転生したらツアレだったんだが………   作:シーボーギウム

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前回は申し訳ございませんでした。
という訳で花弁です。
あそこまで不評だとは思っていませんでした。
今後の様々な展開を違和感なく進める為にも必要な話な為書き直し等はしませんが、急な精神的BL展開でご不快な思いをさせてしまって申し訳ございませんでした。
有難いことに前回のあれを抜きにすれば面白いという感想をいくつか頂けたので、他の描写で挽回していきたいと思っております。
よろしければ今後もこの作品をよろしくお願いします。



茶番と戦士長

 

 

 キングク○ムゾン!!

 

 という訳で1年程経った。

 あの日の翌日から、私はグレイル、あと何故かシルキーを鍛えている。具体的に言うと森に蔓延る魑魅魍魎共を殺し回っているだけだ。

 

「なあ………」

「うん?」

 

 グレイルがオーガを斬り殺しながら、何やら眉をひそめて問いかけてくる。ちなみにシルキーは少し離れた所で無詠唱化かつ三重化した『雷撃(ライトニング)』を周囲にばら蒔いている。

 

「これ、森の生態系とか大丈夫なのか………?」

「………………さぁ?」

「おい」

 

 適当な事言ってはいるが、多分大丈夫だ。私とグレイルに関して言えば逃げるのならわざわざそれを追ってまで殺しはしていない。シルキーもゴブリンを除けば私達と同じだ。与える影響があるとすれば、街道に現れるモンスターが減る程度だ。

 

「ゴブリンシネェェェェ!!!!」

「えぇ…………」

「あいつあんなキャラだっけ…………?」

 

 細剣片手に攻撃魔法を周囲にばら撒きながらゴブリンを皆殺しにしていくその様は、到底普段の理性的な彼女からは想像できない。彼女があんなふうになった理由は、鍛錬を始めたばかりの頃にゴブリンに犯されかけ、トラウマを刺激されて動けなくなった事があるからだ。

 それ以来、彼女はゴブリン絶対ぶっ殺すウーマンへと進化してしまった。未だに慣れない。

 なんかゴブリン殺す作品あったよな?

 

「おーいシルキー、今日はそろそろ切り上げるぞー」

「ゴブリン!ネダヤシ!ジヒハナイ!」

「駄目だ人語忘れ始めてる」

 

 逃げ惑うゴブリン達が可哀想になるレベルでグチャグチャになっていく。仕方ないので『剃』で近付いて腹に一発拳を叩き込んだ。気絶したシルキーを背負う前に、背中の弓と矢筒(・・・・)をグレイルに投げ渡した。何やらまたも微妙な顔をしているが無視だ。

 

「俺が背負おうか?」

「いや、胸が当たって役得だからいい」

「もう少し本音を隠せバカ」

 

 軽口を交わしながら、私達は『剃』で村へと向かう。

 さて、ここで私達三人がこの1年でどれほどの戦闘能力を得たのかを説明しておこう。

 

 まず初めに私は、完全に英雄の領域に踏み入った。現在の私の難度は110、ユグドラシルのレベル換算で大体37レベル程だ。

 1年前と特筆して変わった事は弓を使い始めた事だ。魔獣使い(ビーストテイマー)を獲得したであろう時から考えていた事だが、私は最終的に盗賊や野伏(レンジャー)の様な立ち回りを目指している。理由は単純で、何かを殺すという行動を起こす時それが一番安全かつ確実だからだ。弓を使って遠距離から仕留めたり、身を隠す類のスキルで近付いて致命の一撃を与えるというのは一番殺しやすい(・・・・・)し、攻撃が届かないなり、まず気付かれないから攻撃されないなりと安全だろうという考えだ。

 最後に一番重要な事で、私のタレントの性能がもっとヤバいものだったということだ。今まで1人で色々やってきていた為に気付けなかった。

 簡単に説明すると、仮に魔狼1匹倒して手に入る経験値が10だったとする。私は今までこのタレントの力で経験値を数倍に引き上げてきた。ここではわかりやすいようにその倍率を10倍だったとすると、私は今まで魔狼1匹で100の経験値を獲得していたことになる。

