兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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短めです。


その3

 

「代表してゲンコツ落としに来たわよ」

「目覚ましゲンコツとか最悪」

 

 夕方に差し掛かるかどうかといった頃、すやすやとお昼寝してたら急に火花が散ったような感覚で跳ね起きる。どうやらゲンコツで叩き起されたの巻。代表してってどういうことよ。

 

「いやね、グレモリー一派に頼まれたのよ。一発は殴っておいた方がいいけど、自分達だと甘やかしてしまいそうだから、容赦しないだろう私にって」

「人選がパーフェクトで涙でそう」

「この方が救われるでしょ、皆の気遣いに感謝するのね」

 

 おっしゃる通りで。なんのお咎めも無しなのはそれはそれで思うところがあったので、気持ちは楽になった。

 

「ともかく久しぶりイッセー君、元気してた?」

「してたしてた。そっちも相変わらずだねイリナちゃん、ホームレスは卒業?」

 

 相も変わらず快活な様子だがいつにも増してエネルギッシュだったので、当てずっぽうで訊ねてみると首肯が帰ってきた。マジかい。

 

「天界からの窓口を駒王町に作ることになった関係でこっち用の寮が建てられたの。今はそこで寝泊まりしてるわ。ゼノヴィアも一緒よ」

「もしや監視用? 具体的には僕とか」

「自意識過剰にも程があるわねノータリン。…………今度は死ぬことに怯えてどーすんのよ」

「あでっ」

 

 デコピン一発。当たった場所が妙にヒリヒリする…………なんか光の力由来の何かを使われた気がする。

 

「ぶっちゃけアンタへの見解なんてどこも同じなの首輪付き。リアス・グレモリーがいる限り味方でいてくれるって認識よ。さんざ言われまくったでしょ?」

「まあそれは、そうなんだけど」

 

 多分認識の違いもあるんだろうなと思うんだが。ガン子は詰めが甘くなかったら最後まで完遂してたろうって確信があるのが、多分僕とリアスさんだけだ。それを今言う勇気は僕にはないから都合よくなあなあで済ませようとは思う。いのちだいじ。

 

「むしろえらく心配されてたわよ。毛色は違えどアンタも神器システムに振り回されてる側だもの、元人間ってのもあって申し訳なさそうにしてたわ」

「まあ神器なかったら死んじゃいなかったけども。それは熾天使達のせいじゃないよ」

 

 なんだかんだ収まるところに収まったし、責任の所在の話するなら元を辿ればドライグ達のせいである。くたばれクソトカゲ……と言ってやりたいが、この度僕もヤツらと同じくクソトカゲ族になったのでなんとも言えん。がっでむ。

 

「逆にどっちかと言うと、リアス・グレモリーの警護には細心の注意を払っていく方針になってるわ。理由は……言わずもがなね」

「そうならない様に死力は尽くすけど」

 

 今は起こっていない想定の、その先については。僕もイリナちゃんも語らなかった。火を見るよりも明らかだから、ね。

 

「ま、その他にも三大勢力の和平の象徴、交流拠点としてこの街は重要な役割を担っていくことになるでしょうから。これからも世話になるわ」

「僕じゃなくて上司殿に言ってくれよ」

「いや、バイトの方」

「まだ続ける気なのかよ!?」

 

 流石に戦力として形になってきたから辞められても困らない……とは口が裂けても言えないが。しかし本職に復帰したってことはそっちでも収入あるってこったろ? んじゃあそっちの方でなんとでもなるでしょうに、と思ったんだが。別にこの女金が必要なタチでもないしな、用途鑑みるに(寄付)。

 

「んー、そのことなんだけどね。表面上クビになったの」

「ちょっと今から教会襲ってくる」

「待て待て待て待て落ち着けバカ、お前がわたしみたいになってどーする」

「冗談冗談」

 

 まあ三割本気ではあるのですが。ミカエルさん、僕に嘘ついたのか? って思ったよね。で、実際何があったのだろうか?

 

「いや……その、ちょっと。戦士として養育された面子も含めて……未成年が大人と並んで働いてるの、どうなん? って話になっちゃって」

 

 あー、それはちょっとデリケートっていうか。ぶっちゃけ文化が違うからそういうものなのかな? で気にしないことにしてたけど、やっぱ天使達から見たらあんまり良くない状況だったのかな。

 

「ただでさえ倫理観の吹っ飛んだ研究とか戦士育成機関とか存在してたのもあって、熾天使様達激おこプンプン丸でさ。これを機に法の抜け穴ついたようなの一掃して、子供達の教育に力を入れていくことにしたの」

「うげぇ……聖剣計画みたいなの他にもあったのかよ」

「かつてあった中で一番倫理観終わってるって思ったのは『シグルド機関』ね。あそこは英雄シグルドの遺伝子を用いた試験管ベイビー作って、魔帝剣グラムを十全に扱える戦士を生産しようとしてたから。命の作り方に貴賤は無くても、生まれた命の使い方がカスとしか言いようが無いわ」

「『かつて』の文言がこれ程安心できることもないなぁ……」

「ちなみにフリード・セルゼンはここの出身よ」

「おい、なんで今刺してきた」

 

 別に殺したことは後悔してないし、死ぬしかないヤツだと思ってるケド、それなりに引き摺ってんだよこっちはよォ!

