転性天使エクレール 作:シュークリーム
ぼくは雷に打たれて死んだ。
台風の日に外出したのがいけなかったのだろうか。でも予約しておいた新作ゲームをとりに行く予定があったので仕方がないと思う。……死んでしまった今になって、何に言い訳をしているのか分からないけれど。
そう、ぼくは死んだはずだった。それだというのにこうしてものごとを考えることができている。裸だけど。これは一体どういうことだろう。それにぼくは水槽の中に居る。治療用のカプセルか何かだろうか。死んだはずのぼくの身体が自由に動く。実はぼくは死んでいなかったのだろうか。兎に角、まずは水槽から出たい。息苦しさは感じないけれどなんだか変な感じがする。
ぼくが何とかして水槽から出ようとした瞬間、強烈な閃光が迸った。思わず目をつむってしまったけれど、その一瞬でガラスは粉々に砕け散った。ビーッビーッという警告音が流れる。なにか大変なことになりそう。
水は流れ出し、それとともに割れたガラスが水槽の外側に散乱している。水槽のあった部屋は暗く、数本の青い光のラインが天井を走っているのが見える程度だ。それなりの広さの部屋だが、ぼくが入っていた水槽以外のものは何もない。
しばらくして、どたどたと何かが走る音が聞こえてきたかと思うと、この部屋の扉が急に開かれた。
「良かった、目が覚めたんですね!」
と言ってきた。ぼくは目をぱちくりとさせて静止していた。ほんの数瞬だったかもしれないし、数分が経過していたかもしれない。その間に少女は、
「うるさかったですよね、警報止めますね」
ピッ
「部屋を明るくしますね。いきなりだと目がちかちかするかもしれませんけど安心してください」
ピッ
「いつまでも裸のままだと風邪を引いてしまいます。タオルと着られるものを用意しましたのでこれを着てください。補助は必要ですか?」
ピッと左手に装着しているリモコンのような装置を操作していく。最後の操作では地面から衣装掛けごと生えてきたのだけれど、いったいどういう原理だろうか。
ぼくは『いいえ』と声になるような、ならないような曖昧な意思表示しかできなかったけれど、ナース服の少女は分かりましたと後ろを向いた。今のうちに着替えよう。ジャージみたいな患者用の服……病衣っていうんだっけ、これ。女性用みたいだけれど……衣装掛けの隣に立っている鏡を見ると、金髪の女の子が立っていた。鏡に映るっているのはぼくだ。つまりこの女の子がぼく。膨らんだ胸。この身体、本当に女の子だ。ぼくは女の子だった……? まあいいか、後で聞こう。
「あの――」
特筆すべきこともなく着替え終わったのでナース服の少女に声をかける。
「あっ、終わりましたか?」
「はい。えっと――水槽を壊してしまってごめんなさい。ぼくが何かやってしまったみたいで……」
「ああ、それは構いませんよ。よくあることなので」
よくあることなのか。気を使ってそう言ってくれたのかな。それならそれで、いいのか?
