黄金と勝利の魔王   作:クリストフガルド

1 / 6
よろしくお願いします。


【第一章】勝利の王、参る
運命(うんめい)?それとも宿命(しゅくめい)


覚えていたのは熱かったこと。息が出来なかったこと。痛かったこと。

何もかも燃えてしまって、立っているのは俺の一人。他は全て、焼失した。

人も、木々も、土も、息をする為の酸素すら燃え尽きた。

季節は冬だというのに真夏を超える気温の上昇が僅か数秒で訪れた。茹だる様な暑さに頭がやれてしまいそうだ。これだけな暑さなのに汗一つ出ない、喉が渇いて水が欲しい。

目の前にドロドロに溶けた水道がある、辛うじて焼失を免れたみたいだが、まだ使えるだろうか?

右手を伸ばして確認をーーーーーあれ?

 

「右手、ないーーーー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………クハァ!?」

 

ガバっ!とベットから飛び起きた。はぁはぁと息が乱れる、心臓に手を当ててみれば恐ろしく早鐘を打っている。来ていた寝巻きはぐっしょりと寝汗で湿っている。ようやく落ち着きを取り戻した頃には既に時計を見れば既に三十分近くベットの上にいたらしい。汗で張り付いた寝巻きを脱ぎ捨て上半身裸のまま、着替えを持って部屋を出る。

二階建てのこの家は一階に居間があり、二階には各々の個室が設けられている。トイレは二階と一階に一つずつあるが、風呂は一階にしかない。風呂場へ着き服を洗濯機へ放り込み、風呂へと入る。

 

(よかった……ちゃんとある)

 

三月半ば過ぎの頃、ようやく天気も暖かくなり春らしい天気となりぽかぽかして来たが、今の彼ーーー『草薙(くさなぎ)(ゆう)』ーーーの身体は異常なまでの熱気を放っていた。水で体を流しているのに一向に熱気が引かない、身体から湯気が立ち上るほどだ。

自分の右腕、肩先から指先に至るまで動作を確認する。どこからどう見ても人の手にしか見えないそれを、まるで義手でもつけ始めた人の様に動作を何度も確認する。

ようやく熱も冷めた頃には既に八時を過ぎていた。早々に着替え、今に出るとそこには見知った顔二人がいた。

 

「やあ、優。 ずいぶん長く入っていたね」

 

「お邪魔してるよ優くん。 久しぶりだね」

 

最初に名前を呼んできたのはこの家の主人の一人にして、幅広い顔と人脈、そして女性関係に噂が絶えない我らが草薙優の義祖父、『草薙一郎(いちろう)』だ。敬語で話しかけてくれたのはそんな義祖父の旧知の仲の高松(たかまつ)先生だった。

 

「こんちは、高松さん。 二人してこんな朝っぱらから何飲んだんだよ、歳を考えろよ…」

 

「ははは、この歳になると流石に元気溌剌(はつらつ)に外出する気も起きなくなったね。 だからこうしてご招待に預かっているわけだよ」

 

「そういうことさ優。 僕は別にインドア派ってわけじゃないしね、用があればどこへだって行くさ」

 

朝の八時から酒を酌み交わす老人二人の言い分にため息しか出ない。台所へ戻り、義母に仕込まれたつまみを作る。この家に来て最初に習ったのが、義母の口に合う為の酒のつまみ作りだった。職業“女王様”の義母は滅多なことではこの家に帰ってこないが、帰ってきた場合必ずつまみを作らされる。

つまみを早々に作り終え居間へ運ぶと、待ってましたと言わんばかりに老人二人が盃に酌を注ぐ。グイッと貫禄のある飲み方をする老人二人に呆れた様にまたも溜息。

 

「それで、どうしていきなりイタリアへ行くんだい?」

 

そう切り出したのは高松先生だった。イタリア?なんの話をしているのだと優は義祖父、一郎へ視線を送る。

 

「いやね、昔の友人の忘れ物があってね、それを届けに行こうかとね」

 

「それって女か?」

 

そう聞いたのは優だった。一郎は答えることはなく、代わりに片方の目だけを瞬きし、それがウィンクだと二人は理解した。そして、そんな事をするということは間違い無く女がらみの案件だ。

草薙一郎は女誑しである。幾十、いやもしかしたら幾百の女性の影を持ち、その都度彼の妻、つまり優の義祖母は心労をためていたと言う。

仕事を辞めて悠々自適に暮らしているからといって、既に妻(義祖母)『草薙千代(ちよ)』が旅立って早数年。幾ら何でもと思わなくもなかった。

 

