兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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その5

 

「お前のせいで学校はちょっと大騒ぎだ」

「『駒王学園二大お姉様の一角が陥落した』『兵藤一誠がついに折れた』がセットで襲ってきたらなればそうもなる」

「…………連中、そういうネタに飢えてるワケ?」

 

 表向き、僕はとんでもない事故に遭ったということになっている。ンでもってようやっと面会がOKとなったというテイで金曜日の今日、馬鹿共が見舞いにやってきてくれた。まあある程度僕の事情は知ってる二人なのである程度の近況報告はしていたから、今心配は特にされてないんだけれども。

 

「というか話の出処どこよ。十中八九僕の上司殿だと思うが」

「お前自分の彼女なんだろリアスお姉様、名前で呼んでやれよ」

「大事な時は呼ぶからいいんですゥ〜」

「コイツ変わんねぇな……ああそうだよ、噛み締める様に本人が話してたんだとよ」

「あまりにもな乙女の表情に周囲が悶絶、一部はNTRに目覚めたとか云々」

「寝てから言え定期」

 

 いやまぁ、学園のアイドルとモブ男がくっ付いたわけだから…………うーんこれなんて青春系ラノベ? 事実はもっと狂ってるんだけど。

 

「まあでもアレじゃない? 僕に嫉妬が集中する分にはなんだっていいよ。負の感情が僕達を強くする……!」

「悪魔かよお前、悪魔だったわ。というか……」

 

 松田が僕を見る目が『処置なし』と言わんばかりに可哀想な子を見るようなソレに変わる。な、なんだよぅ。何か言いたいのかよぅ。

 

「別にリアスお姉様の分だけで発狂、ってわけじゃないんだよ……元浜、やっぱ知らなかったぞコイツ」

「鈍感系通り越してノーフラグ系……ゲームで出てきたらコントローラー投げる自信がある」

「ンなバカな。僕みたいなのに惚れる趣味の悪いヤツが部長の他にもいるとか」

 

 話の流れ的にそれ以外ありえんので、震える声で心の底からの疑問を口にするとゲンコツを落とされた、痛い……。

 

「まず大前提として普通に考えろよ、普通にな。基本、人当たりがいい男子。真面目だがそれ一辺倒じゃなく洒落も通じるタイプだ」

「その上で、困ったことがあれば親身になって相談に乗り、解決に奔走する」

「そんで、見てくれも普通で悪くないときた。つまりそこらのヤツにとっては身近な存在だ」

「定期的に言動が不穏になるのが玉に瑕だが、それで無茶苦茶な悪さをしない限り一種の愛嬌だろう」

「「コイツのことどう思う?」」

「……なんか普通にいい感じ奴なんだけど。『アイツのこといい奴って分かってるの自分だけ』みたいな後方理解者面が増えそうなタイプの」

 

 それ、話の流れ的に僕ちゃんのコトなんだよね? それが僕の客観的評価…………。

 

「うっそだァ!!?」

「まだ言うか貴様ァ!!」

「お前のことだ、お前の!!」

「いやだって、僕だよ!? 『異常な普通』とか言う変なあだ名付けられてる僕だよ!? 煙たがられてるんじゃなかったの!?」

 

 実際何人かの先生には問題児として認識されてる節があるし、僕が『兵藤一誠』ってバレたらビビる生徒もいるじゃん!! バレないとただのモブ扱いだけど!!

 

「そういうのも後方理解者面を生む要因になってんだよ……というかお前のこと苦手なヤツって後暗いことあるヤツだけだ」

「普通気取りの人情系バカ、それがお前だバーカ!!」

「僕、その評価お前らの…………」

 

 いや、なんかこの事実は胸の内に秘めておいた方がいいかもしれん。言うと調子乗りそうだからな。たまにだけど松田って彼女いないよね……? とか元浜の趣味ってなんだったっけ……? とか聞いてくるのがいるの。…………あ、もしや僕ら同類でつるんでる?

