兵藤一誠は『異常な普通』です   作:FGMe/あかいひと

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 兵藤一誠は何処にでもいる普通の男子高校生です。
 ええ、本当。嘘じゃないですよ、ええ。まあ、ほーんの少し、お人好しが過ぎることと、どこ切り取っても平均値な所を除けば。

 だからねぇ、誰かこの摩訶不思議ワールドから助けてよ、ねぇ!?

(あらすじより)


その20

 

『ヴォーティガン!!? ()()()()()()()だと!!? よりにもよって貴様が!! その名を騙るのか!!?』

「なーによゥ、ブリテンの護国龍が反転したのなら。それはもうブリテンを追い詰めた王の名を語るべきじゃない? いいでしょう、いいでしょう!? とっても皮肉が効いて!」

 

 楽しそうに、心底楽しそうに。くるりと天使はスカートを翻す。

 

『悪趣味な……!! よりにもよって赤龍帝の貴様が!!』

「それは表の話ぃ。要素としては反転しても持ってるけれど、私に赤龍帝の自覚なんて全くありまっせぇン!! なんなら自称:ヴォーティガンだゾ、ワタシ? ……それにィ?」

 

 どろりと、見る者の目を腐らせるような。悪意に満ちた眩い笑顔を浮かべ、天使は言う。

 

「悪趣味どうこうで、テメェになんか言われる筋合いなんざねェんだよなァ、()()()!!」

『きさッ……貴様ァ!!!』

「キャハハハッ! 怒ってやんの、怒ってやーんの!! だけど、なァ? 先に逆鱗ぶち抜いたオマエらだぞ。なァ? 器の大きさ見せてくれよグウィバー! アルビオン・グウィバー!! 後輩ドラゴンのやんちゃぐらい受け止めてなんぼだろ、なァ!!?」

 

 喜一色から一転、憤怒の表情と共にその影から数多の黒腕が伸びる。それは黒く燃える焔。全てを焼き尽くす焔であった。

 燃える黒腕が白龍皇に向かって殺到する。

 

「くっ、何が起こって……!?」

『ッ!! いかん、その腕を防ぐなヴァーリ!!』

 

 指示に従い避けることで、先程まで白龍皇のいた位置に着弾する黒腕。そして青黒い焔がその場から立ち上る。

 

『貴様……それはドライグの……!!』

「ご明察。まぁアルビオンは知ってて当然よね。なにせこれは⬛︎⬛︎(いつえき)⬛︎⬛︎(えんか)。聖書の神に封じられてるからちょっと本家本元とは違うケドぉ……まぁ、ワタクシ反天使ですので? 裏に引っ込んでたモノを表に引っ張り出せるんですノ、ホホホホ」

 

 笑いながら、嗤いながら。天使は殴打をやめない。白龍皇が避ける度、地面を、植物を、建造物を打つ度に。黒い焔は燃え上がり、消えぬ火柱を作り上げていく。少しづつ逃げ場を奪うように、追い詰めるように。

 

「ほらほらほらほらー。逃げてると足の踏み場が無くなっちまうぞー」

「くっ……!!」

 

 地上で回避を続けていれば、いずれは足場が無くなってしまう。ならば必然、白龍皇が空へ飛び立ち戦場を変えようとする。

 

「あはー、まあそうなるよね。分かる分かる。……ねぇ、白龍皇。分類的には時に干渉する神器も、空間に干渉する神器も同じ『空間系』で括られるってのを聞いたことはある? まあ恐らく両者は根本的に同じもの、と捕らえたのだろうけど分類者は」

「何を……っ!?」

 

 白龍皇は思い出す。いつの頃からか兵藤一誠が使い始めた、暴走状態のまま使用されている懐中時計型の神器を。それは今、悪意の天使が口にしたように()()()()()()()()ということを。

 

「なんでも燃やす糞蜥蜴の焔と、時空間を把握する感覚、そして⬛︎⬛︎⬛︎(オーフィス)と繋がってることで得られる無限の知識を応用すれば……ぶっつけ本番でもォ……」

 

 瞬間、影より伸びる一閃。地上でこれでもかと振るわれた黒腕の一条が白龍皇目掛けて伸びる。もちろん彼はそれを避ける。が、

 

「グラップ&クラッシュ、ほらこの通りィ!! ()()()()()()()()()()のもお手の物ォ!!」

「ぐっ……!」

「ねぇねぇ、空に逃げれば対応できると思った!? 思った!? でもざーんねーん!! 私はぁ、とろけるように甘ーい表と違って容赦なんか絶対にしてやらないのだっ★」

 

 じゃ、一気にゲームエンドねと、天使は影からより多くの、先程までがお遊びだったかのように感じるほどの数の黒腕を広げる。

 

