GBF-L_ガンダムビルドファイターズ Lost   作:杉村 祐介

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ロストフリーダムを取り戻すためのロストフリーダム
HGCEフリーダムをベースにアームドアーマーを搭載した姿
純粋な完成度の強化、兵装の削減により操縦が簡単になり
直感的な操作を可能としたガンプラ


GBF-L #019「問われた意義」

 外は夏空に照らされてきっと暑いのだろう。だがクーラーの効いたこの室内では、そんな事どうでも良かった。外に出ればたちまち熱中症になってしまいそうな服装でも、家の中なら快適なものだ。

 彼女のトレードマークとも言えたポニーテールは今日は不在で、その長い髪は重力に引かれて垂れ下がるのみ。薄手の布地で作られた紺色のワンピースはその肌を手首まで覆い、襟元のリボンが小さく主張するだけの味気無さ。髪を留めるシュシュも、派手なリストバンドも、しばらくはおやすみだ。

 

 コンコン、部屋の扉がノックされる。

 

「藍、ただいま。今帰ったんだ、顔を見せておくれ」

「パパ、どうぞ入って」

 

 開いた扉の先にはスーツ姿の男が一人。四角い淵のメガネ、整われた髭。想像するに易い四十代ほどの、世間的には知的なおじ様というルックスだろうか。そんな彼は、幼い彼女を見ると一目散に駆け寄って抱きしめる。

 

「元気にしてたか。出張中寂しい思いをさせて済まなかったな」

「おかえりなさい、パパ」

 

 アイはこの男を──己が父親をやさしく抱きしめた。

 

 

 

──ガンダム ビルドファイターズ ロスト──

 ~ 第十九話 問われた意義 ~

 

 

 

『Battle start!』

 

 バトルシステムの掛け声で一斉に飛び出した三機のガンプラ。眼下一体は木々で埋め尽くされ、頭上は闇夜に覆われている。索敵の難しい環境に投げ出されたファイターたちは、レーダーと己の直感を頼りに敵を探る。

 夜空を飛ぶ遊のロストフリーダムは索敵も半分に、その機体性能を手探りで感じていた。

 

「……すごい、前のよりずっと早いし、扱いやすい」

 

 前の、とは奪われたロストフリーダムのことでもあったが、きっとガンダムMk-2のことでもあるだろう。重たい挙動のそれらから一変して、フリーダムをベースにしたこの搭乗機は基礎スペックが手応えで分かるほど段違いだった。ちょうど直線移動に長けていたが小回りの苦手なストフリと、精密な動きは出来ても瞬発力に欠けたMk-2の良いところを併せ持ったようなマニューバは、操縦者の想像としている所の上を行っていた。

 それに加えて武装の削減、簡略化でスロット変更も残弾把握も容易になっている。今まで何度もイメージを重ねてきた結果の判断だが、実際に初めて動かすまでは不安があった。しかしそれも昔、今はこうして自信満々に操縦できる。

 夜風を抜けて疾走る漆黒の機体は、軽快に準備運動のステップを刻む。

 

「これなら!」

 

 これなら魁斗のジャスティスとも互角に、それ以上に渡り合える。遊は自信をさらに強く持って、背面バーニアの火を強く灯した。

 

 

 

 だが、そう思い通りに上手く行く話でもなく。

 

「うおおおおーっ!!」

 

 警告。音と光のアラートで知らされた危機に素早く反応する。急制動をかけて機体を静止し、流れるようにバックステップ。ただ迫り来るビームライフルを回避するための動作だが、それだけでも心地よい。

 その気持ちいい感覚を振り払いながら、向けられた銃口と殺意に目をやる。

 

「遊、まずはお前だ!」

「涼介……」

 

 眼下の森林に潜った闇夜に染まるMk-2。木々の間を縫って進みながらビームライフルを天空へと射出する。閃光は暗闇を、黒い装甲を照らす。照らすだけで決して当たりはしない。ロストフリーダムは無闇矢鱈に投げられたそれを悠々と、やすやすと抜けてさらに天を進んだ。

 

「やめてくれ。涼介のガンプラは壊したくない!」

「俺とは戦わないってのか!?」

 

 涼介には、遊が背中を向けて逃げる卑怯者のように見えただろう。その事実が、強さに恐れをなして逃げ出すそれでもなく、対策を立てるために距離を開くそれでもなく、雑魚にかまっている余裕はないとあしらわれる対応に見えただろう。涼介は自分がそれほど強い存在だという驕りは無かった。だがそれでも、対戦相手として認められていない事実は、遊をライバルとして見ていた彼にとってそれは、衝撃的で許されない態度だった。だからこそ、

 

「壊したくない──?」

 

 屈むMk-2。その柔軟で精強な四肢をバネにして、アスリートのように飛び上がる鉄の塊。シールドも捨て、右腕のライフルを放ちながら、高く飛んでいるロストフリーダムにめいいっぱい近づく。