「君も知ってるはずだよ、『ルクレチア』さんだよ。 前にうちの大学にいた女性さ」

 

「な、なんでまたあの女の名前が……でも、ダメだよ一郎さんや。 千代さんとの約束忘れたわけじゃないだろう?」

 

「……あれたしか、空港に見送りに行かない約束じゃなかったかな?」

 

「おいおい、とぼけるんじゃない! 覚えてるくせにこういう時だけ年齢からくるボケのせいにするなこの色ボケジジイィ……!!」

 

白々しくもとぼけた様に言い張る一郎に語尾を荒くなる高松先生。グイッと酌を飲み、テーブルの上に置き注ぎ足す。

以前、優は食材の買い出しに荷物持ちとして一緒に出かけた。その帰り道、前から歩いてきた昔はさぞ美人だったろうと思われる熟女然とした美女、その美女ーーー畑山(はたけやま)さんと言うらしいーーは一郎の姿を見てはっと口元に手を当てそこからドラマみたいな展開でーーーー。

 

『い、一郎さん……』

 

『やぁ、矢鱈(やちる)さん。 久しぶりだね』

 

畑山さんを名前呼び、それに対してうっとりとした視線を一郎に送る畑山さん。なぜか世間話が始まり、そのまま畑山さんのご自宅ご案内になるところを優が一郎の手を引き事なきを得た。ぜぇぜぇと息を切らしながら優は

 

『なぜ買い物しに来ただけなのにラブコメが始まる!?』

 

と壮大に愚痴っていた。それを義妹に伝えると無言で家を出て行き、コンビニで一番スンゴォイ、アイスを買ってきてくれた。

 

 

そして話は現在は戻り。

 

「そもそもあんたイタリア語できないじゃないか、一郎さんや」

 

「なんとかなるさ、今までもそういう感じだったしね」

 

そうなのだ。草薙一郎はかつて民俗学者だった。世界中を股にかけてあちこちの伝統などの収集、調査をしていた。だが、当然だが一郎本人は辺境に住む先住民の言葉などわかるはずもないが、なぜか暫く一緒に行動を共にすると何故か(・・・)仲良くなり色々と便宜を図ってもらうらしい。不思議だ。

今回もそんなノリで今回も海を渡ろうとしている一郎にまたも溜息を漏らすのは優と高松先生。

 

「大事な品らしいしね、郵送で送って何かあったら大変だ」

 

「大事な品って…何を運ぶんだい」

 

「昔、大学の仲間達とで行った旅行で、二十人くらい怪死した事件があっただろう。 氏神(うじがみ)様の祟りがなんとかってさ」

 

「その話、詳しく」

 

祟りと聞いて優は聞き流していた老人二人の会話に注目する。そんな姿にチラッと目を配る一郎は微笑みながら語った。

昔、義祖父一郎が大学院生だった頃、仲間内で能登(のと)へ旅行に出かけた。楽しい旅行にみんな和気藹々(わきあいあい)と楽しみ騒いでいた。当然、当時若かった一郎はそれはそれはモテたらしい、異性にもそして同性の友人もたくさんいるらしい。その中に『ルクレチア・ゾラ』と言う美女がいた。『魔女』と字名でどこか遠目で見られていた彼女も一郎の誘いにのり旅行に参加した。

時間はそんな時に起きた、突如として人死にが出た、最初は誰がこんなことをしたんだと警察も出動して大騒ぎになったが、一人、また一人と死者が続出した。

山村の住人は祟りだと騒ぎ立て、そんな時ルクレチア・ゾラがふらりと出かけて一晩帰ってこなかった、次の日の朝ぐったりとした彼女が一郎へ「もう人死にはでない安心したまえ」と告げた、その宣言通り、それ以降人死には出なかった。

不思議な話であった。

 

「誰かが殺した殺人なら証拠の一つでもあっただろうけど、全員が心臓麻痺、まるで何かの映画みたいだね」

 

「いや、新世界の神なんてあるわけないだろ。 いたら速攻で話題になっているし」

 

真面目な話をしすぎたのかちょっと場を和まず為に冗談を言う一郎にツッコム優。だが、その瞳の奥は笑っていなかった。だが、もう何年も前のことなら心配無用だと斬り捨て茶をすする。