 

「そ、それ以外はなんかないの? もっとこう……くだらないこととか何かおかしなこととか色々」

「おかしなこと、ねぇ……?」

「夏休み前だから浮かれてる連中が多い、ぐらいしかな」

「まぁそうなるかァ……」

 

 高校生だもの、普段の勉学から離れるとなりゃ気持ちは晴れやかだろう。まぁ部活勢は肉体的に死ぬだろうし、高三の先輩方で大学部へは行かない人は受験勉強で死ぬほど机に齧り付くだろうから結局休みなんてあってないようなものかもしれないが。あゝ無情。

 

「あーでも全校集会で『皆さんは銀行強盗相手に大立ち回りをしないでください、本当にお願いします勘弁してください』とか謎の注意喚起があったぞ」

「真相は違うが流石に笑えたなアレは。お前ならやりかねん」

「やっぱちょっと情報統制の仕方考えた方がいいって言っとかないとなぁ……。流石の僕でもそんなことしないよ、あはは」

「「どーだか」」

 

 ハモって言うことないじゃあん!! 少なくともまだやってないんだから!!

 

「お前らはどーすんの夏休み。ワシは冥界行く予定らしいからほぼ丸々人間界には居れないらしいんだけど」

「あー、くそ。アテが外れた」

「だから言ったろう、どうせリアスお姉様の里帰りに連行されるって」

「連行て……」

 

 まあ半強制ではあるのだけども。それとは別で行きたくて行くのでね。気になりますわリアル地獄!

 

「ンで?」

「海水浴場とプール巡り、勿論目的はナンパだ!!」

「今年こそ彼女を作ってあんなことやこんなことを……!」

「……………………」

 

 なんだかなー。やっぱ言っといた方がいいんだろうかなー? いやでも僕の目が無い状態でちゃんとブレーキ効くかなー。

 

「……まぁ、程々にね。ルールを守って楽しく夏休み」

「んだよ、張り合いねぇな。いつもなら『人の夢と書いて儚いなんだよ、ご存知?』とか言うじゃねぇか」

「松田……イッセーは変わってしまったんだ。もう壁の向こうの住人に……」

「交際宣言しただけですケドぉ!? 散らしてないし散らす予定も3年ぐらいはありませんケドぉ!?」

「枯れてんなぁ……」

「いやこれ枯れてるとは違うくないか?」

 

 なんだかんだで。こんな馬鹿みたいなやり取りが1番気楽というのは言うまでもない話。……反天使を止めれて、本当に良かった。

 

 

◆◆◆

 

 

「ンで、最後(シメ)は父さんと」

「最後とはなんだ最後とは。母さんと一緒にちょくちょく顔は出してたろうに」

 

 夜、仕事上がりの父さんが病室に顔を出す。面会時間はとうに過ぎてるけれど……まあ事情が事情だし特例か。

 

「で、最後ってどういうことなんだ?」

「えっとね、取れるデータは取り切れたげだから明日解放だってよ。コレで満を持してシャバに出られるって話」

「お勤めご苦労さん、ってか?」

「ヒマを極め過ぎてただけだけどね〜」

 

 とはいえ神器を弄る以外はマジで大したことはしてないというか……

 

「夏季休暇の宿題も終わっちゃったし……」

「夏休み始まる前に終わらせるんじゃないぞ我が息子、こういうのは地道にすることで勉強の習慣をだな……」

「だって多分夏休みもなんかあるんだもん。なんなら部長から一緒に挨拶回りするからよろしく宣言されてるし」

「ははぁ……お前もお貴族様か。似合わないな」

「自覚はあるし流れで二人にもなんかあるでしょ、流石に」

 

 よくよく考えたら部長のお父様が兵藤邸に顔を出してたのはそういうことだったのか、と思わないでもない。……今となっては仲良さげだったのはいいことだと思うんだけど、余計に部長の手の早さが感じられて恐怖も凄い。

 

「なんかあるというか、現在進行形だな」

「と、言いますと?」

 

 そんな大掛かりな話あったっけかな? と頭を捻りながら聞くと、基本動じない系の父さんが困ったように眉をひそめて爆弾発言をした。

 

「ウチの家、改築するんだと」

「なんで!!?」

「そうなるよなぁ……」

 

 改築って一体何故…………話の出処はどう考えてもにっくきあの女上司なのは間違いないだろうけども…………。

 

「リアスさんだけからじゃないぞ。話を持ち出してきたのはアザゼルさんだ」

「ちょっとあのラスボス系先公ぶちのめしてくる」

「待て待て待て待て、落ち着けバカ息子。お前はいつも手が早すぎる」

 