 

「考えないのかよ、自分のが壊されるってことを!」

 

 空いた左腕は流れるように背面サーベルを握り、敵機と交わるその瞬間にまばゆい刃を発振させながら振り下ろす。それを遊は、ロストフリーダムは左腕のビームトンファーで受け止めて。

 

「やめろって言ってるだろ!?」

 

 剣を弾いたかと思えば、ロストフリーダムの空いた右手がMk-2の手首を掴んで、機体重量をものともしない推力差を見せつけるように一回転、背負投のように遠心力と重力を味方に、舞い上がった鉄塊を再び地面に打ち落とす。

 なぎ倒される木々、舞い上がる土煙。叩きつけられたMk-2のツインアイはそれでもなお、ファイターとしての意地で煮えたぎる。ロストフリーダムの右腕、ビームスマートガンで追撃されない事実がより一層神経を逆撫でした。相手にされていないということが嫌でも分かった。

 

「どうした、右腕のゴツい武器は飾りかよ?」

 

 悪態をつきながら、木の葉と砂土で汚れに汚れた涼介が再び飛び上がろうとする。だが先程の一撃で関節が折れたのだろうか、足を滑らせて転倒する。

 

「邪魔しないでよ、俺は魁斗と勝負したいだけなんだ」

「ふざけんな!」

 

 冷静な遊とは裏腹に、片足を引きずってもなお立ち上がろうとする涼介の熱は収まらず。

 

「ふざけんな……俺との勝負はしねえってのか」

「今は必要じゃないだろ」

「ガンプラバトルで、ファイターとして、向かい合った! それ以外に戦う理由がいるのかよ!」

 

 震える機体で、それでも重力に屈しまいと立ち上がり、天を見上げて闘志を滾らせる。

 

「ガンプラバトルに言い訳を持ってくんなよ!」

 

 

 

「そうだね。ガンプラバトルに言い訳は持ってきちゃダメだよね」

 

 二機に割って入る警告音、無数の熱量が空を舞い襲いかかる。遊はそれを難なく回避したが、満身創痍、片足を壊した涼介のMk-2はもろに被弾し、頭部と右腕を射抜かれる。

 

「このビーム……魁斗、まさか!?」

 

 予想は的中した。眼下のMk-2から目を離し、介入してきた敵機体をモニターに捉える遊。考えたくなかったが、見えてしまった現実からは逃れられない。

 黒いボディに赤い翼をまとう魁斗の機体は、不敵に笑ったように見えた。

 

「黒田が悪いんだぞ、僕を除け者にして長谷川と遊んでるから……。こうやって不意打ちされても、文句は言えないよな」

 

 まばゆい光に視界を奪われたかと思えば、目を開けば、残されたのは一筋の焼け野原で。

 金色のサイコフレームを煌めかせながら、その異形の腕を持ち上げて。赤い翼が舞い踊り、腰のレールガンと腹部、そして頭部の砲門が唸る。ハイマットフルバースト、全てを破壊せんと放たれる、かのガンプラの象徴。

 遊の目の前に佇むモビルスーツは、まさしく自分が作ったロストフリーダムだった。

 

「この機体、出来は悪いし機体バランスも不釣り合いだけど……悪くない火力だな。こいつは楽しめそうだ」

「魁斗ぉっ!」

 

 怒りと共に爆発するかのように加速した遊が、その右腕を展開してビームスマートガンを放つ。迫りくる紫の閃光を魁斗は横へステップして躱し、返す手で同じく右腕のスマートガンを照射する。遊は直進する速度を殺すことなく、閃光をポールに見立ててバレルロール、物の見事に螺旋状に回避すると、ものの数秒で肉薄、左腕のヴァイブレーションネイルが唸り、振り下ろされた。

 魁斗がそれを紙一重で躱すも、空振った勢いをそのままに繰り出される左足での踵落とし。だが同じ異形の左腕の甲で受け止められ、鉄と鉄のぶつかり合う鈍い音が響くばかりで。

 

「なんでそれを使ってる!?」

「わからないのか、馬鹿なやつだ!」

 

 踵落としを受け止めたまま、魁斗のロストフリーダムがレールガンを展開するも、遊は右足で機体を蹴り飛ばして距離を開ける。体勢を崩したそれは空中へ虚しく線を描く。

 だが終わらない。八機ものドラグーンが一斉に動き出し遊のロストフリーダムに迫る。それを縫うように回避して、再び距離を詰めようと試みる遊。右腕のスマートガンを格納したその手で腰のサーベルを抜刀すると、棒立ちの敵へと猛進する。

 サーベルを握った右腕を振れば、魁斗のロストフリーダムは左腕のビームトンファーを展開して受け止める。散る火花、灯りに照らされる鏡に映ったかのような両者。

 

