兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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嬉しいことがあったので、その感情のままに書きました。

よく分かる反天使の簡単な説明
→ブラック羽川もどき

特に関係の無いことですが、4章を書いてる間ずっと『おしまい』を作業用BGMにしてました。特に関係はありませんが。


その21

 

「ま、だからお前が気にすることではないわ。私はしなければならないことをするだけ。それがどれだけの被害を産もうとも、どれだけの犠牲を払っても、どれだけそれが嫌になっても。私は、表が反天使を生むに至った全ての原因を駆逐する。誰も助けてくれなかった、誰も彼も、兵藤一誠(わたしたち)を助けてくれなかった。だったら、全部引っ括めて燃やしてポイ、よ」

 

 結局のところ。この浮世離れ戦闘狂ボーイは切っ掛けに過ぎなかったのよ。表が反天使を生むに至った経緯は、既に揃っていた。手遅れだったのよ。

 

 全く、嫌なものばかり押し付けて。大嫌いよ(アイツ)。それでも……私は、アレを⬛︎してるから。周りのものしか⬛︎せないアレの代わりに。私がその分⬛︎さなくては。だから大事に、大事に底に沈めておくの。もう何も怯えなくていいように。もう何も見なくていいように。

 

「さて、玩具で遊ぶのも飽きたから……早速お仕事をしないと。私は反天使、世界(つみ)滅び(ばつ)を与える者。せっかくおあつらえ向きの殻があるもの、いい感じに使わなきゃね」

「……何をする気だ」

「言ったでしょ、世界を滅ぼすのよ。……ああ、分かってるわ。単騎で、天龍級の出力しか持たない私がどうやってこの状況で世界を滅ぼせるというのか、でしょう?」

 

 本来の私の予定ならば。徐々に時間を掛けて世界を『0』に侵食する予定だったのだけど。そうすれば私を邪魔しようとしたり、利用しようとしたりで戦争が起きるでしょう? そしたらトップ共が雁首揃えて語ってたように世界は滅ぶのよ。そうして誰も居なくなった後でじっくり全部、『0』にしてしまえばいい。私のやることですもの、⬛︎⬛︎⬛︎(グレートレッド)⬛︎⬛︎⬛︎(オーフィス)も文句は言わないでしょう。なんならオーフィスなら協力してくれるんじゃないかしら?

 

「でも、あなたのお仲間があの結界を乗っ取り、強化してくれたことで話は変わった」

「……なんだと」

「私の天使……いや、ドラゴンとしての権能は『空間支配(Area×Advance)』。反転元は例の時計ね。時間運営に対しての空間支配ってところかしら。恐らく、新しく空間を創造したりはできないけれど……存在している空間を支配するだけなら、『絶霧』にだって勝てるわ。現に……もう外の結界。私の支配下にあるわ」

「……っ!」

 

 おーおー焦っちゃってまぁ。そうよね、恐らくお前は非常時には撤退の手配をしていたはずよね? でもざーんねん。もうあの境界は私の支配下。外からも、内からも、行き来できない。干渉できない。

 

「ふふふ、良い勉強材料になったわ。オーフィスの知識を辿れば最終的にはなんだって分かるのでしょうけれど、やはり現物があると理解度が違うわ。百聞は一見にしかずってこういうことね? で、まぁ。私は外とを隔てるあの境界をより強固なものにして、殻を作った。私はこれから、境界の内側を全て『0』で侵食することで……世界に陥穽を発生させる」

「……分からない。それは、この中にいる全員を殺すだけのことではないのか?」

「ふむん? 分からない? それとも()()()()()()()()()()()()()()()? まあどっちでもいいけれど」

 

 分からない、と言うなら教えてあげましょう。分かりたくない、と言うなら目の覆いたくなる現実を突きつけましょう。

 

「陥穽を作った後に、私がこの境界を消した時。世界にできた穴は歪みを生み、世界を呑み込む孔となる」

「────」

「ええ、そう。星を割り、宇宙に孔が開き、全ては『0』へと還る。めでたく全てゲームオーバー!」

 

 分かったわね? 分かってしまったわね? 不死身の私には、それが最後まで遂行できるって分かっちゃったわね!? うふふ、いい顔……少しは溜飲も下がるってものよ。

 

