができ、所持者のパフォーマンスを常に最高の状態にするという、ぶっちゃけ籠手より殴り合いに向いてる神器だ。コレをドライグ相手にボヤいたら流石にブチギレていた。これに関してはマジで申し訳ないと思った。
ンで、鎧へと進化したら10秒毎の制約は取っ払われ、常に相手を半減してその力を吸収する。籠手で対抗するならば、本来ならこっちも禁手……『
のだが、何事にも抜け穴がある。
「ぐっ……半減と吸収の効きが悪い……!」
『なるほど、考えたな。ヴァーリ、吸い取る力にアスカロンのオーラが混ぜられている』
「一瞬で小細工バレてんだけど!?」
言いながらも、攻勢の手と収納された聖剣達への力の配分は止めない。吸われる力に意図的にアスカロンのオーラをねじ込むことで、その効率を1/10まで減少させている。これで何とか10秒毎の倍加しかできない僕でも拮抗状態に持ち込めた。それでも鎧、ガラティンの効果を付与してる鎧も半減でその力を満足に振るえないのか、砕ける程度の硬さに留まっている。
「ははは、やるな俺のライバル! そうでなくては、そう来なくては!」
「うるせぇ黙れ戦闘狂!!」
拳で鎧を砕きあい、全身に青アザを作りながらも一つでも多く殴るために前へ前へと身を乗り出す。お互い、砕かれた鎧はすぐに修復するせいで一向に終わりが見えん。それに……
「だが、その精密な力配分に意識を割いているせいで単調な攻撃なのがいただけないな!」
「ぐ……ッ!!」
そう。小細工で誤魔化しているだけで、そもそも劣勢なのはこちら側である。それに、力の天秤で釣り合いが取れたとしても、そもそもの地力が違い過ぎる。そもそも鍛え始めて三ヶ月とちょっとの凡悪魔が、才能の塊みたいな戦闘狂に勝てるわけが無い。
それでも、殴り合いのテイを成してるのはヤツが余裕をぶっこいてるからだ。僕の手札を引き出して、楽しい戦いをしたいが為に調整されている。ムカつく、ムカつくムカつくムカつく!!! ヤツもそうだが、そうされないと勝負にすらならない自分にむかっ腹が立つ!!!
だが、不意を突く方法が無いわけじゃない。僕には『急速倍加』がある。都合9回分だけ、やつの常時半減を乗り越えられる同時倍加がある。
「(今はただ、隙を見せたその瞬間にたたき込めるように耐えるしかない……!)」
「ふはは! その目、何かを狙っているな!? いいぞ、いいぞいいぞ! もっと、もっと俺に見せてくれ!!」
ああ、いいぜ見せてやる。それがお前の死ぬ時だ。
力の配分を、聖剣二本以外のほとんどを、視覚と意識に回す。世界はスローモーションに掛けられたかのようにゆっくり流れ……それは僕の胸を突こうとするヴァーリの拳も例外じゃあなかった。しかし身体の配分を下げたせいで、その拳撃に防御は絶対に間に合わない。
骨の砕ける音、肉が割かれ、貫かれる感覚。あまりの衝撃に痛覚は焼き切れ、『熱い』という感覚しか分からなくなる。だが、ヤツの拳は
「なっ!!?」
「よう坊っちゃん、接射攻撃喰らいな」
『Ignition Boost!!』『Transfer!!』
持てるちからを振り絞って、左腕を振り抜く。急速倍加のその先はアスカロン!! 龍殺しの聖剣の力がこれでもかと増加し、ヴァーリの土手っ腹を貫いた。
「ぐっ……ぐぁっ……セット、ナンバー、3」
『Frame No.3:Greed!』『Greed:Create Imitation!!』
用済みの腕を何とか胸から引きずり出し、痛む胸に『強欲』の複製を掛けていく。魔力と引き換えに、失った部分を補填し……なんとか胸が元通りに塞がる。これで死んだら部長に何されるか分かったもんじゃないからな……複製の再生治療練習しといて良かったと思う次第だ。
……しかし、相手もさるもの。よろよろと立ち上がりながらも魔力で僕に空けられた穴を修復していく。
「……オイオイ、バケモンかよ。そこは死んどけよ、生物として」
「そっくりそのまま返そう。まさか身体でこちらの身動きを封じるとは」