 しかしここに複数人で魔狼を倒した(・・・・・・・・・・)、という条件を加えることでその倍率が一気に跳ね上がる事が分かった。具体的に言うと2人で倒せば1人につき(・・・・・)200経験値獲得といった具合だ。元々ヤバい性能だったがもっとヤバくなった感じだ。

 

 次にシルキー。

 彼女の難度は現在89、ユグドラシルのレベル換算で大体29レベルだ。才能はあるが、本来であれば英雄の領域に至る素質は無かったであろう彼女がここまで簡単に強くなった理由は、まぁ私とグレイルに引っ張られたからだろう。

 彼女のおかしな所は、第三位階魔法を使いこなしながらなぜか近接戦闘もそこそこ出来る所だろう。魔力を使い切ってしまった時少しでも私達が助けに来るまでの時間を稼ぐため、という名目で剣を仕込んだのだが、何故か現時点で金級程度の剣の腕を持っている。クライムくん涙目だ。その為高火力の魔法をばら蒔く彼女にやっとの思いで近付いても、金級クラスの剣技の相手をしながら、息継ぎがだるいという理由で全て無詠唱化された『雷撃』やら『火球(ファイヤーボール)』やらを避けないといけないという鬼畜難度になるだけという始末だ。どうしてこうなった?

 

 最後にグレイル。こいつが一番ヤバい。

 現在の難度は122、ユグドラシルのレベル換算で大体40レベルだ。

 完全に逸脱者です。本当にありがとうございました。

 というか酷くないだろうか?そこまで差は無かったとはいえたった1年で実力差がひっくり返るのは良くないだろ。しかもこの野郎私の武技の全てを2ヶ月で完全習得しやがった。

 尽く規格外なこいつは、存外軽めの剣を使っている。『剃』と『月歩』を併用して超高速で三次元機動しながら相手を切り刻んでいく様はさながらミキサーだ。

 

 閑話休題。

 

 そんなこんなで村へ到着した。何やら村の入り口が騒がしく、また貴族でも来たかと身構えるが、実際はそんな事はなく、入り口にいたのは王国戦士団の副戦士長だった。毎回徴兵の度に顔を合わせているため私はそこそこの知り合いだし、グレイルも前回は戦場に行ったので一応知り合いだ。

 

「久しぶりだなベイロン、ラルウォート」

「お久しぶりです。どうなさったんですか?」

 

 徴兵とは思えない。徴兵でわざわざ副戦士長が来る理由が無いからだ。とすれば他の理由なのだろうと当たりを付けていると、副戦士長は部下から一枚の文書を受け取り、それを大きな声で読み始めた。その内容は、

 

「アゼナ村出身ツアレニーニャ・ベイロン及びグレイル・ラルウォート!国王の名の下、御前試合への出場を命じる!!」

 

 かなり、想定外のものだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ガタガタと馬車が揺れるのを感じながら馬車の外の景色を眺める。この馬車に取り付けられたサスペンダーがクソみたいな物なせいで、普通の人間であればまともに景色を楽しむ余裕など無かっただろうが、普段『見聞色の覇気』を使っているとはいえ動体視力も勿論それなりに自信がある為、私は沈みかけの夕陽で目を楽しませていた。

 

「王都か………」

「どうしたグレイル?何か気に病むことでも?」

「いやまぁ、あんなこと(・・・・・)があればイメージも悪くなるだろ」

「ああ………」

 

 言わずもがなクソ領主の一件の話だ。確かに、あれを見て良いイメージを抱くことは不可能だろう。とはいえこの国最大の街でもあるのだ。何も楽しみは無いのかと聞くと、グレイルは何故か呆れた顔をする。

 

「何だよ」

「『戦争中な上に貴族が金を出さないから王都にまともな観光地なんてほぼない』とかなんとかお前が言ってたんだが?」

「そうだっけ…………?」

「おい」

 

 確かにそんな事を言ったような気がしないでもない。スレイン法国やバハルス帝国ならばまともな観光地もあるのだろうが、生憎と約束された絶望の国(リ・エスティーゼ王国)ではそんなものには一切の期待はできない。娯楽に関しても他国に比べて圧倒的に少ないし、あっても精々娼館で女を買うぐらいの事しかない。

 つくづくこの国はクソだと思う。

 

「ひでぇ言いようだな………」

「心を読まなければいいじゃん」

「そこまではまだ制御しきれてねぇんだよ」

 

 グレイルの『見聞色の覇気』は、私のものに比べて果てしなく性能が良い。制御こそまだ上手く出来ていないが、先日「4〜5秒先の未来が見えた」とか言っていやがった。

 未来視の領域………だと…………!?