 とは言ってもよ、マイファーザー。いくらトンチキを受け入れたと言ってもそれはどうかと思うんだよ僕は。

 

「何も変な話じゃないさ、理由の方は。リアスさんの眷属? をウチに集めて下宿させてはどうか? という話から始まってな」

「どういう理由でそんな話になったか皆目見当つかないけど、部屋足りないよね。それで改築? …………確か眷属用の寮はあったと思うんだけど」

「『その方が、イッセーが安心できるだろう』、とのことだ」

「…………あっ」

 

 言われてみれば、それは確かにというか。これから僕らを取り巻く環境がどうなっていくかは分からないけれども、可能な限り対応できる誰かが近くに居てくれると、僕的には凄く助かるのはその通りだ。切っ掛けは僕か……ちょっと申し訳なくなってきた。

 

「OK出したの?」

「前向きに検討するって言っておいた。お前が安心できるならそれに越したことはないし、家も賑やかになっていいだろう。……とはいえ、ちょっとな」

 

 まあ、思うところが無いと嘘だろうよ。あの家、ローン組んで建てたらしいから。そんときゃ僕の影も形も無かったそうだが。

 

「……そも、あの家は俺達とまだ見ぬ我が子と暮らす想定で、母さんと話し合って建てたものなんだ。三人暮らしにしては部屋多かったろ?」

「だね、確かに。…………そういうことか」

「ああ、お前には話したからな」

 

 僕には、兄か姉がいたという話を聞いたことがある。流れてしまった、のだそうだ。そこから、母さんが子供ができづらい体質だっていう話も。それが分かる前に建てた、からって話か。

 

「だからな、正直なところいい意味で思うところはあったんだよ。アーシアさんとリアスさんがウチに下宿することになった時にな。娘がいたらこんなんだったかもしれないな、って母さんとも喜びあってな」

「…………」

「俺と母さんの夢は、思わぬ形で叶った。辛く悲しいことはあったが、それでもあの時話し合ったことはこの為にとも思ったんだ。……だから、少し、寂しくなってな」

 

 その言葉を、どんな気持ちで吐き出したのか。僕には窺い知ることはできない。だからこそ余計に、死んだことと……死のうとしたことの罪深さを認識した。

 

「それに、な。俺ではお前を守ってやることが、もうできないんだと突き付けられたような気もしてよ。…………お前、凄い強いんだってな」

「……どうだろ、上から数えた方が早い、とはライバルっぽいのに言われたよ。嫌な話だけど」

「ああ、そうだろうな。そんなお前が今のままだと安心できないってことが……どうにも悔しくて仕方がないんだ」

 

 力なく、項垂れる様に。消え入るような、父さんの声に。僕はいても立ってもいられなくなった。

 

「父さん、ラーメン食べようよ。父さんの奢りね」

「……は? いや、お前、病院出ちゃダメなんだろうが」

「別に、僕ってお利口サンってわけじゃないんだから。ホレ、着替えるから行こ行こ」

 

 強引に、手を掴んで病院を後にする。

 目指す先は、九頭龍亭だ。

 

 

◆◆◆

 

 

「いらっしゃいませ……って店長!? 入院中じゃないんすか!?」

「やっほ、田所サン久しぶり。ちょっと外出しちゃった! あ、大丈夫大丈夫、今日は僕の父と一緒に食べに来ただけだから。普通にカウンター席でお願いします」

 

 食券を買ってもらって、店に入ると流石に驚かれた。まあそりゃそうかと思いながら奇跡的に空いている席に座る。金曜日の夜は基本的に席が埋まっちゃうからね。

 

「お前、本当に店長していたんだな……」

「まあ来ないでって言ったもんね、恥ずかしかったし」

 

 結構うしろめたかったからな。悪魔の業務的なこともそうだけど、常套な手段でなったわけじゃないからな店長。部長の口車に乗せられて本当に良かったのか? と考えない日は無いよ。

 

「しょ、食券をお預かりします。麺の硬さや味の濃さ、脂の量のご希望はございますか?」

「自分のは普通で。父さんは、」

「……脂少なめで」

「かしこまりました、少々お待ちください!」

 