「ここはどこなんですか?」
自分がどこにいるのか分からないなんて、まるで記憶喪失みたい。じゃあ、ぼくは誰? ……誰だ? ちょっとやばいかもしれない。
「ここは白桃総合病院です。私はナースのシャロ」
ここは病院だったのか。そんな感じはしていたけれど、どこかの研究施設だと言われた方がよりしっくりくる。少女はナースと名乗ったけれど、十代前半にしか見えないこの娘が正式な看護師っていうのもおかしいし。……尤も現在のぼくよりはいろいろと大きいけれど。そんなことを考えていると、少女はリモコン装置をぼくの方へ向ける。
「ちょっとスキャンしますね」
そしてその先端部から緑色の波が発射され、ぼくを通過していった。痛みはない。
少女は左腕の装置からキリキリと細長い紙切れを出力していた。どういう装置なんだろう。どんどん打ち出されていく文字列は、床に落ちて二回ほどとぐろを巻いてからやっと終わった。少女はその先頭を拾い上げて読む。
「あなたの名前は『エクレール』で間違いありませんか」
分からない。聞き覚えはあるような無いような。でも日本人につける名前じゃないよね。
「えっと、多分」
「曖昧ですね。では性別は『女(元男)』ということになっていますが、間違いありませんか」
「ちょっと待って、そんなこと書いてあるの?」
「違うのですか」
「いや……多分そう、なのかな」
「ならいいですね。よくあることなので」
よくあることなのか。
「年齢は9歳となっていますが、これも間違いはありませんか」
「ちょっと待って、9歳? 高校二年くらいだったような気が」
「それは前世ですね。よくあることです。肉体年齢は9歳で間違いないと思います」
「そうですか」
前世とは。よくあることなのか。
「身長は……といっても目覚めたばかりでは分かりませんよね、この中に間違いがあったら指摘してください」
そう言って、長い紙切れを押し付けてきた。
そこに書かれていた内容は、こう。
名前 Éclair
性別 女(元男)
年齢 9歳
身長 130.0cm
体重 30kg
誕生日 1月25日
星座 みずがめ座
B-W-H ……おっと、これは心の中にしまっておこう。他にも趣味・特技・性格診断・バトルスタイル等々、いろいろなことが記載されている。それにしても、一瞬のスキャンでここまでの情報が出てくるのはどういうことなんだろう。元々ぼくの存在がどこかのデータベースに乗っていた?
そうこうしている内に少女が左手の装置から電話を掛けていた。どうやら割れたガラスの清掃員を呼んでいるらしい。その節は申し訳ない。
「――では、よろしくお願いします。プツッ ……エクレールさん、どうですか。間違っているような個所はありませんでしたか」
「ぼくが見る限りでは相違ないです。本当にぼくのことなのかどうか自分でも分からないところはありますけれど」
「ならよかったです。そのうち慣れますよ。さて、目が覚めたのならいつまでもここにいるわけにはいきません。手続きをしに行きますよ」
「はい」
よく分からないままに少女ナースについていく。病室を出ると真っ白な廊下が続いていた。少女は部屋の入口にある機械にカードをかざし、扉をロックする。
今は他の部屋には用がないのであろうか、少女ナースはずんずんと進んでいく。途中の部屋から断末魔のような声だったり助けを求める声だったりが聞こえたけれど何があったのだろうか。
気がつけば病院の窓口についた。受付の係員に少女が話しかける。
「イバラちゃん、私これからこの子のメンバー登録に行って来るからよろしく。今日は戻らないかもしれないけど緊急の用事があったら呼んで」
「はい! いってらっしゃい、シャロ先生」
受付のお姉さんよりもシャロ少女の方が立場は上のようだ。ナースと事務員だから? いや、もっとくっきりと力関係が分かれているような……。というか先生って言った? でも当人はナースって言っていたよね。
外に出ると、夕焼けの空が一面に広がっていた。雲一つない快晴だけれど太陽になにか違和感がある。まあいいんだけど。
「どうぞ」
「どうも」
シャロ少女が桃色の車の後ろのドアを開けてくれたので、ありがたく後部座席に収まる。これ、誰の車?
