GBF-L_ガンダムビルドファイターズ Lost   作:杉村 祐介

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GBF-L #016「固められた思い」

「ごめん……ありがとう、涼介」

「っしゃ! じゃあ気を取り直して、勝ちに行くぜぇ!」

 

 気合十分の涼介はバーニアを吹かす。それに対して、優しく肩に手をやることで抑える遊のガンダムMk-2。

 

「待って。レーダーには二人の敵が見えてる…あっちも合流したみたい」

「ならなおさら奇襲を掛けなきゃまずいじゃねーか!」

「それじゃきっと勝てない。だから、ちょっとやりたいことがあるんだけど」

 

 涼介は早る自分の感情をぐっと飲み込んだ。それに見合うほどの遊の真剣な表情に押されたのだ。

 

 涼介にとって遊は特別だった。ガンプラバトルの強さという意味で言えば魁斗やアイ、他のファイターも十分に強敵と呼べる存在だったが、遊はそのどれとも違う、特別な何かを持った、好敵手と呼ぶにふさわしい存在。だからこそ、焦りや苛立ちから強さを発揮できていない彼にイライラしたし、こうして肩を並べて戦うことが楽しい。

 

「……いいぜ。お前が言う作戦なら、やってみる価値ありそうだしな」

「ありがとう涼介。じゃあまず──」

 

 少年は仇敵ではなく、好敵手を前にして成長するのだ。

 

 

 

──ガンダム ビルドファイターズ ロスト──

 ~ 第十六話 固められた思い ~

 

 

 

 灼熱の日光が降り注ぐ荒野にぽつり、一つの影をつくるモビルスーツの姿。先程まで激しいちゃんばらを繰り広げていたレッドディスティニーが膝をついて待機状態にあった。

 それにゆっくりと、周囲を警戒しながら近づいてくる重鈍なモビルスーツ。武装の重さを引きずるように飛んできたセラヴィーガンダムだ。

 

「おい、なにラクしてんだお前は」

「トロいお前を待ってたんだよ。ったく相変わらずクソみたいな速度だな」

「近接バカのお前には分からんだろうさ」

 

 へいへい、とレッドディスティニーからの通信が返ってくる。彼等も烏合の衆というわけではない、悪態を付き合うほどに、仲の良さがにじみ出る。

 

「で、桃井アイはどうなった?」

「問題ない。あいつは拓海が相手してる」

「あー、拓海はタイマンつえーからな。俺のEXAMと互角ってんだからほんと」

「いい加減攻めるぞ。小坊相手に苦戦して援軍に行けなかっただなんて拓海に言い訳する気か」

「そだな。二対一の状態で狭い渓谷に飛び込んだらハメられるかって警戒したけど、お前の援護がありゃなんとかなるか」

「ああ」

 

 その時、一陣の風が吹いた。乾いた砂を巻き上げるそれは、呑気な空気を吹き飛ばして新たな幕開けを告げるようで。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「なぁ遊、本当にやるのか?」

「それ以外に勝てる方法が思いつけば、辞めるけど」

 

 渓谷の影の下で黒いMk-2が、バレーボールのレシーブをするかのように両手を揃えて腰前に構える。闇に溶けている機体の両目は深緑色の鈍い光をたぎらせて。

 

「そんなの簡単に思いつかねぇから、こんな無茶するんだろ」

 

 同じ影の中にある白いMk-2は、瓜二つの機体に向かい合う形で両足を前後に開く。

 

「僕が出ていったら、すぐに手順通りに」

「分かってるって。早くやろうぜ」

「うん……」

 

 今から行う作戦は自分で言い出したことだけれど、正直なところ成功するかどうかは分からない。成功率なんて見えてこない不安だらけの計画だ。それでも勝とうと思うならこの手段しか無い、そう思うほどに相手は強敵だ。きっと、きっと涼介なら自分の思い通りかそれ以上に善戦するだろう。自分が足を引っ張らなければ、この作戦は上手く行く。きっと。

 考えれば考えるほど、遊の頭は不安が間欠泉のように溢れ出す。だから今は、考えるのは辞めにしよう。

 

 見上げた空は両脇の大地に阻まれて狭い。それでも確かに明るい世界が広がっている。行くぞ、その世界へ羽ばたくんだ。

 

「──始めよう。勝つために」

「よっしゃ、来い!」

 

 白いMk-2が黒めがけて走り出す。そしてその右足を相棒の手に乗るように踏み込む。黒いMk-2がタイミングピッタリに、その手に乗った右足を、白いMk-2を跳ね上げる。