「理由が知りたいなら答えてやるよ」

 

 魁斗がモニター回線まで開いて言った。

 

「僕のジャスティスに傷をつけた機体ってのに興味があったんだよ。一体どれほどのガンプラなんだろう、ってね。それに」

 

 続けて彼は言った。口元は笑いながら、目は殺意を満たして。

 

「負けた奴のガンプラを奪うのがアイちゃんの決めたルールなんだ、僕が使って当然だろう!」

「こいつ──」

 

 目の前にいるロストフリーダムは確かに取り戻したいものだ。だというのに、倒さなければ取り戻せないのだ。宿敵である魁斗に操られ、敵として立ちはだかるそれを一刻も早く解放しなければならない。だが愛機を傷つけて取り戻したところで何の意味がある。

 

「残念だったな、お前はこれを取り返せないよ。今僕に負けるか、こいつを壊すか。壊せないよなぁ、取り返したいんだもの!」

「くそ、くそっ……!」

 

 鍔迫り合いが続く両者。魁斗の機体が左腕を押し込む。一瞬その手を強く出そうとも思ったが、敵がわざと力を緩めたらどうなる、と思考を巡らせてしまった。当然のようにビームサーベルは魁斗の機体を切り裂くだろう。それは……ダメだ。

 遊のロストフリーダムは身を引いて回避した。傷つけられない。攻撃する手が緩む。それが壊れる様を見たくない。そう思うがゆえに出るに出れない。

 

 

 

 直後、どっと溢れ出す朱いプラフスキー粒子。それは遊のロストフリーダムではなく、魁斗が操るそれから発せられるものだった。

 

「ああ、こいつは気持ちがいい。ぶっちゃけ負けてもいいけど、負ける気がしないな。なんでも壊せそうだ!」

 

 朱い粒子を纏ったロストフリーダムは、より一層キレのある動きで遊に迫った。左腕の爪が振り下ろされるのを間一髪で回避したと思えば、ドラグーンによる挟撃に狙われ、それをいなせば今度はレールガンが。身体を捻って回避してもドラグーンや射撃が矢継ぎ早に飛んでくる。それに対して遊は何度も、何度も回避するしかできず。

 

「ほら、もっと逃げろよ。走れよ。何度も背中を僕に見せて、情けない声を聞かせてくれよ!」

「魁斗、お前っ……!」

 

 悔しさで心が一杯になったが、止まないビームの雨にただ逃げ回るより他はなかった。怒りで心が一杯になったが、それでも遊にはどうすることもできなかった。

 

「さぁもっと、もっとだ──」

 

 

 

──お前は──

 

 ガンと頭を殴られるような衝撃に、魁斗はその手を止めた。

 

「……誰だ!?」

 

 

 

──お前は 何を望む──

 

「うるさい、黙れ!」

「どうしたんだ魁斗、何か聞こえるのか!?」

 

 突然止んだ攻撃に驚いた遊も動きを止める。

 静寂。だが魁斗はそれを静かだとは思っていない。

 

「なんなんだ、一体!?」

 

──お前は 何を望む──

 

「誰だよ、何だよこれ」

 

──私は──

 

「黙れ、黙れっ!」

 

──私は 全ての破壊を──

 

「喋るなあああーっ!」

 

 

 

 魁斗の叫び声だけが闘技場に反響した。バトルシステムも、その中にある機体も音を発さず、戦いを見ていたファイターたちも息を飲んで見ているだけで。その異質さに皆、圧されていた。

 朱い粒子がロストフリーダムを飲み込む。周囲の、まだセルリアンブルーだった粒子までの飲み込んでいく。それはさっきまでとは別人のように、ロストフリーダムを操り人形のように不気味に不格好に動かすと、そこにいる遊の機体をギロリと睨む。

 

「──ゔぉえっ」

 

 気持ちの悪い声とも音とも分からないものが聞こえた。直前まで叫び声を上げていた魁斗の足元に、吐瀉物が撒き散らされていた。

 

「かい、と!?」

 

 急変した体調に驚いた遊が声を荒げた。にもかかわらず直後、魁斗の手繰るロストフリーダムが動き出す。

 

「長谷川っ、あんたは……あんただけはっ!」

 

 朱い粒子はロストフリーダムを台風の目のように覆い、吹きすさぶ嵐のように遊の機体へと打ち付けた。それは殺意と怒りと悲しみを混ぜたような鋭い刃物のようで、飲まれてしまいそうな感情の波のようで。ただ立っているだけでも画面はノイズで荒れに荒れ、音声は雑音で満たされる。

 

「あんただけは、許さないっ!」

 

 魁斗の機体が暴走を始める。それは虚空をビームで焼き、無をサーベルで切り裂いた。もはや遊の姿など見えていない。それは別の、見えない何かと戦っているような、見えない何かに抗っているかのような、そんな気さえした。

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