「私の車ですよ」
「声に出ていましたか」
「顔に出ていました。私は自動車免許を取得していますよ。中型免許まで。ここでは見た目と年齢が一致しないのはよくあることです。シートベルトを締めてください。このご時世、些細なことでもすぐ違反取られますからね」
そう言って、シャロ少女は車を走らせ始めた。
ところでこれ、どこに向かっているのだろうか。
◇ ◇ ◇
「あの、シャロさん。シャロさんはお医者さんなんですか」
少し気になったことを尋ねてみる。ぼくが内心でどのように呼んでいても、目上の人には『さん』付けで呼んだ方がいいだろう。今のぼくは9歳の見た目だし。
「看護師の格好をした医者です。
都合ってなんのだよ。看護師やってる時点で医師免許は意味をなさないのでは? まだここの地域のことはよく分からない。
「着きましたよ。トリトン職業組合です」
「職業組合? ここで何をするんですか?」
組合の正面には手裏剣のマーク。うーん、和洋折衷しきれてない感がすごい。
「組合と言えばやることは一つ。職業の登録です」
「ほぇ?」
変な声出ちゃった。何をすればいいんだろう。
教会の大きな扉をシャロ少女が開けていく。中では緑の髪色の少女が一人で掃除をしていた。メイド服のようでもあり、魔女のローブのようでもある恰好をしている。
「こんにちは」
「お邪魔します」
お邪魔しますでもないか。でもここ雰囲気がアットホームだ。
「どーも、シャロさん。そっちの人の登録? いいね、久々の新人だね。やってけやってけー」
「初めまして、ぼくはエクレールといいます! よろしくお願いします」
「これはご丁寧にどうもー。フォー・リーフだよ。見ての通り組合の受付やってるー」
掃除も受付の仕事なのか、大変だな。
「今日は職業登録だね。新規の人は一か月? 二か月? まあしばらく来てないから期待しているよー」
「リーフ。不安にさせるようなことを言わないでください」
「事実だしー。じゃあエクレールちゃん、この用紙に記入して」
あれ、水晶玉触って終わりとかじゃないの。
「スキャンして情報を読み出したりしないんですか?」
「まさかー。そんなことができるのはそこのお姉さんだけだよー」
そうなのか。シャロさん何者なんだ。
記載するのは名前と性別、年齢。そして職業。職業とは。
「おや、なにかお困りですか」
手が止まっているとシャロさんが尋ねてきた。
「あの、職業って?」
「職業を知らない? つまりニートですか」
「ええっ!?」
女の子の身体になって連れてこられてニート扱いとは。学生だったんだから学生って書けばいいの?
「まあ、目覚めたばかりならそういった事例もありますね。リーフ。お願いできますか」
「えーいやだよー。この子見るからに完成度高いじゃん。私じゃ戦えないよー」
これは何の話だろう。
「誰しも初めはレベル1なのです。少し手合わせするくらいなら問題ないでしょう」
「んー、仕方ないなー」
よく分からないままに地下にある部屋に連れていかれる。道場のような場所で、天井にいくつもの照明が張り付いている。
「地下にこんな場所があるんですね」
ぼくがきょろきょろと辺りを見回していると、シャロさんの説明は続いていた。
「どこの組合にもありますよ。それで職業と言うのは、この世界を探索する際のバトルスタイルのようなものです。唯一無二のものもありますが、人に名乗るのが恥ずかしくないものにしてください」
バトルスタイルって、いったい何と戦うんだ。というか職業って自称なの?
「とりあえず、自身の体の動かし方を掴んでいきましょう。対戦ルールは練習モード。審判は私が務めます。負けても死んだりしないのでいろいろ試してみてください」
「お手柔らかに、よろしくー」
本当に、何がどうなっているの。
「それでは、始め!」
急展開すぎる。
「来ないのならこっちから行くよー。『カーネル・ショット』」
リーフさんがこちらへ手を向けると、そこから緑色の閃光が駆け抜ける。それはぼくの横を掠めると、壁に衝突し大きな爆発を起こした。
久しぶりにゆめにっきをダウンロードしてやりました。
やっぱりゆめにっきはいいですね。
もう発想が天才のそれ
ネオンの世界の住民を全員ころころしてみたけどやっぱりなにもなかったぜ!
カリンバ聞きながら執筆しようとして30秒でピンク・パンサーのテーマに変えた
音楽をつけっぱなしにしてイヤホンはそこらへんにころがっている
カリンバをBGMに小説を書いている人がいるならどんな作品でも評価10いれるわ
ゆめにっきはいいぞ
dream diary? なんのことやら。