 飛び上がる遊の機体は、涼介のバネを身に受けて一直線に天を目指す。ランドセルは重りではない、夢を詰め込んだエネルギーパックだ。それに繋がっているバーニア全部が熱を放出し、目指すべき空へと手を伸ばす。

 

「……いくぞ、Mk-2」

 

 渓谷の影から飛び上がって、荒野に降り注ぐ太陽の直射日光を全身に浴びた白いMk-2。川の水流に濡れた装甲がさらに輝きを増す。それは地表を大きく超えて、二機の敵性モビルスーツを見下ろすまでの高度まで到達した。

 

「出てきやがった!」

 

 待ち構えていたレッドディスティニーはバイザーの奥に映すツインアイを緑に戻していた。それでも、EXAMを発動していなくても奴の格闘は遊にとってみれば脅威だ。

 

「なんだ、白い方かよ。面白くねぇが相手になってやるか」

「僕じゃ不満か!」

 

 見下げる相手に牽制のビームライフルを数発、上空から落下しながらの射撃をしてみる。

 

「ああ、不満だね。あっけなく死にそうでさ!」

 

 闘争本能むき出しなレッドディスティニーは、その緑のバイザーを輝かせて身を乗り出した。遊のライフルから打ち出されたビームの光を撫でるように躱して見せつけ、脚部に砂塵を巻き上げながら大地を滑る。その動きは、遊の不慣れな狙撃では捉えることは到底出来ない。

 

「やっぱりそうだよね……でも」

 

 牽制だから当たらなくていい、先刻の戦いで自分の無能さはありったけ見せつけたんだ。面白くない相手だからこそ、真っ先に倒しに来るだろう。それでいい、僕は囮だ。

 当たらない射撃を止めて、近づいてくるディスティニーを迎撃するために遊のMk-2もまた、前面に大きく突き出した左腕のシールドで身を守りながら、震える右腕でサーベルを構える。

 

「こい、相手になってやる」

 

 落下する速度に合わせて高まる心拍数を、遊はその小さな全身にビリビリと走る電流のように感じていた。

 

「雑魚が調子に乗りやがって。大輝!こいつは俺が仕留める、黒いMk-2は任せたぞ!」

「了解したよ」

 

 ディスティニーの連絡を受けたセラヴィーがその首をもたげる。仲間に言われたとおり、ターゲットは涼介の手繰る黒いMk-2だ。砲撃手たるその重厚なモビルスーツには、通常のそれとは別格の索敵システムとレーダーが備わっている。当然のごとく渓谷の影に潜んでいたそれのは、看過されることなく照準に収められて。

 

「そこか」

 

 身の丈以上の長さを誇る背中から肩口を通して伸びたビームキャノンが二門そろって唸りを上げた。たった二つの銃口から吹き出た光は、荒野の大地を抉りながら駆け抜け、狙いすました一撃を相手に御見舞した。

 

 

 

 ──はずだった。

 

「やっと試合開始の合図が来たぜっ!」

 

 涼介の持つ天賦の才能か、天性の直感か。当たれば必死のビームキャノンを、やすやすと回避してみせ、さらにそれが着弾した爆風を背に受けて加速する。ただ眼前の敵を屠らんと、前に、ただひたすらに前に。

 

「そんな真っ直ぐに走ってきたら、ただの的だ」

 

 セラヴィーは先程撃ち損じた長身ビーム砲を冷却させるために、こんどは腰と背面のキャノン砲を展開し、再び黒いMk-2へと唸らせる。

 

「そんな真っ直ぐなビームなんて、ただのビームだ!」

 

 四つの砲塔から時間差をもって繰り出された球体の熱源も、それが狙うべき敵を傷つけることも出来ず、ただ地面を爆発させるばかり。黒いMk-2は踊るようにかいくぐって距離を詰める。

 

「たかだか二回ほど砲撃を回避したところで、図に乗るなよ」

 

 そう言い放ったセラヴィーが靴裏のアンカーを地面に突き刺し、冷却もリチャージも済んだ長身の砲塔をはじめ、両腕に握った銃剣を二丁、肩口に二門、腰そして脚部に装備された砲、合計十個にもおよぶ銃口の一斉掃射の構え。対軍砲撃形態、全てのセンサーもフル稼働し、眼前の黒いMk-2──それどころか、その周囲一体、己の前方を扇状に広げたその全てを焦土と変えるほどの火砲が、涼介一体に向けられている。

 

「これで回避は出来るはずもない!」

 