「後でもう一度言うけれど、先に言っておくわね。…………あなたはね、切っ掛けでしかなかったけれど。あの甘ちゃんは、今回の和平会談を酷く楽しみにしていたの。しんどいけれど、生きているのが辛いけれど。平和になれば、自分にとっては生きやすくなるって、本当に楽しみにして、願っていたの。いつか決壊したかもしれないけれど、何も無ければ、今日がその日になることはなかった。そんな兵藤一誠(わたしたち)の最後の箍を外したのはお前だ。地雷を踏み抜いたのはお前だ。龍の逆鱗に触れたのはお前だ。後悔先に立たず……これから起こる全ての絶望、災厄、その全てが、」

 

 お前のせいだ。

 

「では滅亡のカウントダウン……スタート★」

『Area×Advance: Overwrite Zero』

 

 チリチリと、花弁が舞うように。世界は綻び始める。ああ、とても綺麗ね。笑えてくるわ、涙が出るほどに。

 

 

◆◆◆

 

 

「────やはり、そうよね」

 

 静まり返ったこの場に、自分の声が嫌に響いた。

 分かってはいた、分かってはいたのだ。自分がイッセーに、酷く憎まれているということは。

 

「……リアス・グレモリー。あなた、イッセー君に何かしたの?」

()()()()()()()()()()()

 

 周囲から息を飲む音が聴こえる。しかし肝心の、私にそれを訊ねた彼の幼なじみの彼女は、『そうだろうと思った』と言わんばかりに固く目を閉じた。

 

「いつかあなたが言ったことを、やはりイッセーも思っていたんでしょう。『なりたくもないモノになってしまった』。だからあの子は死にたがりなのよ。……死にたがるように、なってしまったのよ、多分ね」

 

 イッセーが個人的な復讐を、堕天使レイナーレの殺害を果たしたところまでは問題はなかった。自分を悪魔にした恨みよりも、私への感謝が上回っていた。日常の延長線にあると、その時は捉えていたはず。

 『龍の手』だと思われていたものが『赤龍帝の籠手』だったことが判明してから、恐らく精神の不調をきたし始めている。それでもライザーとのレーティングゲームで決着させた瞬間までは耐えられたのだろう。『死ねる、ようやっと死ねる』と、耐え難い非日常を、直視したくない変わってしまった自分を終わらせられると。それも、自分のしたいことの末路として。

 

 だけれど、私がイッセーを生き長らえさせたことで、彼の中で全てが狂った。

 

 人間の欲を操り堕落させる異形であること、かつては世界の敵と言って差し支えなかった赤龍帝であること、自分が悪魔であることで親や友人が狙われてしまう恐怖、日に日に普通とはかけ離れていく自分。…………言ってしまえば、私はその全ての元凶。イッセーを生き返らせたから、イッセーを死なせなかったから、彼は愛する『普通』を侵食されてしまった。

 

 ヴァーリ・ルシファーのあの台詞は、確かにイッセーの逆鱗を踏み抜いた。これ以上ない侮辱と絶望の言葉だった。しかしアレは切っ掛けに過ぎない。今、あの子が裏返って呪詛を振り撒いているのは…………全部、私が原因だ。

 

「だとしたら、今の今までイッセー君が自分の首を括ってないのがおかしいわ。もしくは、貴女達を殺してないと」

「あのイッセー……天使に裏返ったあの子が言ってたでしょう? イッセーは自分のしたいことしかできないって。あの子は私達を殺したくない、仲間でいたい。そう思っていてくれたんだわ」

 

 嬉しいことに、悲しいことに。イッセーは嘘偽りなく私が好きで、愛してくれていて。私の眷属達も好きでいてくれて。それを日常だと思えるように自分を騙していた。……とんだダブルスタンダード。殺さない理由も、自死しない理由も無いのに。殺したくないから、それだけで殺すべき私達に牙を向けられなかった。…………恐らく、感情と使命感の矛盾も、彼が心を病む一端になっているのでしょう。

 

「…………自家中毒起こしてんじゃないのよ、あの馬鹿。それで精神病になってんじゃ世話ないわ。で、どうするのリアス・グレモリー。どうにも、アテがありそうな顔してるじゃない」

「……………………」

 

 アテ、と言われても困る。けれども…………私は今、私のすべきことに思い当たっているのは確かだ。

 

「……魔王ルシファー様。……いえ、()()()

「リアス……」

 

 覚悟は、とうに決まっていた。あの子がああなってしまったのなら。私は。

 

「もしかしたら、これで最期になるかもしれません。だからお願いがあります」

「リアス」

「今のイッセーを殺せる可能性があるのは、恐らく滅びの魔力を持った私かお兄様しかいません。なので、私が万が一死んだ時は……お兄様がイッセーを殺してあげてください。その他のことは、部室と冥界のグレモリー邸に同じ内容の遺書を認めているので、その通りに行ってくれると嬉しいです」