 

「で、一郎さんは昔あった女に会いに行く口実が欲しいわけか」

 

「いやいや、人聞きの悪いことを。 私は性別の壁、文化の壁、人種の壁を超えて友好を確かめに行くだけさ」

 

嘘だ、二人の心が一致した。

 

「因みにだが、その品ってなのはどんな代物なんだい?」

 

「俺も気になる」

 

そう二人に言われ隣に置いてあった包みをテーブルに置き結び目を解く。

 

「………っ」

 

中から出てきたのは石版。B5サイズの大きさの石版に稚拙な絵が彫られている。鎖で繋がった男、二羽の禿鷲、太陽と月と星々の絵、鎖とは聖者を縛り、天使を縛る物、太陽と月は叡智の象徴、星々はそれらを讃える者達。地に繋がれたら男、愚かにも天に聳える火を盗みし盗人にして我が義叔父(・・・)ここから導き出される答えはーーー。

 

「…っと」

 

どうやら無意識のうちに眼を使っていたようで、集中しすぎていたようだ。話が先に進んでいた。高松先生が宥めても変に頑固な一郎は行くことは決定だと言い張る。

 

(行かしていいものか?)

 

明らかにこの魔道具はヤバイ、とんでもなくヤヴァイ。普通の人間が使ったら、いや、例え魔術師やそれに連なる者たちが使ったところでその瞬間そいつの命は尽きる。

これほどの魔道具、一般人に、それも身内にしてくれた恩人に軽々しく渡していいものか?そう考えて、答えは決まった。これはきっと自分の役目だと。

 

「だからね一郎さん、千代さんとの約束で絶対にあんたを、あの女の処には行かせられないよ」

 

「けれどもう行くって返事を出してしまったんだ。千代さんへの不義理をするつもりはないよ。友人へ挨拶を兼ねての観光兼届け人をするだけでーー」

 

「でもやっぱりーーー」

 

「ーーーー俺が行くよ」

 

二人の会話を断ち切るように言葉を挟む。優のその発言に高松先生や一郎までも眼を丸くした。

 

「本気なんだね、優」

 

「勿論、婆さんとの約束事、友達との約束事、どちらも大切だけど、その両方を守る為にはどうしても人手が足りないだろう?」

 

「確かに。 でも優くん。 向こうはイタリアだ、日本とは何もかも違う文化と言葉の国だよ? 本当に平気かい?」

 

高松先生の心配はもっともだ。若干十五歳の幾らしっかり者で通っているとは言え子供であることには変わらない。自分たちの四分の一程度の歳の子供に果たして任せられるか、高松先生はそこを心配しているのだ。

 

「いいよ、任せたよ」

 

「おう」

 

「えっ!? ちょっーーー」

 

なんと一郎はアッサリと快諾。口を挟もうと高松先生の言葉が届く前に優は今を出て二階の自分の部屋へと向かった。一階に取り残された二人の老人はヒソヒソと話し出す。

 

「本当に大丈夫かい? 幾ら何でも一人旅だなんて……」

 

「平気さ、優はああ見えてふらっとどっかに出かけて一ヶ月、二ヶ月帰ってこなかったこともザラにあるからね」

 

「それは保護者としてどうなんだい?」

 

「大丈夫、優はあれでちゃんと帰ってくる家をわかってる子さ」

 

悪く言えば無頓着、言い方を変えれば放任主義。そんなこんなで、草薙優のイタリア行きが決まったのです。

 

 

 

 

 

 

 

日本の東京都文京区、根津(ねず)を離れ、イタリアへ行く為準備を始める。既に夜の七時を過ぎていた。

まず問題となるのが、義妹『草薙静花(しずか)』にどう言い訳してこの家を離れるか、だ。

 

「……何も言わず行くか」

 

それが一番いいと考えて、手が止まった。ぎぃぃーーと扉の開く音、後ろを振り返ると鬼の形相の小さな少女が立っていた。

 

「何やってんの、お義兄(にい)ちゃん?」

 

地獄の鬼も裸足で逃げ出す形相での優しい口調は体に悪い。優はゆっくりと旅行鞄から手を離し立ち上がり静花へ近づく。

優の身長は百八十五センチもある、対して静花の身長は優の胸元にようやく頭がぶつかる程度、子供と大人くらいの差がある。

 

「で、何やってんの? 旅行行くの? へぇそうなんだ、私になんの断りもなしで? へぇーーーーー」

 