 

(ところでグレイル)

「何d……せめて口に出せよ………」

(万が一にも聞かれたら面倒な話をするから、お前も心の中で話せ)

「…………了解」

 

 グレイルが口を閉じたのを確認してから、出来るだけ視線も向けないように話を始める。

 

(今回のこの御前試合だけど、私は『六式』シリーズと覇気の全てを使わずに戦うつもりだ)

「はぁ!?」

 

 口元に人差し指を持ってきて静かにするよう伝える。グレイルは納得のいかない顔をしながらも口を閉じて黙った。

 

(俺以外はともかく俺にはそれで勝てねぇだろ)

(うん。だからお前も封印しろ)

(はぁ!?なんで!?)

(この御前試合は、トーナメント形式の勝ち上がり制で、優勝者がストロノーフ戦士長との対戦券を得る。そこまでは分かってるよな?)

 

 私の質問にグレイルはコクリと頷く。

 

(んでこの御前試合だけど、正直余程のダークホースでも現れなければお前が、次点で私が優勝するに決まってんだよ)

(流石に傲慢じゃねぇか?)

(てめぇ自分の化け物具合分かって言ってんのか?あ?お前はもう私を除けば勝つ可能性すら無い完全な上位者なんだよ。わかりやすく言えば戦士版フールーダ・パラダインだ)

 

 現状のグレイルはフル装備ガゼフ相手でも勝ちの目が見えるレベルの化け物だ。正直言って、万が一にもこの御前試合でこいつに勝てる相手がいるとは思えない。

 

(でだ、お前がフル装備じゃないストロノーフ戦士長と戦って負けると思うか?)

(……いや、それは…………)

(じゃあ仮に、お前がストロノーフ戦士長に勝ったらこの国はどうなると思う?)

(どうもならんだろ…………?)

(いいや、まず間違いなく滅ぶよ)

 

 この国は現状、ガゼフという一個人の力によって保っていると言っても過言ではない。ガゼフという王を守る剣がいるからこそ王に連なる者達はまともに活動できているのだ。

 ではその剣にヒビが入ってしまえば、どうなるだろうか?刃こぼれ(苦戦)であればどうにでもなる。だがヒビ(敗北)であれば話は別だ。

 あれよあれよと批判をぶつけられ、ガゼフ・ストロノーフという男は戦士長の地位から外される。その結果王派閥は完全消滅し、貴族派閥が台頭。考え無しに帝国と(王国だけが全力の)全面戦争を起こし呆気なく敗北するのが目に見えてる。

 流石にそれは困るのだ。今の次点で国が滅亡してもらっては、イレギュラー(原作からの乖離)が多すぎて対策が一切取れなくなってしまう。

 

(だから最悪決勝で負けるように立ち回れ)

(……………分かった)

 

 納得したようで軽く頷きながらグレイルは了承する。これで一先ずは安心だろう。

 外の景色を見ていると、大きな街が見えてきた。

 御前試合(茶番)は、もうすぐだ。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 御前試合は、三日間のトーナメント形式で行われる。三日間というので分かる事なのだが、一回戦がクソほど多い。それだけで1日使うと言えばその参加人数の膨大さが分かるだろう。

 そしてグレイルの試合はかなり最後の方であり、私に至ってはシードな為に今日1日試合が無いという始末だ。

 要するに………

 

「暇だ…………」

 

 暇である。すこぶる暇である。観光地は少ししか無いと言ったな、あれは嘘だ。全く無い。

 何だか今のうちにバハルス帝国に亡命した方が良い気までしてきた。

 

 冗談はともかく、果てしなく暇で仕方がない。試合を見ればええやん、とか思うかもしれないが、1戦目を見た次点で次元が低すぎて話にならなかった。剣閃は鈍い、読みは甘い、戦略は浅いの三拍子だ。本気を出していない以上グレイルの試合も見る意味が無い。むしろ悪影響を受けそうだ。