「リアス!!」

 

 申し訳ありません、お兄様。私は今、お兄様にとても酷なことを言っています。私をこれでもかと愛してくれているお兄様に、『妹が死ぬ様を見届けろ』と、そう言っています。それでも、私は行かなくてはなりません。

 

「……怒れる天龍を、上級悪魔一人で鎮められるのなら、それは安い取引だとは思いませんか」

「愛する妹をみすみす死にに行かせる兄がどこにいると言うんだ!?」

「ではこう言い換えます。私はあの子の主としての責務を果たします。だからどうかお兄様も、魔王としての責務を果たしてください」

「リアス……!!」

 

 それにね、お兄様。実の所、私はあまり悲しくは思っていないの。……酷い妹よね、本当。

 

「お兄様。何より、私がそうしたいんです。私は、あの子のために死んであげたいんです。何より、私が愛したあの子のために」

 

 できるなら、死にたくはないのだけど。本当に最期かもしれないから、満面の笑みを浮かべる。お兄様に見せる最期の顔が泣き顔になるのは、ちょっと悲しいものね。

 

「お義姉様。お兄様のこと、どうかお願いします」

「……リアス」

 

 ……グレイフィアお義姉様なら、きっと大丈夫。お兄様のことを、きっと。

 

「ソーナ。もしもの時は……眷属たちのことをお願い」

「リアス、私は……!」

「あなたのせいじゃないわ。もしかしたら、あの子が見て見ぬ振りをしてたことを気付かせてしまったかもしれないけれど。遅かれ早かれよ、気に病むことではないわ」

 

 あの日のことを後悔するように、ソーナが血を流すほどにくちびるを噛む。

 

「……私の愛する眷属達。大丈夫、死ぬかもしれないとは思っているけれど。やることはいつものことよ。馬鹿やってるあの子を、ちょっと叱りに行ってくるわ」

「「「了解……ご武運を!」」」

「リアス、生きて帰ってこないと許さないわ。もちろん、イッセーくんと一緒に。……私は、あなたの女王以外、するつもりはないの」

「ええ、もちろん」

 

 さぁ、いきましょう。あの灰が舞う中で笑うあの子のところに。いつかのように、泣いているあの子を安心させるために。

 

 

◆◆◆

 

 

「……あら、ようやっと来たの? リアス・グレモリー。愛しい貴女」

「ええ、来てあげたわイッセー」

 

 解ける世界を眺めながらこれまでのことを走馬灯のように思い返していると、見知った紅い影が視界の端に移った。……もう少し早く来ると思っていたから、拗ねたような表情を作って彼女に向き合う。腹が立つことに、この後に及んでまだこの女は、私のことを『イッセー』と呼ぶ。

 

「…………そう呼べば。貴女がそう呼べば。私が絆されるとか。そんな頭お花畑なこと、考えてる?」

「いいえ、そうは思わないわイッセー。私は、貴女がイッセーなのだと、心から思ってるだけよ」

 

 真っ直ぐにそう言われると、流石に後ろめたさが買って視線から逃げてしまう。いえ、世界を滅ぼそうとしてる時点で後ろめたさどころじゃないのだけど。

 

「…………本っ当に、タチが悪い女よ貴女。だからあの甘ちゃんは心を病んでも貴女に絆されたのでしょうよ。でェ? 何をしに来たの」

「そうね……貴女の狙いについてかしら?」

 

 狙い。狙いと来たか。この女は。私が憎んで止まないこの女は。本当に分かっていたのだろうか。表が沈め、見て見ぬフリをした澱みを、本当に分かっていたのだろうか?

 

「恐らく、貴女の狙い『私に殺されること』よ。これまでのあなた達の言動を鑑みるにね。さぞ私が憎かったことでしょう。死なせなかった私を。あなた達を生き地獄から解放しなかった私を」

 

 一瞬で、頭に血が上る。分かっていたことに対してもそうだが。そうと分かった上で、未だに行動を起こさないこの女を。

 

「……そうよ、ええそうよ! 何処までも憎い愛しい貴女!! 兵藤一誠は死ぬべきだった!! 誰かの日常を侵す異常と化した時点で、こんなガラクタは消えて無くなるべきだった!! 家族も、友人も、気のいい仲間も、愛しい貴女も!! 私のせいで日常を失う!! そんなことは……耐えられないのよ……!!!」

 