「クソっ! これはどうするべきだアルビオン!?」

『ぐっ……業腹だが、ドライグと兵藤一誠を表とやらに引き摺りだすしかあるまい! 今の俺達では、あの焔に対処する術がない!』

「は? 何それ殺すが」

 

 気付けば影より伸びた腕が、白龍皇に縋り付くように纏わりつく。焔こそ纏っていないが、想像を絶する力で持って地上へと叩き付けられる。

 

「いいか、そもそもお前みたいなのがいなかったら、表を無理矢理裏に沈める必要なんてなかったんだよ。自覚ある? ないか、ないわな。だってオマエ、無邪気に残酷だもんな!」

 

 無数の殴打。それによって鎧に砕かれていない場所がないことを上から覗き込むように確認し、天使は満足そうに安心したような笑みを浮かべた。

 だが、これで天使は近付いた。白龍皇がすぐにでも触れられる位置に、近づいてしまった。

 

「その油断が……命取りだッ!」

『Divide!!』

 

 天使に掴みかかり、触れることで神器の能力を使う条件を満たす。力半減され、その分を自らのものとして吸収する。……が。

 

「(半減は間違いなく機能した、しかし力が流れ込んでくる感覚が全くない!?)」

『狼狽えるなヴァーリ、今が千載一遇のチャンスだ!』

「……分かっている!」

 

 先程までの仕返しとばかりに殴り飛ばし、今放てる最大威力の魔力弾を飛ばす。薄ら笑いで攻撃を受ける天使を見て、薄気味悪いと思いながらも手は微塵も抜かなかった。

 

 ……そして、天使は跡形もなく消滅した。

 

「……なんだったんだ。なんだったんだ、アレは。一体」

『……ヴァーリよ。お前はもう少し、言葉の選択を考えるべきだった。龍の逆鱗を踏み抜けば、ああもなろう。……悪趣味にも程があったがな』

「…………」

 

 白龍皇の心の中に去来する、由来不明のモヤモヤと、後悔。ライバルとなるはずだった男を歪めてしまった発言を、この時初めて後悔した。

 

 

 

 

 

 

「今、後悔したじゃあ遅いのよね」

 

 

 

 

 

 

 白龍皇は信じられないものを見る。そこにあったのは塵。その寄せ集め。それが集まり、形を作り、一つの人型へと変貌する。先程、彼が吹き飛ばしたはずの、天使だった。

 

「お生憎様、こっちは概念的に『0』なの。存在感を強く放つ出来損ないの無限から反転して、何も無い0。分かる? 0。1/2掛けたって0だし、そもそも中身が0(ないん)だからこれ以上無くなることもないの。要は不死身ってワケ。……サンドバックになるのも結構不愉快な経験だったわね、反吐が出る。ぺっ」

 

 訓練をし、禁手に至り、覇龍までも何とか手中に収めつつある白龍皇、ヴァーリ・ルシファーという少年は。久しく感じていなかった『恐怖』という感情を、この悪意の天使に覚えることとなった。

 

 

◆◆◆

 

 

 ……圧倒的。それ以外に表現しようがない。イッセー君から生まれでた『ヴォーティガン』を名乗る黒い天使は、白龍皇ヴァーリ・ルシファーを心身共に叩きのめし、その影から這い出た腕でヤツを拘束していた。

 

 言動こそ不穏極まりないけれど、行ったことはテロリストの鎮圧。反旗を翻した白龍皇の討伐。だからなのか、我々の間で『テロは一先ず鎮圧した』という安堵の空気が流れていた。

 

 そんなわけが無い、そんなわけが無い。

 

 気がついてるのは何人かいる。グレモリー、現ルシファー、アザゼル、それとミカエル様もか。次に何が起きてもいいように、警戒を緩めていない。

 

 アレはイッセー君だ。でも、イッセー君じゃない。恐らく、私が思うに……彼が無理矢理心の奥底に溜め込み、澱ませていたドブが形になったモノ。……精神的苦痛で、知らず知らずのうちに解離性同一性障害でも患って、運悪くその人格が力でも獲得してしまったんだわ。

 

 ……ああ、私って本当に相棒失格よ。やはりイッセー君は殺すべきだった。あの時グレモリーに殺されてでも私は、大切な友達のためにイッセー君を殺すべきだった。あの時でなくとも、変貌しかける前にその首を断つべきだった。そうすれば、彼が今、こんなに苦しむこともなかったろうに。

 

 今は狂ったように笑っているだけだけど、時期にそれも止まる。そしたら、間違いなくろくでもないことを、アレは口にする。そしてその予感は、正しく的中することになる。

 

 

◆◆◆

 