 つまり、1日中やることが皆無である。

 

「………………冒険者ギルドでも行ってみるか?」

 

 あわよくば調子こいてナンパしてきたやつを憂さ晴らしにボコってやろう等と完全に蛮族の考えを持ちながら宿を出た。

 

「しかし本当に何も無い………」

 

 民家、民家、民家、店を挟んでまた民家。これが延々と続いているさまは本当に首都なのか疑問が湧いてくるレベルだ。何処と無く道行く人々の顔が暗めなことがその疑問を加速させる。

 

 しばらく歩いていると、何やら騒ぎが起こっていた。見聞色で探れば子供が冒険者らしき男5人に金を巻き上げられているようだ。母の病気の治療費に必要だと女の子が必死に訴えているようだが、冒険者共はそんな事知るかとその場を去ろうとしている。

 

(しばくか)

 

 母とか父とか、そこら辺の話を持ち出されると私は弱い。十分に愛を受けた自覚はあるがそれでも早くに母を失った身としては、面倒事に巻き込まれると分かっていてもそういう境遇の子供には思わず手を差し伸べてしまう。

 

 とりあえず、私は金の入った麻袋を持つ男の背後に『剃』で移動し、ギリギリ潰れない力加減で股間を蹴り上げた。

 

「きゅぅ…………」

 

 悲鳴を上げる間もなく泡を吹いて気絶する男から麻袋を取り上げ、女の子に返す。周りは突然の私の登場に唖然としていた。

 

「て、てめぇ!!」

 

 ようやく状況を理解したのか他の冒険者共が抜刀する。一番近くにいた男が剣を振り下ろしてきたので『鉄塊 空木』で剣を破壊した。というか大分容赦なく剣を振り下ろしてきているが冒険者として大丈夫なのだろうか?個人的にアウトなので治りが遅く、かつ後遺症が高確率で残るように両手両足に打撃を叩き込み、骨を粉砕した。叫び声を上げられるとだるいので肺に一撃食らわせて中の空気を強引に吐き出させる。肋骨の方に2〜3本ヒビが入れてしまった気がするがまぁいいだろう。

 この間1秒である。

 

「て、てめぇ!!」

「威勢だけは良いな。正に雑魚の典型」

 

 全く同じ反応をするバカ共を嘲笑を浮かべつつ煽ると、面白いように顔を真っ赤にして3人の内の2人が襲い掛かってきた。剣の側面を叩くことで刀身を砕き、剣を砕かれた事を認識される前に両名の顎に掌底を放てば、その口からいくつかの歯が散らばった。

 最後の一人は、何やら自信あり気に佇んでいるが雑魚である。今伸したこいつらは目の前の男含めて金級のプレートを付けているが、この男に関しては実力的には白金級はある。まぁ結局は雑魚である。

 とりあえず、なんかムカついたので覇王色で心を折っておいた。

 

「大丈夫?」

「う、うん………ありがとうお姉ちゃん」

 

 少し熱が入り過ぎたせいか若干引かれてるが、結果的に助けられたのだからノープロブレムだ。女の子の頭を軽く撫でてからその場を離れる。まともな衛兵でもいればこういうことは起こらなかったはずだが、流石王国と言ったところか。

 

 そんな一悶着を終えた私は見聞色でギルドらしき人が集まっている場所へと向かう。先程のように騒ぎも起きていない。そのせいで気を抜いていたのもあったのかもしれない。

 

「優勝候補がこんな所で油を売っていていいのか?」

 

 一見嫌味のようにも聞こえる、しかし嫌味など一切篭っていないからかい言葉と、よく目立つ気配に思わず目を見開く。

 

「ストロノーフ戦士長!?」

 

 あんたこそなんでこんな所にいるんだよ!

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 王国の英雄、ガゼフ・ストロノーフは王都を散策していた。今までは優勝候補とされる人物の試合を見ていたが、グレイル・ラルウォートの試合までそういった人間は試合に出ない。しばらくはそういった人間のでない試合も見ていたが、得るものの少ない試合を延々見続けるのはそこそこに苦痛だったのか、彼は城下町へ繰り出したのだ。

 

(うん?あれは………?)