これはお互いの魔力が空っ穴になるまで続くのだろうということが判明した瞬間である。しかもその場合ほぼ間違いなく先に魔力が尽きて骸を晒すのが僕の方という。…………やってらんないな。やっぱ僕だけ戦うって約束はダメだったか? いやでもこいつが暴れた時に部長達の命の保証がどうなるか分からんから…………やっぱ妥当だったか。
「…………」
「……ンだよ、じっと見て」
「いやなに。どうしたらキミは全力を出せるのかな、と思ってね」
どうしたもこうしたも、既に全身全霊全力全開。取れうる効果的な手段を全て使うつもりで戦っているケドな。
「言い方を変えよう。どうしたら君が、『
「ハッ! 生憎こちとら才能無しの転生したての悪魔だっての。お前と違って出生に何の特別性もない。普通であることだけが唯一の取り柄だったんだ」
「それは…………恐らく自己認識が歪んでいると思うのだが」
「なんでだよ!!?」
暗に普通じゃないと言われて流石に怒る。いや既に怒っているんだが。それでも感覚的に。
「……キミのことは少し調べたんだよ。コカビエルを俺の思ってもみない方法で打倒せしめたキミの背景が知りたくなってね。父は普通のサラリーマン。母は普通の専業主婦で、たまにパートに出ている。両親の血縁はまったくもって普通。先祖に魔術師がいるわけでもなく、悪魔や天使と関わりを持ったわけでもない。キミ自身も、少し特殊な正義感を持った、行動力に溢れた少年という点を除けば、ごくごく普通の男子高校生だった。……『赤龍帝の籠手』以外はね」
ああ、そうだとも。僕の誇るべきパーソナル。普通で、それでも幸せな家庭に生まれたことを。優しい両親の下に生まれてきたことを、僕は本当に幸せだと思って生きてきた。悪魔になってしまったことに後ろめたさを覚えるほどに。
……だが、それを眼前の敵は残念そうに語る。
考え方がそもそも違うのよ、これはそういう生き物。『私達』には到底理解できない存在だわ。
「こう言ってはなんだが……あまりにも勿体ないと感じてしまったよ。君がもし、俺のように……いや、俺程ではなくても特別に生まれていたらどうなったのかって。もう少しでも戦いに興味を持てていたら、今よりもっと楽しく戦えるに違いないと思ったんだ」
「…………何が、言いたい」
まるで子供のような無邪気さで、白い鎧は喋る。
おぞましさ、ここに極まれりね。どんな歪んだ環境で育ったのかしら? まあ、私には都合がいいのだけど。
「だけどそう、あの時キミが『準備をしておいた方がいいのか?』と言った時、まだ遅くはないと感じた。兵藤一誠にはまだまだ
この先を、聞いてはいけないと直感が強く叫ぶ。警鐘も、今すぐ耳を塞げとガンガン鳴る。
けれど絶対に塞がせないわ。千載一遇のチャンス、無駄には決してできないもの。
「キミは命よりも大切なものの為に戦うと、そう言った。だからきっと、
「────────」
「俺がキミの両親を殺す。そうすればキミはきっと、これ以上大切なものを奪われない為に死に物狂いで強くなってくれるはずだ。どうせ、キミの両親は今後も普通に暮らし普通に老いて、普通に死んでいく。そんなつまらない人生よりも、キミという戦士の糧になった方が絶対にいい!」
────遠く、遠い精神の奥底から、声がする。
『殺せ! 殺せ!!』
『白龍皇だ、殺せ!!』
『殺すしかない!! 奴こそが我らの怨敵!! 殺すべき不倶戴天の敵!!』
『『『殺せ!! 殺せ!! 殺せ!! 殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!』』』
────神器から、赤龍帝の籠手から伝わる、殺意に満ちた怨嗟の声。精神を侵すそれに、僕は身を委ねて、
『我、目覚めるは覇の理を神より奪いし、二天──』
「うるさいッッッ!!!!!!」
うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい…………うるさい!! うるさい!!!