 仲間のピンチに駆けつけようと、遊が機体を向ける。

 

「涼介!」

「おっと、よそ見する余裕なんてねぇだろ」

 

 レッドディスティニーのビームサーベルが、間一髪、遊の白いMk-2を削り取る前にシールドにぶつかった。弾ける閃光、押し込まれる機体。遊が涼介の援護に行きたくても到底向かえる状況ではない。

 

「この!」

 

 乱暴にビームサーベルを振るう白いMk-2。だがその軌道は初心者のそれで、何百回と戦いを重ねてきた年上に届くはずもなく、簡単に切り払われてしまう。

 

「ざっこ。お前が闘技場のメンバーだってんだから笑っちゃうぜ。あっちの黒い方がまだ少しは楽しく戦えそうだったけど──」

 

 ま、いいだろう。そう吐き捨てたレッドディスティニーのファイターが、最後の一太刀と言わんばかりにサーベルを振り上げる。

 

「……それは、どうかな!」

 

 白いMk-2はその手に握られたビームサーベルで地面を擦り上げた。当然のごとく大地を焦がし、乾いた土煙が撒い散って。それは眼前のレッドディスティニーにダメージは微塵も与えない。代わりにその目を、機体のレーダーではなくパイロットの視界を奪った。

 

「こいつ!?」

 

 たじろぐディスティニーを尻目に、白いMk-2はサーベルを投げ捨てながら砂塵を潜り抜けて進む。

 ああ、言われたとおり自分の実力は涼介よりも弱い。あの日涼介のバンシィに勝てたのが自分でも不思議なくらいに、その差はハッキリと分かりきっていることだ。けれど涼介は「お前なら使いこなせる、お前なら絶対強くなれる」と言ってくれた。だからこそ、その期待に答えよう。自分の出来ることをやろう。

 Mk-2というガンプラはストライクフリーダムに比べてフットワークに軽い機体ではない。けれど関節の伸びがいい、動きが落ち着いている。射撃の安定感だって違うし、鋭角に動くような回避は苦手でも、より人間に近い滑らかな動作が向いている。だからこの一撃は、ストライクフリーダムには出来ない、ガンダムMk-2にしか出来ない最後の一撃。

 遊の本当の狙いはレッドディスティニーではない。セラヴィーが足を止めて身動きをとらなくなった、回避行動ができなくなったその瞬間を最初から待っていた。腰裏にマウントしていたライフルを持ち、滑るように片膝をついて上半身を安定させる。左手でフォアグリップをしっかりと握り、右手のトリガーを引き絞る。

 

「当たれ──」

「させるか!」

 

 刹那、飛び込んできた赤い眼光のレッドディスティニーが、その右腕のビームサーベルを白いMk-2に叩きつける。だがわずかに遅い。ライフルからはすでに光の筋が伸びた後で。

 遊が残した光の筋は、足を止めて動けないセラヴィーに吸い込まれるように突き進む。それは確実にセラヴィーの脚部へ直撃した。たちまち燃え上がるセラヴィー、だがそれは単に装甲に直撃しただけで、姿勢を崩すほどの威力すら無く──。

 

「ごめん涼介、あとは頼んだよ!」

 

 そう言い残して、遊の画面は一気に真っ赤に燃え上がり、派手な爆発音とエフェクトを残して消える。この戦い、僕の力だけでは確実に勝てない。けれど涼介なら、きっと。

 

 

 

「──おうよ、任された!」

 

 止まらない。もう止められない。遊を失って孤立した涼介はセラヴィーに向かって突き進むのみで、そんな黒いMk-2へ向けたセラヴィーの砲口はエネルギーを溜めに溜めて、はちきれんばかりの熱量を蓄えて。

 

「このセラヴィー、白い方の不意打ち程度で止まる機体じゃない!」

 

 チャージの一時停止、そしてスロットの変更、特殊システム選択。見事な手さばきで武装が変更され、選ばれたそれはガンダム00の特殊兵装。プラフスキー粒子よりもより鮮やかで認知性の高いエメラルドグリーンの即時隔壁、GNフィールド。

 

「そう簡単に、パチ組のガンプラがこのGNフィールドを抜けられると思うな!」

「言いたいことはそれだけかぁ!?」

 

 黒いMk-2が肩口からビームサーベルを抜き、その機体の勢いを殺すことなく問答無用で新緑色のバリアに向かって振り下ろす。互いのエネルギーは反作用を発生させ、粒子がぶつかりあって飛び散る様はまるで火花のようで。