 

 何やら騒ぎが起きているようでガゼフが近付くと、5人の冒険者らしき男が地面に転がっていた。一人を除き全員ボロボロで、その一人も何やら様子がおかしい。ガゼフは何事かと野次馬の一人に話を聞こうと思ったところで、野次馬達の視線が一方向に固定されているのに気が付いた。彼もその方向を見ると、人混みの中で揺れる金色の髪が目に入った。

 

(彼女は…………!)

 

 年端もいかぬ少女が徴兵でやって来た時に受けた衝撃を、ガゼフは未だに覚えている。その愛嬌のある顔からは想像も出来ない程鋭く重い拳は、無数の帝国騎士達を屠り、ある時は仕留めきれなかったとはいえ四騎士の一人を捩じ伏せた超の付く実力者だ。

 のんびり歩いていたのか、ガゼフは早歩きで追い付くことが出来た。

 

「優勝候補がこんな所で油を売っていていいのか?」

 

 からかう意味合いを込めて言葉をかけると、勢いよく振り向いた。その瞳は驚愕故に大きく開かれている。

 

「ストロノーフ戦士長!?」

「ああ、久しぶりだなベイロン」

 

 彼と少女、ツアレは、徴兵の関係で何度も顔を合わせている。それ故2人は顔見知りと言える程度には会話を交わした仲だ。

 

「何故こんな所に?」

「めぼしい人間の試合が次は随分先でな。暇になったから街を散策してたんだ」

「なるほど…………」

「お前こそ、こんな所にいていいのか?自分の戦う相手の強さがわからんだろうに」

「正直グレイル以外には間違いなく勝てますから」

「ははは!自信満々だな!………明後日は、ラルウォートかお前のどちらかと戦うことになりそうだな」

 

 ガゼフはその時を想像する。グレイルの実力は未知数だが、ツアレが唯一勝利を確信出来ないということは、彼も相当の実力者だという事だ。

 グレイルの試合は見逃せないなと、ガゼフが考えていると、正に意表を突く言葉が帰ってきた。

 

「私は準決、グレイルは決勝でわざと負ける予定なんで戦うことにはならないと思いますよ?」

「………………は?」

 

 今度は、ガゼフが目を見開く番だった。

 

「何故だ………?」

「確固たる事実として言わせてもらいますが、私もグレイルも、貴方に負ける要素がないんです」

「……………」

 

 ツアレの言葉にガゼフは黙る。事実、彼女の成長は著しく、以前の徴兵ではガゼフと同レベルの実力を備えていたからだ。もし更に成長していたのなら、ガゼフは彼女に、同時にグレイルに勝つことはかなり難しい。

 

「貴方はこの国において生命線です。もし少しでも傷が付けば、貴方が負けるようなことがあれば、貴族共は間違いなくそこを突いてくる。そうなれば、この国は自ら命綱を断つことになる。貴方を失った王派閥は急速に衰え、無能な貴族共がこの国の権力を握って考え無しに総力戦に臨み、惨敗する。生憎愛国心何てものはとうの昔に消えました。とはいえ今滅びてもらうのは流石に困りますからね」

「まるでいずれ滅びるような言い草だな………」

「滅びますよ。現状は最悪、打開策は皆無、バハルス帝国だけならともかく内部にまで敵がいる始末ですし、これで滅びない方が…………すいません……失言でした…………」

「ははは、気にするな」

 

 我に返ったツアレへそんな言葉をかけながら、ガゼフは目の前の少女へ畏れに似た感情を抱いていた。あまりにもピタリと王国の現状を言い当てていたからだ。まだ20にも届かない、王国の権力闘争の内容などほとんど知り得ないはずの少女がだ。いくら徴兵で王都へ来ているとは言え、彼女のそれは異常の一言だった。

 

「では、私はこれで」

「ああ………」

 

 少女が去るのを見届けてから、ガゼフは踵を返す。拳を握り締め、その眼光に強いものが宿る。

 

『滅びますよ』

 

 そう言った彼女の顔は、生き残る為の術を模索していた。彼と同じく、守りたいものを守る為の覚悟があった。

 

(この国が滅ぶとしても、俺は………)

 

 ガゼフ・ストロノーフという男は進む。苦しむ民を救う為、この国の為に。

 

 

 ―――例え、その先に破滅が待ち受けていたとしても。

 

 

 


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