「僕の
侵食してくる怨念を、
無論、そんなことをすれば負荷が掛かる。だけど、そんなことどうだっていい。どうだっていい。目の前の恐怖をこの世から消しされるなら何でもいい、なんでも……………………
『じゃあ、この身体。私が貰ってもいいわよね?』
…………あ、え?
◆◆◆
────まずい。そう判断した私は、擬態の聖剣をジャベリン状にして投擲する。ほぼ同時にそう判断したグレモリーからも、以前コカビエルとの戦闘で見せた光を呑む弾丸を放っていた。その先は、白い龍……ヴァーリ・ルシファーだ。
だって、アレはダメだ。二天龍の神器に備わっている『
しかし、それらの攻撃は。
「ぃヒ。いひひひひ、あははははは」
他ならぬ、イッセー君によって止められた。それも、彼が今まで見せてこなかったもの。影から這い出でる数多の黒い腕によって、握り、止められていた。
「まっっったく、本当に強情なんですものこの男。どれだけ私が精神的に負荷を掛け続けて、よりネガティブになるように弄っても、それでもともがいて生き続けるんですもの。くふふ……白龍皇がいなければ、私絶対に表には出られませんでしたわね」
「…………誰だ、お前は?」
異様な雰囲気を察したのか、白龍皇がイッセー君…………いや、
「ふふふ、嫌ァねェ。さっきまであんなに激しく求め合っていたというのに。兵藤一誠よ、間違いなく」
「いいや、違う。兵藤一誠は、俺のライバルは、そんな風に目を腐らせてはいなかった。何者だ、お前は」
「────何一丁前に爽やかライバル気取ってんのよ。
瞬間、影から吹き出る多数の腕。掴みかかり、引き摺り落とすようなそれは、完膚なきまでにヤツを縛り付ける。
「ぐっ……!?」
「私を傷付けることしかしない癖に、私を傷付けることしかしない癖に、私を傷付けることしかしない癖にッ!!! どいつもこいつもどいつもこいつも、もうたくさんだッッッ!!!」
影の腕は、無造作に白龍皇を放り投げて影に戻っていく。……ダメだ、もう手遅れだ。もしかしたらアレは、私が恐れていた一番の存在になっているかもしれない。
「いいわ、そんなに私が兵藤一誠に見えないと言うのなら。────相応しい姿に、お色直ししようじゃない」
再度、影から腕が多数伸び。それがイッセー君の身体を飲み込んでいく。もう二度と、彼を表に出さないように、深く深く沈めるように。
……次に、ヒトガタが影より浮かび上がった時。ソレはもうイッセー君ではなかった。いや、イッセー君とは呼べるものかもしれないが、決定的に変わっていた。
吸い込まれそうな程黒いゴスロリ服に身を包み、溶けるような青白いヘイローを浮かべた、白い一対の翼を広げる
『Re・birth: Advent×Angel』
ドライグの声じゃない、女性のようなシステムボイスと共に、天使は目を見開く。その姿は……情報にあった中級堕天使レイナーレの姿に、酷似していた。
「名乗りましょう、名乗りましょう。
「我が名は、
「この世界を恨む者!! この世界に罰を与える者!!」
「さァ……お覚悟は宜しくて?」
間違いなく、白龍皇は。パンドラの箱を開けてしまったのだ。
第4章: Advent×Angel