 

「あースッキリした。いえ全然スッキリなんてしてないのだけど。なんなら殺したって飽きたりないのだけど。それでも気分的にね? うん」

 

 誰に聞かせるわけでもなく、言葉通りの明るい口調で天使は喋る。先程まで、まるで一定しなかった口調が嘘のように整えられ、精神的に安定したかのように錯覚させる。

 

「ならば、何故……俺を殺さない」

 

 地面に縫い付けられ、身動きが取れない白龍皇は絞り出すような声を出す。恨み言のようで、その実は諦観によるものだ。

 

「白と赤が戦った時の常だ。殺し殺されを繰り返してきた。今回は、俺の敗北だ。即ち俺の死で決着がつく。それなのに、お前は何故それをしない」

「んー……。ひとつはね、私が赤龍帝じゃないから。封印されたものを引っ張り出して拝借はしてるけれど、赤龍帝の力の根幹はもう裏に沈んじゃってるの。だったら私は赤龍帝を名乗るべきじゃあないわ。戒めの意味もあるのよ、私の名乗りって」

 

 その説明は、白龍皇にとっても分からないでもなかった。それに加え、この女が赤龍帝であるものかという、子供じみた反抗心があった。

 

「ふたつめはね。これから私はあなたの心を壊そうと考えているからよ。ま、単なる復讐ね。表の心が壊れちゃったもの。じゃああなたも壊れてくれないと、釣り合いが取れないでしょう?」

 

 ゾッとするほどの、怒り、悲しみ、悪意。白龍皇は天使の目の奥にある、昏い焔を幻視する。

 

「まず思ったこと。表が大切なものを奪われそうになって心を壊したのだから、同じことをして壊そうと思うの」

「けれどね、あなたは戦うことにしか興味が無いみたい。これは困ったわ。例えば殺すために戦おうとすれば、それはそれで喜ぶってことだもの」

「今だってほら、一丁前に『戦って死んだ、悔いは無い』とでも言いたげじゃない。そんな風に納得して死に逃げされちゃ、この行き場のない感情を何処にぶつければいいの、って」

「じゃあどうすればいいのか、私は思い付いたわ」

 

「全部、全部。滅ぼしてしまえばいいの」

 

「そうしたらほら、もしかしたら意図しないところであなたの大切なものも壊れてしまうかもしれないじゃない。自覚してなかったのに、壊れたことで自覚することだってあるじゃない? そうすればいいと思ったの」

 

 まるで、明日の献立を考えるような気だるさと気安さで。悪意の天使は世界の滅亡を宣告した。

 

「それでね、それでね! あなただけは最後まで残すの。死なさず、殺さずに、最期の最期まで、その様を見届けてもらうの。それで私はあなたに向かってこう言うのよ」

「『お前のせいだ』……ってね! きゃっ★ 言っちゃった!」

「────」

 

 奇しくも。その状況は先程と瓜二つ。理解できない言葉をぶつけられ、思考が止まるその状況。違う点は、入れ替わっていることと悪意の有無だ。

 

「────やはり。やはりお前は兵藤一誠ではない」

「あん?」

「この口で何を、と自分でも思うが。兵藤一誠は、自分の父母の殺害宣言を聞いたその時、怒りで覇龍の呪文を唱える寸前まで行った。お前が兵藤一誠ならば、怒りを吐いたその口で、己の父母すらも殺すようなことを言うはずがない。道理が合わない」

「はぁーなるほど。確かにどの面案件を除けば確かにお前の言う通りねぇ白龍皇。確かにそう、わたし個人の意見としては、そんなことやりたくもないわ。……そう、表と裏(わたしたち)はそんなことはやりたくないの」

 

 ここに来て、悪意の天使は困ったように眉を顰める。そして少し迷った末に、口にした。

 

「表の甘ちゃんは、自分のしたいことしかしてこなかった。アレは()()()()で、誰かのためだけに動く⬛︎⬛︎⬛︎(ガラクタ)。ならば反転したこの私は、兵藤一誠がしなければならないと感じたことを執行する者。その感情も、願いも無視した上でね」

「しなければならないこと、だと?」

「ええ、それ即ち」

 

 ────悪魔(りふじん)への復讐。

 




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Q:覇龍使えばワンチャン対応できるのでは?
A:対応できるかはともかく、ヴァーリはもちろん今も狙ってる。が、呪文詠唱する必要があるのと魔力ごっそり持ってかれるので慎重になってる。実の所はまだ諦めて『なかった』。

……ヴァーリ、嫌いじゃないですよ? ただちょっとこの時のヴァーリの言動は擁護できないし、主人公の地雷踏み抜いたからこうなってしまって。すまぬ()
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