 食券をホール担当の子が回収し、印を付けてキッチン担当へ。そして注文に合わせわちゃわちゃと調理を始めたのをカウンター越しに見ながら、僕は切り出した。

 

「実の所、僕ってそんなラーメンめちゃめちゃ好きってワケじゃないんだよね」

「そうだったのか!?」

 

 話を振られた父さんが、多分店の子達の分も含めて驚いていた。おいおい、びっくりするのは分かるけど手は止めんなよー。

 

「そりゃ、多少は好きだよ。美味しいし、手軽に食えるし。でもガチの食の好みの話すると、納豆とかが一番好きかな」

「確かに昔から納豆に対する食いつきは凄かったが…………じゃあなんでお前、ラーメン屋でバイトしようと思ったんだ?」

「ちょっとした思い出だよ」

 

 そう言って、昔のことを想起する。アレは確か、小学校ン時の頃。紫藤一家が海外へ引っ越した少し後の話。

 

「お前が同級生を泣かした件で呼び出しくらった時のことか」

「そーそー、よく覚えてたね」

「忘れるわけないだろ。今までは母さんがお隣の紫藤さんと一緒に呼び出されてたけれど、俺はアレが初めてだったんだからな」

 

 そうそう。母さんは同窓会か何かで出掛けてて、父さんの方に連絡が行ったんだったかな?

 

「あん時は、ちょっと色んな意味で気を張っててさ。……僕のヒーローだったイリナちゃんはもういない。だから僕が頑張らないとって、無駄な使命感に燃えてたんだよね」

「ああ、覚えてるよ。謎にシャドーボクシングしてたよな。すぐにやめてたが」

「そっちは忘れて欲しい、迷走してただけだから」

 

 んで、まあ。何をして泣かせたかは覚えていない。手も口も出たんだろうなっていう曖昧な感じ。覚えているのは、そいつがガキ大将張ってたイリナちゃんが居なくなったのをいいことに同級生をいじめてたこと。まあだからなんかしたんだろうけど、やり過ぎたんだろうな。相手の親からえらく詰められたし、その影にあの野郎は隠れてニヤニヤ笑ってるしで悔しくて、悲しくて仕方がなかった。イリナちゃんがいないだけでこんな無様晒すのが悔しかった。もしかしたら自分は間違ってたのかもとすら思った。

 

「だからまあ、嬉しかったんだよね。その後の父さんの啖呵」

「それは……」

「『俺の息子は喧嘩っぱやいが、道理に合わないことはしない! 俺は息子を叱るが、それは手を出したことだけだ!』……だったっけ?」

 

 実際、後でゲンコツは落とされた。痛くて涙は出たけれど、それ以上に嬉しかった。父さんは、僕が無闇に手が出る人間とは思ってなかったって。信じてくれたんだって。

 

「そん時に連れていってくれたでしょラーメン屋。無意味にトッピング全盛りで頼んでさ」

「そりゃあ、お前……そんぐらいはしても、なぁ?」

 

 バツが悪そうに言う父さんに、変わってないなぁと笑いがこぼれた。あの時も似たような顔をしていたなぁ。

 

「……お腹いっぱいになって、食いきれなくて、残りは父さんが食べてくれてたけど。ほんとうに……本当に美味しかった。だからかな、バイトする時の選択肢に、真っ先に浮かんだのがラーメン屋だったんだよ」

「…………」

 

 最初はすげぇ後悔したけどね!! あンのクソ店長ぜってぇ許さねぇ……!! 高校生にやらせる業務量じゃなかったかんね!!

 ……まあ、そんな呪詛はともかく。父さんが僕を信じてくれて、守ってくれたことを。僕は今でも嬉しく思っているのだ。あの時一緒に食べただけのラーメンに愛着が湧く程度にね。

 

「信じてくれたんでしょ? ……信じて、くれるんでしょ? 僕が()()なっても。……親として当たり前って言うかもだけどさ。その事実は、いつだって僕の心を守ってくれるんだ。悔しく思う必要なんて、ないと思うけどな」

「…………お前、大きくなったんだな」

「どうかな。案外図体だけ、口だけかもよ?」

 

 お互いに笑いあって、あの日と同じようにラーメンを待つ。別に、同じラーメンってわけじゃないけれど。たまにはこうやって親に甘えるのもいいんじゃないかってことで。

 




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