怖い怖い。恐ろしく冷めた目で見上げてくる静花に咳払いをする。

 

「違うぞ静花。俺は今回、爺さんの名代として『真世(まよ)』さんの命令を受けて行かなきゃならないんだ」

 

『草薙真世(まよ)』、天職・“女王様”と恐れられる衰えを知らぬ草薙家に棲まう魔物だ。草薙優が知る中で“人間”では間違いなく最大級の危険人物。宴会好きで年末年始は必ず家に居ない。そもそも滅多なことでは家に来ない。女王様には子分がいっぱいですでに離婚したとは言え男達から“貢物(みつぎもの)”が絶えず、“永遠の女王(エターナル・クィーン)”の称号を与えられている(本人も了承済み)。

我らが母ーーー優からすれば義母だがーーのお言葉とあらば流石の怒りっぽい静花も黙るしかなかった。ちなみに優が義母をさん付けで呼ぶのはかつて“おばさん”と呼んだ時、酷い目に遭わされたから、それもう凄い目に………。

 

「とにかく! 俺は行かなきゃならないから、お土産期待してろよ」

 

「せっかく、私と出かけられるのにお母さんが余計なことするから、それとお爺ちゃんも」

 

出かけられるという言い方はまるで優が静花と出かけたいといったみたいに聞こえるが、あえてそこは無視をした。荷物を整理してアンティークショップで購入した木製トランクを手に持つ、目の前にいる静花の横を通り階段を目指す。

 

「それじゃあ、行ってくるよ」

 

「ちょっと待ってよ」

 

制止を呼びかけられ止まる優。振り返るとなぜか仁王立ちポーズで眉を顰めた静花の顔。はて、どうしたのかと疑問に思ってると。

 

「それお願いされたのって今日なんだよね、もうこんな時間だよ? この時期って家族連れが多いよね? 今日予約したら普通は明日とかになるんじゃないの?」

 

「………」

 

痛いところを突かれた。そもそも飛行機の予約などしてない。さらに言えば飛行機なんて乗らずにイタリア行けるしと現代人の考えとはかけ離れた感性を持ち始めていた優にはここから先の打開策が見つけられなかった。

 

「………」

 

「……」

 

「…………………」

 

「ねぇ、何かうまい言い訳行ったらどうなの優兄さん」

 

その瞬間走り出した、否、逃げ出した。勢いよく駆け出し階段を駆け下りる。ダンダンダン×2の雑音。

逃げる優と追う静花。階段から飛び玄関口にある靴を履かずに手に持って外へ逃走し暗い闇路へと逃げ込む。

 

「コラーーー!! まてーーー!!」

 

玄関前で叫ぶ義妹静花の声などもう聞こえない。一瞬にで姿を消してみせた義兄にふんだ!と戸を勢いよく閉めて鍵をかけてしまった。

 

「絶対ーーぜっぇええええええたい! 謝ってもゆるしてやるもんかぁーーーーーーー!!!!」

 

草薙家に絶叫が木霊する。

 

「優、帰ってきたら死ぬんじゃないかな?」

 

それを一郎は我関せずと聞き流し、前途多難の優の今後を心配するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イタリア北部、ミラノ。文化、経済、ファッションなど様々な物の流れが集う大都市。誰もが行き交う通りに面した喫茶店、そこに誰もが注目を浴びせる二人の男女がいた。

どちらもイタリア人、方や服装の上からでもわかる筋骨隆々の肉体と知的な顔立ちをした端正な顔立ちの男。やや歳がいってるがその美貌は若々しいままだった。

方や通りを行き交う人々を惹きつけてやまない美貌を放つ麗しき美少女。赤みがかった金髪が王冠のように頭から腰にベールのように伸びる、太陽に晒されて宝石のようにキラキラと輝く彼女の金色の髪は絹のように繊細で滑らかで風に煽られれば流れる様に舞う。

そんな彼女、イタリアが誇る天才児たる彼女は目の前の、自身の叔父にあたるイタリア“最高の騎士”に堂々たる宣言をする。

 

「ブランデッリ卿、私、『赤銅黒十字』の大騎士、『エリカ・ブランデッリ』は今回の『まつろわぬ神』調査の尖兵をお任せください」

 

堂々と、そして優雅に微笑みながら大騎士、エリカ・ブランデッリは自信に満ちた宣言を静かに口遊む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。