 

「バリアがなんだってんだ!」

 

 Mk-2の関節が悲鳴をあげる。だがそれが事切れるよりも前に、球体だったGNフィールドが歪み、ズブズブとビームサーベルを飲み込んでいく。否、ビームサーベルがGNフィールドを溶かしていく。

 

「ばかな、GNフィールドがただのサーベルに──」

「このゲームにはなぁ、完全無敵なんてもんはないんだよ!」

 

 ぶつかり合う粒子の火花はより一層輝きを増して、辺り一面に激しく散って消えていく。GNフィールドへ食い込んでいくビームサーベルが装甲へ到達するのにはそう時間もかからず。ものの数秒でそれは袈裟斬りに振り下ろされ、矢継ぎ早に振り上げられた逆袈裟のニノ太刀によって、GNフィールドはかち割れ、主であるセラヴィーガンダムの装甲をいともたやすく両断した。

 

 

 

 だが戦いはそれで終わるわけではない。

 

「GNフィールドをただのサーベルなんかでかち割るなんてな。白い雑魚より、やっぱ黒い方が倒し甲斐のある敵じゃねーか!」

 

 レッドディスティニーが土煙を上げて大地を駆ける。余韻に浸る暇もなく、涼介のMk-2は身を翻して猛進する敵影をモニターに定めた。

 

「遊が雑魚だってか!?」

「ああそうさ、EXAMを発動してないこいつでもボッコボコにできるくらい弱いやつだったのは、お前も知ってのとおりだ」

 

 そう言ってスロットを回し、再びEXAMシステムを起動させる。

 

「お前らが渓谷の下でちんたらしてる間にリロードは済ませておいた。さぁこっからが本当の勝負だ!」

 

 迫る赤いバイザー。その仮面の下に隠れた表情から、これからの戦いへの期待と己の勝利への慢心で満ち満ちた笑みが溢れる。だが余裕と油断は表裏一体、勝利と敗北は雲泥万里。最後まで戦うことを諦めない者こそが真の勝者となる。

 

「そいつはどうかなっ!?」

 

 激突。二対のビームサーベルが交わり一層激しく輝く。しかしそれもつかの間、閃光に照らされた黒いMk-2がその刃を力任せに振り抜き、レッドディスティニーのビームサーベルを強引に弾き飛ばしたかと思えば、そのままショルダータックルでその赤い機体を突き飛ばす。ぐらり、レッドディスティニーは体勢を崩したかと思えば、それの関節が煙を上げて崩落するように倒れる。

 

 機体の残存粒子が尽きたわけではない、EXAMはさっき発動させたばかりだ。なのになぜだ。立ち上がることもままならなず、膝が震え肘から先もピクリともせず。まるで筋が絶たれたように、糸が絡まって切れた操り人形のようにだらんとして動かない。

 

「まさか関節が、ポリキャップがダメになったのか」

「そのとおりだよ!」

 

 敗北判定を貰って画面がブラックアウトしていた遊が、その瞳に残った並々ならぬ闘志を見せつつ言った。

 

「太陽に照らされ続ける荒野に長時間いればガンプラに熱が溜まる……そんな状態で何度もEXAMシステムを使って戦ったら、関節部のポリキャップがドロドロになって、ただじゃ済まないでしょ!」

「太陽に焼かれていたのはお前たちも同じ──」

「僕達のガンプラが平気なのは、涼介が僕の頭を冷やすついでに、渓谷の川に突き落としてくれたからだ!」

 

 涼介のMk-2とレッドディスティニーの単騎決戦ならば涼介にも勝ち目はあるが、セラヴィーの援護射撃がどうしようにもいかない。遊はMk-2の扱いに慣れてきたとはいえセラヴィーとディスティニーどちらも足止めすらままならない実力だ。だからこそ、太陽と自機の熱によって自爆する可能性があるディスティニーを後回しにして、セラヴィーを遊の犠牲を払ってでも倒すという決断に達した。

 そんな不確定な作戦があるか、と叫ぶ声が上がったが、この二人はそんな馬鹿な作戦に自分たちの勝敗を賭けたのだ。

 

「これがお前がさんざん馬鹿にした奴が考えた、最高の作戦だ!」

 

 飛び上がった黒いMk-2の影がレッドディスティニーを覆い隠したかと思えば、直後。その手に握るビームサーベルが、その赤い胸部装甲を貫いて焼いた。

 

 

 

『Battle ended.』

 