 

「とはいえ教会的にも渡りに船だったのよね。ほら、これまで悪魔祓いとかを専門にしてた人員が浮いちゃうわけじゃない? かと言ってそれでクビを切るのも不義理なわけで。だったら天使様達の言うことに乗っかって、子供達を仕事の前線から教育機関に送った方が無駄がないってこと」

「世知辛い世の中過ぎんか教会」

「全部が全部黒とは言わないし、できた人もたくさんいるけれど、完全に白なのは遺った教えだけよ」

 

 イリナちゃんがスレた原因が垣間見えるなぁ……。

 

「そしてその余波で、私とゼノヴィアは職を失ったわ。私に至っては擬態の聖剣も回収。そもそも私がアレを担ってたのって、顔を変えるのに有用ってだけだったのね。だから諜報部辞めさせられた時点で資格喪失。戦力激減ね」

「でもそれは表向き……なんだよね?」

「うん。これから駒王町にやってくる面々は表向きは留学、実際のところは天界側から友好関係を深めるために派遣された特使ってところよ。私は正式な監督官が決まるまでの暫定的な責任者、何せ一番顔がきくからね」

「ああ…………ウン」

 

 一瞬ゼノヴィア女史の顔が脳裏に浮かび掛けて消えた。彼女に陣頭指揮とかは向いてなさそうだな、というコメントは情けによって吐き出されなかった。

 

「まあそんなワケだから、活動予算も無くは無いのだけど、せっかくなら後から来る子達のためにもなるべくプールしておきたいじゃない? だったらバイトを続けない理由がないのよ。活動名目も悪魔(イッセー君)との健全な交流ってことで許可が降りるでしょうし」

「そういうことなら、まあ否は無いケドも」

 

 そうなると、こう…………次に九頭龍亭に来るお偉いさんが熾天使とか、そういうことになるような気がしてならんのだけど。……おい警鐘、『正解(ピンポーン)!』じゃない。

 

「しっかしアンタ、いいご身分ね。昼間っからこんなにぐーすか寝てるなんて」

「したくてしてンじゃないんだよ。日々の検査が終われば暇で仕方ないから、能力開発に勤しんでるの。寝るのも……正確には『怠惰』を極めているのもその一環」

「イッセー君、仮にも神の信徒の前で七つの大罪極めるって発言するのどうかと思うわよ」

 

 それはそうだけども。でも仕方がないでしょうが、そうでもしないと取っ掛りが見えそうに無いもの。

 

「まあでもそうよね、イッセー君って基本的にダラけるのとは無縁だもの。無理にそうでもしないと、」

「いや、『怠惰』の能力はできてるんだケド」

「できてんのかよ。じゃあ優雅なお昼寝タイムする必要ないんじゃないの?」

「うーん…………実際見てもらった方が早いかもしれない」

 

 そう言って僕は手元に『怠惰』の板を出現させる。

 

「セットNo.7」

『Frame No.7:Sloth』

 

 と、このようにシステムボイスがある。ならば能力自体はちゃんとできているハズ……なんだけど。

 

「『狂繰る廻る選択蜂起(バッドチョイス・リムーバー)』」

『Sloth:Counterclockwise』

 

【1】【2】【3】【4】【5】

『Time over』

 

「……何も起こらないわね」

「でしょ?」

 

 特に何が起きるでもなく。カウントがされるわけでもなく。ただ針の音が耳元で鳴ったかと思えばタイムオーバーのアナウンスが鳴るだけ。何かは起こっていると思うんだけど、それが僕にはテンで分からないのだ。

 

「これを分からず仕舞いにするのもどうかと思ったから、なんか怠けてたら分かるかなってことで寝てた。結論はなんも分からなかったのでこの方向ではないんだと思う」

「うーん……なるほど、これはちょっと手を焼く状況ね」

 

 今までのは能力が生まれた瞬間に使い方が分かったから良かったけれど、ここに来てマジで正体不明なのが来て困っている。警鐘はドライグの居る居ないには関係無いと判断しているので、『怠惰』の成立過程に特殊な問題があったからだと思う。別の神器……それも禁手状態のを飲み込んだからねぇ、バグも起こって然るべき、か。

 

「いや、あるいは……?」

「ん? どったのイリ坊」

「……いえ、考え過ぎね。ただ、あまり一つのことにかかずらってンのも健全じゃないわ。何も他のが無いわけじゃあないんでしょ?」

「そうだねェ……色んなことやった方がデータ取りにはいいだろうし」

「ああ、例の神器症対策ね。是非ともイッセー君には頑張って欲しいわ」

「何処で知ったんだよ怖ぇよ」

 

 諜報部辞めたとか言ってなかったかこの女の子。実質部署異動したんだよな? 舌出して『てへ』するな、お前がやっても可愛くともなんともないからな。

 

「まあ、ともかく。今日本当はこれだけを言いに来たのよ」

「おん?」

 

 急に真面目な声になったイリナちゃんは真っ直ぐと僕を見つめる。

 

「次は無い、次は起こさせない。イッセー君、貴方が前向きに生きようとしていることは重々承知で、とても失礼なことを言うわ。……死にたくなったら、私に言って」

「…………イリナちゃん」

 

 それは酷く重い、鉄の匂いがするような友情の宣言であった。

 

「……ごめん、ありがとう。それなら、僕は安心だ」

 

 




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