 ああそうだ、耐えられない。耐えられないのだ。私だって兵藤一誠だ。皮肉でヴォーティガンを名乗ろうが、ちぐはぐに裏返しにされていようが、根幹を同じくする者だ。やれることが違うだけの裏表。感じるものは……同じ、なのよ。

 

「…………。だから貴女は賭けに出た。それがこの状況。()()()()()()()殺されるに足る理由ができる。私に嫌われるに足る理由になる。あなたへの思いと共に、私に殺されて……その後に起こりうる悲劇を全て、無いことにしたいのね」

「そこまで語るってことは、その気も無いのにここに来たのねリアス・グレモリー!! 私を、兵藤一誠を殺す気も無いのに!!」

「ええ、愛しいイッセー。以前にも言った通りよ。私にとっては、あなたはもう大切な日常なの。あなたが死ぬのなら…………やはり、私は死ぬしかないわ」

「…………っ!!!」

「ごめんなさい、イッセー。あなたの言う通り。私はタチの悪い女ね」

 

 本当に、本当に酷い女。コレが一番、何も被害を生まないというのに。兵藤一誠は死ななきゃいけないのに。分かっていて、この女は……!!

 

「……はんっ! ならいいわ。だったら諸共、世界ごと沈んでもらうだけよ。もう一秒だって表にこんな現実は見せられない。世界が滅んで、最後に私が死ぬその時まで、何も知らずに、永遠に微睡みの中で………」

 

 思わず、言葉が途切れた。紅い髪の女は、憎くて憎くて、それでも愛しいこの女は。あろうことか、私を抱きしめた。

 ……ああ、同意するよ僕の裏。この女は本当に酷いヤツだ。だがおかげで、目が覚めた。

 

「………何してるのよ、リアス・グレモリー。お前、何をしている!?」

「あら。愛しいヒトを抱きしめるのに……理由が必要かしら?」

「やめろ、やめろ離せ!! お前がここに居たら……っ!」

 

 次善の目標として考えていた、魔王サーゼクス・ルシファーが私を殺す状況が取れなくなってしまう!! このままでは、本当に私は世界ごと沈む選択をし続けることになる!! それはダメだ、私にはそれができるが……あの男が、表が、兵藤一誠が、それを許容するわけがない!! ざわりと、影に沈めた何かが蠢き始めているのがその証拠だ……!!

 甘い甘いとお前は僕を評したが、お前もお前でツメが甘い。だからほら、こうして僕の付け入る隙を残してしまう。そらそうだよ、僕がこのヒトを。愛しい彼女を殺すことを許せるわけがないんだ。

 

「……ええ、お兄様は手を出せないわね。そしてここは貴女の力の起点。すぐに私は消えてしまうでしょうにね」

「くそ……くそっ!! 起きるな……起きるなお前(おもて)!! 散々苦しんだだろう、もう死んだっていいだろう!? どうしてお前は、苦しみ続ける!!? まだ生きたいと、手を伸ばす!!?」

 

 足りなかったのか、もっと沈めればよかったのか!? 場当たり的に行動を起こさず、兵藤一誠のフリをし続け、二度と目覚めない場所にまで沈めればよかったのか!? 自分の吐いた『後悔先に立たず』という言葉が翻って自分に刺さる……!!

 人は変わり続けるものだぜ、僕の裏。まあ僕は悪魔なんだけど……。いや、僕は悪魔だ。もう見て見ぬフリはしない。悪魔でも友達と言ってくれた馬鹿共がいるように。僕はもう自分が悪魔であることを異常とは捉えないよ。まあ、問題は山積みだけどそれはソレ、だ。

 

「あら、私は死んだっていいのよ? 何より、貴女ならそれができるでしょう? …………愛してるわ、愛してるのよ、イッセー。このまま二人で、溶けて消えてもいいと思うくらいに。あなたを殺してあげることはできないけれど。どうしようもない時、一緒に死んでならあげられるわ」

「身体の……制御が……っ!!! 赦さない、赦さないわリアス・グレモリー!!! 愛しい貴女、憎い貴女!!! 私は、私は────ッ」

 

 ……それに、約束したから。『死なないでね』って言われたから。生きることを他でもないこのヒトに望まれたから。どれだけしんどくても、苦しくても、泣きたくても。僕は、生きることから逃げないことにするよ。

 …………本当に、どうして。愚かなんだ。誰も、彼も。表も…………私も。

 

 

◆◆◆

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「………『死なないでね』って約束、覚えててくれたのね、イッセー」

 

 




結局のところ、最後に愛が勝つ。

感想、評価、誤字報告等本当にありがとうございます。
励みになり過ぎて短い感覚で更新頑張れました。
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