 セルリアンブルーに彩られた粒子が、楽しかったパーティを終えて帰っていく子どもたちのように散っていく。彼等が次にパーティを開くのはそう遠くはないだろうが、今はまだこの戦いの余韻に浸っていたい。勝った嬉しさも負けた悲しみも、それらはきっと粒子がふわりと風に乗せて運んでくれるだろう。

 

「涼介──」

「やったぜ遊、お前の作戦に乗って正解だった!」

 

 屈託のない笑顔で遊に向けて掌を見せる涼介。その意味はすぐに伝わって、遊も言葉の代わりに左手を広げて。パチンと息の合ったハイタッチが響いた。

 

「で、バトル終了したってことは山田も……」

「当然でしょ、あたしが負けるとでも思ってたの」

 

 遊と涼介よりも早くに決着をつけていたのか、落ち着いた表情で答えるアイの姿が。

 

「俺達の援護に来なかったから、てっきりくたばってるのかと思ったぜ」

「生き残ったのが黒田じゃなくて遊だったら、すぐにでも援護に行ったわよ」

「それは俺が一人でも勝てるくらい強いって意味で?」

「あんたは潰れてもゴキブリみたいに這い上がってくるって意味よ!」

「もう、喧嘩はだめだよ二人とも」

 

 遊はあわてて仲裁に入るが、その直後、そんな必要もなかったなと安堵する。彼らの表情にはうっすらと勝利の喜びを分かち合う笑顔が見て取れたから。

 

 

 

「ちっ……」

 

 舌打ちするのは、レッドディスティニーを操っていたファイターで。

 

「なんか白けたわ、俺は帰る」

 

 背を向けた中学生に「待って」と引き止めそうになった遊は、それをすんでのところで飲み込んだ。ああ、本当は戦えたことに感謝もしたし、再び戦いたいと、今度は真剣勝負をやってみたいとも思った。だが負けた相手の気持ちを考えてみれば、そんなことを勝った側から言えるわけもなく。さらに言えば、ディスティニーもMk-2も、この戦いで大なり小なり壊れてしまって。

 そんな状態を見てしまうと、ガンプラバトルは誰しもが楽しいと笑いあえるような遊びじゃないのだと、否が応でも思い知らされる。

 

「どしたんだよ遊」

 

 表情を伺ってくる涼介に自分の本心をさとられまいとした遊は、とっさにごまかしの言葉を重ねる。

 

「あ、いや……涼介から借りたガンプラ、壊しちゃったから」

「あー、それな」

 

 涼介は少し考えたフリをして、答える。

 

「遊が持っててくれよ。俺が持って帰っても、弟になんて言えばいいかわかんねーからさ」

「えっ、でも」

 

 返事に戸惑った遊を置いていくように、「そいつを頼んだぜ」と言い残して、涼介もそそくさとゲームセンターから駆け出していく。

 

「何よあいつ……ほんと騒動しか持ってこなかったじゃない」

「そうだね」

 

 悪態をつくアイに同意もしない相槌を打つ。風のように現れて、風のように去っていった少年の背中は、遊には少し輝いて見えた。

 

「まぁいっか。ガンプラバトルは想定外だったけど、黒田のおかげで遊も元気になったみたいだし」

「アイちゃん──」

「言わなくても分かる。また闘技場で戦ってくれるんでしょ? けど今日はもう帰ろっか。また今度、ね」

 

 アイもまた「急だけど、あたしはやることが出来たから」と言い残して、バトルシステムから遠のく。次に彼女に会えるとしたら、闘技場へ行かなければならないのか。気が重い、というほどではない。けれど複雑だ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 魁斗に奪われた愛機ロストフリーダム、今日の戦い、そしてずっと前から憧れていたガンプラバトルという遊び。点が一つ一つ結ばれて筋道を立てるように繋がっていく。

 戦えば戦うほどに壊れていくガンプラバトルは、誰しもが楽しむことは不可能なんだと遊は感じた。けれど同時に、涼介が自分を信じてくれたように、お互いを理解して励ましあって、腕を競い合うことは楽しいことだと思った。魁斗にリベンジも果たしたい。そして同時に、涼介とも再び戦いたい。借り物ではない自分の機体で──

 

「やっぱり、取り戻さなきゃ」

 

 敗北して奪われたロストフリーダムを、自分の愛機をこの手にもう一度。その願いを叶えるために、その手でもう一度掴むために、再び戦うための剣が必要だ。ロストフリーダムを取り戻すための、新たなロストフリーダムが。

 

 少年は小さくとも固い決意を胸に、一人、帰路を踏みしめた。

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